トレンドマイクロ創業者スティーブ・チャン氏に聞く 花粉症対策アプリ「My Relief」開発の背景

2026-03-13 17:00

鼻がムズムズしたり、涙やくしゃみが止まらなかったり――花粉の季節がやってきました。この時期は本当につらいですよね。

コンピューターウイルス対策ソフト「ウイルスバスター」の開発で知られるスティーブ・チャン氏。サイバーセキュリティの世界で数々の脅威と向き合ってきた彼が、いま取り組んでいるのが日本人の多くを悩ませる花粉症です。
チャン氏が提案するのは、スマートフォンで利用できるセルフケアアプリ「My Relief(マイ・リリーフ)」。今回は、その仕組みと開発の背景について紹介します。

My Reliefってどんなサービス?

My Reliefは、スギやヒノキ、ブタクサなどの花粉だけでなく、ハウスダストやカビ、黄砂、PM2.5、さらに気候や気圧の変化による体調不良、ペット由来のアレルギーなど、空気中の異物による体の過剰反応を和らげることを目的としたアプリです。

用意されたさまざまなアレルゲン物質

今回、筆者はアプリの体験に先立ち「筋力バランステスト」を受けました。これはアプライドキネシオロジー(Applied Kinesiology:AK)と呼ばれる方法で、身体の反応を通してアレルゲンの可能性を調べるものです。なお、このテストは取材時の体験として特別に実施されたもので、アプリの利用者が通常受けられるものではありません。(注:また、この方法は科学的に確立されたアレルギー検査ではありません。アレルギーの有無を正確に知りたい場合は医師や専門家への相談が必要です)

テストでは、体が反応する可能性のある物質に触れると身体のバランスが崩れ、力が入りにくくなるという考え方をもとにチェックを行います。

まず利き手を体の横で水平に伸ばし、誰かに腕を下へ押してもらいます。このとき、押されても腕を保てるかを確認します。次に、もう一方の手でアレルゲンの可能性がある物質が入ったカプセルを握ります。

体が反応しない物質であれば腕の力は変わりません。しかし、アレルゲンとなる可能性がある物質を握ると、腕に力が入りにくくなり、押されると簡単に下がってしまうのです。

左がヒノキ花粉、右がスギ花粉
左手でこれらのアレルギー物質の入ったカプセルを持ってみる

いくつかの種類のカプセルを試し、筆者の場合、スギやヒノキには反応が見られませんでしたが、ハウスダストやカビ、食品に関してはマンゴーに対して力が入りにくい結果となりました。

その後、My Reliefのプログラムを体験し、ハウスダストに関して再度同じテストを行うと、先ほどより力が入りやすくなったという結果になりました。

この仕組みの背景には、東洋医学の考え方があります。東洋医学では、体内にはエネルギーの流れがあり、それが滞ると体調不良が起こるとされています。

My Reliefでは、アプリ画面上に表示される円のなかにある、いくつかの図形に触れることで、エネルギーの流れを整えることを目指します。イメージとしては、鍼やツボに近い考え方です。

現在のところ、食品のアレルギーへの対処ではなく、あくまで空気中の要因によって起こる目・鼻・喉の不調に対して働きかける仕組みとなっています。

開発したスティーブ・チャン氏インタビュー

インタビューに応えるスティーブ・チャン氏

My Reliefを開発したのは、サイバーセキュリティ企業「トレンドマイクロ」の創業者の一人であるスティーブ・チャン氏です。

トレンドマイクロは1988年、アメリカ・ロサンゼルスで創業されたサイバーセキュリティ企業です。コンピューターウイルス対策ソフト「PC-cillin」や、日本で広く知られる「ウイルスバスター」などを開発し、現在ではクラウドセキュリティやネット詐欺対策など、世界中のネットワークを守るサービスを展開しています。1992年に本社を日本に移転し、日本発のグローバルセキュリティ企業として成長してきました。
チャン氏自身も1992年から4年間、日本で生活するようになりますが、そこで思わぬ悩みに直面します。それが花粉症でした。

「毎年3〜4月になると、目のかゆみやくしゃみが止まらなくなる。アメリカにいた頃はアレルギー検査をしても問題はなかった。日本で医者に相談したところスギ花粉が原因だと分かりました」
薬を処方されて症状を抑えていたものの、副作用による眠気やめまいがあり、できれば薬に頼らない方法を探していたといいます。

転機となったのは2014年の春でした。
「花粉症が本当にひどくて、株主総会に出席したとき、涙で顔がぐしゃぐしゃの状態でした。株主から『この会社は大丈夫なのか』と心配されるほどでした」
この経験をきっかけに、チャン氏は花粉症の解決策を本格的に探し始めます。あらゆる方法を模索しましたが、その年、台湾に戻った際に台湾大学で東洋医学のエネルギー療法を体験したことが転機となります。

治療に使われた画像サンプル

彼の見つけた方法はシンプルで、いくつかの図形に触れるだけというものだったといいます。

「私はエンジニアで数学的思考の人間なので、最初はこの方法をまったく信じられませんでした。しかし実際に体験すると、薬を使わずに症状が軽くなったのです」
この経験をきっかけに、チャン氏はこの仕組みをデジタル化し、多くの人が使える形にできないかと考えました。

背景には、日本の花粉症の多さもありました。日本では花粉症の有病率は42.5%とも言われ、まさに“花粉症大国”とも呼ばれています。

「こんなに多くの人が悩んでいるなら、少しでも役に立つものを届けたい」
そう考えたことが、My Relief開発の出発点になりました。

スティーブ・チャン氏の挑戦

現在72歳になったチャン氏は、My Reliefの開発について「社会への還元」でもあると語ります。

チャン氏の元を離れても成長を続けるトレンドマイクロ社

「私はトレンドマイクロを立ち上げ、日本社会から多くのものをいただきました。だから今度はそれを社会に返したいのです」
My Reliefは、図形に触れることで体のエネルギーバランスを整えるという考え方をもとにしています。ただし、その仕組みがなぜ作用するのかは、まだ完全には解明されていません。

「なぜくしゃみが止まるのか。なぜ症状が改善するのか。私にとってもまだ謎です」
そのため今後は、より多くのユーザーに使ってもらいながらデータを集め、研究を進めたいと考えています。

将来的には、日本の大学や研究機関と連携し、バイオマーカーなどの科学的研究を行うことも視野に入れているといいます。
チャン氏がMy Reliefに込めた思いはシンプルです。

「花粉症は命に関わる病気ではありません。でも、多くの人の生活の質(QOL)を下げてしまうものです。そして毎年必ずやってくるものでもあります」
だからこそ、体に負担の少ない方法で少しでも症状を和らげることができれば、多くの人の役に立つと考えています。

年齢に関係なく挑戦し続けるスティーブ・チャン氏 起業家へのメッセージ

また、日本の若い起業家に対しても次のようなメッセージを送ります。

「大切なのは、自分にできることのなかで人々が本当に必要としているものは何かを見つけることです。そして、その課題をどう解決するかを考える。今の時代はAIなどの技術があるので、昔よりもずっと挑戦しやすい」

1990年代から今日まで、激動のインターネット社会を走り抜けたチャン氏。彼はトレンドマイクロ社のトップだったころから『3C文化』を提示しています。すなわち『創造(Creative)、コミュニケーション(Communication)、変化(Change)』です。

自身も米国から日本語が話せないまま五反田の小さなオフィスに移り、ゼロから事業をスタートさせ、そのオフィスを世界的な大企業に成長させた経験があります。

「失敗を恐れず、勇気を持って挑戦してほしい。そして成功したときには、ぜひとも社会に還元してほしい」
花粉症という身近な悩みから生まれたMy Relief。彼の飽くなき挑戦は、いまも続いています。

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