棺桶体験や地獄に落ちるVRも――なぜ今、“死”をフェスで語るのか? 新ドラマ『終のひと』と「Deathフェス」が重なる場所

TBS NEWS DIG Powered by JNN
2026-01-18 08:00
棺桶体験や地獄に落ちるVRも――なぜ今、“死”をフェスで語るのか? 新ドラマ『終のひと』と「Deathフェス」が重なる場所

コロナ禍を経て今、日本の葬儀や死の捉え方は静かながらも、大きく変わりつつある。そうした変化の最前線を行くイベント、その名も「Deathフェス」は、2024年に東京・渋谷で初開催され、昨年も4200人が訪れるなど注目を集めている。

【写真で見る】“銀髪”の葬儀屋・柿澤勇人さん、梵役の西山潤さんの最新カットも(ドラマストリーム『終のひと』場面写真)

“死をもっとポップに”と、死をタブー視しないこの「オープンな」場は、どのようにして生まれたのか。今回、葬儀屋を舞台にしたTBS系ドラマストリーム『終のひと』(1月13日スタート、主演・柿澤勇人さん)が放映されるにあたり、一般社団法人デスフェス共同代表の市川望美さんにインタビュー。

「死は生の地続き」と語る市川望美さんに、今起きている葬儀や若者の死に対する捉え方の変化、ドラマへの思いなどについて聞いた。

きっかけは酒飲みトーク “死”テーマのフェス、誕生の経緯は?

4月14日=「よい死の日」に、若者らが集まる渋谷でトークセッションや没入型体験などのプログラムを展開する複合イベント「Deathフェス」。共同代表の市川望美さんと小野梨奈さんは、2024年に一般社団法人デスフェスを立ち上げ、同年にDeathフェスを初開催した。

「死をフェスで扱う」と聞くと、意外に感じる人も少なくないだろう。なぜ“死”をフェスで語るのか――その“違和感”こそが、同フェスの出発点だったと市川さんは話す。

「私が共同代表の小野と出会ったのは、20年ほど前です。子育て支援のNPOで私がスタッフとしている時に、彼女がお母さんとしてやって来てからの付き合いなので、出会ったのは死ではなく“生”の現場でした。お互い出産をして子育てをして、今まで生きてきた社会との差に戸惑っている時に出会い、共に活動したりもする中で、意気投合。以来ゆるくつながり続けていましたが、ある時、小野が『お墓に入りたくない』というような話をしてくれたのがきっかけになりました」

小野さんがそう発言したのは、新しい働き方を提案する“非営利型株式会社”を市川さんが企画担当として推進していた際、ワーケーション(地方などの普段とは異なる場所で働きながら休暇も楽しむ新しい働き方・旅のスタイル)事業で出向いた長野でのこと。夜皆で飲んでいる場で、小野さんが「お墓には入りたくない。火葬も嫌」と話し始めた。

「そこから、アメリカでは埋葬方法として人を有機物として分解して堆肥にするスタートアップがすでに数社あって、『私はそれで地球に還りたい』と。私は海に還りたいなと漠然と思っていたので、すぐに『それ、めっちゃいいね』というような話になりました。ただ、日本でそうした新しい埋葬や葬儀をすることは法的にもとてもハードルが高く、まずはみんなが“自分はこういうふうに最後を迎えたい”と自由に話せるような社会にならないと選択肢自体を作ることができないと考えて、“Deathフェス”のようなものを開いてみたらどうか、と思ったんです」と市川さんは続ける。

「そこで、4月14日を『よい死の日』にしてはどうだろう?ちなみに来年の4月14日は何曜日だろうね?と調べたら、たまたま日曜日だったので『もう来年やろう!』と決めて、そこからどうやったら実現できるかと考えて、第1回を無事に渋谷ヒカリエで2024年4月14日に開催できました。それがDeathフェスの始まりです」

共同代表である市川さん、小野さんの二人の「出会い」の中で、偶然起きたある日の出来事にも不思議な縁があったという。

「2011年3月11日の東日本大震災当日に、私たちは偶然同じワークショップに参加していました。もともとは子育て支援のNPOで出会いましたが、たまたま同じ助産院で出産もしていて、お互いの価値観も合う中で、それぞれ別々に同じワークショップに申し込んでいたんです。彼女は第3子を妊娠中でおなかが大きくて、その時ぐわんぐわん揺れる中で『この妊婦を無事に帰さねば』という使命感とともに避難したという状況もあり、『あの日も一緒にいたしね』みたいな“伏線回収”だったと今は思います」と振り返る。

「これが私たちに与えられた役割なのではないかという勢いもあり、話は早かったです。ずっとNPO畑にいて、いろいろな現場で社会に対する新しい発信や新しい選択肢を増やす活動をしてきたこともあり、これまでの20年のキャリアを使って、みんなを巻き込んで“市民発”のムーブメントにしていくという動きになりました」と、二人の経験や思いが重なり、同フェスが誕生した。

「死」というテーマがエンタメにも? 初回も盛況、場を開くことで得た手応え

2024年の第1回開催時には、約2000人が来場し、SNSでも拡散されるなど大きな反響があった。

「蓋を開けてみるまでは、どんな方々がいらっしゃるかは分かりませんでした。ただ『Deathフェス』というものをする、という企画段階から、“何それ?”と周りからの反応も良く、面白がってくれている人もいて、実際に来場された方も10代から90代まで幅広かったです」と手応えを感じた。

「一番多いボリュームゾーンは40代、50代の私と同年代のミドル世代でした。通常の終活市場だと70代以降が中心になるので、50代でもある意味“若者”です。次に多かったのが20代でした。その層を狙って渋谷で開いたということもあり、やはり思ったよりも若い方たちが来てくれました」と話す。

「インフルエンサーの方がユニークなイベントとしてSNSで取り上げてくれたり、『死』のことをすごく考えたいというよりも、ちょっとエンタメっぽく捉えてくれた人たちもいました。若い方たちも死のことを実はすごく考えていて、『こういう話は普段友達とはできないから』と話していた方もいました」と、来場者も反応もさまざま。男女比は半々で、2025年の第2回開催時も、客層は幅広かったという。

Deathフェスについて、「“死”というテーマに出会い直す祭典」と定義付ける市川さんたち。「死は私たちの周りにあるものの、タブー視されることもあり、距離が遠くなってしまっている。そこで、もう一回ちゃんと出会い直そう、という意味のテーマを掲げています」と、その定義について説明する。

プログラムでは、トークセッションと没入型の体験、対話という3つの“入り口”を設けている。トークセッションは、日本が直面する「多死社会」(高齢化の進行により死亡者数が急増し総人口が減少していく社会状況)についてなど、知識も得られる入り口に。

体験企画は、棺に入ってみることができる体験や、横浜の寺院が開発する“地獄に落ちるVR”体験などを用意。「いつか必ず訪れるけれど、生きているうちには体験できない死というものを『こういうことなのかもしれないな』と、五感とか身体性をもって体験するという入り口です」。

「対話」としての入り口は、「死を皆でいかに自分事にして『“生”に地続きにできるか』ということ。そのためにはやはりカジュアルな対話が必要だと思うので、みんなで話をするという入り口を設けています」と言い、お酒を飲みながらカジュアルに生と死について語り合う「Deathスナック」などの場を設ける。

変わる葬儀、自由化の波――形式から“その人らしさ”へ

避けるものではなく考える“入り口”に――Deathフェスは、形式的な葬儀や相続とはまた別の形で「終活」を再定義する新たな試みでもある。

近年、葬儀の現場では「こうでなければならない」という決まり事が薄れつつある。遺影や、会場で流す音楽も、故人らしさを前面に出すものが選ばれるようになってきた。

広がりを見せる多様な葬儀の在り方について、市川さんは「私も今でも、いろいろと学んでいる最中です」と前置きした上で、「コロナ禍があって、お葬式というもの自体がかなり縮小傾向にあります」と全体的な傾向を説明。通夜や告別式などの「大がかりな葬儀」ではなく、ご遺体を自宅などから直接火葬場に移して行う直葬も増えていると言う。

市川さんもおととし父親を亡くし、「“葬儀ってこういうものですよね”という前提のもとに進めることへの違和感もあり、父だったらきっと『葬式にお金なんてかけなくていい!』と言うよねということで、家族の意見も一致してシンプルな直葬式にしました」と自身の経験も明かす。「今は樹木葬が多いと聞きます。新規でお墓を購入するにしても、いわゆる“先祖代々・何々家の墓”という籍のあるお墓に入るのではなく、自然に近いところに、という考えが広まってきていると思います」とその変化についても触れる。

「『墓じまい』(墓を撤去して更地にし墓地管理者へ返還する一連の作業)も最近のトピックになっていて、大きなビジネスにもなっています。お寺や霊園で石のお墓を買って眠る…その手前で告別式をやって…というような、今までの仕組みはかなり変わってきているなと感じます」

生前葬についても、「以前は盛大な『感謝祭』のような形で開かれるようなケースも多かったですが、今は自分の人生を表現したり、友達を呼んで小規模で開いたり、何回してもいいよね、というような話はよく聞きます。“お別れの儀式”というよりも、自分が主体となって自分の人生の節目や転機を作っていくような感じで捉える人も多いのでは」と語る。

「今回のようなドラマが放送されることもそうですし、今は昔からある葬儀業界も変わりつつある、ちょうど過渡期でもあるなと、業界の方や周りの友人とも話していて思います」と、その変化を肌で感じている。

「葬儀業界には昔からのビジネスモデルがありますが、仕組みとしては結婚式のパッケージと一緒です。例えば棺がいくらで買えるのかとか、これとこれを組み合わせたいとか、結婚式でも派手な披露宴や仲人は要らなかったり、親族は呼ばす友達同士で、という選択肢が増えているように、葬儀も『家や先祖のため』というものから、『自分たちのもの』というふうに取り返した瞬間に、発想が違うものになっていくんだと思います」

こうした変化が起きる一方で、市川さんはこう警笛も鳴らす。

「ペットの葬儀業界でも聞くのですが、悪徳業者みたいなものも出てきています。葬儀という閉じられた世界で、葬儀業界の方々によってきちんと守られてきたものや儀式というものがあります。『じゃあネットで組み合わせて、これとこれで一番安い方法でやろう』となったときに、本当にそれでいい葬儀ができるのか、という問題はあると思います」と危惧する。

「じゃあ“そもそも儀式って何のため?”とか、“お寺の役割って何だっけ?”とか、ちゃんと知るべきことは知って、守るべきところは守る。道を開いていくためには、そうした知識を得たり対話もしていかなければいけません。Deathフェスがその一つの結び目になれたらいいなと思っています」と、Deathフェスの意義にも触れる。

死ではなく“生き方”を見つめ直すきっかけに ドラマ『終のひと』との共鳴点

ドラマストリーム『終のひと』で、主演の柿澤さんが演じるのは、余命半年を宣告された破天荒な葬儀屋・嗣江宗助。仕事中心の人生に行き詰まっていたエリート会社員・梵孝太郎(西山潤)も、母の死をきっかけに嗣江と出会い、葬儀という現場を通して、自らの生き方を問い直していく。

葬儀屋を舞台にしながらも、物語の中心にあるのは、登場人物たちが他者の人生に触れ、自分自身の価値観を揺さぶられていく過程にある。そこで視聴者に問いかけられるのは、死そのものよりも「死を前にした人間がどう生きるか」ということ。

市川さんも、「葬儀屋さんについて知ることもそうですが、今閉塞感のある時代の中で生きている人たちが『あれ?なんかスカッとする』なのかもしれないし、自分自身の“生き方”にも照らし合わせて見るんじゃないかなと思います。いつか終わりのある人生を、ドラマと重ねて見てもらえるのではないか」と、Deathフェスの活動とも通じると話す。

「死を考えることで『生』がもう一度照らし返されたりもするし、棺に入って自分が死ぬとしたらどう思うか、と感じてみたりするDeathフェスも、死の準備ではなく、“生きるためのもの”だと捉えてもらえたらと思っています。そこについては同じなのかもしれないと、ドラマにも共感しています」

「『葬儀ってこういう人たちがこうしているんだ』というようなことを知ってもらうこともすごく大事です」とも付け加え、「何より、ドラマの良いところは、家族と話したり、誰かと感想を共有できたりするところ。これをきっかけに、自分の人生や生き方を考えることにつながったり、お墓のことなど普段はしづらい話のきっかけになればいいなと思っています」と、“共鳴”する思いを口にする。

同作のキービジュアルでは、棺の中でたばこを手にほほ笑む嗣江の姿も印象的だ。「厳粛さ」や「形式的」といった従来とは異なる葬儀のイメージの中で、“葬儀屋”嗣江のプロとしての覚悟もにじむ。

同作を見ることで、市川さんたちの活動と同様に、“生き方”のヒントにもつながる「死」というテーマを、遠ざけずに考えてみるきっかけになりそうだ。

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