“再びアメリカの裏庭に”トランプ政権の真の狙いは西半球?軍事攻撃・大統領拘束 ベネズエラで一体何が【報道特集】

アメリカによる南米・ベネズエラへの軍事攻撃と大統領の拘束は、世界に大きな衝撃を与えた。ベネズエラで一体何が起きているのか。そして、トランプ大統領の本当の狙いはどこにあるのだろうか。
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「寝ていたら爆弾が飛んできて…」現地の人語る“攻撃の瞬間”
ベネズエラの首都・カラカス上空を飛ぶヘリコプター。3日未明、アメリカが大規模な軍事攻撃を行った。
攻撃を受けた、カラカスの軍事施設近くに住む60代の女性に話を聞くことができた。当時は自宅にいたという。
カラカス在住のベネズエラ人女性(60代)
「午前2時ごろから午前5時まで、断続的に爆発音が聞こえました。最初の音は花火だと思いました。しかし、その後ヘリコプターの音が聞こえてきて、何か異変が起きているのだと気づきました」
外壁が吹き飛ばされた集合住宅。そこに暮らす男性は叔母を亡くした。
集合住宅の住民
「寝ていたら爆弾が飛んできて、破片が叔母の上に落ちてきました。病院に運ばれたけど、どうする事もできませんでした」
軍事攻撃でマドゥロ大統領と妻を拘束 死者は100人に
今回の軍事攻撃で、マドゥロ大統領とその妻が、アメリカ陸軍の特殊部隊「デルタフォース」によって拘束された。
ベネズエラ政府によると、攻撃による死者は100人に上った。アメリカメディアなどは「犠牲者には民間人が含まれていた」と報じている。
シュプレヒコール
「ベネズエラの大統領はニコラス・マドゥロ!」
道路を埋め尽くす人々。ベネズエラでは連日、アメリカの攻撃に抗議するデモが行われている。
デモ参加者
「戦争反対、平和賛成。私たちは勇敢であきらめない民族です」
「誰に脅迫されても立ち向かいます。ベネズエラは尊重されなければなりません」
カベジョ内務相
「眠っていた何の罪もない民間人が爆撃で殺害されました。帝国主義者が、ベネズエラの国民が選んだ誇り高き大統領を連れ去りました」
拘束の理由「麻薬」は本質的な理由ではない?
ベネズエラへの軍事攻撃と大統領拘束の理由について、トランプ大統領はアメリカへの麻薬流入を阻止するためだと述べた。
トランプ大統領(3日)
「非合法的な独裁者マドゥロは、死に至る違法薬物を莫大な量、アメリカに密輸した巨大なネットワークの首謀者」
トランプ政権は2025年9月以降、中南米周辺の海域で、ベネズエラの船舶が「麻薬を密輸している」と主張し、20回以上の攻撃を続けていた。100人以上の死者が出たと報じられている。
だが、アメリカ政治に詳しい三牧聖子教授は「麻薬の阻止は根拠が薄く、表向きの理由ではないか」と指摘する。
同志社大学(米政治・外交) 三牧聖子 教授
「麻薬がアメリカの大変な社会問題になっていて、年間数万人の犠牲者が出ていることは事実ですが、主な流入先、例えば合成麻薬のフェンタニルに関しては、メキシコ経由で来ているものがほとんど。コカインに関してもコロンビアが最大の供給源。
ベネズエラが軍事行動されるまで敵視されるのはおかしい。少なくとも本質的な理由ではないだろうと。実際、トランプ大統領も軍事作戦後の会見で、麻薬のことはほとんど言っていない」
トランプ大統領(3日)
「ベネズエラの石油ビジネスは長い間、完全な失敗に終わっていた。我々は世界最大級のアメリカの石油企業を投入し、数十億ドルを投じて、壊れた石油インフラを修復させ、この国に収益をもたらすようにする」
同志社大学(米政治・外交) 三牧聖子 教授
「実際にそこで強調されたのが、ベネズエラの石油、その利権を、今後アメリカ企業が獲得していく。アメリカの支配下に置いていく。いまトランプ政権は、もうむき出しの帝国主義で、『何が悪いんだ』というスタンス」
「なぜ?どうして?」日本から憂う母国への攻撃
日本から母国を心配している男性がいる。アレハンドロ・パティーノさん(45)。
攻撃があった1月3日、首都カラカスに住む母親から連絡があったという。
在日ベネズエラ人 パティーノさん
「電話をかけた時にヒュー、ボーンと。びっくりしました。お母さんから『ガンパウダー(火薬)の臭いがする』と」
在日ベネズエラ人 パティーノさん
「自分の故郷が爆撃されて、気分は良くないですね。同時に『なぜ?どうして?』と思った」
パティーノさんは2005年に留学生として来日し、広島大学で貿易を専門に学んだ。
在日ベネズエラ人 パティーノさん
「ベネズエラの(カカオ豆の)スペシャルところは、このエキゾチックな風味」
日本に留学した経験を活かし、今は東京でベネズエラからチョコレートの原料となるカカオ豆とコーヒー豆を輸入する会社を経営している。
常に考えているのは、母国ベネズエラの将来について。
在日ベネズエラ人 パティーノさん
「カカオとコーヒーは、石油の次に一番チャンスがある。この農業のプロジェクトを見つけた時に『これが良い』と。日本とベネズエラが一緒に協力できる。だから私の生き甲斐になった」
日本に暮らしていても…政治の話には口閉ざす
ベネズエラでは、13万%ものハイパーインフレを記録した年もあり、経済が破綻している。
約800万人が国外に出たとされる。
在日ベネズエラ人 パティーノさん
「長い間『アンチ・ヤンキー(反米)精神』のプロパガンダがあった。でも、アメリカは一番(石油を)購入していた国だと思い出すことも多い。
ベネズエラ人で海外にいるのは800万人です。私も800万人のうちの1人。あの時代を思い出す。アメリカと貿易を上手にやっていたけど」
日本が戦後、アメリカの同盟国となった歴史が、これからの母国の参考になるのではないかと考えている。
在日ベネズエラ人 パティーノさん
「これからどんなベネズエラになるのか、みんな知りたい。あの体験、日本人から学ばないといけないと思う。どのように復興し、どのように他国との関係を直すのか。なかでもアメリカとの関係をどう直していくか」
だが、さらに深く聞こうとしたところ…
村瀬健介キャスター
「ベネズエラ人にとって、アメリカはどういう存在ですか」
在日ベネズエラ人 パティーノさん
「大丈夫?ごめん(バツ印を作るように手を交差)」
村瀬健介キャスター
「このあと大統領選挙が、公正に行われることがとても重要ですよね?」
在日ベネズエラ人 パティーノさん
「うーん…」
パティーノさんは、日本に暮らしていても、自由に母国の政治について発言できない空気があると感じている。
在日ベネズエラ人 パティーノさん
「今はみんな注意した方がいい。今は黙っている方がいい。ベネズエラのために祈りましょう。最善を祈りましょう」
「監視の目厳しく…」マドゥロ氏拘束に喜びも表現できず
隣国・コロンビアでは「独裁者のマドゥロ氏が拘束された」と、歓喜の声を上げたベネズエラ人たちがいた。
ベネズエラに住む20代の男性も同じ気持ちだと話した。
ベネズエラに住む男性(20代)
「嬉しいです。同僚と抱き合って喜びました」
しかし、SNSを含め、国内では喜びを公に表現することはできないという。
ベネズエラに住む男性(20代)
「祝うこともできないし、発信することもできません。マドゥロ政権に協力する人たちがいるからです。監視の目が厳しくなって、さらにデリケートになっています。政府は誰であれ、気に入らない人間を犯罪者にしたいのです。気をつけなければなりません」
言論弾圧激化 背景に経済政策の失敗
アジア経済研究所の坂口安紀氏は、「ベネズエラの言論弾圧は激しさを増していた」と話す。
アジア経済研究所 坂口安紀 主任研究員
「(2024年の大統領選の際)わずか1か月で1500人以上、数千人の市民が拘束・逮捕されています。未成年者も子どもたちも含まれます。その中で25人が命を落としています」
“反米の旗手”と呼ばれたチャベス元大統領。
チャベス元大統領(2009年・国連総会)
「帝国主義者の“ヤンキー”は家に帰れ」
貧困層から圧倒的な人気を集めた一方で、反体制派の弾圧を強めた。その死後、後を継いだのがマドゥロ氏だ。
マドゥロ大統領(2013年)
「人権を守る、貧困を救う、祖国を守る。独立と民主主義を尊重する」
坂口氏は、マドゥロ氏の経済政策の失敗が、弾圧を強めた背景にあるという。
アジア経済研究所 坂口安紀 主任研究員
「国内総生産がわずか7年で5分の1に縮小したり、13万%のハイパーインフレに見舞われたり。食べ物がなくなり、多くの人が、国民の4分の1が(国の)外に逃げました。それでも政権にいたのは、軍を掌握しつつ、反政府派の市民や軍人に対する諜報活動、そういう中で、多くの人権弾圧や抑圧、多くの方が命をなくした。
アジア経済研究所 坂口安紀 主任研究員
「アメリカの軍事アクションは批判されるべきだが、だからといってマドゥロ大統領を容認するということではない」
“西半球を再びアメリカの裏庭に”トランプ大統領の狙い
ベネズエラの石油利権確保を明言しているトランプ氏。8日には軍事攻撃の成果を誇るかのようにこう述べた。
トランプ大統領(8日)
「我々は数十億ドル、数百億ドルの石油を手に入れた。最終的には数兆ドルになるだろう」
アメリカによるベネズエラへの関与は、数年単位で続くとの見通しも示した。
トランプ氏の狙いはどこにあるのか。
トランプ大統領(3日)
「新たな国家安全保障戦略のもと、アメリカの西半球での優位は二度と揺らぐことはない」
2025年12月、トランプ政権が新たに公表した国家安全保障戦略。
同志社大学(米政治・外交) 三牧聖子 教授
「強く打ち出されたのが、西半球をこれから重視していく。単に重視するだけではなく、西半球を再びアメリカの裏庭のようにする、一種の勢力圏にしていくという発想が盛り込まれている」
西半球とは、経度0度で分けた西側の半分で、北米・中米・南米を含む地域を指す。
同志社大学(米政治・外交) 三牧聖子 教授
「今回、打倒されたマドゥロ政権は、中国・ロシアをバックに持って、非常に反米的な姿勢を示していた。(アメリカは)場合によっては、軍事力を使って(他国の政権を)転覆して、アメリカのビジネスにとって都合がいい政権が誕生することを望んで、行動していくのではないかと思います。
アメリカの野心は、決して中南米にとどまらず、(同盟国の)デンマークのグリーンランドも『欲しい』と」
資源も豊富なグリーンランドをめぐって、同盟国のデンマークに対し、トランプ政権は軍の活用も選択肢の一つとしている。
「恐ろしい世界の入り口」“ドンロー主義”で西半球を支配?
その背景にあるのが、モンロー主義だ。
1823年、アメリカ第5代大統領のジェームズ・モンローが発表した「外交・安保の原則」。西半球にヨーロッパが進出しないよう、お互いに干渉しないなどとしたものだ。
トランプ大統領(3日)
「モンロー主義は重要なものだ。我々はモンロー主義をはるかに超えた。今は、“ドンロー主義”と呼ばれている」
自身の名前「ドナルド」と掛け合わせ、「ドンロー主義」として再定義したもので、西半球において、アメリカの支配を強めようとしている。
村瀬健介キャスター
「パワーポリティクス(権力・武力行使)が行われる国際秩序は、日本にとっては非常に不利ではないかと思うのですが」
同志社大学(米政治・外交) 三牧聖子 教授
「今のトランプ政権の認識としては、今までのアメリカ外交は、その国際法とか国際的な正当性とか、そういうものに拘ったために、より直接的に利益を追求することができなかったと。国際機関、国際法みたいなものは邪魔なんだという認識」
トランプ大統領は7日、「国益にならない」などとして、合わせて66の国際機関から脱退するよう指示する文書に署名した。
同志社大学(米政治・外交) 三牧聖子 教授
「いま我々はロシア、中国、さらにはアメリカまでもが現状打破、現状維持ではなく、現状打破国。自分たちの利害に沿って世界を作りかえる欲求を持って、それを実行に移している、恐ろしい世界の本当に入り口にいる。ここで、やっぱりこういう世界はダメだと、力が全てだという世界に至らないための最大限の努力をすべき局面」