“物語”は薬草か毒草か…朝井リョウさんに聞く 本屋大賞「イン・ザ・メガチャーチ」ファンダム経済を題材に「人を動かすものは何なのか」【news23独占取材】

TBS NEWS DIG Powered by JNN
2026-04-10 15:19
“物語”は薬草か毒草か…朝井リョウさんに聞く 本屋大賞「イン・ザ・メガチャーチ」ファンダム経済を題材に「人を動かすものは何なのか」【news23独占取材】

全国の書店員が最も売りたい本を選ぶ「本屋大賞」が発表され、朝井リョウさんの「イン・ザ・メガチャーチ」が大賞に選ばれました。小説の題材は、推し活で生まれる「ファンダム経済」。なぜ今、この作品を書いたのか、朝井さんに聞きました。

【写真で見る】news23の独占取材にこたえる朝井リョウさん

推しは「神様」 “ファンダム経済”市場規模は3.8兆円

何かを応援するのが“活力”になる“推し活”。

ーー「推し」はどういう存在ですか?

街の人
「神様です」
「心が救われるというか、生きる活力になります」

ファンダム経済は、様々な場所に影響を及ぼしています。

デビューして2か月のアイドルグループ「DROP」。ライブ終了後に次々と売れるのは、「推し」と写真が撮れる特典券(価格2000円~5000円)。

ーーどのくらい推し活にかけている?

ファンの女性(20代)
「年間200万円くらいは使ってるんじゃないですかね」

ファンが熱烈に応援することで生まれる経済圏 「ファンダム経済」。市場規模は約3.8兆円に膨らんでいます。

“定点カメラを置くように”… 「イン・ザ・メガチャーチ」

ファンダム経済を題材にした小説「イン・ザ・メガチャーチ」が本屋大賞を受賞しました。著者は小説家の朝井リョウさん(36)です。

大学在学中の2009年に「桐島、部活やめるってよ」で小説家デビュー。その4年後には「何者」で戦後最年少の直木賞作家となりました。

時代の空気や生きづらさを描いた小説は、多くの人の心を捉えています。

朝井リョウさん
「すごくうれしい気持ちと、『これが大賞を獲ったらどうしよう』という気持ちも多少、正直あった。 一番スポットライトの当たる場所に置かれて良いのかなという気持ちはあるし」
「今回の『イン・ザ・メガチャーチ』という小説も、私の中では『この人間がどうなるのか書きたい』というよりは、『自分が気になる現象を、写真を撮るように書きたい』。定点カメラを置くように小説を書けないかという思いがあった」

「ファンダム経済」の光と闇を描く

本屋大賞を受賞した「イン・ザ・メガチャーチ」の題材は、“推し活”で生まれるファンダム経済。

▼あるアイドルグループの運営に携わる、レコード会社社員の久保田(47)。▼アイドルに共感し、ハマっていく大学生の武藤澄香(19)。▼過去に俳優を熱烈に応援していた隅川絢子(35)。

搾取する側、される側、かつてのめり込んでいた側の3人の視点で、“ファンダム経済”の光と闇を描きます。

主人公の1人、大学生の澄香は、友人との関係に思い悩む中で、1人のアイドルと出会います。

「イン・ザ・メガチャーチ」より
「道哉を見ている間は、悠真のことも、それ以外のことも、あらゆる悩みが私の五感から消え去ってくれた」
「菜々とのこと、減らない体重、留学の二次選考、割り箸がどこ産なのか、今も世界で行われている戦争、ジェンダー格差に少子高齢化、日本の未来、自分の将来…そういうことから束の間、心身を避難させることができた。それは多分、収縮を繰り返して弛緩しきっていた視野が、ある一点に定まってくれていたからだ。道哉という一点に。快感だった。久しく出会えていなかった幸福感だった」

小川彩佳キャスター
「今の空気が凝縮されているというか、心がえぐられるけれども、読み進める手が止まらない、どこかで救われて欲しいと思いながら、読んでしまう」

朝井リョウさん
「自分自身に水を差しているなと思いながら書いているところも。なんとなく世の中で良いと思われているものの中にある暗がりと、なんとなく世の中で良くないと思われているものの中にある光を同列に横に置きたいという気持ちがあって、それができるのが小説だと思っている」

小川キャスター
「『ファンダム』という事象に名前がついて『推し活』という言葉も生まれて、これだけ注目されているというのは」

朝井リョウさん
「私もいろんな人のファンなので、ファンダムに所属している意識はある。たとえばいろんな同じものが好きな人と集まって、みんなでしゃべる、ご飯を食べるのは、すごく私にとって癒しだと思っている。

ファンダムの中にいる時は気持ちがいいけど、ファンダムと経済がカチッと結びついてしまって、『これだけこの商品を買えば、接触できる回数が増えますよ』とか、距離感が近づきますよというところが加わると、確かにファンダムでいた時の癒されるような、日常生活は別軸として持つことができていた、別軸の空間というものに資本主義が接続されてしまって、じゃあいっぱいいもっと働いて、もっと愛する対象と距離感を縮められるように何かを購入しなければならないとか、そういうことになってくるよなとは感じる」

国家間の争い・選挙でも?「人を動かすもの」とは

今作でのテーマの一つは「人を動かすものは何なのか」。“物語”が持つ力について朝井さんは、登場人物にこう語らせています。

アイドルの運営側 国見(「イン・ザ・メガチャーチ」より)
「物語と自分との境界線が曖昧になるほど共感能力が高く、何でも自分ごととして捉えがちな人。没頭度が高く、自ら視野を狭めていける人」

そして笑みを浮かべ、こう話します。

アイドルの運営側 国見(「イン・ザ・メガチャーチ」より)
「神がいないこの国で人を操るには、“物語”を使うのが一番いいんですよ」

朝井リョウさん
「人間の集団つまりファンダムは、もうちょっと言葉を費やして言うと、『何かを絶対に達成したい人』『誰かを絶対に勝たせたい人』とかの集まり。

ファンダム同士が同盟を組んで動き始めたり、ウソの情報を適切なタイミングで流して人々を動揺させたりとか、今まで習ってきた国家間の争いも選挙も、そういうところで見えてきた人間の動きと、実は変わらない。

行動力、支出、生きる推進力がここに眠っているんじゃないか。人間の集団の行動パターンが実は歴史的な事象と重なっていて、つまり未来とも重なるんじゃないかということが頭の中で合わさって、『あ、これは、生まれた』『今、出来た』みたいな気持ちになった。それが書き始めの動機」

タイトル『イン・ザ・メガチャーチ』に込めた想い

「メガチャーチ」とは、1度の礼拝に2000人以上が集まる巨大教会のこと。

小川キャスター
「なぜ、『イン・ザ・メガチャーチ』というタイトルになった?」

朝井リョウさん
「日本にいるとチャーチ、教会に馴染みもなかったりする中で、メガってすごくインパクトあった。どういう物なんだろうなと調べていったら、地域に根差した巨大な教会で、自分がイメージするような礼拝もあるけれども、それよりもライブみたいにすごく盛り上がるイベントが開催されていたり。

ファンダムの中で人と触れ合い、同じ愛する物の話をするのは、宗教で言う祈りを捧げることやフレーズを唱えることと、私の中では重なる部分がすごくある。

私にとって大事なのは『イン・ザ』の部分。これはラップの歌詞の文化として、『イン・ザ・ハウス』とか、『イン・ザ・ビルディング』という言い回しがあって、『私はここにいる』『俺はここにいる』みたいな、そこに居る自分を誇るニュアンスがあるという話を聞いたときに、『イン・ザ』をつけることによって、胸を張っているというニュアンスを加えられるんじゃないかと思って、こういうタイトルにしました」

「薬草か毒草か」 “物語”を送り出す怖さ

小川キャスター
「“物語”の力が、功罪も含めて随所に含めてちりばめられている作品だと思いますが、朝井さんは小説家として、“物語”を送り出す怖さはないですか?」

朝井リョウさん
「包丁・車、そういう物を作っているなという意識がすごくある。本当に使い方によって、どうも転ぶことができる。本当に種を植えるような作業を小説を書くときにしている感覚があって、それが薬草になるのか、毒草になるのかは分からない。

たとえば10年後に出版されていたら、薬草だったかもしれない、毒草だったかもしれないというのを毎回すごく感じながら、書いています」

“物語”の豊かさと危うさ 朝井リョウさんが問いかけることは

小川キャスター:
朝井さんは小説を書くときに、因果関係が複雑なものを複雑なまま描くということを意識しているということです。

お話を聞いていると、簡略化したり断定したりすることなく、一つ一つ丁寧に言葉を積み重ねていく姿が印象的でした。

“物語”が一方的に意味を持って暴走していくという、危うさを感じているからこそなのかなと感じました。

藤森祥平キャスター:
“物語”と自分の境界線は曖昧になってしまって、冷静じゃない自分がいるような気がします。

小川キャスター:
「イン・ザ・メガチャーチ」は“推し活”が入口ではありますが、“推し活”の物語ではなくて、日常の色々なところに散りばめられていると思います。

例えば、選挙やSNSでの言論の争いなど、何を信じればいいかわからないという時代の中で、自分の外側に望みを託し、救いを求めるということが自然になっていると思います。

ただ、それがいつの間にか人を縛ったり、飲み込んでしまう危うさを孕んでいる、境界線がどこにあるのかということを朝井さんは問いかけているのかなと感じました。

“物語”に誘われる豊かさと、絡め取られる危うさの境界線に私達が向き合えるかどうかで、この作品が10年後、薬草になるか毒草になるのか分かれてくるのかなと思います。

取材:横山菜穂、牧野風香
編集:小川友広
カメラ:酒井克直、春田晃季
VE:宇佐美裕大、早川大貴、吉井里々子

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