近年、革靴市場において「安価な使い捨て」から「自分が気に入ったものには対価を払う」というプレミアム消費へのシフトが進んでいます。その中で改めて注目されているのが、オーダーシューズです。
オーダーシューズを作る工房は別名『ビスポーク』とも呼ばれ、その語源である「be spoke(仰せのままに/話し合いながら)」の通り、世界で一足だけの靴を作るために顧客との対話を重ねて作り上げる工程や、メンテナンスをしながら長く履き続けられる点に惹かれる革靴愛好者は少なくありません。また、ファッション性だけでなく、中高年女性に多い外反母趾などの足トラブルによって「市販の靴が痛くて履けない」という人々を救う、医療整形靴としてのニーズも高まっています。
そんなオーダーシューズの魅力を体感できるイベント「東京オーダーシューズ普及促進会展示会」が、2026年1月31日(土)と2月1日(日)の2日間にわたり、東京都台東区の「SOOO dramatic!」で開催されました。会場には日本を代表する靴職人たちが集結し、さらに足のトラブルを防ぐための「足育(あしいく)講座」も行われ、大盛況となりました。
世界を席巻する日本の靴職人と、浅草の技術

本展示会の大きな見どころは、世界レベルで評価される日本の靴職人たちの競演です。2024年5月にロンドンで開催された世界的な靴作りコンクール「World Championships of Shoemaking」では、なんと日本の若手職人が1位・2位を独占。本展示会には、同大会で2位を受賞した高木啓史氏(HYPELEAP)と、その師匠であり過去に受賞経験も持つ土屋聡氏(So Tsuchiya ビスポーク靴店)が出展しました。さらに「ジャパン・レザーアワード2025」でフットウェア部門フューチャーデザイン賞を受賞した井上篤氏(ATSUSHI INOUE)も参加するなど、まさに日本の革靴界の俊英が揃う貴重な機会となりました。


また、革製品製造の集積地としても知られる東京都台東区で50年の歴史を誇る、日本唯一の「製くつ科」を持つ公共職業訓練校「東京都立城東職業能力開発センター台東分校」の卒業生や講師陣も出展。確かな技術と知識に裏打ちされた職人たちが、来場者の足の悩みに寄り添い、オーダーメイドならではの「極上のフィット感」を提案していました。

親子で学ぶ「足」の大切さ
展示会初日となる1月31日には、オーダーシューズの展示だけでなく、子ども向けの童話読み聞かせや、革小物作り教室、そして無料の足型測定なども実施されました。


中でも注目を集めたのが、NPO法人日本足育プロジェクト協会の足育アドバイザーであり、小学校で発達障害の療育にも従事する今瀧伸子氏による「足育講座」です。「赤ちゃんから大人までの足育」と題されたこの講座では、人生100年時代を歩き続けるための「足」の育て方について、具体的なデータや実践方法を交えた熱心な講義が行われました。
今瀧伸子氏による「足育講座」レポート

講座は、今瀧氏の「足は体の土台です」という言葉からスタートしました。
<足の耐用年数は50年?>
「足が体を支えられなくなると、腰や背骨、内臓にまで不調が出ます。一般的に『足の耐用年数はおよそ50年』と言われています。これは50歳で足が使えなくなるという意味ではなく、何もしなくても元気でいられるのが大体50年ということ。そこを過ぎたらしっかりケアをしないと大変なことになりますよ、という意味なんです」
今瀧氏は、足育の目的は「自分で靴がきつい、足が痛いと分かるようになること」だと語ります。幼い頃からブカブカの靴やスリッポンのような緩い靴ばかり履いていると、本来のジャストフィットな靴を「きつい」と感じてしまう感覚のズレが生じてしまうそうです。
<子どもの運動神経は5歳までに80%決まる>
子育て世代にとって衝撃的だったのが、「スキャモンの発育曲線」を用いた解説です。

「運動に関わる神経系(脳や脊髄、運動神経など)は、5歳までに成人の80%程度まで成長してしまいます。この時期に体をたくさん使って遊ぶことは、一生を左右するほど重要です」
また、足の骨の成長についても触れ、赤ちゃんの足は軟骨でできており、非常に柔らかく変形しやすいことを指摘。「10歳頃までに土踏まずが完成しないと、その後はインソールなどで調整が必要になる」とし、幼少期の靴選びと運動の重要性を強調しました。
現代っ子に増える「浮き指」と「足トラブル」
「今、子どもの約7〜8割に、浮き指や扁平足、踵の変形など何らかのトラブルがあると言われています。その背景には、スーパーでのカート利用やベビーカーの長時間使用、車移動の増加など、歩く機会の減少があります」(今瀧氏)
特に多いのが「浮き指」です。一見普通に見えても、立っている足の指先にコピー用紙が入ってしまうような状態を指します。
「浮き指だと指先に体重がかからず、重心が後ろにいってしまいます。その結果、姿勢の悪化や転倒、腰痛につながるのです」
また、小指が横に倒れてしまう「寝指(ねゆび)」や、指が縮こまってしまう「屈み指(かがみゆび)」も急増中。これらは、サイズが合わない靴や、靴の中で足が滑ってしまうことが大きな原因です。さらに、9歳の男の子でも外反母趾が見られるケースがあるなど、足の変形は大人だけの問題ではなくなっています。

運動不足解消へ! 親子でできる「足育」トレーニング
では、どうすれば足を健康に育てられるのでしょうか。今瀧氏は、生活の中で楽しみながらできる具体的なトレーニングを紹介しました。
<子どもと一緒に「キャップ掴み」と「雑巾がけ」>
「足の指を使ってペットボトルのキャップを掴み、カゴに入れる競争をしてみてください。これだけで立派な指の運動になります。また、昔ながらの『雑巾がけ』もおすすめ。ハイハイの動きを補完し、手首や足腰を鍛えるのに非常に効果的です」(今瀧氏)
<大人は「蹲踞(そんきょ)」で股関節ケア>
大人向けのアドバイスとして強調されたのが、お相撲さんが行う「蹲踞(そんきょ)」の姿勢です。
「60歳を過ぎると股関節が急に硬くなります。和式トイレが減り、しゃがむ動作が減った現代だからこそ、意識的に蹲踞を行ったり、足指でタオルを手繰り寄せる『タオルギャザー』を行ったりして、足裏と股関節を刺激してあげてください」
プロ直伝!「正しい靴の選び方・履き方」
講座の終盤では、今日からすぐに実践できる「靴選び」と「履き方」の極意が伝授されました。
<靴選びは「中敷き」を外してチェック>
「靴を買う時は、必ず中敷きを取り出してください。その上に足を乗せ、踵を合わせ、つま先に1cm程度の余裕(捨て寸)があるかを目で見て確認しましょう。同じサイズ表記でもメーカーによって大きさは全く違います」
<「踵トントン」が合言葉>
「日本の玄関ではつま先をトントンとして履く習慣(下駄の名残)がありますが、靴は『踵』で履きます。足を入れたら踵を地面にトントンと打ち付け、踵をフィットさせてから、ベルトや紐をギュッと締める。これを習慣にするだけで、足のトラブルは大きく減らせます」
また、学校指定の上履きについても言及。「一般的なバレエシューズタイプは踵の芯が柔らかく、足を支えきれないことが多い。できれば踵がしっかりホールドされるタイプを選んでほしい」と、成長期の子どもの足を守るための切実な願いを語りました。

「足育は、赤ちゃんから大人まで、気づいた時から始めるのがベストです」という今瀧氏の言葉で締めくくられた本講座。参加者は皆、自身の足元を見つめ直し、頷きながら聞き入っていました。
「一生モノの足」を支える、「一生モノの靴」との出会い
今回の展示会は、単にオーダーシューズを販売するだけでなく、「足」という身体の土台を見つめ直す貴重な機会となりました。安価な靴を履き潰すのではなく、自分の足の特徴を知り、職人と対話しながら作り上げるオーダーシューズは、まさに一生のパートナーと言えます。また、正しい知識を持って靴を選び、履くことは、健康寿命を延ばすことにも直結します。
もし「足が痛い」「合う靴がない」と悩んでいるなら、世界に認められた技術を持つ日本の職人たちの元を一度訪れてみてはいかがでしょうか。そこには、あなたの人生を支える運命の一足との出会いが待っているかもしれません。