コメ価格維持政策か、おこめ券のボイコット広がる【播摩卓士の経済コラム】

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2025-12-13 14:00
コメ価格維持政策か、おこめ券のボイコット広がる【播摩卓士の経済コラム】

高市政権の物価高対策で地方自治体が取り組む「推奨メニュー」として、「おこめ券」が盛り込まれたことに、拒否反応が広がっています。経費率の高さをはじめ、配布の手間や特定団体への利益誘導を理由に、「おこめ券は配らない」と、いわばボイコットする地方自治体が相次いでいるのです。不評を跳ね返そうと、農水省や発行団体が、「経費率引下げ」などを打ち出したことが、さらにおこめ券への不信感を拡大させています。

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経済対策の柱である地方交付金拡充

高市政権が発足後のスタートダッシュとして取り組んだ、経済対策を実行するための補正予算案が、11日、衆議院を通過しました。与党の自民、維新に加え、国民民主党や公明党の賛成も取り付けたことで、臨時国会の会期内に成立することが確実な情勢です。

経済対策の目的の第一は、もちろん物価高対策です。その大きな柱の一つが、地方自治体が自由に使える「重点支援地方交付金」の拡充です。補正予算では4000億円を確保しており、各自治体が食料品高騰などへの対策を講じることになっています。自治体の一定の裁量を与えた方が、地域ごとの実情に合った対策が、スピーディーに実施できるという判断からです。

自治体が対策を自由に決められるのですから、おこめ券配布だけでなく、現金給付やプレミアム付き商品券の発行もできますし、自治体が経営する水道料金を引き下げてもよいわけです。政府はいくつかの推奨メニューを示しており、おこめ券も当然、そこに含まれています。

おこめ券「ノー」の自治体相次ぐ

しかし、ここにきて、大阪府交野市や箕面市をはじめ、奈良市、福岡市、北九州市、東京都江戸川区、豊島区など、続々と「おこめ券は配布しない」と表明する自治体が相次いでいます。

拒否反応の最大の理由が経費率の高さです。おこめ券は500円で券を買うと、440円分のコメが買える仕組みです。500円中60円、すなわち12%が、券の発行や流通にかかる手数料として、発行元のJA全農や全国米穀販売事業共済協同組合(全米販)に入る仕組みなのです。券発行に伴う利益も上乗せされていると考えるのが普通です。これでは貴重な公金を、おこめ券発行団体に自動的に配っているようなものでしょう。各自治体の首長が市民の批判に耐えられないと考えても不思議ではありません。

デパート商品券は1万円の券を1万円で買うのが普通でしょう。そもそも商品券には販売促進効果が含まれているので、発行コストを消費者に転嫁などしないのです。百歩譲って発行手数料が必要だとしても、今の時代に12%などというのは、誰が考えても常識外れで、まさに「コメの世界の常識」が、「社会の非常識」を示しています。

対策用のおこめ券、手数料引き下げへ

こうした批判を受けて、発行団体の一つである全米販は、今回の経済対策用に自治体向けに販売するおこめ券は、通常より23円安い、477円で販売することを決めました。不思議なことに、12日に発表したのは鈴木農水大臣です。

477円の券を買うと440円分のコメが買えるので、発行手数料は37円となり、経費率は先の12%から7.8%に下がりました。JA全農も同様に、最小限の必要経費だけ加算した形で、券面価格を引き下げる方向です。

だったら、今までの12%もの「中抜き」は一体、何だったのか、と突っ込みたくなります。それでも7%超、十分高い手数料でしょう。消費者不在という、おこめ券の性格をはっきり示しています。

対策用のおこめ券の使用期限は来年9月

また、今回の経済対策用のおこめ券には、使用期限が設けられることになりました。期限は「2026年9月末」までと明記されることになり、これも不信感を抱かせます。

一般的に経済対策は、一定期間内に需要を喚起する目的で策定されるので、商品券などに使用期限が設けられること自体は、不思議ではありません。特別な商品券を新たに発行するなら、なおさらです。

しかし、おこめ券は既存の商品券ですし、そもそも需要喚起策ではなく、家計支援のための政策です。人によって、消費量の少ない人もいれば、一定の備蓄があって、急いで買う必要のない人もいるでしょう。 

来年9月と言えば、26年産の新米が市場に出始める時期です。新米が市場に出回る前に、少しでもおこめ券を使ってもらい、コメの需要を支えたいという「期待」が、私には透けて見えます。

高市総理が国会で「おこめ券が大好きな農水大臣」とまで紹介した、鈴木農水大臣の「本音」は、需要下支えによるコメ価格の維持にあるのではないでしょうか。そうです、需要喚起策というのが、むしろ本質なのかもしれません。

先行きにコメ価格急落懸念も

コメ価格は、足もとでは高値が続いていますが、実は、先行きについては、価格急落を心配する声が相次いでいます。今や、店頭で5キロ5000円以上する新米の売れ行きがさっぱりで、在庫が積み上がっている状態です。

新米の売り文句が通じなくなる年明けから価格が下がるという見方もありますし、「来春には価格暴落の恐れ」と公言する大手販売業者もいます。

農水官僚出身の鈴木大臣には、コメのだぶつきが見えていて、そこへの危機感があるのかもしれません。鈴木大臣は、そうした意図や特定団体への利益誘導については、一貫して否定していますが、おこめ券が9月までという期限で配られれば、その分、来年の需要を支え、価格下落を一定、とどめる効果が期待できることは確かでしょう。

180度転換したコメ政策

高市政権が誕生し、農水大臣が小泉氏から鈴木氏に代わって、コメ政策は180度転換した感があります。小泉前大臣が「コメ価格の引き下げ」を明確に目指していたのに対し、鈴木農水大臣は、「価格はマーケット(市場)で決まるべき」と繰り返し、事実上、現在のコメ価格の高騰を是認しています。コメ増産の方針も撤回しました。

しかし、物価高対策の本来の目的は、物価を少しでもさげることです。おこめ券を配るより、コメ価格を下げることの方が重要なはずです。主食価格が1年で倍以上になったのに、価格は市場に委ねるなんて、担当大臣が言っている国など、普通ありません。

そもそも「価格は市場に任せるべき」などという建前論は、コメ市場が「とても市場とはいえない」ものだという前提、基本認識を無視した発言です。圧倒的な力を持つ生産者団体の存在や事実上の減反という国の政策介入によって、「市場機能が働かない不完全な市場」ができたからこそ、多くの問題が生じているのではないのでしょうか。

おこめ券をめぐる一連の出来事は、消費者不在の農政を改めて浮き彫りにすると共に、改革と強い経済を標榜する高市政権の足を引っ張る、思わぬ「失点」にも、なりかねません。

播摩 卓士(BS-TBS「Bizスクエア」メインキャスター)

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