10万人の中高生が挑んだ“答えのない課題”――クエストカップ2026全国大会開催

2026-03-04 16:00

2月26日・27日の2日間、探究型学習プログラム「クエストエデュケーション」の全国大会「クエストカップ2026 全国大会」が、東京・豊島区の立教大学池袋キャンパス タッカーホールで開催されました。
全国29都道府県から130校242チームが出場。約10万人が参加する探究学習の集大成として、各業界の最前線を走る企業から提示された「答えのない課題」に挑戦しました。27日には大勢の観客が見守るなか、最優秀賞にあたるグランプリが発表されました
主催は教育と探究社。21回目を迎えた今大会は、探究学習の現在地と可能性を鮮やかに示す舞台となりました。

「生きる歓び」を再定義した中学生チーム

26日のQグループに続き、27日発表されたEグループのグランプリに輝いたのは、京都市立西京高等学校附属中学校の「ちーむはなまる」。建設大手の大和ハウスから提示された課題「『生きる歓び』が溢れる未来の景色を提案せよ」に取り組みました。
彼女たちが着目したのは、「歓び」という言葉の本質。好奇心、元気、笑顔――それらが連鎖する社会とはどんな姿か、それを徹底的に探究しました。「未来の景色」にあたる舞台を2055年と設定し、彼女たちが導き出した答えは「暇つぶし」の再発明。その名も「次世代の暇つぶし」でした。

次世代の暇つぶし「百トラ」

提案したのは「100万人の旅人(トラベラー)」、略して「百トラ」。
日本全国を旅する“移動式交換日記”です。

駅や空港など、人が集まる場所に設置された百トラに、人々が自由に言葉を書き込む。するとその内容が保存され、次の誰かへと受け継がれていきます。百トラは街から街へと移動し、見知らぬ誰かの思いや日常をつないでいくのです。

スマートフォン中心の現代では、暇な時間は「埋めるもの」「消費するもの」になりがちです。しかし彼女たちは、時間は本来「味わうもの」「楽しむもの」だと考えました。

百トラの特徴は3つあります。

1つ目は、普段出会えない人と自然につながれること。
ページをめくれば、誰かの小さな日常や価値観に触れられます。書き手と同じ時間を共有したような感覚が生まれるのです。

2つ目は、リアルタイムではない安心感。
既読も「いいね」もない。自分のペースで書き、読むことができるから、SNS疲れが指摘される現代において、心地よい距離感を保てる設計というのも嬉しいポイントです。

3つ目は、「手書き」という行為。
デジタルでありながら紙に近い素材を採用し、文字の揺らぎや筆跡そのものを価値にするという提案です。整いすぎない言葉が、相手側の温度を伝える、ということ。昨今は何でもラインやメールですませる傾向が強く、手書き離れが進んでいます。日記のように文字を自由に書けるので、若い人だけではなく、お年寄りも参加しやすくなるのではないでしょうか。

「効率や便利さよりも、偶然やつながりを」
大和ハウスが掲げるまちづくりの理念「共創共生」とも重なる、人と人を結び直す提案でした。
暇つぶしの概念を問い直す――その大胆さと現実性が、審査員の心をつかみました。

全体の評価について話す安斎勇樹氏

審査員でMIMIGURI代表取締役Co-CEOの安斎勇樹氏は、次のように評価しました。

いまは「タイパ(タイムパフォーマンス)」や「効率」が重視される時代で、無駄や退屈、暇といった時間は、できるだけ減らすべきものと考えられがちです。けれどもこれからの社会では、そうした“退屈”や“暇”とどう向き合うのかが重要なテーマになっていく――。

その時代背景を踏まえたうえで、「暇」という一見ネガティブに見える時間に新たな価値を与えようとした点が、今回の提案の大きな魅力だったといいます。

さらに総括として、「どのチームも企業やユーザーに真摯に向き合っていました。発想は想定外でありながらも、地に足のついた提案ばかりでした」と語りました。

魚の骨から世界を変える挑戦

準グランプリは明星中学校「君の骨を食べたい」。

課題を出したのは日清製粉グループ。「日清製粉グループがやるべき新事業を提案せよ」というミッションでした。
彼らが掲げた未来像は「食品が無駄にならない社会」。着目したのは、これまで廃棄されてきた魚の骨でした。

魚骨にはカルシウムやマグネシウム、鉄分などが豊富に含まれています。粉末化して小麦粉に混ぜれば、栄養価を高められるのではないか。実際に骨粉を自分たちで製作し、試食まで行って検証しました。
9種類の骨粉を試作し、特においしいと評価されたのはクロダイ、キンメダイ、エビの殻。魚粉入りたこ焼きの試食では、74%が「通常よりおいしい」と回答したということです。

さらに彼らは、企業分析も徹底しました。小麦輸入に依存するリスク、気候変動による収穫量減少などの課題を挙げ、それを補完する新素材として魚骨粉を位置づけたのです。

企業理念やサステナビリティ目標との整合性、技術力、国内外の流通網――なぜ日清製粉グループでなければならないのかを論理的に示したプレゼンは、大人顔負けの説得力でした。

「海の命を最後まで無駄にしない」。
その言葉に、会場からは感嘆の声が上がりました。

他校の発表も、完成度の高いものばかりでした。

完成度の高い寸劇を披露する夢現メンバーたち

たとえば京都共栄学園高校のチーム「夢現」が提案したのは、毛量を自由に調整でき、好きな髪型を楽しめる「夢現変幻自在かつら」です。

昨今頭皮に悩みを抱える人は少なくありません。原因は遺伝だけでなく、がん治療の抗がん剤による副作用などさまざまです。

「抗がん剤の副作用で髪が次々に抜け、やがて1本もなくなった。そのとき、自分も終わったと思った」
「今も髪がないことが気になり、スカーフや帽子で隠している」
こうした当事者の声から見えてくるのは、頭髪が単なる“見た目”の問題ではないということです。髪は自信や尊厳、生きる希望にも深く関わってきます。

「夢現変幻自在かつら」は、毛量を自在に調整できるだけでなく、タコの吸盤の構造を応用し、外れにくい設計を想定。機能性とデザイン性を両立させ、誰もが前向きな気持ちになれる製品を目指しました。

プレゼンでは寸劇を交えながら製品を紹介。臨場感あふれる演出と巧みな話術で、会場は笑いに包まれました。社会課題への真剣なまなざしと、エンターテインメント性を両立させた発表でした。

トキワ松学園高校のチーム「いちご大福」が提案したのは、雨の日を前向きに楽しむ体験型施設「アメトピア」です。

コンセプトは、雨を“わずらわしいもの”から“価値あるもの”へと変えること。
雨水で床に自由に絵を描ける仕組みや、手の温度に反応して色が変わる素材を取り入れ、「人とのつながり」が自然に生まれる空間を構想しました。たとえば、床に触れると色が変わる仕掛け。自分のほしい色を出すためには、誰かの手の温度が必要。そうして人と人が自然に関わり合い、会話が生まれます。遊びの中にコミュニケーションのきっかけを組み込んだ設計です。

さらに彼女たちは、実現可能性の検証も徹底しています。水に濡れると発色する「水発色カラー」や、温度で色が変わる「メタモカラー」を展開するパイロットインキとのコラボレーションを具体案として提示。アイデアを現実に落とし込む道筋まで示しました。
また、雨音が持つ「癒やし」の効果にも着目。心を落ち着かせる音環境を活用し、リラックスできる空間づくりも提案しています。
施設内にはカフェを併設し、オリジナルキャラクターも展開。細部まで世界観を設計し、「アメトピア」を一つのブランドとして描き出した。

そして、この施設は楽しさだけにとどまらない。
災害時には避難施設としても活用できる設計です。使われなくなった建物を再利用することで、SDGsの視点も取り入れています。

企業のビジネスモデル、地域コミュニティの再生、防災拠点としての機能――。
「アメトピア」は、雨の日を楽しむ場所であると同時に、地域の安心とつながりを生み出す拠点となる可能性を示した提案でした。

机上の空論では終わらせない。現実に届く提案へと昇華させる――それが、彼女たちのプレゼンの強さです。

探究は「生きる歓び」そのもの

今年の大会テーマは「Wonder ― 驚き、感動、そして探究。」。

参加者からは
「他校の発表に刺激を受けた」
「自信につながった」
「自分より年下の人も頑張っていた。年齢は関係ないと感じた」
といった声が聞かれました。

クエストカップを主催する教育と探究社 代表取締役社長 宮地勘司氏はこう語ります。
「学びは本来楽しいもの。自分の可能性が広がり、選択できるようになる。その喜びも痛みも引き受けて前に進むことが、生きる歓びだと思っています」

高校で探究学習が必修化される以前から、この取り組みを続けてきた同社。答えのない問いに向き合い、自分の強みで社会に貢献する――その姿勢は、若者だけでなく、私たち大人にも問いを投げかけているようです。

効率や正解を求めがちな社会の中で、あえて遠回りし、考え、対話すること。クエストカップは、その営みこそが未来をつくる力になると示しているようでした。

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