日本発・脳梗塞治療薬候補「TMS-007」、治療可能時間を5倍に広げる挑戦

東京農工大学発の創薬型バイオベンチャーである株式会社ティムスが、脳梗塞治療の常識を変える可能性を秘めた新薬候補の研究開発を進めている。開発中の治療薬「TMS-007」は、これまで脳梗塞治療の大きな課題とされてきた治療可能時間の制限を大幅に拡大できる可能性があり、国内外から注目を集めている。
国の成長戦略が後押しする「創薬・先端医療」
2025年10月、高市早苗氏が第104代内閣総理大臣に就任し、「日本成長戦略本部」が新たに設置された。ここでは、今後の日本経済を支える17の戦略分野が定められ、その一つ「創薬・先端医療分野」では、再生・細胞医療や遺伝子治療、がん、認知症といった分野への研究開発への投資強化が打ち出されている。創薬分野の成長は、日本が直面する超高齢社会と医療費の増大という課題を解決する切り札として期待されているのだ。実際、2023年度の国民医療費は48兆915億円※1と過去最高を更新。特に、発症後の後遺症で介護が必要となるケースが多い脳梗塞は、医療費や介護費の負担が大きい疾患だ。
※1:厚生労働省 令和5(2023)年度 国民医療費の概況
脳梗塞とは?

脳梗塞は脳卒中の過半を占める病気。血栓などにより脳の血管が詰まり、血流が十分に脳細胞に行き渡らなくなると、血流低下の度合が高い箇所から徐々に脳細胞が死んでしまう。死んでしまった脳細胞は生き返ることはなく、その結果半身麻痺や言語障害などの後遺症が残る可能性がある。また、脳梗塞が原因となり亡くなる患者は多く※2、令和5年の死亡数を死因順位別にみると、第1位は悪性新生物<腫瘍>、第2位は心疾患(高血圧性を除く)、第3位は老衰、第4位は脳梗塞を含む脳血管疾患で、その数は10万4,518人に及ぶ。※3
※2:国立研究開発法人 国立循環器病研究センター
※3:厚生労働省「令和5年(2023) 人口動態統計月報年計(概数)の概況」
脳梗塞治療の大きな壁「4.5時間ルール」
現在使われている脳梗塞治療薬の多くは、血栓を溶かす効果がある一方で、脳出血という重い副作用のリスクがある。そのため、発症から原則4.5時間以内という厳しい投与時間制限が設けられている。この時間内に病院へ到着できず治療を受けられない患者も少なくない。これが、脳梗塞治療における長年の課題だった。
ティムスの新薬候補「TMS-007」とは

ティムスが開発中の「TMS-007」は、血栓を溶かす作用に加えて、脳の炎症を抑える作用をあわせ持つ点が特徴だ。2018年に国内で実施された前期第2相臨床試験では、発症から4.5時間を超えて投与しても、脳出血の発生頻度が上昇しないことが確認された。この結果から、TMS-007は従来薬とは異なり、脳出血の発生頻度が上昇しない、抗炎症作用を併せ持つ新しいタイプの血栓溶解剤として位置づけられた。
この特性により、将来的には発症後最大24時間まで投与できる可能性があり、そうなれば治療可能時間は既存薬の約5倍に広がる。また、TMS-007の抗炎症作用は、脳組織の壊死を防ぎ、神経細胞へのダメージを最小限に抑える効果が期待されている。これらの複合効果により、発症後時間が経過した患者にも有効な治療法になると考えられ、既存薬では投与が間に合わない患者にも効果的に作用し、広範囲の患者に適用可能な新たな治療薬候補として注目されている。

実際、国内で90人の患者を対象に行われた臨床試験では、投与から90日後に「ほぼ完全に回復した」状態と評価される患者(mRSスコア0~1)の割合が、偽薬(プラセボ)と比べて統計的に有意に増加した。
mRSスコアとは?

mRS(modified Rankin Scale)は、脳卒中後の後遺症の程度や、日常生活の自立度を評価する国際的な指標。0:後遺症なし1:軽い症状はあるが日常生活は自立2:身の回りのことは介助なしで可能など、0〜6の段階で評価され、治療効果を判断するうえで重要な基準とされている。
世界規模の臨床試験へ
現在ティムスは、この成果を検証するため、20か国が参加する国際臨床試験(ORION試験)を進めている。もし有効性と安全性が確認されれば、「TMS-007」は、これまで治療の機会を逃してきた多くの脳梗塞患者に新たな選択肢をもたらすことになるだろう。日本発の創薬が、脳梗塞治療の未来を変える日が近づいている。
〈ティムスHP〉
URL:https://www.tms-japan.co.jp/ja/index.html