「働きたいシニア」と「人手不足の企業」なぜすれ違う? シニアの“経験資本”を社会実装する挑戦

2026-05-12 19:30

深刻な人手不足と後継者難に頭を抱える企業が急増する一方で、定年後も「まだ働きたい」「培ってきたスキルを活かしたい」と願うシニア人材は決して少なくない。しかし、現実の労働市場において彼らに提示されるのは、それまでのキャリアとは無関係な単純労働ばかりだ。

「働きたいシニア」と「人手が欲しい企業」が存在するのに、両者が結びつかない。この日本社会が抱える“労働市場のバグ”に真正面から切り込んでいるのが、株式会社プロ人材機構だ。

経営層・シニア層に特化したヘッドハンティングと、必要なときに必要な分だけ知見をシェアするアドバイザリー事業を展開する同社。彼らは、ベテランの力をいかにして企業の成長へとつなげているのか。同社を率いる高橋啓代表の言葉から、次世代の働き方のヒントを探る。

シニアの経験は“コスト”ではなく“社会資産”である

プロ人材機構が事業の根幹に置いているのは、シニア人材を単なる労働力(コスト)としてではなく、失敗や意思決定の蓄積を持つ“経験資本”として捉える視点だ。

ベテランが長年培ってきた高度な判断力や人材育成力、独自のネットワーク、そして幾多の修羅場を乗り越えてきたストーリーは、若手と同じ土俵で比較できるものではない。年齢という画一的な基準で線を引くのではなく、個人の経験が正当に評価される市場をつくらなければならない――。高橋氏がそう考える原点には、義足で働き続けた自身の父の姿があるという。

定年を迎えた途端、それまでの能力や実績とは関係なく単純労働しか提示されない社会の冷たい現実。そこに強い違和感を抱いた高橋氏の思いが、現在の「経験資本を社会実装する」という事業の太い軸となっている。

フルタイム採用は不要。「必要な分だけ知見を借りる」新常識

同社が展開するビジネスモデルの主力は、大きく分けて2つある。一つは、シニア経営層・プロ人材に特化した「ヘッドハンティング事業」。そしてもう一つが、いま地方企業や中小企業から熱い視線を集めているアドバイザリー事業「プロビジョンシェア」だ。

プロビジョンシェアの最大の特徴は、一人のプロ人材をフルタイムの高給で抱え込むのではなく、「週数時間」「月数回」といった具合に、必要なときに必要な分だけ知見を借りる仕組みにある。これにより、予算に限りのある中小企業でも、現実的かつ導入しやすい形でトップクラスのベテランの力を経営に活かすことができるのだ。

さらに近年では、熟練のシニアCFO(最高財務責任者)と若手のAIリモートチームを掛け合わせた「経理DXパートナー」事業も展開。慢性的な採用難とDX(デジタルトランスフォーメーション)の遅れという、日本企業が抱える“2大課題”を同時に解消する伴走型支援として、導入現場から高い評価を得ている。

外資系出身者が銚子市の自動車販売会社へ。地方創生の鍵

プロ人材機構がいま特に力を入れているのが、「シニア×地方創生プロジェクト2026」だ。地方銀行やファンドと緊密に連携し、日本中の課題となっている「事業承継」と「中小企業支援」を推進している。

単に人材を紹介して終わる“点”のビジネスではない。企業や業界固有の課題に対応できる後継者を斡旋し、さらにその後継者の右腕となる実務型顧問を選定。半年から1年というスパンで現場の泥臭い部分にも入り込み、組織の変革を支える“線”の支援へと軸足を移している。

その象徴的な成功事例が、千葉県銚子市で長年愛されてきた自動車販売会社「塙商事」の事業承継だ。

新たなトップとして白羽の矢が立ったのは、外資系自動車メーカー出身の越田正浩氏だった。越田氏は着任前にもかかわらず何度も現地へ足を運び、自ら店舗前の交通量をカウントし、地元の人々と関係を築きながら覚悟を固めていったという。着任後も古参社員や元社長と丁寧な対話を重ね、わずか2か月で代表取締役社長に就任。現在は地域に根ざした企業としてのDNAを引き継ぎながら、新たな改革を推し進めている。

「定年」を“キャリアの変容”に変える

「定年を人生のゴール(終着点)ではなく、『キャリアのトランスフォーム(変容)』と捉える社会をつくりたい」と高橋氏は語る。

地方の企業が、必要なときにプロの知見をシェアリングエコノミーのように手軽に活用できるようになれば、長らく続く東京一極集中の構造に風穴を開け、自立した地域経済の再生も見えてくるはずだ。

今年の4月28日「シニアの日」に合わせて、同社は自らのミッションを刷新した。

『個人の経験知を、社会資産へ。一人の物語を、次代の力に変える』

2030年までに1000人のプロ人材を地方企業へ派遣する――。プロ人材機構が掲げるその目標の先にあるのは、年齢や肩書といった旧態依然とした枠組みから解放され、人々の経験と感性が社会全体で豊かに循環する“プラチナ社会”の実装にほかならない。

【取材協力】
株式会社プロ人材機構
代表取締役 高橋 啓
1968年山口県生まれ。千葉大学法経学部卒。人材業界で25年以上にわたり、経営層専門のヘッドハンターとして確固たる実績を重ね、2024年に株式会社プロ人材機構を創業。
https://pro-j.co.jp/

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