「異常なし」なのになぜ苦しい? 春に繰り返す腹痛・下痢、原因は”脳”にあった

2026-04-07 15:00

病院で検査を受けたのに「異常ありません」と言われた。でも、お腹の痛みも、胃の不快感も、下痢も、何ひとつ解決していない——。そんな経験を持つ人は意外と多い。4月の新生活シーズンは、こうした「検査では見えない胃腸トラブル」が特に増える時期だ。なぜ春に胃腸は乱れるのか。多数のIBS患者を診てきた半蔵門 渡海消化器・内視鏡クリニック院長、渡海義隆先生に、その”正体”と向き合い方を聞いた。

ストレスで胃腸が乱れるのは「気のせい」ではない

4月は入学・入社・異動・引っ越しと、生活が一気に変わる時期だ。新しい人間関係への緊張や、早起き・通勤など生活リズムの変化が続くと、自律神経のバランスが崩れ、胃腸の動きが不安定になる。

「緊張するとお腹が痛くなるのは、胃や腸が脳と密接につながっているためです。ストレスがかかると腸が速く動きすぎて下痢になったり、逆に動きが乱れて便秘やお腹の張りが起きたりします。さらに、普段なら気にならない胃腸の動きでも痛みとして強く感じやすくなる”知覚過敏”も起こります」

また、緊張で呼吸が浅くなったり無意識に空気を飲み込んだりすると、げっぷや腹部膨満感が悪化することもある。IBSや機能性ディスペプシア(FD)は、国際的な診断基準「Rome IV」でも「脳と消化管の相互作用の乱れによる疾患」と定義されている。つまり、これらの症状は決して「気のせい」ではなく、ストレスによって実際に胃腸の働きや感じ方が変化した結果なのだ。

IBS(腸)とFD(胃)──症状の”震源地”で見分ける

似たような不調でも、「腸」の症状が中心か「胃」の症状が中心かで、IBS(過敏性腸症候群)とFD(機能性ディスペプシア)は区別される。

IBSの特徴は、腹痛が排便と関係すること。「お腹が痛いと思ったらトイレに行ったら楽になった」「緊張すると下痢になる」といったパターンが典型的だ。腹部膨満感、お腹のぐるぐる感、ガスが溜まる感じを伴うこともある。

FDは、食後の胃もたれ・すぐ満腹になる感じ・みぞおちの痛みや不快感など、上腹部の症状が中心だ。

ただし注意が必要なのは、「お腹の調子が悪いからIBSだろう」と自己判断するのは危険だということ。渡海先生は「血便・体重減少・発熱・貧血などがある場合は、IBSではなく別の病気が隠れている可能性があります。必ず医療機関で確認が必要です」と強調する。

また、コーヒー・アルコール・炭酸飲料のとりすぎや早食い・食事抜きは、IBSの症状を悪化させることがある。英国の診療ガイドライン(NICE)でも、IBSへの生活指導として「規則正しく食べること、食事に時間をかけること、カフェイン・アルコール・炭酸をとりすぎないこと」が推奨されている。

「異常なし」の結果は、安心の根拠でもある

渡海先生が診療で最も大切にしていることのひとつが、「検査で異常がない=気のせい」という誤解を解くことだという。

「内視鏡や採血で異常が見つからなくても、消化管の動きや痛みの感じ方の乱れによって、日常生活に支障が出るほどの症状が起こりえます。重い病気がないことを確認できたうえで、『今つらい症状は本物であり、対処できる』とお伝えすることが重要です」

実際、検査で異常がないと聞いて安心する一方で「ではなぜこんなにつらいのか」と孤立感を感じる患者も多い。だからこそ先生は、食事・睡眠・ストレスとの関係を患者と一緒に整理し、症状の出やすいパターンを見つけることを大切にしている。

「重い病気ではなさそうだからこそ、生活習慣の見直しと薬で整えていけます。それをしっかり伝えることで、患者さんの気持ちも変わります」

今日からできる!春の胃腸を守るセルフケア

渡海先生がまず勧めるのは「食べ方の見直し」だ。

早食いを避ける、決まった時間に食べる、食事を抜かない——この3つを意識するだけで、胃腸のリズムは整いやすくなる。脂っこいもの・コーヒー・アルコール・炭酸飲料は胃腸への刺激になりやすいため、体調が不安定なこの時期はできれば控えたい。FD症状が強い人は、少量ずつこまめに食べることで楽になる場合もある。

睡眠も重要で、夜更かしや寝る前のスマートフォン操作は胃腸の安定を妨げる。軽い散歩やストレッチ、深呼吸で呼吸を整えることも、緊張をほぐして症状を和らげる助けになる。

こんな症状は「見逃し厳禁」のサイン

最後に渡海先生は、受診すべき危険サインをこう整理する。

血便・黒い便、原因不明の体重減少(6か月以内に3kg以上)、発熱、貧血、夜中に目が覚めるほどの腹痛、繰り返す嘔吐、飲み込みにくさ——これらは大腸がんや炎症性腸疾患など、機能性疾患とは異なる病気のサインとなりえる。

「ストレスによる胃腸トラブルはよくありますが、全部をストレスのせいにしてはいけません。似た症状の裏に別の病気が隠れていることもあります。気になる症状は早めに専門医に相談してください」

「気のせい」と片づけられてきた症状にも、きちんとした理由がある。脳と腸のつながりを知ることが、自分の体と向き合う第一歩になる。

【取材協力】
半蔵門 渡海消化器・内視鏡クリニック
院長 渡海 義隆 先生(消化器内科専門医)
日本内科学会 認定内科医 / 日本消化器病学会 専門医 日本消化器内視鏡学会 専門医・指導医・評議員
https://tokai-naishikyo.jp

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