4月に急増する「謎の胃痛・下痢」 新生活ストレスが胃腸を壊しやすい理由を専門医が解説
新しい職場、新しい環境。4月はわくわくする季節でもあるが、気づかないうちに体は悲鳴を上げている。「新生活が始まってから、なんとなく胃の調子が悪い」「原因不明の下痢や腹痛が続く」——そんな経験はないだろうか。消化器内科の現場では、この時期に胃腸トラブルを訴える患者が急増するという。なぜ春に胃腸は乱れるのか。天王寺やすえ消化器内科・内視鏡クリニック院長の安江千尋先生に詳しく話を聞いた。
診療現場で実感する「春の胃腸トラブル」急増
4月の外来では、胃痛・胃もたれ・食欲低下・吐き気といった上部消化管の症状に加え、下痢・便秘・腹部膨満感を訴える患者が目に見えて増えると安江先生は話す。
「新しい職場に配属されてから胃が痛くなった、引っ越して生活リズムが変わってからお腹の調子が悪い、という相談はこの時期に特に多くなります。本人が『ストレスを感じている』と自覚していないケースも少なくありません」
春は進学・就職・異動・転勤など、生活環境が大きく変わるタイミング。さらに寒暖差が激しく、体が環境に適応しようとするだけでも、自律神経はフル稼働状態となる。食事時間の乱れや外食・飲酒機会の増加も重なり、胃腸へのダメージが蓄積しやすい季節でもある。
ストレスが「胃腸」を直撃するメカニズム
なぜメンタルの問題が胃腸に出るのか。そのカギを握るのが「自律神経」だ。
自律神経は「交感神経(活動・緊張)」と「副交感神経(休息・リラックス)」の2つから成り立っており、胃腸の動きはこのバランスによってコントロールされている。リラックスしている状態では副交感神経が優位になり、消化・吸収がスムーズに進む。一方、強いストレスや緊張状態が続くと交感神経が優位になり、胃の動きが鈍くなって胃もたれや胃酸分泌の乱れが起きる。
「腸は『第二の脳』とも呼ばれるほど神経細胞が豊富です。脳と腸は『脳腸相関』という仕組みで密接につながっているため、ストレスが脳に加わると、その信号が直接腸に伝わり、下痢や便秘として現れます。緊張するとお腹が痛くなる経験、多くの方に心当たりがあるはずです」(安江先生)
さらにストレスは腸内細菌のバランスも乱し、腹部膨満感やガス、便通異常を起こしやすくする。ストレスは「神経系」「腸の動き」「腸内環境」という複数のルートを通じて、胃腸の不調を引き起こすとのこと。
春に悪化しやすい「IBS」「機能性ディスペプシア」とは?
検査をしても異常が見つからないのに、胃腸の不調が長く続く——そんな場合に疑われるのが「機能性ディスペプシア(FD)」と「過敏性腸症候群(IBS)」。
FDは胃の不調が中心で、みぞおちの痛み・胃もたれ・食後の膨満感・早期満腹感が主な症状。IBSは腸の働きに関する症状が中心で、腹痛・下痢・便秘を繰り返すのが特徴とのこと。
「どちらも、ストレスや自律神経の乱れが深く関係しています。新生活の春はこれらの症状が新たに現れたり、悪化したりするケースが増えます。こうした症状は決して珍しいものではなく、適切な治療と生活習慣の見直しで改善が期待できます」と安江先生は言う。
今日からできる!胃腸を守るセルフケア5つ
安江先生が特に大切だと話すのは「自律神経のバランスを整える生活習慣」だ。

①規則正しい食事 朝食をとることで胃腸が目覚め、体内時計も整う。脂っこい食事・刺激物・アルコールは控えめに。よく噛んでゆっくり食べることも消化の助けになる。
②腸内環境を整える 食物繊維や発酵食品(ヨーグルト・味噌・納豆など)を取り入れ、善玉菌を増やす習慣をつけよう。
③睡眠の質を上げる 毎日同じ時間に就寝・起床することが理想。寝る前のスマホは交感神経を刺激するため、就寝1時間前はリラックスタイムに充てると良い。
④軽い運動を取り入れる ウォーキングなどの有酸素運動は腸の動きを促し、ストレス軽減にも有効。長時間の座りっぱなしも避けたい。
⑤ストレスをため込まない 新しい環境では無理をしがち。自分なりのリラックス方法を持ち、適度に休息をとることが胃腸トラブルの予防につながる。
こんな症状が出たら早めに受診を
「胃腸の症状は『よくあること』と我慢してしまう方が多いですが、症状が2週間以上続く場合は一度医療機関に相談してください」と安江先生は強調する。
特に、血便・黒い便・体重の急な減少・発熱を伴う腹痛・食事がとれないほどの吐き気がある場合は早急な受診が必要だ。これらは胃潰瘍や炎症性腸疾患、まれに消化器がんのサインである可能性もある。
また、40歳以上の方や、これまで胃カメラ・大腸カメラを受けたことがない方は、この機会に検査を検討することを安江先生はすすめている。
「検査で原因をしっかり確認することが、安心への第一歩です」
新生活のスタートは、体も大きな変化の只中にある。胃腸の不調を「気のせい」と片づけず、体からのサインとして受け止め、早めのケアを心がけたい。
取材協力
天王寺やすえ消化器内科・内視鏡クリニック
https://www.tennoji-naishikyo.com/
院長 安江 千尋 先生(消化器内科専門医)
日本消化器病学会 専門医・指導医 / 日本消化器内視鏡学会 専門医・指導医 / 日本内科学会 総合内科専門医