レアアース輸出規制の狙いは「技術・顧客情報の入手」日本にも及ぶ“チャイナリスク”とは?【Bizスクエア】

レアアースを巡る米中の戦いの一方で、日本も輸出規制によって「技術・顧客情報」などが中国サイドに渡ってしまうリスクにさらされている。過去には同じような手法で市場を奪われたことも…。
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米国工場で使う「鉄」…いまも関税50%
「24%」の相互関税だけでなく、日本車には「25%」の追加関税ー
2025年、日本にも大きな衝撃が走った“トランプ関税”。
日本は粘り強く交渉した結果、7月には「相互関税15%」「自動車関税15%」で合意したが、まだ高い関税が課されているものもある。
静岡・湖西市にある自動車の変速機メーカー『ユニバンス』では、アメリカの自社工場に“鉄の材料”を輸出しているが、関税は50%。
鉄だけでなくアルミニウムや銅も、依然「50%」もの関税がかかっている。
『ユニバンス』磯貝隆行執行役員:
「一部のお客様については我々の関税影響のすべてではないが、お客様が負担するという区割りで補償してもらっている」
こうした一部の顧客からの補償に加え、アメリカ以外への輸出がカバーする形となり、なんとか大きな影響は出ずに済んでいるとのことだ。
関税「返還求め」日本企業も提訴
一方トランプ関税を巡っては、アメリカだけでなく日本の企業も「相互関税の返還」を求めて政権を提訴。
▼米国:コストコ(小売り大手)など2社
▼日本:リコー・住友化学・豊田通商など9社
提訴の目的は、大統領による関税発動が違憲かどうかを審理している連邦最高裁が「違憲」の判決を下した場合、“既に支払った関税の返還を請求”するためだ。
他にも「多くの企業が訴訟に動き出している」と話すのは、日米の通商交渉に詳しい細川昌彦さんだ。
『明星大学』教授 細川昌彦さん:
「違憲判決の可能性が高いので、そうなった時に確実に返してもらえるようにするためで、類似の訴訟の動きはもっとたくさんある。一方で“関税収入”は一度味わうとなかなか手放さない。違憲判決が出た後は、また別の法律を持ち出して引き続き“トランプ関税”をやろうとするだろう」
トランプ関税とは一体何だったのか
アメリカの「平均実行関税率」は、1年前と比べ大幅に上昇。
▼2024年(予測):2.48%⇒▼25年(予測):16.8%
※24年予測「Tax Foundation」/25年予測「イェール大学」(11月17日時点)
改めて、世界中を振り回した“トランプ関税”の狙いは何だったのだろうかー
『明星大学』教授 細川昌彦さん:
「最初から“関税収入”が一番大事だと思ってやり始めたわけではなく、やはりトランプ大統領自身の思い。『同盟国を含めてみんな長年アメリカを食い物にしてきた』『アメリカが犠牲になってきた』という根深い思いがあって、関税をかけるぞという脅しのもとに取り戻していこうと。関税はそのための手段」
――当初、関税の本命は中国で、戦略的に中国を強くしないためだと。しかし結局は同盟国の方が割を食っていると思っていたが、最初から同盟国も狙いに入っていた
細川さん:
「同盟国であれ中国であれ、全く関係なく同列で並べて考えているだけであって、交渉しやすい相手、取りやすい国から取っていく。それで最後の大物が中国。ただし、これから先の米中間での戦いが“関税ではないフィールド”になっているという点は、他の国との根本的な違い」
米中関税対立「アメリカ“ベタ折れ”」
トランプ大統領は、最大の貿易赤字国である中国に対し高い関税をかけ、その後激しい関税の応酬が繰り広げられた。
その過程で、アメリカにとって最も重要だったのが、中国が輸出している「レアアース」をめぐる問題だ。
中国は10月上旬に「レアアースの輸出規制強化」を発表。
これに反発したトランプ氏は、中国製品に「100%の追加関税」を課すと表明した。
結局、10月30日の米中首脳会談で、中国はレアアースの輸出規制強化を1年延期し、アメリカは追加関税を取り下げることで合意。
▼アメリカ:中国への追加関税20%▼中国:米国への関税10%となっている。
『明星大学』教授 細川昌彦さん:
「用意周到の習近平VS場当たりのトランプで、アメリカの“ベタ折れ”。習近平主席が用意周到にずっと準備してきた結果で、輸出管理という手段を使って、これまでも重要鉱物を順番に規制していって、最後にレアアースという武器まで振り出した」
中国の“レアアース戦略”は、すでに5年前から始まっている。
<中国の重要鉱物・レアアース輸出規制>
▼2020年12月⇒輸出管理法制定
▼2023年
・8月⇒ガリウム・ゲルマニウム
・10月⇒アンチモン(超硬材料)
・12月⇒グラファイト(黒鉛)
▼2025年
・2月⇒タングステン・インジウム・モリブデン
・4月⇒“7種のレアアース”(ジスプロシウムなど)
・10月⇒“5種のレアアース”(ホルミウムなど)・磁石などレアアース関連品目(0.1%以上、中国技術)の「再輸出規制」
細川さん:
「米中首脳会談で、25年10月のレアアース規制は1年延長となったが、それ以前の輸出規制は全部残ったまま。トランプ政権はあたかもレアアース規制が全部なくなったかのように成果としてアピールしているが全くのデタラメ。輸出許可の制度をちょっと緩和しますよと言われて、それなら事実上の撤廃みたいなものだとホワイトハウスが勝手にそうアナウンスした。最も素人のような発想」
中国・輸出規制で「技術情報などを入手」
中国にとって、レアアースは「交渉の強力なカード」としてだけではなく、「他国から技術情報などを入手する手段」でもあると細川さんは危機感を口にする。
<中国の輸出規制の目的・意図>
【1】外交的な取引材料
【2】技術情報・顧客情報の入手
【3】技術目的の企業誘致
『明星大学』教授 細川昌彦さん:
「日本の企業が輸出の許可をしてもらうために申請したとする。すると中国は、認めてあげるから“技術情報や顧客情報を全部開示しろ”と言ってくる。どんなことに使うのか、どういう使い方をするのか、あるいは売る相手や、どう流すのかなど企業にとってはまさに機密情報。それを入手して、今度は自分たちで作ろうと。実際に同じようなことが過去にもあった」
細川さんが“先例”として挙げたのは、レアアースの「ネオジム」や「ジスプロシウム」。
EVの生産、特にモーターに使われる強力な磁石(ネオジム磁石)などに不可欠な材料で、中国が採掘・精錬・加工をほぼ独占している。
細川さん:
「ネオジム磁石は、かつては日本企業が強かった。しかし2010年代にネオジムやジスプロシウムが禁輸になり日本企業は締め出され、今やネオジム磁石の世界シェアの85%が中国企業になった。それで今度はネオジム磁石とレアアースを規制することで、ネオジム磁石を使う駆動用モーターを狙う。駆動用モーターは、今は日本企業が強いが、技術情報などを全部開示しろということになる」
さらに細川さんは、輸出規制の狙いには“技術目的の企業誘致”もあると話す。
細川さん:
「中国に進出すればたっぷりと供給してあげますと言われたら、中国に工場を造る。それとともに技術は向こうの合弁相手に流れちゃう。こういうことがこれまでも起こっていて、気がついたら上流から下流まで一気通貫に全部中国が抑える。これが彼らの戦略。だから、今とりあえず入手できたと喜んでいる場合じゃない。調達したいがために情報を出しておけという短期的なことしか頭にないと、全部中国に取られていく」
――表だって何かを禁輸するみたいな事は言わずに、輸出規制の蛇口の加減を変えることで圧力をかけてくる
細川さん:
「中国は蛇口の開け閉めを絶対に手放さない。そして今、高市政権に対して経済圧力を強めていく一つの手段。レアアースなどの輸出規制の“恣意的運用”で、日本企業にいかに悲鳴を上げさせるか。そういうこともあり得るので、私達は身構えなきゃいけない」
(BS-TBS『Bizスクエア』2025年12月6日放送より)