仕掛けに気付いて本当にビックリ!「シナントロープ」~2025年10月期ドラマ座談会~【調査情報デジタル】

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2026-01-22 13:56
仕掛けに気付いて本当にビックリ!「シナントロープ」~2025年10月期ドラマ座談会~【調査情報デジタル】

2025年10月期のドラマについて、メディア論を専門とする同志社女子大学・影山貴彦教授、ドラマに強いフリーライターの田幸和歌子氏、毎日新聞学芸部の倉田陶子芸能担当デスクの3名が熱く語る。「ぼくたちん家」「ひらやすみ」「ちょっとだけエスパー」など。             

ダメなヤツなのに応援されちゃう「じゃあ、あんたが作ってみろよ」

影山 「じゃあ、あんたが作ってみろよ」(TBS)はいかがでした。

倉田 人は、変わろうと思えばこんなに変われるんだと実感した作品でした。竹内涼真さん演じる主人公の勝男は、出てきた瞬間から嫌な感じで、この若さで何でこんな亭主関白に仕上がったんだろうと思いながら、彼が痛い目に遭うのを楽しみに見始めたんです。でもその彼が恋人に振られたのをきっかけに、自分で料理をするなど、変わってみようとシフトできるところがよかったですね。

ダメなところがいっぱいある勝男ですが、やはり憎めないのは竹内さんのキャラクターというか、イケメン枠だった竹内さんがこんな役もできるんだと、昭和のお父さんが着ていたような白い下着姿も……。彼の新しい一面を発見できました。

田幸 男性を一方的に断罪せず、こうさせてしまった一因は女性側にもあるという描き方。相手の男性に合わせているうちに、自分が何なのかわからなくなってしまう女性側の悩みも描いていて、よくできた作品でした。

一方、竹内さんの好感度がすごく高いうえに、愛嬌とか愛おしさの芝居がうまいのもあって、みんなが勝男応援モードになっていたようにも感じました。本来は自分に置きかえて、自分自身のアップデートを考えるべきところを「勝男を愛でるドラマ」になってしまっていたかもしれません。

その点で、伝えたいことがちゃんと伝わったかと不安でしたが、SNSでは「うちの夫が勝男みたいなことを言っていたのに、言わなくなった」という声が意外とありました。自分でやらないくせに家事にダメ出ししたり、茶色い料理ばかりとか、出汁がどうとか言わなくなったという女性の書き込みを見て、ああ、ちゃんと伝わったんだと思いました。

そう思うと、強く男性を断罪するドラマにしたら男性は見ていられなかった。しんどくなって男性が離れてしまうと、見てほしい人に伝わらない。このぐらいポップに描いて嫌悪感を抱かせずにメッセージを伝える、その塩梅がうまかった。

ちょっと話を広げると「虎に翼」(NHK・2024)が女性の思いだけでなく、男性のしんどさもきちんと描いているのに「男性が責められている気になる」なんて言う男性がいました。ちゃんと全ての人に向けてつくられているのに、それが伝わらない。

一方で、同時期にヒットした「不適切にもほどがある!」(TBS・2024)は、昭和世代の「男はつらいよ」を描いて、男性はそっちに飛びついた。

同年に放送された2作が、意図していないにしろ、男女を分断させる部分があった。これは難しいな、届けたい人に届かないなというジレンマを感じていたときに、この作品が男性にも届いた。このバランスは今後も参考になると思いました。

影山 出演者に目を転じると、勝男の会社の後輩を演じた杏花さんが印象に残りました。令和女子で、勝男にガンガン物申すけれどもチャーミングさを忘れていないのがよかったです。

その「不適切にも…」の新春スペシャル「新年早々 不適切にもほどがある!」も放送されました。

倉田 楽しく拝見しました。お決まりのミュージカルも含めて定番を押さえつつ、やはり娘が阪神大震災で亡くなるということが一つの軸として描かれていて、明るく楽しくだけではないクドカンさんらしさを感じました。

影山 作品の中で女性首相が誕生するのですが「このドラマは2025年4月に撮影されました」というテロップが入ったのがなかなか粋でした。私たちの方が早かったんだよ、という遊び心はいいですね。

王道を行った「ザ・ロイヤルファミリー」

影山 「ザ・ロイヤルファミリー」(TBS)。

田幸 やっぱり塚原あゆ子さんが演出する日曜劇場は一味違う。勧善懲悪や派閥争いを描かなくても、こんなに飽きさせずに重厚で王道な物語をつくれるということを示してくれました。

倉田 重厚で見応えのある作品でした。何よりよかったのは、一つのことに全力で熱中している人たちの姿が美しかったんです。競走馬にかける情熱が、すごく格好よく美しい。人は一つのことに熱中していくと、やっぱりこうのめり込んでいくよねと、共感して引き込まれました。

あとは目黒蓮さんに存在感があって、作品の流れが大きく変わる節目でしっかり役目を果たしていると感じました。

あることに気付くと本当にビックリ!「シナントロープ」

(以下の文章は「シナントロープ」についての「ネタバレ」を含みます。お読みになりたくない方は次の小見出し「ぼくたちん家」までお進み下さい)

田幸 私が今期一番はまったのは、なんといっても「シナントロープ」(テレ東)です。ヒット漫画「セトウツミ」を描いた漫画家で、脚本家として「オッドタクシー」を手がけた此元和津也さんが脚本ということで期待していました。

1話目を見たらそれぞれの人物が魅力的ですし、同じ言葉を軸に、その言葉が違う使われ方をしたり、違う意味を持たされたり、重なったりずれたりしながら描かれていく。

学校でちょっと浮いていたり、世間からずれていたりする居場所のない若者達が、舞台となるハンバーガー屋でアルバイトをしているんですが、その子たちの家庭環境や抱えている問題、背景が見えてきたり、すれ違っていた人同士の接点が見え、関係性がわかってきたりする中で回を重ねるごとにおもしろくなっていきました。

ところが、第4、5話になって、あることに気付いて、あっ、これはただ会話を楽しむ物語じゃないぞ、えらいドラマが始まったんじゃないかと思って慌てて録画するようになったんです。

何かというと、登場人物が様々に重なったりすれ違ったりする中で、どことも交わらない二人組が存在することに気づいたんです。みんなちょっとずつニアミスしているのに、この二人だけはどことも交わらない。なぜかと思って考えたら、その二人は「時間軸」が違っていることに気付いたんです。

よく見ると「時間軸」がおかしいと気づけるところもたしかにちょこちょこあるんです。

この「時間軸」のずれを使った脚本の緻密さがとにかくすごい。毎回尻上がりにおもしろくなって、ラストまで裏切られ続けて、とにかく圧倒されました。

SNS時代になり、いわゆる「考察系」がはやりました。見る側が深読みしたり、実際の物語がその深読みを裏切ることが目的になってしまったり、はやり過ぎたときには、結局オチはみんなサイコパスみたいになって、「考察系」はピークを超えて破綻してきていると思っていました。

影山 同感です。

田幸 その一方で「しあわせな結婚」(テレ朝・2025)とか「最愛」(TBS・2021)のように、謎解きはあるけれど、人間の心理描写が主軸なのが今のドラマのあり方だと思っていた中で、久しぶりに全く読めない内容でした、いわゆる「考察系」的な脚本でこんなに見事なドラマを見たことがありません。

その一方で、単なる考察ではなく、意外に社会派の側面もあるドラマなんですね。今の若者は夢を見ない、欲がないとか言われますが、夢を見てもどうせ叶わないから見ないようにしているだけ、本当は欲しいものがあるのに欲しくないふりをしているだけ、といった今の若者の心理も見えてきて……。

社会派とうたわずに社会が見えてくる。ストーリーのおもしろさ、会話のリアルさ・新鮮さ、人物の魅力で見せつつ、背景には必ず現代の社会がにじんでくる描き方も、社会派ドラマが成熟した今だからこそ生まれた作品だと思いました。

倉田 「時間軸」については、本当にささやかな違和感なので、ボーッと見ていると本当に気づかない。「そうだったのか」とわかった時がすごく気持ちよくて、そこからはまってしまいました。

影山 これだけの高評価なのに、あまり話題になりませんでした。

田幸 最初から「考察系」に見えていた方が、このドラマに入ってきやすかった人もいたと思いますが、最初はそう見えなかった。考察のおもしろいドラマであることが、半分近くまで行って見えてくる。何のジャンルのどういう物語かがパッとわかるものの方が、最初から入ってくれる人が多いのだろうとは思います。

ただ、私自身は、ジャンルレスな、何を描いているのかわからないものに惹かれるので、こういう作品にはまってしまうんです。ドラマがよほど好きな人でなければ、ジャンル分け、色分けされている方が選びやすいとは思います。その見せ方の難しさはすごく感じます。

倉田 ジャンル分けによって、そのジャンルに興味がない人を排除してしまうリスクもあります。ジャンルをハッキリさせて、そのファンだけを取り込むのか、もっと深いところがあるんだからそれ以外の人にも間口を広げるのか、こういうジャンルだけど、違うすばらしい面があるというのを見つけて紹介していくのが私たちの仕事かなと思います。そこは頑張りたいですね。

「ぼくたちん家」、横領した3000万円という金額の意外な根拠

倉田 「ぼくたちん家」(日テレ)がよかったです。及川光博さん演じるゲイの男性が古いアパートに引っ越してきて、知り合った手越祐也さん演じる中学校の教師に恋をする。一見BLみたいな設定ですがそうではなく、家族のあり方や人と人のつながりを深く考えさせられるドラマになっていました。

及川さんが引っ越したアパートに中学生の女の子がひとりで住んでいます。お父さんは離婚していなくて、お母さんとふたり暮らしでしたが、そのお母さんが勤務先で約3000万円を横領して失踪。その結果ひとりで暮らしているんですが、その彼女の担任の先生が手越さんという関係です。

及川さんはその子から、父親がわりになってみたいなことを頼まれます。そのときの及川さんの協力の仕方がすごくナチュラルで「じゃ、僕がお父さんになって構ってあげなきゃ」みたいな感じでもなく、いい距離感を保ちながら彼女との関係を築いていく。

何でそんな上手な距離感の築けるのかとなったとき、やはり彼がゲイというのが一つのポイントになると思います。社会の中で少数派、マイノリティとして生きてきた中で、人への優しさが生まれてきたというのを繊細に演じていました。こういう人が身近にいてくれたらいいなと思うすばらしい演技でした。

一番共感したのが、逃亡中のお母さんが出てくるところです。彼女がなぜ横領したかというと、氷河期世代で就職がうまくいかず、派遣社員のまま働き続け、あるとき男性との給与格差に気づく。そこでどうしたかというと、自分が正社員で、なおかつ男女の給与格差がなかった場合に貰えていたはずの金額をぴったり1円単位で横領して逃げるんです。

そのお母さんが「女だからなめられていた」と言います。私も女性として働く中で、女だからこんな態度をとられているのかと感じることはたくさんあって、なめられたと思ったときは戦いもしますが、もちろん怖くて戦えないときもあります。その辺の悔しさを明確に示してくれたことに感謝の気持ちが湧きました。

田幸 男性同士のカップルを、全然特別でない描き方をしているのがいいと思いました。

「おっさんずラブ」(テレ朝・2018ほか)では、全く差別のないファンタジーの世界が描かれていて「きのう何食べた?」(テレ東・2019ほか)は男性同士の話でありながら、老いや生活が軸になっていて差別の描写は大分薄くなっています。それに対して、この作品では普通にゲイのカップルを描きつつ、差別もなかったことにしない。

いいなと思ったのが、母親の元夫役、光石研さんの描写です。最初は悪い昭和の感じで「あいつゲイなんだろ」と平気で言う。やがて及川さんがいい人だとわかってくると「あいつゲイなのにいいやつだな」となっていく。その言葉自体がすごく差別なのですが。

そんな化石のような価値観の光石さんも、実は男らしさという幻想に縛られてきたことがわかってきます。大きな車に乗るなどといった、男らしさの理想をずっと追いかけつつ、それに苦しめられてきた。差別をする側だった彼が、差別をされる側の人に接し、理解していくうちに自分自身が変われるかもしれないと思う。

「俺でも変われるかな」と言って「変われる」と肯定してもらえたことで、捨てられていたウサギを拾って飼ってやり直す。明るく笑顔で挨拶する練習をこっそりしてみたりする。人はいつからだって、変わることができるというメッセージを感じました。

世代間で分断が起こりがちな中、差別が普通にあった時代を生き、そういう差別をした、あるいは差別を見て見ぬふりをした人たちも今から変わればいいんだと思える。世代を分断させない描き方がうまいと思いました。

脚本は松本優紀さんという新人の方ですが、彼女の書くせりふが本当にすばらしい。メモをとって書きとめたいせりふがたくさんありました。

森七菜がこじらせている「ひらやすみ」

影山 僕のイチオシはNHKの「ひらやすみ」です。何も起こらないドラマです。15分のドラマですが、15分見て「何かあったか?」という感じ。

主人公はもともと俳優を志し、俳優の日々も送ったのですが、そこで思うことがあり、つらい経験もして今は都内の釣り堀でのんびりアルバイトをしている。そんな彼が、ちょっとしたきっかけで、一軒家に一人暮らしのおばあちゃんと知り合う。週のうち何回か晩ご飯をごちそうになるぐらいの関係になって、何かとおばあちゃんの心配をする。

そこから血縁を超えた互いの愛情が育まれ、やがておばあちゃんは亡くなるのですが、彼女が住んでいた都内の一等地の平屋を譲渡されるんです。そしてそこにやってくるのが、漫画家を目指して美大に進学、上京してきた従妹。森七菜さん演じる彼女とのふたり暮らしが描かれていきます。その森七菜がとてもいい。自然体で、ちょっとオタクで東京になじめず、自意識が過剰。

田幸 彼女はやっぱりうまいですね。あのこじらせぐあい、自意識とシャイの混じり合った感じとか、頭から爪先まで全身で表現してみせる、その細かさが見事でした。

倉田 上京してきて、ウェーイと盛り上がっているカースト上位っぽい人の中に入っていけない雰囲気もわかりますし、そういう人たちに近寄りたいけど近づけないみたいな微妙な心情を上手に演じていました。

影山 話を広げますが、今の社会は皆さんが疲れ切っているから、癒しを求めてこういう「何も起こらない」作品が注目されるのかもしれません。「考察できない系」ドラマですね。なにかと考察したがる視聴者に向けて「どうや、こんなドラマもあるぞ」と、エンターテインメント自体を楽しむ原点を伝えていると思います。

この世知辛い世の中、解を求める方向にばかり走って、その解もいくつもあっていいのに、その中の一つが正解で、あとは全部間違いみたいな、そういう見方をする人が少なからずいると思うんです。そういった風潮にアンチテーゼを示したこの作品の存在意義は大きいと思います。

何も起こらないと言いましたが、後半部分で主人公の親友が、仕事や人生、妻との関係に思い悩むんです。それを心優しい主人公が、先回りして先回りして、さりげなく気配りをして彼を救う。そのさりげなさが魅力的でした。

大層な、しゃくし定規な、大上段に構えた人生観ではなく、さりげなく生きることに喜びと幸せを見出す。僕たちが忘れがちなことで、それを求めている人たちは少なからずいるはずなのに、そうではない方向に社会がどんどん行っていると感じながら僕はこの数年過ごしています。

田幸 私の周りでも、ドラマは「ひらやすみ」しか見ていないという人が結構います。「もうこういうのしか見られないんだよ」みたいな言い方を何人かから聞きました。社会が傷んで、いっぱいいっぱいになった人が、この作品に救われていると感じます。

親友の悩みへの向き合い方がすばらしい。男性は割と弱音や愚痴を言いづらく、不満や疲労を言語化できない中、妻なり彼女なり異性にケアを求めることが多く、それもうまく吐き出せず八つ当たりみたいになることもあります。

そんな中、男性同士の友情がケアになっていく。男性もしんどいことはしんどいと言っていいと思いますし、それを出す先が同性だっていいはずです。この作品は男性のケアの物語でもあって、こういう作品が増えるといいなと思います。

影山 僕もたとえば仕事場で「助けて」とは言わなかったし、今もそうですね。本当はもっと言ってもいいんですよね。彼女や奥さんにそのしわ寄せが行く方がよくないですし。

「ちょっとだけエスパー」が描いた残酷さ

影山 野木亜紀子さん脚本の「ちょっとだけエスパー」(テレ朝)の評価はぜひ聞きたいところです。

田幸 私がびっくりしたのが第2話です。今回は笑えるトーン、楽しい雰囲気で行くのかと思いきや、ちょっとしたかけ違いが死につながってしまう。よかれと思ってやったことが死を招く残酷さをいきなり描いた。これって野木さんだな、残酷だな、うまいなと思いました。

倉田 画家の話ですね。画家をやめようかという岐路に立っている人がいて、一生画家でいたいとも思っている。そこでちょっとだけエスパーを持った人たちがかかわって、ちょっとしたことをした結果、一生画家でいられるとなった瞬間にその人は亡くなってしまう。確かにそこで死ねば一生画家でいられたことになるわけですが、すごく皮肉で重い。

田幸 あと、ディーン・フジオカさんが、花を咲かせることができるという、のんきな、どうでもいい能力を持っていると思っていたら、それは意外にも恐ろしい力だということが後にわかる。

その設定のうまさと、ディーンさんでなければ出せない、大らかで、のんきで、ちょっとおとぼけっぽくて、でも危ない力も持っている。そのキャスティングのうまさにうならされました。

影山 それから、メジャーとは言えない枠でしたが「生放送まで30分」(テレ朝)というテレビ業界ドラマがありました。おもしろかったのは、同じシーンを何人かの別々の視点で描くんです。

深夜の生放送のスタート30分前という設定で、いろいろなハプニングやトラブルが起こって、笑いもあって考えさせるところもある。アシスタントディレクターの視点で第1回目を終えたら、第2回目はアイドルのマネージャーの視点で見る。同じシーンだけど、誰をメインで描くかで見え方が変わってくる。さらにテレビ業界自身が「皆さん、こんな業界どうですか」と視聴者に提示しているのがユニークでした。

辛抱が必要だった?「もしもこの世が舞台なら…」

影山 お金と時間をたっぷりかけた三谷幸喜さんの「もしもこの世が舞台なら、楽屋はどこにあるのだろう」(フジ)ですが。

倉田 第1話からいろいろな登場人物がにぎやかに出てきて、三谷作品らしさを感じながら見始めました。

渋谷が舞台で、もとはストリップ劇場だったところに演劇の演出家の菅田将暉さんがやってきて、シェークスピア劇を上演する。舞台好きにはたまらないんじゃないかと思いつつ、舞台を見慣れていない人は見づらいかなと思いました。

1980年代という時代設定で、三谷さんご自身もこういう若き演劇人として活動してきたのかと興味深く見ることもできました。

ただ、疑問に思ったというか、本当にこうなのかと思ったのが演出家の横暴ぶり。80年代だからなのか、今も一部ではそうなのか、その辺が見る人を選んでしまう懸念が残りました。80年代を描く上で嘘は描けないのかとも思いますが、難しさがあったと思います。

田幸 三谷作品は回を重ねるごとに尻上がりにおもしろくなっていく傾向がありますが、この作品はそれが極端に出ていました。

第1話はお祭り騒ぎで、いろいろな人が入れかわり立ちかわり出てきて、誰が誰だか何だかわからない。設定も全くわからないし、物語がどこに向かうのかもわからない。誰にも愛着を持てない状態を延々とやって、ラスト15分がおもしろかったのです。

第2話もラストの10分15分でガッとおもしろくなる。最後の方になればおもしろくなるし、回を重ねていくとおもしろくなるけれど、そこまでを長く感じてしまう。

このつくりそのものが演劇に近いと素人考えながら思いました。演劇は会場へ行くと、おもしろくてもそうでなくても逃げられません。最初はあまり説明もされなくて何だかわからなくても集中して見る。そうしているうちに物語や人物が見えてきて、おもしろくなるパターンが多い。

しかしこれは、テレビドラマとしては結構ハードルが高い。第2話ぐらいで脱落した人が周りにも多い印象でした。

辛抱して見ればすごくおもしろかったし、中盤からワクワクする要素も入ってきたので、やはり序盤に、普段演劇を見ない人にも見やすい仕掛けが必要だったかと思います。

嫌いじゃないのに離婚する「小さい頃は、神様がいて」

田幸 岡田惠和さん脚本の「小さい頃は、神様がいて」(フジ)。仲間由紀恵さんが、自分の人生を取り戻すために、子どもが成人したら離婚するという約束をして、そのときだけを心待ちにして生きる。なかなか思い切った設定です。

実際に幸せな時間もあって、子どもにも夫にも愛情はあるけれど、この約束をしたときの自分に嘘をつきたくなくて、結局離婚を選ぶ。

いろいろ考えさせられるドラマで、もちろん嫌いじゃないのに離婚することに納得いかない人もかなりいたと思います。しかし、このドラマが示した、結婚生活、結婚、離婚観に共感を示した20~30代の女性が私の周りには多かったんです。

倉田 離婚するタイムリミットが決まっている夫婦が、まず離婚しそうにない感じなんです。激しいケンカもしないし、夫はちゃんと働いていて、妻は仕事がしたかったけれど、子どもを二人育て、円満家庭に見えます。でも妻は子どもが成人したら離婚するという約束を心の支えにしてきた、それがあったから頑張れたところがある。その設定がうまいと思います。

今に不満はないけれど、自分のために一歩を踏み出すというのはたしかに素敵なことですが、夫にとっては青天の霹靂だったでしょうし、二人の子どもにとっても驚きだったと思います。でもそういう生き方を選んだ主人公を格好いいなと私は思います。

あと、夫婦が住んでいるマンションの、他の二世帯の家族の話も出てきます。高齢のご夫婦が、事情があって孫を引き取ることになったり、女性同士のカップルがいたりするのですが、この三世帯が嵐の日の避難をきっかけに交流を持ち始める。そういう人と人とのつながりの温かさが丁寧に描かれているのも好きでした。

影山 僕もずっと好感を持って見ていました。岡田ファンというのもあるかもしれません。悪人らしい悪人も出てこないから、ある種受け入れやすい。おとぎ話だけどストンと落ちる。そういうところが大好きなんです。

仲間さんの夫役の北村有起哉さんは、おっさん世代の名優ですね。会社でもちょっと見当外れだけど、若手の女性社員からは慕われている。この辺、おじさんは「うんうん、よかったよかった」みたいな感じで見られて、こういうところを岡田さんはちゃんと工夫しておられる。

女性同士のカップルのストーリーもよかった。これも、そうはうまくいかないよ、みんながそんなにお金のことで助けてくれないよという見方もあるでしょうが、そこをおとぎ話として受け入れられるのがよかったです。

スキップしかしない回もある「ばけばけ」

影山 「ばけばけ」(NHK)へいきましょう。

田幸 本当にすばらしくて、これまでの朝ドラの中でトップクラスに入る作品です。

小さい頃から貧困に苦しめられてきた主人公が家族のために、世間から冷たい目で見られがちな外国人宅に住み込み、そこで出会ったヘブン先生と恋に落ちる。

物語そのものは、最初の方にそういった波乱万丈がぎゅっと凝縮されていますが、途中からは何も起こらない。その何も起こらない日常を描くのが、実は一番難しい。毎日15分を積み重ねて、何も大きなことが起こらず、ゴールがあるかないかもわからない。

日常を飽きさせず描き続けた朝ドラでいうと、これまで一番成功したのは岡田惠和さんの「ひよっこ」(2017)だと思いますが、成功物語ではない、普通の日常を描き続けるというところが「ばけばけ」はすばらしい。

登場人物のかけ合い、やりとりが現代語で笑いたっぷりに描かれているのに、チープや下品になっていない。その理由は、全身表現ができる舞台出身の役者さんが多いことと、演出が妙なBGMなどで笑わそうとしない、チープな演出をつけずに役者さんの力を信じている点にあると思います。

そして映像がきれいで上品です。大阪制作の朝ドラでは初めて大河のカメラを使っている。上質なカメラを使って奥行きをしっかり見せて、この作品の重要な要素である光と影をしっかり見せています。

だから画面が、これまでの朝ドラで見たことがないほどちょっと暗いのですが、暗いからこそ差し込む光のまぶしさが強調されていて、総合力として、この作品は今までにない朝ドラになっています。

倉田 何も起こらない日常を描くというのは、脚本のふじきみつ彦さんもおっしゃっています。SNSでも話題になった、みんながただただ下手なスキップを披露して家族で笑って、楽しかったね、終わり、みたいな「スキップ回」のように、本当にささやかな日々が描かれているんです。

まったくドラマチックでないのになぜ見てしまうのかと考えたら、やはり役者さん、スタッフ全員の、自分たちはいいものをつくっているという自負が画面にあふれているからだと思います。

ささやかな日常の積み重ねを見ることで、こういった人たちの日常が何百年、何千年とあって、その先に今の自分があるんだという壮大な思いになる。だからこそ、自分も日常を大切にして生きなきゃという謙虚な気持ちにもなったりして、つくり手の力と意気込みをすごく感じさせる作品だと思っています。

影山 まさに今朝の放送分、結婚の顔合わせのエンディングを「だらくそ(バカヤロウ)」という言葉で締めるあたり、過剰に笑えよ笑えよではなく、さりげなく温かい、見ている者が微笑んでしまうようなつくりになっていました。

ドラマチックなものだけがドラマではないということですね。日常を淡々と描いても、つくり手や演者がすぐれていれば、すばらしい作品ができるというのが「ばけばけ」であり「ひらやすみ」だったのではないかと思います。

       <この座談会は2026年1月9日に行われたものです>

<座談会参加者>
影山 貴彦(かげやま・たかひこ)
同志社女子大学メディア創造学科教授 コラムニスト。
毎日放送(MBS)プロデューサーを経て現職。
朝日放送ラジオ番組審議会委員長。
日本笑い学会理事、ギャラクシー賞テレビ部門委員。
著書に「テレビドラマでわかる平成社会風俗史」、「テレビのゆくえ」など。

田幸 和歌子(たこう・わかこ)
1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社勤務を経て、フリーランスのライターに。役者など著名人インタビューを雑誌、web媒体で行うほか、『日経XWoman ARIA』での連載ほか、テレビ関連のコラムを執筆。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)、『脚本家・野木亜紀子の時代』(共著/blueprint)など。

倉田 陶子(くらた・とうこ)
2005年、毎日新聞入社。千葉支局、成田支局、東京本社政治部、生活報道部を経て、大阪本社学芸部で放送・映画・音楽を担当。2023年5月から東京本社デジタル編集本部デジタル編成グループ副部長。2024年4月から学芸部芸能担当デスクを務める。

【調査情報デジタル】
1958年創刊のTBSの情報誌「調査情報」を引き継いだデジタル版のWebマガジン(TBSメディア総研発行)。テレビ、メディア等に関する多彩な論考と情報を掲載。原則、毎週土曜日午前中に2本程度の記事を公開・配信している。

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