向田邦子賞受賞の脚本家・兵藤るりが語るドラマ『時すでにおスシ!?』――“共感”と“笑い”を両立させる言葉の設計【ドラマTopics】

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2026-06-07 07:00
向田邦子賞受賞の脚本家・兵藤るりが語るドラマ『時すでにおスシ!?』――“共感”と“笑い”を両立させる言葉の設計【ドラマTopics】

人の心の揺れや、言葉にならない感情を丁寧に描いてきた脚本家・兵藤るりさん。『就活生日記』(2020年・NHK)で脚本家デビュー後、『マイダイアリー』(2024年・ABCテレビ/テレビ朝日系)で第43回向田邦子賞を受賞するなど、近年注目を集めている。

【写真で見る】物語も終盤へ・・・ドラマ『時すでにおスシ!?』場面写真

現在放送中のTBS火曜ドラマ『時すでにおスシ!?』でも、子育てを卒業した主人公・待山みなと(演:永作博美さん)が“第二の人生”に踏み出していく姿を通して、「自分はこれからどう生きるのか」という普遍的なテーマを問いかけている。

一方で本作には、シリアスな人生ドラマだけでは終わらない“笑い”の要素もちりばめられている。兵藤さんに、“人間ドラマ”と“笑い”を共存させる脚本術から、自身が大切にしている“言葉”への向き合い方まで、話を聞いた。

“誰かに分かってほしい”を描く――兵藤るりさんが大切にした「共感」

兵藤さんは、本作の軸について「子育てを終えた女性が主人公ではありますが、第二の人生を自分のために生きるのか、誰かのために生きるのか、どういうモチベーションで生きていくのかというテーマは、どの世代にもあると思っていました」と語る。

今回、特に大切にしたのは、“共感”だったという。

「自分の経験だけではなく、周りの方々の心に残っているエピソードを脚本に落とし込むことで、より多くの共感につながるのではと思っていました」

制作陣や、主人公と同じような立場の女性たちへの取材からも、多くのヒントを得た。

「一人の時間ができても、“どうしよう”と立ち止まってしまうことは、すごくあるんだなと感じました」と、リアルな声が生かされている。

第5話で描かれた“子どもの嘘”を巡る会話も、制作陣から聞いた実際の子育てエピソードがもとになっているという。

また、みなとの息子・渚(演:中沢元紀さん)と、親への反発心を抱える森蒼斗(演:山時聡真さん)の関係性についても、「二人とも、自分の好きなことに向かって頑張っている姿勢は同じ」と語る。

「渚は“頑張らなきゃ”と思うほど視野が狭くなってしまうタイプなので、そこをこじ開けてくれるような友達がいてくれたらいいな、という思いもありました」

世代や立場が違っても、「誰かに分かってほしい」という感情は変わらない。兵藤さんは、そうした普遍的な感情を、一つ一つ丁寧にすくい上げていった。

“ん?”から“確かに”へ――手元に残る言葉の作り方

これまで自身と年齢の近い主人公を書くことが多かった兵藤さんにとって、みなとのような親世代の日常を描くことに不安もあった。

「自分の親と同い年くらいの人物を描けるのか、という不安はもちろんありました」

一方で、主人公の中にある“芯”や、“日常の中で大切にしていること”については、自分自身の感覚を重ねられたとも話す。

「どの人物にも少しずつ自分の“分かるな”が入っている感覚がありました。だからこそ、いい距離感で向き合えたと思います」

現在も複数の作品を執筆する中で、特に大切にしているのは、「1話ごとに、きちんとメッセージを入れること」だと言う。その上で、兵藤さんが脚本を書く際に意識しているのが、“見終わった後に手元に残る言葉”だ。

「流れていく言葉ではなく、聞いた時に『ん?』と疑問を感じて、その後に『確かに』と納得してもらえるような、日常に根づく言葉になればと思っています」

作品全体が重くなりすぎないよう、“さかな組長”(大江戸海弥/演:松山ケンイチさん)のコミカルな表情芝居やダジャレのような笑いの要素を入れることで、「楽しかった」という余韻につなげることも意識していたという。

以前は、セリフも抽象的に書くことが多かったという。しかし、『時すでにおスシ!?』を通して、より“具体的に描くこと”の重要性を強く実感した。

「“何を伝えたいのか”を考えた時、主人公の具体的なエピソードや言葉として描くことが、とても大事なんだと感じました」

今回の作品では、“手”も重要なモチーフの一つだ。

「鮨は“手で握るもの”なので、“手”を大事に描きたいという思いがありました」と兵藤さん。

主人公の手が、誰かの背中を押す場面もあれば、その息子にとってはプレッシャーとして映る場面もある。

「前向きな意味を込めた手でも、誰かにとっては違う意味になる。その視点も、渚の目線から丁寧に描きたいと思っていました」と、鮨を握るだけではない“手”の描き方を語る。

感情を説明するのではなく、具体的な行動や言葉に落とし込む。その積み重ねが、本作の温かさもあるリアリティーにつながっている。

“居てよしッ!”のセリフに魅せられた脚本家が、今届けたい言葉

脚本家を目指したきっかけについて兵藤さんは、「成り行きで今に至っている感じ」と笑いながら振り返る。

大学時代、「今までやってこなかったことを始めたい」という思いから、東京・青山にある「シナリオ・センター」に通い始めたことが、脚本を書く原点だったという。

「どんなに短くても、毎日書き続ける体力はそこで身についたと思います」

影響を受けた作品として挙げたのは、木皿泉さん脚本のドラマ『すいか』(2003年・日本テレビ)。

「“私みたいなものも、居ていいんでしょうか?”と言う主人公に対して、“居てよしッ!”と返すシーンが本当に印象的でした」

短いながらも力を持つ言葉に、強い衝撃を受けたという。

「こんなに短いセリフなのに、こんなに力がもらえるんだと思いました」

そんな作品を書いてみたいという気持ちはあるか――という問いには、「欲張ると良くないので(笑)」と笑顔を見せつつ、「地道につなげていった先に、そういうことがあれば」とも静かに前を見据える。

最後に、本作に込めた思いについては、「誰にとっても、何かを始める節目はあると思っています」と話し始めると、こう言葉を紡ぎ、率直な思いを口にする。

「一歩を踏み出すことで得られるものもあれば、責任を感じることもある。その全部を含めて、この物語の前向きな気持ちを受け取っていただけたらうれしいです」

脚本家として、自身の経験や取材なども通じて、視聴者の心に残るエピソードを一つ一つ丁寧に描いていった兵藤さん。その“手元に残る”セリフや、随所にちりばめられたコメディー要素にも注目しながら、物語の終盤を見届けてみたい。

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