防災リュックだけでは足りない? 熊本地震から10年、いま考えたい“置いていく防災”

2026-04-19 08:00
防災リュックだけでは足りない? 熊本地震から10年、いま考えたい“置いていく防災”

2016年に発生した熊本地震から今年で10年。日本は依然として大規模地震のリスクが指摘されており、南海トラフ巨大地震は今後30年以内に60~90%程度以上の確率で発生するとされている。さらに、千島海溝沿いでもマグニチュード8.8以上の超巨大地震が起きる可能性も指摘されている。

熊本地震では、多くの人が長期にわたる避難生活を余儀なくされ、仮設住宅での暮らしは約3年に及んだケースもあった。さらに、応急仮設住宅の供与期間が満了した後も、約36%の世帯が入居延長を選択している。これは、生活再建がいかに長く、困難なプロセスであるかを物語っているだろう。

こうした中で問われているのは、「災害への備えは十分か」ということだ。水や食料、防災リュックといった“命を守る備え”は広く浸透している。しかし、もう一つ見落とされがちな視点がある。それが、被災後の生活を立て直すための備え、いわば「生活再建のための防災」だ。住宅の再建、保険の申請、各種支援の手続き――。こうした一つひとつを進めていくには、時間と労力がかかる。そして、そのプロセスを大きく左右するのが、「必要な書類や情報が手元にあるかどうか」だ。

生活再建を阻む“書類の壁”

被災後、住宅支援などを受けるために必要となるのが罹災証明書だ。しかし、その申請には被災した家屋所有者の印鑑登録証明書や身分証明書、被害状況を示す資料などが求められる。問題は、それらの多くが自宅に保管されているという点にある。家屋が損壊すれば取り出すことが難しくなり、紛失してしまえば再発行にも時間がかかる。実際、2024年に発生した能登半島地震でも「身分証がなく手続きに苦労した」という声が多く聞かれた。災害時には、目の前の避難生活だけでなく、その先の生活再建まで見据えた備えが不可欠なのだ。

注目される“置いていく防災”という発想

こうした課題を踏まえ注目されているのが、マスターロック・セントリー日本株式会社(以下「MLSJ社」)が提案する“置いていく防災”という考え方である。MLSJ社は、耐火・耐水性能を持ち、鍵をかけられる側面から大切なモノの保管に適している『金庫』を活用した「逃げ一択防災」という新たな防災の考え方を提案している。

耐火1時間とメディア耐火、耐水24時間(JPW082HSB)

これは、防災リュックなどの“持ち出す防災”に加え、「避難時には持ち出さないが、失うと困るもの」をあらかじめ安全に保管しておくというものだ。例えば、重要書類や貴重品、思い出の品などを耐火・耐水性のある『金庫』にまとめて保管しておくことで、災害時にそれらを守ることができる。

この考え方の大きなポイントは、「避難時の判断をシンプルにする」ことにある。災害発生時、「これも持っていかなければ」と迷う時間は命取りになりかねない。あらかじめ“置いていく”と決めておくことで、避難という行動だけに集中できる。さらに、貴重品を持ち歩かないことで避難所での盗難や紛失のリスクを減らせるほか、必要な書類が守られることで、行政手続きや保険申請をスムーズに進めることができる。結果として、生活再建のスピード向上にもつながるのだ。

何を備え、何を置いていくのか

では、具体的に何を“置いていく防災”として金庫に保管しておくべきなのか。代表的なのは、登記書類や保険証書、現金、印鑑といった財産に関するもの、パスポートや身分証明書のコピーなどの本人確認書類、年金手帳や母子手帳など生活に関わる書類だ。加えて、写真や手紙、記念品といった「失いたくないもの」も重要だ。これらは避難生活そのものには直接必要ないが、失ったときの影響は大きい。一方で、水や食料、ライト、衛生用品などはこれまで通り“持ち出す防災”として準備しておく必要がある。重要なのは、この2つを分けて考えることだ。

防災士・藤田実沙さんの防災リュックの中身

災害で避難所などに逃げる際、1日~数日しのげることを考慮して持ち出すのが防災リュック。基本的には避難所で何も支給されないことを前提に、命を守るもの、安全を確保するもの、衛生環境を整えるもの、情報収集に役立つものなどをそろえておく。

【一例】
LEDライト/家族分の水/千円札と小銭/絆創膏/食料品/モバイルバッテリー/口腔ケア用品/カイロと冷却バック/除菌シート/ウェットティッシュ/緊急連絡先一覧表/衛生セット/文具セット/ケガ防止セット&防寒セット

防災は「日常の延長」にある

防災士・藤田実沙さん
整理収納アドバイザー、防災士。夫と中学3年生、中学1年生の息子と犬1匹と暮らす。大阪府北部地震をきっかけに防災に目覚める。暮らしになじむ備えの情報をInstagramやVoicyで発信している。著書に「おしゃれ防災アイデア帖」「おうち防災アイデア」ほか。

防災士の藤田実沙さんは、「防災アイテムは特別なものではなく、日常生活の延長として考えることが重要」と指摘。「災害への備えは、住む地域や家族構成、その時の子どもの年齢や成長によっても異なります。もしもの備えは、暮らしの延長と考える方がリスクのある局面を乗り切る備えになります」と、防災と日常は繋がっていると認識することが大切だと話す。近年では、日常で使うモノを非常時にも役立つようにする「フェーズフリー」という考え方も広がっている。防災リュックに加え、普段づかいのカバンにも防災アイテムを準備し、自宅、職場、外出先といった生活のさまざまな場面で備えを分散させることも重要だ。そして、大切なものは強度のある金庫を活用して安全に「置いていく」こと。こうした日常の暮らしに溶け込んだ防災が重要である。

「逃げる」ための準備が命を守る

災害時に最も優先すべき行動は、ためらわずに避難することだ。しかし現実には、「大切なものを持ち出したい」という思いが判断を遅らせることもある。だからこそ、「これは持っていく」「これは置いていく」と事前に決めておくことが重要になる。その準備が、「逃げる」という選択を迷いのないものにする。

熊本地震から10年。私たちは多くの教訓を得てきた。その一つが、「守るべきものをどう守るか」という視点だ。命を守る“持ち出す防災”と、生活を守る“置いていく防災”。この2つを組み合わせることが、これからの時代に求められる新しい防災のかたちではないだろうか。

■防災士・藤田実沙さん監修「逃げ一択防災のススメ」
https://masterlocksentry.jp/nigeittakubousai/

■マスターロック・セントリー日本株式会社
公式HP:https://masterlocksentry.jp/

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