能登半島 震度7から2年「民泊」が2次避難先の新たな選択肢に

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2025-12-31 07:09
能登半島 震度7から2年「民泊」が2次避難先の新たな選択肢に

死者の約7割が「災害関連死」

2024年1月1日、石川県能登地方を震度7の激しい揺れが襲ってから2年を迎える。

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総務省消防庁のまとめによると、2025年12月25日現在、死者は698人、行方不明者は2人に上る(1)。特に目立つのは「災害関連死」が死者数全体の67%(470人)を占めていることだ。
地震の揺れや津波が原因で亡くなった「直接死」の2倍を既に上回り、今も増加している。

災害関連死には避難中の生活環境が深く関係し、災害発生時に無事だったとしても、劣悪な環境下での避難生活が長引けば命を落とすおそれがある。

避難の一般的な流れとして、避難者はまず、市町村が開設する指定避難所などへ一次的に避難(1次避難)する。
その後、自宅に戻れなかったり、応急仮設住宅に入居できなかったりする場合に、ホテルや旅館などへ二次的に避難(2次避難)することがある。

法律上「2次避難」の明確な定義はないが、本記事では、指定避難所などへ1次避難した後、生活環境や安全性の確保を目的として別の避難先へ再び移動することを2次避難とする。

初めて顕在化した「2次避難」への対応

震度7を観測した能登半島地震の発生後、石川県は2次避難所として県内270、県外839の計1109施設を確保し、2024年12月にすべての避難所が解消されるまでの間、2次避難者数は最多で5275人を数えた(2)

2次避難は過去に東日本大震災や熊本地震などでも行われたが、被災者支援に詳しい兵庫県立大学大学院・減災復興政策研究科の阪本真由美教授は、大規模な2次避難にどう対応するかという問題が、能登半島地震で初めて本格的に顕在化したと指摘する。

兵庫県立大学大学院 阪本真由美教授
「多数の避難者を指定避難所だけで受け入れるのは当然困難で、長期化する避難生活の中で体調を崩し災害関連死に至る人が出てくることが懸念されました。そのため石川県を中心に2次避難の支援体制が整えられましたが、そういう体制が事前に検討されていたわけではありません。これまでの災害では、おもに指定避難所の確保までしか考えられていませんでしたから」

“もう一つの選択肢”として急浮上した「民泊」

耐震性の低い木造家屋が多いため住宅の被害が甚大となった能登半島地震では、地震発生翌日(2024年1月2日)の避難者数は4万688人に上った(3)
避難者の中には、指定避難所では大勢の人が集まり十分なスペースが確保できないなどの理由で、避難所での滞在を諦め被災した自宅に帰ったり、車中で過ごしたりする人が現れた。

ライフラインの途絶や余震が続く中、快適かつ安全な2次避難先の確保が喫緊の課題となり、石川県・国・民間企業などが連携して、1月9日から2次避難先へ移動するための受付を開始した。

一般に2次避難の受け皿として想定されるのは、ホテルや旅館、民宿などの民間宿泊施設だ。けれども能登地方やその周辺では宿泊施設も大半が被災したため、2次避難先の大多数は県外の宿泊施設に頼らざるを得ない。

その延長線上で“もう一つの選択肢”として急浮上したのが「民泊」の存在である。

「民泊」を避難先に初めて活用

民泊は、戸建て住宅やマンション・アパートの空室を旅行者などに貸し出す宿泊サービスで、法律に基づいて運営されるものを指す。
近年、インバウンド需要の拡大などに伴い、空き部屋を貸したい人(ホスト)と宿泊を希望する人(ゲスト)とをインターネットを介してマッチングする民泊ビジネスが急増している。

政府は2030年の訪日外国人旅行者数6000万人、訪日外国人旅行消費額15兆円の目標を掲げていて(4)、その目標を達成する手段の一つに民泊の活用を位置付けている。

阪本教授によると、世界中で民泊マッチングを行っているプラットフォーム大手のAirbnbが2次避難先として民泊を活用することを行政に働きかけ、2月13日に石川県とAirbnbが協力協定を締結。
民泊136施設が宿泊の提供を申し入れ、2月16日から6月7日までの間に計20組32名(延べ990泊)の受け入れが行われたという(5)

兵庫県立大学大学院 阪本真由美教授
「受け入れ数として多くはありませんでしたが、2次避難で民泊を活用したのは(能登半島地震が)初めての事例で、マッチング率は100%でした。利用者には小さな子ども連れの家族、配慮が必要な高齢者のいる家族、ペットを連れた人などがいて、生活設備が整っていることが感謝されていた」

「日常に近い生活環境で被災者のニーズに合致しやすい」

民泊の大きな特徴は、室内にキッチンや洗濯機などの生活設備が整っている点にある。阪本教授は避難先としての民泊を「日常生活に近い環境が整備されているので、被災者のニーズに合致しやすい」と評価する。

特に乳幼児がいる家族や高齢者、障害者など災害時に配慮が必要な人たちにとって、避難先に一般家庭と同様の生活環境が確保されていることは安心につながるだろう。ペットが家族同然という人にとっても、受け入れ可能な民泊は貴重な存在といえる。

兵庫県立大学大学院 阪本真由美教授
「Airbnbのプラットフォームには、それぞれの民泊施設がどのような設備を持ち、どういう人が泊まれるかといった情報や、ホストとゲストがダイレクトにやり取りできる仕組みがあるので、避難者のニーズに応じたきめ細かな宿泊施設の提供に繋がる可能性があります」

また、2次避難先にはほとんど何も持たずに避難してきた人もいたが、個人個人の避難では地元の行政から食料や物資などの提供が得られず、代わりに地域住民や民間企業から多くの支援が寄せられるケースがあったという。阪本教授は、そうした動きを通して民泊や個別の避難に対する理解が地域の中で深まった部分があると話す。

兵庫県立大学大学院 阪本真由美教授
「日本ではこれまで、避難所など〈場所に対する支援〉が中心で、避難者、すなわち〈人に対する支援〉が十分ではありませんでした。これからは人がどこに避難していても支援が届くように、人に寄り添った支援のあり方を考える必要があります」

海外・国内の先行事例と今後の課題

阪本教授によると、海外では、災害時の宿泊先として民泊を活用することは一般的に行われていて、2012年にアメリカ東海岸を襲ったハリケーン・サンディや2023年のトルコ大地震(Mw7.8)、2025年のアメリカ・ロサンゼルスの山火事などで実績があるという。

国内に目を向けると、東京都墨田区が2023年11月、災害時の要配慮者の避難場所に民泊を活用する協定をAirbnb Japanと締結している。
地震や水害などの災害発生時に、妊産婦や乳幼児をはじめとする要配慮者を対象に、民泊で7日を限度として受け入れる想定で、費用は原則、区が負担する(6)

しかし、日本における民泊の歴史は2010年代半ば以降と比較的浅く、その仕組みや制度についての理解も深まってはいない。能登半島地震で2次避難先への民泊の活用に地震発生から約1か月半の期間を要したのも、行政の民泊に対する理解不足が一因だという。

民泊の活用に課題「180日の壁」

前述のとおり、民泊が2次避難先の有効な選択肢になりうることが能登半島地震で明らかになった一方、制度上や運用面での課題も見つかった。
民泊で人を宿泊させる日数は、「住宅宿泊事業法(民泊新法)」によって1年間に「180日を超えないもの」と定義されている(7)。だが、災害時の避難では滞在期間が半年以上の長期にわたるケースも十分考えられ、阪本教授は上限日数について「今後、災害への適応を考えるなら、緩和または撤廃する措置が必要」と指摘する。

阪本教授はさらに、2次避難に協力可能な民泊事業者をあらかじめ登録しておくプラットフォームや、空室を確保することによって民泊側に生じる損失を補填する仕組みの必要性を説く。実際、民泊事業者が空室を確保したにもかかわらず、結果的に利用されないケースが能登半島地震であったという。

災害対応が可能な制度に

近い将来の発生が懸念される南海トラフ巨大地震の被害想定では、最悪の場合、避難所の避難者数は地震発生から1週間後で最大約650万人、1か月後でも最大約360万人、避難者数全体では最大約1230万人と予想されている(8)。阪本教授は「災害時には宿泊先・避難先いずれも不足するのがもう明らかで、いかにしてこれから先、より良い環境で滞在できる場所を確保していくかの検討が必要」と強調する。

兵庫県立大学大学院 阪本真由美教授
「能登半島地震では、民泊が避難先の新しい選択肢として示されました。民泊のストックはこれから増えていくと考えられるので、それらをうまく利用できればより良い避難環境が確保できると思います。そのためには、民泊の制度設計を災害にも対応できるように変えていかなければいけません」

「フェーズフリー」な避難先へ

民泊は空き家問題の解消・解決にも一役買うことが期待されるが、民泊の4割超が集中する東京23区では、ゴミ出しや騒音など利用者のマナーに関する近隣住民の苦情が急増していて、このところ自治体による規制強化の動きが相次いでいる。前述の墨田区でも、新規の事業者を対象に宿泊期間を週末のみに限定するなどの条例が2025年12月に可決、公布された(9)。

民泊を2次避難先の“もう一つの選択肢”に加えるためには、制度化だけでなく地域社会の理解が欠かせない。
地元住民にそっぽを向かれるような民泊で避難者が安心で快適な避難生活を送れるとは思えないからだ。空室を活用することが前提の民泊は、平常時と災害時とを分けず、普段から利用できて災害時にも役に立つ「フェーズフリー」の考え方と親和性が高い。
だからこそ、民泊の仕組みや存在が違和感なく社会に受け容れられた先に、災害時での有効活用の道が開けるのではないだろうか。

〔参照文献・引用したウェブサイト等〕
1)消防庁災害対策本部,令和6年能登半島地震による被害及び消防機関等の対応状況(第122報)(2025/12)

2)石川県,石川県における能登半島地震への対応について 2次避難所の運営について(2024/8

3)内閣府(防災担当),令和6年能登半島地震における避難所運営の状況(2024/6)

4)観光庁 観光地域振興課,次期観光立国推進基本計画の検討状況(2025/9)

5)阪本真由美,日本災害情報学会 第31回大会予稿集「2次避難先としての民泊の活用に関する研究 -2024年能登半島地震の事例より-」

6)墨田区,「災害時における民泊施設提供の協力に関する協定」を締結しました(2024/3更新)

7)観光庁 民泊制度ポータルサイト 住宅宿泊事業法(民泊新法)とは?

8)中央防災会議 防災対策実行会議 南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループ,南海トラフ巨大地震 最大クラス地震における被害想定について 【定量的な被害量】(令和7年3月)

9)墨田区,住宅宿泊事業等の規制のあり方に関する検討を行っています(2025/12)
Airbnb 公式ウェブサイト ニュースルーム
やどかりプロジェクト 公式ウェブサイト

〔筆者プロフィール〕
福島 隆史
TBSテレビ報道局解説委員(災害担当)
日本民間放送連盟 災害情報専門部会幹事
十文字学園女子大学 非常勤講師
内閣府「災害発生時等の帰宅困難者等対策検討委員会」委員
令和6年度 気象庁長官表彰

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