東京電機大学ら3大学の学生がつくる“アートの森” 木と人をつなぐ「Wood Structure Artの森」プロジェクト

2025-10-31 08:00

森の中に広がるのは、学生たちの手で生まれた“木のアート”。
子どもたちが登ったり、大人が腰かけて木漏れ日を感じたりできる温かな空間が、栃木県さくら市の「喜連川ファミリーキャンプ場」に誕生しました。そこにあるのは、単なるアート作品ではなく、自然と人をもう一度つなぐための「場所」です。

この取り組みを進めているのは、東京電機大学・共立女子大学・北海学園大学の建築学科の学生たち。地元・栃木県産の木材を使い、デザインから構造、安全性の検討、製作までを自分たちで手がけています。完成した作品「こもりん」は、自然の中で遊ぶことや休むことを通して、木のぬくもりや森の息づかいを感じられるように工夫されています。

プロジェクトは、地球温暖化の防止や林業の活性化を目指す長期計画の一環として進行中です。学生たちは現地に泊まり込み、地域の人々や子どもたちと交流しながら、木の魅力や自然との共生を学びました。森の中にアートを育てるこの活動は、若い世代が未来に向けて自然と共に生きる力を育む場になりつつあります。

木のぬくもりで森をデザインする――3大学が挑む「Wood Structure Artの森」

栃木県さくら市にある「喜連川ファミリーキャンプ場」で、学生たちによるユニークなアートづくりが進んでいます。
この「Wood Structure Artの森」プロジェクトは、東京電機大学・共立女子大学・北海学園大学の3つの大学が連携し、地域の森で採れた木を使って“森の中にアートを育てる”ことを目指す取り組みです。

プロジェクトが始まったのは2024年。地球温暖化の防止や林業の活性化をテーマに、5年間かけて森全体をアート空間として形づくる長期計画が進んでいます。
完成を目指すのは2028年。訪れる人が自然と共に過ごし、木の温もりや四季の変化を肌で感じられる「アートの森」をつくる構想です。

使われる木材はすべて栃木県産。長く使われずにいた地域の木を、学生たちが新しい形で生まれ変わらせています。伐って終わりではなく、木を“使うこと”によって森を守るという循環の考え方が、このプロジェクトには根づいています。
木を材料にすることで、炭素を固定しながら再生のサイクルをつくる――そんな学びを実際の制作を通して体験できるのも、この活動の魅力のひとつです。

また、3大学が地域を超えて協力する点も特徴的です。北の大地・北海道から関東、そして首都圏の学生が集まり、画面越しの打ち合わせだけでなく、現地で共に汗を流す日々を積み重ねてきました。異なる大学・学年のメンバーが混ざり合い、それぞれの専門や得意分野を活かしてチームをつくる——そんな多様な連携のかたちが、プロジェクトを支えています。

森の木々や風、光、そして人の手。
それぞれが重なり合って生まれる新しい表現が、ここでは“建築”でもあり、“アート”でもあります。学生たちが描くのは、自然の中に息づく小さな建築。木と人とが寄り添う未来の森を、彼らは少しずつ形にしているのです。

手のひらの森をつくる――笹谷研究室が挑んだ“木と人が交わる空間”

東京電機大学 未来科学部 建築学科 笹谷研究室は、木の構造を専門とするチームとしてこのプロジェクトに参加しています。学生たちが手がけた作品のひとつが、木の遊具「こもりん」。
丸みを帯びた木のフレームを組み合わせたその姿は、まるで森の一部が呼吸しているかのよう。子どもたちは登って遊び、大人は腰かけて木漏れ日を感じながらくつろぐことができます。
そこには、自然と人が無理なく共存できる空間を生み出したいという学生たちの想いが込められています。

笹谷研究室の学生たちは、設計から施工までを自分たちの手で進めました。
構造解析や安全性の検討、木材の特性に合わせた設計、コスト管理、そして現地での組み立てまで、すべてをチームで分担。ひとつの作品を形にするために、技術だけでなく粘り強さと協調性が求められる作業でした。
台風の影響で雨に見舞われた制作期間中も、学生たちは手を止めることなく作業を続け、泥に足を取られながらも笑顔を絶やさずに完成へとこぎつけました。

「こもりん」は、見た目の美しさだけでなく、五感で楽しめるアートです。
木肌に触れるとやわらかく、ほのかな香りが漂い、太陽の光を受けると表面の色が少しずつ変化していきます。時間とともに呼吸するように姿を変える木材は、まさに“生きている素材”。その特性を最大限に活かしたデザインには、建築を学ぶ学生ならではの視点が生かされています。

完成報告会の日、学生たちは出来上がった作品を前に静かに見上げていたといいます。
自分たちの手で組み上げた木の構造物が、森の中で風に揺れ、光を受けて輝く——その光景は、机の上の設計図では決して得られない、確かな実感を与えてくれたはずです。
それは単なる課題制作を超えた、「自然と建築が出会う瞬間」を体験する時間でもありました。

森と学びをつなぐ――学生たちが見つけた木と人の関係

今回のプロジェクトには、東京電機大学・共立女子大学・北海学園大学の3校から、建築学科の学生およそ20名ほどが参加しました。
4月の初回ミーティングを皮切りに、オンラインや現地での打ち合わせを重ねながら、栃木県産の木材を使ったオブジェづくりに挑戦。
「森で過ごす人たちに、木のぬくもりを感じてもらいたい」という思いを胸に、デザインや構造を議論し、チームごとにアイデアを出し合って形にしていきました。

制作の最終段階では、学生たちは現地に泊まり込みで作業を行いました。
森の中では、木の香りとノコギリの音、そして学生たちの笑い声が混ざり合っていました。
日中は木材を組み上げ、夜はテントの明かりの下で翌日の作業を確認。
伐採現場を見学し、植樹体験を通じて「木が育ち、伐られ、再び森に還っていく」循環を肌で感じ取る時間にもなりました。
木材が単なる“素材”ではなく、自然の一部であり命のサイクルの中にあることを、学生たちは現地で体感したのです。

また、地域住民や協賛企業、林業関係者との交流も盛んに行われました。
地元の方からは「若い人が森に関心を持ってくれるのはうれしい」という声も寄せられ、学生たちはその言葉に背中を押されるように作業を続けました。
活動を通して、森を舞台にした学びが、単なる授業の延長ではなく、地域と人をつなぐ架け橋になっていったことが分かります。

9月6日に行われたお披露目会には、協賛企業21社の関係者を含む約150名が来場しました。
子どもたちは作品に登って遊び、保護者や関係者は木漏れ日の下でその様子を見守りました。
笑い声と木々のざわめきが重なる中で、学生たちの作品はまるで森の一部として息づいているよう。
アートと建築、地域と人——それぞれが重なり合って生まれた風景は、プロジェクトが目指す“自然と共に生きる社会”の小さな原型を感じさせるものでした。

森に残るアート、未来へ続く学び

学生たちの手で形づくられた木のアートは、時間とともに森の風景に溶け込み、これから訪れる人々に静かなインスピレーションを与えていくことでしょう。
木のぬくもりを感じ、自然と触れ合いながら過ごすその空間には、「人と自然が共に生きる」というメッセージが込められています。

笹谷研究室では今後も、地域の人々と協力しながら地産木材を活用し、アートや建築の力で持続可能な社会づくりに挑戦していくとしています。
森の中に息づく学生たちの作品は、学びの記録であると同時に、未来へつながる希望のシンボルでもあります。

私たちが普段何気なく通り過ぎる「森」や「木」には、こんなにも多くの物語がある。
そのことを教えてくれるのが、この「Wood Structure Artの森」プロジェクトなのかもしれません。


東京電機大学 笹谷研究室 概要

今回のプロジェクトを主導した笹谷研究室は、建築構造を専門とし、実験や解析から建築の仕組みを探る研究を行っています。
異なる素材を組み合わせたハイブリッド構造や、構造設計法の確立など、民間企業や行政と連携した幅広い実践研究を展開中です。
指導教員は東京電機大学 未来科学部 建築学科の笹谷真通教授。
学生たちは日々の研究で培った知識と技術を、この「Wood Structure Artの森」プロジェクトでも存分に発揮しました。

東京電機大学 URL:https://www.dendai.ac.jp/

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