「無実の人間の叫びにこたえて」再審制度の見直し 政府案に批判強まる “抗告”と“証拠開示” 問題どこに?【報道特集】

TBS NEWS DIG Powered by JNN
2026-04-25 21:01
「無実の人間の叫びにこたえて」再審制度の見直し 政府案に批判強まる “抗告”と“証拠開示” 問題どこに?【報道特集】

再審=裁判のやり直しの制度見直しについて。えん罪被害が相次いだことを受けて始まった議論だが、政府案に対し批判の声が強まっている。人生を奪われた当事者らは、「無実の人間の叫びにこたえてほしい」と訴えている。

【写真で見る】自民党内から相次ぐ異論

審理の長期化など問題に…「再審制度見直し」政府案には批判の声

4月18日、東京・渋谷のスクランブル交差点前に人々が集まった。「再審制度の見直し」がテーマの集会だ。

古舘伊知郎さん
「国家を守るために、1人や2人や3人の人生や命を犠牲にしていいはずがない」

映画監督 周防正行さん
「本当に今チャンスです。本当に多くの人の声で変わりますから。今足りないのは僕たちの声だけです」

再審とは、有罪が確定した刑事裁判をやり直し、誤って有罪にされた人を救うための制度。

死刑判決を受けた袴田巌さんをはじめ、再審無罪となるケースが相次いでいる。

再審開始のハードルの高さや、審理の長期化などの問題が明らかになり、制度の見直しが進められているが、政府の改正法案については批判の声が強い。

集会に参加した袴田巌さんの姉・ひで子さんは…

袴田ひで子さん
「再審法改正にはともかく即時抗告はなし、それと証拠は全部出す。そうすれば進む道があるんです、再審の被害者には」

政府案については、自民党内からも異論が上がっている。

自民党 稲田朋美 元政調会長
「1ミリも私たちが言うこと聞かないじゃないですか!」

再審制度の見直しをめぐって、今何が起きているのか。

奪われた38年 2度目の再審で開示された“無罪につながる証拠”

福井県に住む前川彰司さん(60)。殺人の罪に問われ、懲役7年の刑が確定した。

だが、前川さんは一貫して無実を訴え、2025年に再審=やり直しの裁判でようやく無罪が確定した。逮捕から38年がかかった。

前川彰司さん
「相当長期にわたって重い十字架で苦しむことになったと。生きてても地獄、生き地獄」

前川さんは、なぜ無実の罪に問われたのか。

事件が起きたのは1986年、福井市で中学3年の女子生徒が包丁で刺されて殺害された。

物的証拠がないまま捜査は難航したが、知人らの目撃証言が決め手とされ、当時21歳だった前川さんが逮捕された。

前川さんは服役後、再審を請求した。目撃の信用性に疑問を投げかける証拠が見つかり、再審開始が1度認められた。

ところが、この決定に検察が抗告=異議を申し立てた。すると高裁が再審開始を取り消した。

前川彰司さん(2013年)
「勝つまで戦いますので絶対勝ちます。最後には絶対。どうぞお力をお貸しください」

事態が動いたのは2度目の再審請求だった。

隠された証拠があるのではないかと、弁護団が検察に対し、さらなる証拠の開示を求めた。

検察は拒否したが、裁判所も強く促した結果、あわせて287点の新たな証拠が開示されたのだ。その中の警察の捜査報告書に重大な記述があった。

有罪の決め手とされた知人の目撃証言だ。

知人の目撃証言
「夜のヒットスタジオという歌番組が入り」
「その後、外出して血だらけの前川を見た」

「3月19日の事件当日に血だらけの前川を見た」としていたのだが、同じ日に見たという番組について、警察がテレビ局に照会したところ、実は1週間後の3月26日の内容だったと記されていた。

目撃証言の信用性が揺らぐ、証拠があったのだ。

前川さんは、自分の無罪につながる証拠が隠されたまま、裁判が続けられたことに憤る。

前川彰司さん
「濡れ衣を着せられる状態には違いなかったというか」
「人の道に反することを平然としてやっているんですから」

“服役中に病死”父の無実訴え38年 再審で「調書の写真」順番入れ替え判明

別の事件でえん罪を訴える遺族からも、今の再審のあり方は理不尽だと声が上がる。

滋賀県に住む阪原弘次さん(65)は、38年間、父・弘さんの無実を訴え続けてきた。

2026年2月、ようやく再審の重い扉が開いた。

阪原弘次さん
「無罪判決を勝ち取って喜ぼうな。長いこと待たせたけど、もうすぐ終わるからな」

事件が起きたのは1984年。滋賀県日野町で酒店経営の女性が殺害され、店にあった手提げ金庫が奪われたとされる。

事件から3年以上が経ち、強盗殺人容疑で逮捕されたのが、店の常連客・弘さんだった。

決め手とされたのは自白。弘さんは裁判で「虚偽の自白をさせられた」と一貫して無罪を主張したが、2000年に無期懲役の判決が確定した。

阪原弘次さん
「『父ちゃんやってへん』『お前らだけは信用してくれ』。父は本当に笑顔の似合う人で、泣き顔なんか見たことない。その父が逮捕される前の日、家族に訴えたあの顔、あの涙だけは今でも忘れられません」

阪原弘さん(2000年・支援者撮影)
「私は悔しくてなりません」

刑が確定した翌年の2001年、弘さんは再審を求めたが、服役中に病死した。

弘さんの思いを継いで、弘次さんらが起こした2度目の再審請求。ここで重要な事実が明らかになった。

それまでの捜査で、有罪の決め手の一つとされていたのが、金庫が捨てられていた場所まで弘さんが捜査員を案内できたということだった。

調書には、弘さんが案内する様子を示した複数の写真が貼られていた。

ところが、2度目の再審請求で新たに開示された証拠の中に、この写真のネガフィルムがあり、撮影された順番が明らかになった。実は、調書に貼られた写真の順番が入れ替えられていた。

現場の帰り道に撮影された写真だったが、まるで弘さん自らが捜査員を案内していたようになっていたのだ。

このネガフィルムをきっかけに、自白の信用性を疑わせる証拠が他にも見つかり、2018年、大津地裁が再審開始を決定した。

阪原弘次さん(2018年)
「『本件について再審を開始する』と、良かったな、よう見いや」
「父にこういう報告ができる日が来て、本当に嬉しいです」

ところが検察側は地裁の決定にも、高裁の決定にも抗告した。そのたびに非公開で審理が行われ、確定まで7年7か月かかった。

阪原弘次さん
「えん罪被害者にとってみれば、理不尽でひどい話ではないかと思う」
「こんなに長くかかるとは思っていませんでした。(最初の裁判から)証拠が全て開示されていたならば、父は有罪判決を受けなかったと思う。もちろん死ぬことはなかったと思います」

再審法の改正案に“後退”の懸念 弁護士が「抗告と証拠」の問題点を指摘

4月22日、えん罪救済に取り組んできた市民グループらが、政府に対し4万1000筆の署名を提出した。

再審事件の弁護をしてきた鴨志田祐美弁護士は、政府が今国会に提出を目指している、いわゆる再審法の改正案には大きな問題があるとしている。

鴨志田祐美 弁護士
「どう考えても後退としか言えない」

現段階の政府案は、検察官の抗告の原則禁止を附則に盛り込む一方で、再審開始決定を取り消すべき十分な理由がある場合は、例外的に抗告を認めることも検討している。

だが、鴨志田弁護士は、検察官の抗告は原則禁止ではなく、全面禁止にしなければこれまでと変わらないと主張する。

鴨志田祐美 弁護士
「(検察側は)『今も事件ごとに慎重に十分に判断して、抗告するかどうかを決めています』と言っている。今のこの附則(政府案)では、(抗告を)制限できない。同じことを言っている」

さらに証拠開示について政府案では、検察官の開示の範囲を請求理由に関連するものと限定している。

鴨志田祐美 弁護士
「関連性を誰が判断するのか。関連性の有無を判断するのは、証拠持っている検察官ではないか」

2度目の再審請求が認められた結果、2024年に無罪が確定した袴田巌さん。

えん罪を証明する決め手となったのが、5点の衣類のカラー写真だ。再審の無罪判決で裁判所が「捜査機関によるねつ造があった」と認定した。

しかし、このカラー写真は「必ずしも再審の請求理由と強い関連性があったわけではない」と鴨志田弁護士は指摘する。

鴨志田祐美 弁護士
「どんな証拠がそもそもあるのかがわからないのに、ピンポイントの再審請求理由など組み立てようがないはず」
「『袴田さんの自白は信用できません』という主張で(再審請求を)始めた。でも自白は信用できないと主張してるときに、5点の衣類のカラー写真は関連性ない」
「やる気のある裁判官が『出してみましょうか』ということで開示勧告をして、まさに関連性ということは関係なく、幅広く開示させてみたら、思いもよらなかった無罪方向の証拠が出てきたことで再審が動き出す。これがほとんどの事例だ」

「自民党は法務省のためにあるんじゃない」自民党内から相次ぐ異論

袴田巌さんをはじめ、えん罪が相次いだことがきっかけとなり、2024年、超党派の議員連盟が発足した。

2025年6月、野党6党は「検察官の抗告を禁止」「幅広い証拠の開示」などを盛り込んだ再審法改正案を提出した。

一方で、法務省は法制審議会を開き、政府案をまとめるにいたった。

ところが4月6日、政府案を検討する自民党の部会で…

自民党 稲田朋美 元政調会長
「一言言わせてもらいたいんですよ。何も1ミリも私たちの言うこと聞かないじゃないですか!ほとんどの議員が抗告禁止と言っているにもかかわらず、それを全く無視している」

さらに15日の部会でも法務省の職員らに対し…

自民党 井出庸生 衆議院議員
「自民党はな、法務省のためにあるんじゃないんだぞ!国民のためにあるんだぞ!忘れんなよ!」

自民党 稲田朋美 元政調会長
「不誠実なんだよ!」

「検察による検察のための法律にしか見えない」稲田氏が指摘する問題点

弁護士でもある稲田朋美元政調会長は、政府案の問題点をこう指摘した。

自民党 稲田朋美 元政調会長
「なぜこの(再審制度の)改正をするか」
「えん罪被害者が袴田さんだったら60年、福井事件だったら40年と、もう本当に人生丸ごと毀損されるぐらい長くかけないと、えん罪が晴れないのはやっぱりおかしい」
「機械的ともいうべき検察の再審開始決定に対しての抗告、繰り返される抗告。再審開始は裁判をやり直しますよという宣言ですから、また次の再審公判にいって争えばいいのに、密室のところで何回も争う。
しかもその中で証拠をとことん出さない。私は検察の抗告と証拠の出し方、隠してきたことに問題があるというところから出発しているが、自分たち(検察)は間違えていないのだから、なぜいま持っている抗告権に手をつけなければいけないのだと」

自民党内の議論については。

Q.抗告禁止すべきだという議員が多いということを稲田さんは言っていますが、実態はどうですか?

自民党 稲田朋美 元政調会長
「抗告は絶対認めるべきだとおっしゃる先生はあまりいらっしゃらない。『政府が出してるものにケチつけるのはどうなのかな』みたいなことは言われますが」

Q.政府の言ってることにあまり楯突かない方がいいと?
自民党 稲田朋美 元政調会長
「政府ではなく検察が言っていることですから。検察による検察のための法律にしか見えない。高市政権のためにもいいものにして閣議決定してほしい」

自民党の部会で異論が相次いでいることについて24日、平口法務大臣は。

平口洋 法務大臣
「自民党の党内手続きにおいて修正案を示し、更なる検討を求められている状況」

東京地検特捜部の元検事・髙井康行弁護士は、法制度全体のバランスを考えるべきだと主張する。

髙井康行 弁護士
「えん罪被害だと訴える側の一方に偏した制度をつくることは、片側にいる犯罪被害者側の国民の利益や人権をないがしろにする」

再審 決定も棄却も「両方間違う可能性ある」 元検事が見る抗告と証拠開示

髙井弁護士は、検察官の抗告を全面禁止してはならないと主張する。

髙井康行 弁護士
「間違って再審請求を認めることがあり得るし、間違って再審請求を棄却することもあり得る。両方に間違う可能性がある。それぞれ不服の申し立てができるような制度であるべき」

政府案が、証拠開示は「再審請求理由に関連する範囲」としていることについては…

髙井康行 弁護士
「練達の弁護士が見れば『こういう証拠構造であれば、こういうことに関連する証拠があるはず』ということはわかる」
「そういう人たちが争点設定すれば、理由設定をすれば、正しく理由設定できるはずだから、それに関連する証拠であれば、必ず必要な証拠が出てくる」

Q.今の法案だと「検察の判断を信用してください」ということそのものに見える。

髙井康行 弁護士
 「『信用してください』だけでは通用しない時代なのはおっしゃる通り」
「(検察側は)関連しない証拠も含めて、とにかく一切合切『手元にはこういう証拠があります』というリストを作って、裁判所に出すという制度はあってもいいかもしれない」

「無実の人間の叫びに呼応してほしい」えん罪被害者たちの願い

40年前の殺人事件で、再審無罪が確定した前川彰司さん(60)は、自分のようなえん罪の苦しみを繰り返さない制度にしてほしいと強調する。

前川彰司さん
「やはり証拠の全面開示と抗告(の全面禁止)。これに対して妥協するわけにはいかない」
「我々当事者にしてみれば、これだけ長い時間をタイムロスした現実だけは踏まえて欲しい」

父・弘さんの無実を訴え続けてきた阪原弘次さん(65)も。

阪原弘次さん
「証拠開示がなければ公平な裁判はありえないと思う。証拠開示をされることを含めて、検察官の抗告なしで、早期に公判に持っていっていただきたい」
「えん罪被害者のために、何もやってない無実の人間の叫びに呼応してほしいと思います」

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