「遺骨持ってくるから、私が持ってくるから」交わされた約束、183人犠牲の海底炭鉱事故 遺骨発見の瞬間【報道特集】

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2025-10-04 06:37
「遺骨持ってくるから、私が持ってくるから」交わされた約束、183人犠牲の海底炭鉱事故 遺骨発見の瞬間【報道特集】

山口県の海底に183人が取り残されたまま沈んだ炭鉱があります。8月、83年ぶりに遺骨が引きあげられました。成し遂げたのは小さな市民団体です。遺骨を故郷に還したい――遺族らの願いは叶うのでしょうか。

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事故から83年 遺骨発見の瞬間

山口県、宇部市。

記者
「ここが83年前に事故が起きた、長生炭鉱の現場です。ここに2つのピーヤと呼ばれる構造物が残されていますね」

これは当時を写した数少ない写真だ。海上に見えているのは掘り出した石炭を積み出す桟橋で、長生炭鉱そのものは海底にある。ピーヤは炭鉱内の換気や排水をするための物だった。

83年前に起きた落盤事故で、183人の労働者が取り残されたまま、炭鉱は水没した。

8月、悲劇の痕跡が初めて撮影された。海底に残された頭蓋骨。大腿骨のような骨。人間の下半身だろうか、靴がそのまま残っているようにもみえる。

撮影したのは遺骨の潜水調査にあたっていた韓国人ダイバーだ。

キム・スウンさん
「坑道の塞がった状態を撮影してほしいと言われていたので、撮っていました」

長生炭鉱の坑道は複雑に入り組んでいた。落盤が起きたのは炭鉱の入り口=坑口から約1キロの地点。

遺骨はピーヤに繋がる道から、本坑道に入ってすぐ。前後が塞がった30メートルほどの区間で見つかった。途中には、当時の面影を残すレンガ造りの門もあった。

キム・ギョンスさん
「骨があると指差しても、目の前にあっても気付かない方は多いです。堆積物と同じ色なので。その周りを見ますと、もっと多くの方がいらっしゃるのがわかりました」

よく見ると、靴のようなものが点在していることにも気がついたという。

キム・ギョンスさん
「少なくとも、4人以上の遺骨がここにあると私たちは考えています」

遺骨の鑑定に詳しい石川昂教授。映像から、こう指摘する。

東京歯科大学(法歯学) 石川 昂教授
「おそらくこの下半身部分は、死蝋化(しろうか)と言って矛盾はないと思います」

死蝋とは腐敗が極度に進まなくなった遺体の状態だ。生前の姿形や特徴がそのまま残ることもあり、「永久死体」とも呼ばれる。

東京歯科大学(法歯学) 石川教授
「引き上げてみないと何とも言えませんが、おそらく靴の中で一部死蝋化した足がそのまま入って、そこに骨がくっついているという状態なんじゃないか、というような想定はできますね」

長生炭鉱の遺骨は、これまで政府から所在不明とされ、公的な調査はされて来なかった。

「遺骨を故郷へ」寄付を募りついに坑口を発見

事故が起きたのは、1942年2月3日。当時はアジア太平洋戦争の真っ只中だった。長生炭鉱は安全の基準よりも浅い層を掘る危険な炭鉱だったが、安全性は二の次にして、石炭の採掘が求められた。

事故当日のことを覚えている男性が韓国にいる。テグ市に住む、チョン・ソッコさん、92歳。当時、ソッコさんは小学5年生だった。

長生炭鉱で働いていた、父親のソンドさんは当時40歳。家族で近くの社宅に暮らしていた。

韓国人犠牲者の遺族 チョン ソッコさん(92)
「朝10時、学校の授業中、『長生炭鉱で事故があった、みんな家に帰れ』と言われて外に出たら、ピーヤから水が噴き出していました」

炭鉱内からかろうじて逃げ出せた人もいたが、ほとんどが取り残された。父親も戻らず、ソッコさんは、毎日坑口に行って泣き続けたという。犠牲者183人のうち、7割以上の136人が朝鮮半島出身。多くが国策に従って動員された人達だった。

初代代表 山口武信さん
「どういう方が亡くなったのか、そしてどういう状況で亡くなったのか」

忘れ去られていた事故に光が当たったのは、半世紀近くたった1991年。地元の人たちが集まり「長生炭鉱の水非常を歴史に刻む会」を結成したのだ。

現在、共同代表を務める井上洋子さん。刻む会の結成当時から参加している。

井上洋子共同代表(75)
「こんな悲しい悲劇が起きたんですけど、それを私たちがきちんと知ったのが、50年後だったんですよね」
「悲しい存在をきちんと知らせなきゃいけないということも含めて、まず追悼碑を建てたいということになった」

追悼碑の完成には、22年もの歳月がかかった。行政の協力を得られず、民間の手だけで建立したからだ。刻む会はここから、遺骨の引き上げを目指すことになる。韓国の遺族から、こう声が上がったのだ。

韓国人犠牲者の遺族
「私たちの望みは、父を海の底から引き揚げ、遺骨だけでも故郷に葬ってあげたいのです」

2004年の日韓首脳会談をきっかけに、民間徴用された朝鮮半島出身者の遺骨について、返還にむけ協力することで合意している。

これをもとに、日本政府に協力を求めた。

井上共同代表
「どうか、チョンソッコさんを始め、直系ご遺族がご存命の間に、ご遺骨の発掘の希望を政府が与えてくださるよう」

しかし…。

厚生労働省 人道調査室長(当時)
「(遺骨の)具体的な場所が明らかではないことなどから、現時点で海底に埋没しているご遺骨の調査を行うことは現実的に困難であると」

「場所が明らかではないから困難」という消極的な政府。刻む会は埋められた坑口を掘り起こし、遺骨の場所を突きとめようと決めた。全国からは、3か月で1200万円の寄付が集まった。そして、作業を始めて2か月。ついに坑口を見つけた。

井上共同代表
「この中にみんながいらっしゃると思うと、つらさもあるけど、喜びも。開けてあげられた。骨を見つけて、そして国に迫っていきたい」

坑口の発掘に、ソッコさんも韓国から高齢の体を押して駆け付けた。

韓国人犠牲者の遺族 ソッコさん(92)
「お父さん、私が来ました」

次の課題はこの中に潜って遺骨を探すこと。協力を申し出たのが、狭く閉ざされた環境での潜水を得意とする水中探検家の伊左治佳孝さんだ。

水中探検家 伊左治佳孝さん
「自分の親が、あの炭鉱の中で、ご遺骨のまま残っているとなったら、誰が聞いても悲しいと思うんですよ」

韓国人ダイバーも加わり…「変えさせなければいけない」市民の願い

2025年1月、遺骨発見を目指して、水中探検家の伊左治さんによる潜水調査が始まった。ようやく開けた坑口から入ったが、180mほど先で、木材に阻まれた。

水中探検家 伊左治さん
「坑道の内部の構造物が崩れているエリアが多くて」

何度も潜るが、遺骨にたどり着けそうにない。

水中探検家 伊左治さん
「ここからは、難しいんじゃないかな。ピーヤから入ることになるのかなと思っています」

そのピーヤも、内部に積み重なった瓦礫が障害に。地元のダイバーや業者の力も借り、1つ1つ取り除いていった。調査が進む中、井上さんは何度も政府に協力を求めた。

井上 共同代表
「本当に素人の人力で頑張ってきているわけですが、今こそ政府の技術的支援、財政的支援が必要な時期が来ている」

だが、窓口である厚生労働省は、現地視察の求めにさえ応じなかった。

井上 共同代表
「この状況は、ご遺骨が出てくれば、また大きく変わっていくんではないか。変わらなければいけない、変えさせなければいけない」

潜水調査には新たに、伊左治さんの探検家仲間で、韓国人のキム・スウンさんとキム・ギョンスさんが加わった。

キム・ギョンスさん
「私たちはダイビングが好きで、本業にしている。この技術を、多くの人のために役立てたいと思った。日本のご遺族も同じように、遺骨が帰るのを待っていらっしゃる。なんとかして運び出し、少しでも助けになれば良いと思っている。政治的に考えたことは特にありません」

二人は、水中に気泡をほとんど出さない特殊な装備を用意し、事前に100時間以上のトレーニングも受けて、調査にのぞんでいる。

ギョンスさん
「少なくないお金がかかるので、迷ったのも事実。トレーニング費用を合わせると、1人2000万ウォン(約200万円)かかったと思う。日本の市民団体から、ある程度の費用は支援していただいているが、私たちにも本業があって時間も割いているので、いつまで続けられるか心配」

「今まで生きてきたかいが」結実した願い

潜水調査も6回目となった、2025年8月。キムさんたちが、ピーヤから潜った。坑口から潜ったときほど濁ってはいないものの、暗く狭い坑道内。

ピーヤから250メートルほど進んだとき。

ダイバー
「ここにある!」

ついに見つかった。黒くなっていた足や腕の骨、3本。間違いなく人の骨だった。

井上 共同代表
「潜っては難しいというのを何回も苦労してきて、諦めないで、伊左治ダイバーをはじめ、みなさん頑張っていただいて、やっとご遺骨に巡り会えた。本当にこんなにうれしい日はない」

翌日の調査。キムさんたちが持ち帰った箱の中身に、集まった人たちは衝撃を受けた。頭蓋骨だった。

井上 共同代表
「日本の戦争のために、日本が始めた植民地政策のために、ここで亡くなった皆様方を、まだたくさんいらっしゃるのに、日本政府は放っておくんですか。日本政府は、このご遺骨に応えていただきたい」

この時を待ち望んでいたのは、韓国の遺族だけではない。

日本人犠牲者の遺族 常西勝彦さん(83)
「見られただけでも、今まで生きていたかいが。83年生きていたから見られる」

生まれる4日前に長生炭鉱の事故で父親を亡くした、常西勝彦さん。事故では47人の日本人も犠牲となった。

常西さん
「まずは、誰のだろうかなと思って。今度は後の分をいつ頃収集されるかな、それがすぐ気になった」

遺骨の身元特定へ…期待されるDNA鑑定

「刻む会」は遺骨の身元を特定し、遺族の元へ返すことを目標にしている。その方法として期待をかけているのが、DNA鑑定だ。

東京歯科大学(法歯学)石川昂 教授
「(Q.DNA鑑定をする上で、特に個人の特定に至りやすい骨の部位があるか?)戦没者遺骨の場合だと“歯”。歯の中の神経とよく言われる部分、そこからDNAがとれる。周囲のかたい歯の組織、象牙質やエナメル質で強固にバリアされている。大きな長管骨=大腿骨であったり、歯が出てくれば大丈夫」
「(Q.大きな骨か歯が出れば、個人特定に至る可能性が?)高いです」

遺骨の身元を特定するためには、遺族たちから採取したDNAも必要になる。「刻む会」と韓国政府は、およそ80人分の遺族のDNAをすでに集めている。

「遺骨持ってくるから、私が持ってくるから」

2025年9月、遺骨が見つかって初めての政府との交渉に臨んだ。だが、警察に引き渡した遺骨のDNA鑑定は「どう進めるか、決まっていない」との返答だった。

井上 共同代表
「DNAの取得すらまだできていないという状況に、私たちは非常に憤りに近いものを持っております」

潜水調査への協力についても、「人命に危険が及ぶ可能性がある」と退けられた。

井上さんは9月14日、韓国に渡った。韓国政府にも協力を呼びかけるためだ。

井上 共同代表
「DNA(鑑定)を最終的に日本政府が速やかに実施されなければ、韓国政府に預けて、韓国政府にもお願いしたいと(要請した)」

その足で向かった場所がある。チョン・ソッコさんの自宅だ。認知症が進むソッコさんに、井上さんは韓国語も交えながら話しかける。

チョン・ソッコさん
「ユゴル(遺骨)」
井上 共同代表
「アボジ(お父さん)かも。ソッコさんのアボジかも」

ようやく発見した遺骨。井上さんは、「私たちが見つけた遺骨だよ」とソッコさんに何度も話しかける。犠牲者に祈りを捧げたこと、海底で見つけたレンガの門、ソッコさんがすべての話を理解できているかはわからない。それでも…。

ソッコさん
「みなさんのおかげで遺骨発見して、カムサハムニダ(ありがとうございます)」
井上 共同代表
「遺骨持ってくるから、私が持ってくるから」

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