クマが人を襲う理由とは?「食べ物の9割は植物」なのに…専門家が解説 「メガソーラーが影響」説の真偽とは

TBS NEWS DIG Powered by JNN
2025-12-13 13:31
クマが人を襲う理由とは?「食べ物の9割は植物」なのに…専門家が解説 「メガソーラーが影響」説の真偽とは

今年、日本各地でクマによる人身被害が深刻化しています。環境省の発表によると、今年4月から10月末までの間にクマの被害に遭った人は11月時点で全国で196人に上り、そのうち13人が死亡するという痛ましい事態となっています。特に秋田県では10月だけで37人が被害に遭うなど、統計開始以来、最も被害者数が多かった2023年度を上回るペースで増加しています。

かつて山奥に生息していたクマが人里に現れるようになった背景には、何があるのでしょうか。さまざまな情報が飛び交うなかで、「わかっていること」と、「わからないこと」とは? 長年にわたり、クマをはじめとする大型野生動物の生態を研究している東京農業大学教授の山﨑晃司さんに訊きました。

(TBSラジオ『荻上チキ・Session』2025年11月26日放送「クマの生態に何が起きているのか?~各地で止まらぬ熊被害」より)

日本のクマの種類と生態

日本には主に2種類のクマが生息しています。北海道には「ヒグマ」、本州には「ツキノワグマ」が分布しています。四国には約30頭のツキノワグマが残るのみで、九州では1940年代に絶滅してしまいました。

山﨑教授によると、クマは食肉目に分類されていますが、見た目とは異なり雑食性であり、地域にもよりますが食べ物の8割から9割は植物質だといいます。「体に見合わず果実とか、草の葉っぱとか、あるいは花なんかを食べている、そういう動物です」と山﨑教授は説明します。

ヒグマとツキノワグマでは生態にも違いがあります。ヒグマは開放的な環境に適応していて、大人になると木に登るのが苦手です。一方、ツキノワグマは「樹上生活がすごく得意で、短い爪をスパイクみたいに使って木にスルスル登っていき、木の上にある果実や花、葉っぱを他の動物が食べられない場所で食べる」という特徴があります。

クマの出没傾向と地域差

クマの出没件数、人身被害件数、捕獲されたクマの数はいずれも右肩上がりで増加しています。しかし山﨑教授は「それが異常ということではなく、起こり始めたのは実は2000年代初頭。もう20年ぐらいこの状況が続いていて、十分予測できる話なので、今年が異常だということではない」と指摘します。

地域別に見ると、2023年と2025年のクマによる被害が最も多かったのは北東北(秋田県、岩手県、青森県)で、特に秋田と岩手で顕著だったといいます。「西日本は今年も落ち着いているので、本州全体でクマが暴れ回っているという印象を皆さんが持たれるのは事実として正しくない」と山﨑教授は説明します。

確かに北陸地方や東京でもクマの出没が報道されましたが、山﨑教授によれば「背景としてはクマの分布域と、それに伴って個体数も増えているのは確かなので、北陸であろうと東京であろうと、傾向としてはそういうことはあると思うが、東北のような状況にすぐになるわけではない」とのことです。

クマが人里に出てくる理由とは?

クマが人里や街中に出没する理由については、いくつかの要因が考えられます。山﨑教授は「よくテレビなどでは柿や栗の木が人家周辺にあって、そこにクマが執着している映像が出ていますよね。あれは一つの大きい要因だと思います」と説明します。

しかし、近年特に注目しているのは農地の管理状況だといいます。「やはり農地がきちんと管理されていない場所があって、そういうものが広大なクマの餌場になっている可能性がある」と山﨑教授は指摘します。東北の具体例として、水田の代わりにソバや大豆を作付けしている場所が、適切に管理されていないケースがあるといいます。

「そうなると山の中よりも集落周辺の方がクマにとって住みやすい場所になってくる。その先はもう市街地ですから、市街地に飛び出てくるクマが確率的にどんどん増える」と山﨑教授は危惧します。

さらに、「もしかしたら山の中よりもその集落周辺、いわゆる山裾の方がクマの密度が高くなってきているのかもしれない」という仮説も提示します。

「メガソーラーが影響」説の真偽は?

メガソーラーの開発がクマの出没に影響しているという説については、山﨑教授は「メガソーラーが直ちに山の状況を変えて、結果としてクマの出没を促進しているかというと、それは証拠をもっては言えない」と、慎重な見解を示します。

また、森林環境については「1970年代初頭ぐらいまでは拡大造林のような戦後の復興のための杉や檜の植林が国の施策で行われていたが、それ以降はそんなに山を改変していない。1970年と考えるともう50年以上は山の状況が大きく変わっていない」と説明します。

むしろ変わったのは「集落周辺」だと山﨑教授は指摘。過疎化や高齢化の進行によって、人とクマとの接点となる場所の環境が変化しているというのです。

気候変動の影響と狩猟者の減少

気候変動の影響については「全然影響がないとは確かに言えないと思う」としながらも、「ものすごく短期的に見れば、今の東北みたいなところで積雪がどんどん減っていますよね。あるいは雪の時期が降雪して積雪になる時期が後ろにずれるとなると、林床という森の床の部分に落ちた木の実などをクマが晩秋や初冬まで食べることができる」と説明します。

もう一つ大きな要因として山﨑教授が挙げるのが、ハンター(狩猟者)の減少です。「これまでは趣味の狩猟のほか、いわゆる東北のマタギのような人たちが山の中でクマを追い立てて捕る狩猟によってクマにプレッシャーをかけること、人は怖いんだと教えることと、ある一定のクマの数を捕って全体の数を抑制してきたが、それがもうできない状況」だと説明します。

「ハンターになる人が若手にほとんどいなくなってしまった。今活動しているハンターの平均年齢もおそらく70歳や80歳になっています。今市街地などでクマが出ると、オレンジ色のベストを着たハンターの方が出ていますが、皆さんお年寄り」という現状があります。

クマが人を襲う「2つのパターン」

クマが人を襲うケースとしては、大きく2パターンあるといいます。一つ目は、クマが「自分でもよくわけがわからない状況に追い込まれてしまって、手当たり次第に目の前にいる人を襲って自分の逃げる道を確保しようとしている場合」で、これはパニック状態だと山﨑教授は説明します。

もう一つは「すごく特殊なケースで稀」だとしながらも、「自己防衛のために人を襲った結果、人が亡くなってしまうと、その後に山で落ちている動物の死体と同じように食べ物として扱っちゃう場合がごく稀にある」と説明します。

クマを引き寄せてしまう行為と登山者としての対策

そして人がクマを引き寄せてしまう行為として特に問題なのが、餌付けや残したゴミなどだと山﨑教授は指摘します。

「クマは頭がいいんですよ。学習能力はものすごいので、何かと何かを結びつけて、人に近づけば食べ物が手に入る、キャンプ場に行けば手に入るとか、人がザックに入れているお弁当を食べることを覚えるとか、そういう風になってきちゃうと人に積極的に近づいてくるクマが出てくる可能性がある」と警告します。

「クマに食べ物を投げる、パンやソーセージを投げるなどの行為は知れたところでは時々あったんですけど、そうなるとクマは人と食べ物の連想を覚えちゃって、それがエスカレートすると人が怪我をする、あるいはテントを壊されるとかということになる」と説明します。

山でのクマとの遭遇について山﨑教授は「山の中のクマは比較的穏やかなんです。登山者がクマを刺激したり、ある一定の距離を保って無理に近づいたりしなければ、普通はクマが立ち去ってくれます」と説明します。

ただし「最近北アルプスなどで登山者のザックを狙ってくるクマとか、あるいは山小屋周辺に出てくるクマとかがいるという話も聞いているので、一部のクマは行動を変えている可能性がある」とも指摘します。

「クマの嗅覚はものすごい。一般的に犬は人間の数千倍から1万倍以上と言われていますが、クマの嗅覚はその犬よりも数倍優れている」。山崎教授は警告します。

「お弁当の中の海苔の匂いとかお米の匂いとかを覚えちゃうと思うんですよね。だから1回そういうものを食べちゃうと、テントの中にあっても、あるいはザックの中に入っても匂いが出ちゃうので、近寄ってくる可能性がある」

登山時の鈴の効果については「山の中では有効だと思います。クマによっては鈴の音がしても気にしないクマもいるかもしれないけれども、それよりはそれを気にして人間の接近に気がついて立ち去ってくれるクマの方が多いので、持たないよりも持った方がずっといい」とアドバイスします。

クマ対策のこれから

現在政府が発表しているクマ対策のパッケージについて、山﨑教授は「とりあえず個体数を減らそうというところ」だと説明します。「集落周辺のクマを一回押し戻さないといけないのでやらなくちゃいけないんですけれども、短期であったり、さらに中期で言うとクマをこれ以上集落に引き寄せないための環境整備をきちんとしていかないといけない」と強調します。

「とにかく今の状況だと一回クマを減らさないといけないんですけど、それを延々と続けていくわけではなくて、その効果を検証しながら、同じことが起きないようにするための努力をする」ことが重要だと指摘。

山﨑教授は見通しも示してくれました。

「来年はきっと少し落ち着くと思うんです。なぜなら2023年の翌年の2024年はある程度落ち着きました。その時に何ができるかなんですよね。また喉元過ぎれば忘れちゃうと、同じことが今度2027年に繰り返したら、ずっと右肩上がりで進んじゃいますよね。来年は何とかしたいなという風に思います」

個人でできる対策としては「自分の自宅周辺で管理できる食べ物、つまり庭先の柿の実とか、取り残しの農作物とか、あるいは家で作るコンポストなんかもクマを呼んじゃうので、そういうものは管理した方がいい」とアドバイスしています。

(TBSラジオ『荻上チキ・Session』2025年11月26日放送「クマの生態に何が起きているのか?~各地で止まらぬ熊被害」より)

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