「次は私かもしれない」米ミネアポリス 移民取り締まりの現場に漂う“排除”の恐怖

TBS NEWS DIG Powered by JNN
2026-01-26 07:00
「次は私かもしれない」米ミネアポリス 移民取り締まりの現場に漂う“排除”の恐怖

今年1月、-10度を下回る凍てつく寒さのミネソタ州ミネアポリス。

【シャッターを閉めた店が目立つ…】ミネアポリスのソマリア系の商業施設

ピーーーーーッ!

突然、響き渡る鋭い笛の音。
その音を聞いた途端、黒人男性たちは足早に建物の中へ。一方、白人たちはスマートフォンを片手に、一台の黒いワゴン車を指さして叫びます。

「気をつけろ、ICE(移民当局)だ」

多様性の象徴とされる街で、いま何が起きているのでしょうか?

ソマリア系移民を名指し トランプ大統領が集中取り締まり指示

全米最大級のソマリア系移民が暮らすコミュニティを抱えるミネアポリス。
事態が大きく動いたのは去年12月にさかのぼります。

連邦資金の詐取事件にソマリア系移民の関与が発覚したことを機に、トランプ大統領はソマリア系移民を「ごみ」と批判します。

「ゴミを受け入れ続けるなら、我々の国は間違った方向に進んでしまう」

「オペレーション・メトロ・サージ」「都市部集中作戦」と名付けた取り締まりに乗り出し、数千人規模のICE(アイス)=移民・税関捜査局の職員を投入しました。

突然、政権から非難の矛先を向けられたソマリア系移民たち。
ソマリア系移民が営む店が並ぶ商業施設を訪れると、シャッターが閉まっている店ばかり。
話を聞こうと声をかけるも、足早に立ち去られてしまいます。

しかし、一人が取材に答えているのを見ると、「私も話したい」と次々に不安な胸の内を明かしてくれました。

「トランプ大統領が私たちをゴミ呼ばわりしてから、全く眠れない」
「今は怖くて夜は一人で出歩かないようにしている」
「取り締まりを恐れて出歩かない人が増えて、商売にならない」

追い打ちをかけるように、政権はソマリアに対するTPS(一時保護資格)の終了を決定。 2000人ほどが3月には法的地位を失い、強制送還の恐怖に直面するとみられています。

移民当局が発砲 アメリカ市民の女性が死亡

そんな中、2026年1月7日、ある事件が起きます。

ICE(アイス)=移民・税関捜査局の職員が、車に発砲。運転していたレネ・グッドさん(37)が死亡しました。グッドさんは6歳の息子を学校に送り、自宅に戻ろうとしていたといいます。遺族などによりますと、グッドさんは3発の銃弾を受け、そのうち1発は頭部に命中していたということです。

当局の取り締まりをめぐっては、▽令状なしでの逮捕▽肌の色や見た目だけでの拘束▽アメリカ市民でも拘束される、など「行き過ぎだ」との批判も。「とりあえず拘束して不法移民でなければ釈放」という強硬な姿勢に疑問の声があがっていました。

そんな最中に起きた事件をきっかけに、市民の怒りが噴出。ミネアポリスで始まった移民当局への抗議デモは、瞬く間に全米に広がりました。
事件発生後、初の週末には全50州1000か所以上で大規模なデモが行われ、事件から2週間以上が経過した今も、各地で抗議活動が呼びかけられています。

奇しくも事件現場は、2020年に黒人男性のジョージ・フロイドさんが白人の警察官に拘束され亡くなった現場からおよそ1.5キロほど。人種差別への世界的な抗議活動「ブラック・ライブズ・マター」のきっかけとなった場所です。

政権vs地元当局 深まる対立 召喚状まで発行

事件をめぐっては、政権と民主党選出のミネソタ州知事、ミネアポリス市長が激しく対立しています。

ノーム国土安全保障長官やトランプ大統領は「女性が職員をひき殺そうとしたため発砲した」として正当防衛を主張。
しかし、市長は会見で怒りのあまり放送禁止用語を交えながら「権力を乱用した殺人事件だ」と厳しく非難しました。

事件の捜査をめぐっても、FBI=連邦捜査局が地元当局を排除して単独で捜査することになり、市長らは不信感をあらわにしています。
さらに、「移民当局の職務を妨害した」として政権は、州知事や市長に召喚状を発行するなど圧力を強めています。

世論調査では移民当局の発砲について、共和党支持者の8割近くが正当と回答。一方、民主党支持者の9割以上は不当と回答するなど、政治的な分断にまで発展しています。

鳴り響く笛の音 立ち上がる“オブザーバー”

そんな中、移民を取り締まりから守ろうとする動きが本格化しています。

ソマリア系移民が通うモスクを取材中、突然鳴り響いた笛の音。
音を頼りに住宅街へ向かうと、白人の男性に腕を捕まれます。

「移民当局がいる。君はこれ以上近づかない方がいい」

視線の先には、移民当局の車。車内には武装した職員の姿がありました。
職員が車から降りると、周辺の車がクラクションを鳴らして抗議します。
車の周辺には、スマホでその様子を撮影する人たちの姿が。

撮影しているのは、“オブザーバー”と呼ばれる人たち。
取り締まりの際に行き過ぎた行為がないかを監視する団体です。専用のトレーニングを受けている人に加え、ボランティアで手伝っている人もいます。ほとんどがアメリカ国籍を持っていて、なかでも白人が多いと言います。

団体には弁護士なども参加していて、人権違反があれば当局に申し立てたり、拘束された人の家族を支援したりしています。

さらに、移民当局が活動しているのを確認すると、首にかけた笛を鳴らして周囲に知らせます。アメリカ人も拘束されている今、不用意に取り締まり現場に近づかない方がよいからだといいます。

一部メディアによりますと、グッドさんもこのオブザーバーにボランティアとして参加していたとみられています。遺族は声明で当局をこのように述べています。

「あの日私たちは近所の人を守るためにそこにいました。私たちは笛を持っていました。しかし、当局は銃をもっていました」

「移民当局が店舗に…」パトロールに密着

オブザーバーはどんな思いで活動しているのか。パトロールに同行させてもらいました。
ソマリア系の移民が多く住むエリアを車で走っていると、着信が。

オブザーバーのアメリカ人(電話)
「移民当局が店をノックしていたみたい。まだ近くにいるかも」

移民当局が店舗に現れたとの情報が。事実確認をした後、周辺の住民に警戒するようメッセージを送信したうえ、近くにいるボランティアに巡回してもらうといいます。

雪が舞う中、商業施設やモスクの前に立ち続けているオブザーバーの姿も。大学生の若者から81歳の人まで、ほとんどが白人のボランティアです。
ソマリア系移民のほとんどがイスラム教徒です。移民たちが安心してモスクに行けるよう、オブザーバーたちはお祈りの時間に合わせて立っているといいます。

そんなオブザーバーに対し、移民たちはすれ違うたびにお礼を言ったり、ソマリアの伝統的な温かいミルクティー“ソマリティー”を渡したりする姿がみられました。

一方、政権は抗議デモの参加者やオブザーバーを「扇動者」と批判。移民当局の活動を邪魔すれば、厳しく取り締まる方針を示しています。

ネイティブ・アメリカンも拘束 「歴史が繰り返されている」

ミネアポリスという地名は、水を意味するネイティブ・アメリカンの言葉に由来するなど、先住民と深いかかわりを持つ街です。
実際に今もネイティブ・アメリカンの部族が暮らしています。
しかし、一部の部族は移民当局に4人が拘束されたとして、釈放を求めています。

こうした状況を受け、ネイティブ・アメリカンを中心とする団体もパトロールを行い、物資を支援するなどオブザーバーとして活動を始めています。

植民地化の過程で強制的な移住を強いられるなど、迫害を経験したネイティブ・アメリカンたち。移民を排除しようとする動きに、過去と重なるものを感じているといいます。

ネイティブ・アメリカンの団体の代表
歴史が繰り返されていると感じます。戦うという言葉は使いたくありません。しかし、地域社会や子どもたちを守るため、立ち上がらなければならないと思っています」

「無事でいて」何度もかけられた言葉 次の矛先は私かも

「Stay safe(どうか無事で)」

ミネアポリスで2度にわたって取材をする中で、別れ際に必ずと言っていいほどかけられた言葉です。
「いつ誰が拘束されてもおかしくない」。そんな緊張感が街には漂っていました。

そして、取材中あるオブザーバーにかけられた言葉にハッとしました。

「あなたは白人じゃない。そのことをもっと自覚するべきだ。有色人種である限り、捕まるリスクはある」
「次の標的はアジア人かも。メディアかもしれないよ」

「不法移民からアメリカを守る」として始まったトランプ政権の移民政策。

しかし、現実はアメリカ国籍でも拘束される例が後を立たず、取り締まりに抗議すれば「扇動者」とみなされています。

――いったい、「アメリカ人」とは誰を指す言葉なのでしょうか

 「次の矛先は私かもしれない」。この街に限らず、いまのアメリカでは、そうした不安を抱えて暮らす人が少なくありません。

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