世界初の“16歳未満SNS禁止法”施行で豪はどうなった?~アカウント大量削除の一方で“すり抜ける”子どもたちも~【調査情報デジタル】

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2026-03-14 09:00
世界初の“16歳未満SNS禁止法”施行で豪はどうなった?~アカウント大量削除の一方で“すり抜ける”子どもたちも~【調査情報デジタル】

世界初となる、オーストラリアの“16歳未満SNS禁止法”の施行から3か月が経った。この法律が少年少女たちにどんな影響を与えるのか、世界が注目している。TBSテレビの飯島浩樹・シドニー通信員が報告する。

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2025年12月10日、オーストラリアは世界に先駆けて16歳未満のSNS利用を全面禁止する法律を施行した。その直後から470万件に及ぶアカウントが削除・制限され、アルバニージー首相は「オーストラリアの誇りだ」と自賛した。

しかし施行から3か月。化粧で顔認証をかわす少女、規制されていないアプリへと移る子どもたちなどが後を断たず、法律が届かない「現実」も見えてきた。世界がこの「豪州モデル」に追随する中、早くも問われているのは、この法律の実効性だ。

子どもの死が“国”を動かして成立した世界初の法律

国家レベルの法規制としては世界初の試みであるオーストラリアの「オンライン安全改正法(SNS最低年齢)2024」は、16歳未満によるSNSアカウントの作成を禁止し、プラットフォーム運営者に対して合理的な防止措置を義務付ける。法律制定のきっかけとなったのは、SNS上のいじめを苦に命を絶った子どもたちの相次ぐ悲報だった。

規制対象はFacebook、Instagram、TikTok、X、YouTubeなど10のプラットフォーム。違反した企業には最大4950万オーストラリアドル(約54億6000万円、1豪ドル=約110円で換算)の罰金が科される。子どもや保護者への罰則は一切ない。年齢確認の方法は各社に委ねられ、顔認証、ID書類のアップロード、銀行口座連携などが採用されている。

法の施行から約1か月後の2026年1月15日、アルバニージー首相は「これは我が国の誇りだ。世界をリードする立法であり、今や各国で追随されている」と記者会見で述べた。 

オーストラリアのネット安全規制当局(eSafetyコミッショナー)の集計によると、未成年者のアカウント470万件が削除・制限された。Metaは法の施行翌日までに55万件を削除、Snap社は1月末までに41万5,000件をロックしたと報告している。

今月4日、筆者は、首都キャンベラのレセプション会場で、法律可決時に通信相を務めたミッシェル・ローランド現司法長官と話す機会があった。ローランド氏は「この法は万能ではないが、施行後3か月で500万件近くに上るアカウントの削除・制限は評価できる成果だ」と述べた。

安堵する親と懐疑的な子どもたち

シドニー郊外に住む2児の母、ウエルダン朋子さん(52)はこの法律施行を歓迎する。

「これは、いわば車の事故があった交差点に信号機ができるようなもの。国が『ここは危ない』と示してくれたことに意味があると思う」と語る。一方で「SNSをやめた子たちが、それ以上に楽しいことを外で見つけるのは正直難しいだろう」とも付け加えた。

しかし、朋子さんの高校生の長女(15)は、法の実効性に少し冷ややかだ。

法の施行に伴って自分自身が持っていたInstagramのアカウントは削除したが、多くの同世代の友だちが年齢認証をすり抜けているという。「もともとアカウントを作った時から年齢を偽っていたから、今さら何も変わらない」と言い切る。

「完全に禁止すれば、子どもたちは裏をかこうとするだけ。いじめそのものに対策を取る代わりに『16歳未満は全員禁止』と言っているだけで、いじめは今も続いている。SNSはもう私たちの世界。遮断しても、みんな戻る方法を探すだけです」とも。

長女の弟は3つ下の12歳。まだアカウントを持っていないが、クラスでは少数派だという。

「クラスのたくさんの子がまだTikTokを使っている。禁止されると、むしろ『どうしても使いたい』というプレッシャーが強まるだけだと思う」と話した。

彼が特に問題視するのは、規制対象から外れているプラットフォームだ。

「自分のまわりでは、Roblox(ロブロックス)のような規制対象外のものが使われていて、そこでのサイバーいじめはまだあります。でも政府はそうした状況を完全に無視しています」

深刻化するサイバーいじめ~「見えにくくした」禁止法の副作用~

長女はまた、身近で起きた深刻な事例を教えてくれた。

彼女の通う女子高にお互い仲の悪い2人の生徒がいて、現実世界での対立がSNS上に持ち込まれた。新法施行前の去年はじめにこの対立がエスカレート。殺害予告まがいの言葉が飛び交ったことで学校が警察に通報して2人は一週間の停学となり、クラスを分けるなどの配慮もとられた。しかし退学処分などには至らず、「今は、まるで何も起きなかったかのように見えます」と長女は真剣な眼差しで語った。

法律の施行後、学校内でのサイバーいじめは減ったのか?との筆者の問いに、彼女はしばらく考えてから首を横に振った。

「むしろ隠れていじめができるようになっています。以前は学校などがSNS上の動向をある程度把握できた。でも全面禁止になって、いじめはより見えにくい場所に潜った」

さらに、こう続ける。「『SNSでいじめられている』と相談すれば、『なぜSNSを使っているんだ』と言われてしまう。だから助けを求めることがより難しくなっています」。サイバーいじめを食い止めるはずの法律が、逆に深刻な“副作用“を生んでしまったのだ。

抜け穴だらけの年齢認証

「多くの若者にとって、実質的には何も変わっていません」。デジタル世界における子育てなどに関する著書があるシドニー大学のキャサリン・ペイジ・ジェフリー准教授は筆者の取材にこう断言した。 

新法施行直後、ペイジ・ジェフリー准教授の14歳と12歳の娘には「新法に基づき特定されました」という通知がプラットフォーム企業からそれぞれ届いたが、対応は単純だった。 

娘たちは新しいアカウントを作り、そのまま使い続けている。特に12歳の娘はTikTokのアカウントを2つ持っていたが、ネイル投稿用のアカウントは削除すらされなかった。

14歳の娘の友人らの間では、フルメイクの化粧を施して顔認証をすり抜けたり、年上の兄弟姉妹に認証を代行させてアカウントを保持、もしくは新たに作成したりする方法が日常的に出回っているという。

ペイジ・ジェフリー准教授がより根本的な問題として指摘するのは、この法律の根拠となる研究結果や“ファクト”不足だ。

SNSと若者への害の間には「関連性」を示す研究はあっても、「因果関係」を証明したものはほとんどない。SNSが若者に害をもたらしているのか、それとも元々若者に悩みや不安などがあってSNSに逃避しているだけなのか、どちらが先なのかは判然としない。

過疎地の子どもやLGBTQI+の若者にとって、SNSは孤立を防ぐ重要な居場所でもある。「必要なのはデジタル・リテラシー教育とプラットフォームへの注意義務の課し方であって、排除ではない」とペイジ・ジェフリー准教授は言う。

表現の自由の侵害?~子どもたちが新法の“違憲性”を主張~

南オーストラリア州の内陸部の牧羊農場で暮らすライリー・アレン君(15)には、切実な不安がある。学校の友人の中には、ライリー君の家から70キロも離れた場所に住む子どももいる。「夏休みの間、どうやってみんなと連絡を取ればいいのか、全然わからない。影響は決して良いものにはならない」と、ライリー君は地元メディアの取材に答えた。

同じ思いを法廷に持ち込んだのが、シドニーに住む15歳のノア・ジョーンズ君だ。権利擁護団体「デジタル・フリーダム・プロジェクト(DFP)」が起こした違憲申し立ての原告の一人で、この法律がオーストラリアの憲法に黙示的に保障された「政治的・社会的コミュニケーションの自由」を260万人の若者から不当に奪うものだと訴える。

「生まれた時からずっと生活の一部だったものが、突然すべて奪われてしまう」と、ジョーンズ君は主張しているのだ。
オーストラリア在住30年以上の清水英樹弁護士は、今回の子ども側からの訴訟について、オーストラリア憲法には人権章典が明文化されておらず、SNS上での表現が「守られるべき権利」に該当するかどうかが焦点となると指摘。現代においてSNSは、意見表明や情報収集、社会参加のための公共インフラとなっており「国家による包括的なアクセス制限が、実質的に表現の自由を制約してしまう点について法的に検討される可能性がある」とした。

一方、プラットフォーム側に科せられる巨額の罰金については、「法律で制限を設けても、実際にプラットフォーム側が完全に管理するのは難しく、双子の子どもの片方だけが使えてしまうような技術的・運用上の不備が見受けられる」とした上で、「施行から日が浅いこともあり、現段階では厳格な罰則適用よりも、社会全体への啓蒙、意識付けとしての側面が強い制度だ」と分析した。 

「豪州モデル」を追う各国

様々な問題点が浮上する中で、この画期的な「豪州モデル」は今や全世界に波及しようとしている。

インドネシアは今月6日、通信デジタル大臣が16歳未満による高リスクSNSプラットフォームへのアクセスを制限する政府規制に署名し、今後段階的に実施するとした。イギリスでは1月21日、貴族院が16歳未満禁止の修正案を可決した。同月フランスでも国民議会が15歳未満SNS禁止法案を可決、上院審議を経て今年9月の施行を目指している。このほかデンマークやマレーシアなどでも同様の動きが高まっている。

一方、日本のこども家庭庁は2024年11月、「インターネットの利用を巡る青少年の保護の在り方に関するワーキンググループ(WG)」を設置し、オーストラリア、イギリス、アメリカ、EUの動向を調査してきた。

WGは令和7年8月にとりまとめ文書を公表し、厳格な年齢確認、ペアレンタルコントロールの強化、プラットフォームのリスク評価の透明化、リテラシー教育を柱とする「環境整備」を優先する方向性を打ち出している。

「子ども時代」をめぐる問いは続く

3か月が経過した世界初の国家レベルでの「実験」は、子どもを持つ親や社会、そして世界に議論の輪を投げかけ、問題意識を高めることには成功を収めたように見える。しかし、最も重要な「子どもをSNSの害(負の側面)から守れるのか?」との問いに、まだ答えは出ていない。

SNSで地方の孤独な子どもが居場所を見つけ、障害のある子どもがコミュニティとつながり、性的少数者の若者がアイデンティティを確認するという「コミュニケーションの自由」をこの法律が奪ってしまう可能性があることも事実だからだ。

オーストラリアのネット安全規制当局は、この法律の効果を検証するため、4000人超を対象とした2年以上の追跡調査を行うことを今年2月下旬に正式発表した。スマートフォンの利用状況、学校の成績、医療データなどを幅広く活用するが、最初の結果が出るのは、早くても2026年後半以降だ。

一方、今月5日に訪日して高市首相と面談した“影のアメリカ大統領”とも呼ばれるA I企業「パランティア・テクノロジーズ」のピーター・ティール会長が昨年、オーストラリアのSNS年齢確認義務を「インターネット匿名性の終わりの始まり」と批判するなど、プラットフォームやIT企業側からの新法に対する反発は根強い。

シドニー大学のペイジ・ジェフリー准教授は「この問題に魔法のような解決策はなく、責任の共有が必要です。リスクを避けながら子どもがSNSの恩恵を享受できるよう導くことが重要」と強調する。

「子どもに子ども時代を返したい」――新法制定時にアルバニージー首相が語ったその言葉に、多くの親が共感した。だが、生まれた時から「デジタル社会」で育つ子どもたちにとって「子ども時代」の意味は、大人たちが考えるものとは少し違うのかもしれない。

この世界初の「実験」の答えが出るまで、この問いは続く。

〈執筆者略歴〉
飯島 浩樹(いいじま・ひろき)
TBSテレビ・シドニー通信員(契約コーディネーター)
2000年シドニー五輪支局の代表を務めた後、シドニー通信員として特派員業務を行う。
これまで、オーストラリアやニュージーランド、南太平洋島嶼国を精力的に取材し、歴代首相や著名人への単独インタビューなどを敢行している。
著書に『アボリジナル・メッセージ』(扶桑社)、『躍進する未来国家豪州 停滞する勤勉国家日本』(いろは出版)などがある。

【調査情報デジタル】
1958年創刊のTBSの情報誌「調査情報」を引き継いだデジタル版のWebマガジン(TBSメディア総研発行)。テレビ、メディア等に関する多彩な論考と情報を掲載。原則、毎週土曜日午前中に2本程度の記事を公開・配信している。

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