イランとの3か月超に及ぶ戦争でアメリカが失ったもの「苦い教訓を得たはず」駐日イラン大使語る【報道特集】

イランとの戦闘終結に向けた覚書に署名したアメリカのトランプ大統領。3か月あまりの戦争で何を得て、何を失ったのだろうか。覚書にはホルムズ海峡、核問題、イラン復興のために3000億ドル規模の民間基金を創設する方針も盛り込まれた。駐日イラン大使は合意の直前、報道特集の取材に対し「彼(トランプ氏)は苦い教訓を得たはず」と語った。
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戦闘終結に向けた覚書「数十年で最悪の外交上の失敗」と批判も
アメリカとイスラエルがイランへの攻撃を開始してから3か月あまり。
トランプ大統領(4月)
「『石器時代』へと引き戻してやる」
こう言い放っていたトランプ大統領だったが…
トランプ大統領(6月17日 マクロン大統領のXより)
「ここまで簡単ではなかった」
イランとの戦闘終結に向けた覚書に、正式に署名した。
アメリカ側によれば、覚書は、レバノンを含むすべての戦闘を終結し、60日以内に最終合意をめざすとしている。
ホルムズ海峡に関しては、署名後60日間、イランが無償で安全な航行ができるよう努めるとした一方で、イランが合意を履行すれば、資産凍結の解除や、復興のため、3000億ドル規模(約48兆円)の民間基金を創設する方針も盛り込まれた。
核問題については、イランが核兵器を調達、または開発しないと表明。貯蔵している高濃縮ウランを現地で希釈・処分するというが、トランプ氏が求めていたアメリカへの引き渡しは明記されていない。
トランプ氏は、署名後のインタビューでこう主張した。
――当初、あなたは「無条件降伏しかありえない」と話していたが、(イランとの)覚書は、無条件降伏とは言えませんよね。
トランプ大統領(18日)
「無条件降伏だろう。私はそう考えている」
今回の署名について、与党・共和党内からも批判の声があがる。
共和党 ビル・キャシディ上院議員(Xより)
「イランの核兵器への野望は変わらないし、彼らはホルムズ海峡を脅しの材料にすれば成功すると学んだ。将来的に同じ手を使ってくることは間違いないだろう。ここ数十年で最悪の外交上の失敗だ」
一方、駐日イラン大使のセアダット氏は、合意の直前、私達の取材に対して…
セアダット駐日イラン大使
「彼(トランプ氏)は苦い教訓を得たはず。イランだけではなく、世界のすべての国から学ぶべき」
一体、何のための戦争だったのか。
「準備不十分」「仲間はほぼ即死」ドローン攻撃を受けた米軍将校の証言
中東各地にあるアメリカ軍基地などに、自爆型ドローンで攻撃をおこなってきたイラン。
イランの対岸・クウェートにあるアメリカ軍基地も、戦闘が始まった直後にドローンの攻撃にさらされた。
クウェートにある陸軍の「作戦指揮所」がドローンの攻撃を受け、兵士6人が死亡した。
攻撃の直後、米・ヘグセス国防長官は…
アメリカ ヘグセス国防長官
「我々の防空システムで、ほぼ全て撃ち落とせている。素晴らしい防空部隊だが、残念ながら、たまに『すり抜け』がある。あのケースでは、たまたま施設に命中してしまった」
ヘグセス長官は、「防空網をドローンがたまたますり抜けた」としたが、これを真っ向から否定する証言がある。
当時、現場の「作戦指揮所」にいたステファン・ラムズボトム少佐は、「部隊は自衛のための準備が十分ではなかった」と証言した。
アメリカ陸軍 ラムズボトム少佐
「私の後ろで爆発が起き、吹き飛ばされた。机に叩きつけられ、床に倒れた。私は脳震とうを起こし、後頭部に破片が刺さった。
本当に恐ろしいものだった。仲間数人は、ほぼ即死だった。警報が全くなかったため、オフィスは人がいっぱいで、全員デスクで仕事をしていた。20人から30人が負傷した」
ラムズボトム少佐は、「指揮所があった場所には、ドローン攻撃を防ぐ術がなかった」と話す。
――ドローンに対抗するシステムは配備されていなかったのか?
アメリカ陸軍 ラムズボトム少佐
「何もなかった。上官らは、対ドローンシステムを配備すると約束していたが、私たちの所には全く設置されなかった。レーダーがあった場所は遠すぎて、敵を捕捉できなかった。
『すり抜け』という言葉は、防御手段があることが前提だ。しかし、そもそも現場はドローン攻撃から守られていなかった。『すり抜け』なんかではない」
「作戦指揮所」の建物そのものも、脆弱だったという。
アメリカ陸軍 ラムズボトム少佐
「(指揮所は)コンテナのようなものでしたが、それよりもさらに小さいくらいだった。(屋根は)非常に薄い金属製だ」
――それでは何の防御にもならないのでは?
アメリカ陸軍 ラムズボトム少佐
「爆弾どころか、銃弾すら防げなかっただろう」
ラムズボトム少佐は、「軍の上層部はここまでの激しい反撃を想定していなかったのでは」と疑念を募らせている。
アメリカ陸軍 ラムズボトム少佐
「上層部は、戦争がそこまで大きくならないと考えていたのだと思う。だから戦火がはるかに拡大したときに、私たちがいた場所では準備できていなかった」
米軍、最大8割 ミサイル消耗で対中国戦略にリスクも
イランへの攻撃によって、アメリカは軍事力をどれほど消耗したのか。
4月末、議会の公聴会に出席したヘグセス国防長官は、野党議員の追及に激しく反論した。
民主党 ガラメンディ下院議員
「大統領は、またもアメリカを中東での戦争の泥沼に引きずり込んだ」
ヘグセス国防長官
「泥沼?敵に宣伝材料を与えるのか。恥を知れ」
アメリカのシンクタンク・戦略国際問題研究所(CSIS)のマーク・カンシアン上級顧問は、今回のイラン攻撃でミサイルの保有数が大幅に減少したと分析した。
戦略国際問題研究所(CSIS)マーク・カンシアン上級顧問
「ミサイルを戦争前の数に戻すのに、1年から4年かかるでしょう。ミサイルの生産には時間がかかります。アメリカは多くの資金を投入し、生産能力を拡大しようとしていますが、それも時間がかかります」
CSISは、主要な7つのミサイルについて試算した。
敵の弾道ミサイルを捉え、地上から迎撃するミサイル「THAAD(サード)」や、今回の戦争で初めての実戦投入となった最新鋭の弾道ミサイル「PrSM(プリズム)」は、イラン攻撃前にアメリカが保有していた数のうち、最大で約8割を使用したとされる。
児童ら100数十人が犠牲となった小学校の攻撃に使われたとされる巡航ミサイル「トマホーク」は、3割ほど使用された可能性があるという。
これらは高いもので1発2870万ドル、日本円で約46億3000万円。使用したミサイルの総額は、250億ドル(4兆円以上)にのぼると推計している。
保有数の減少によって懸念されるというのが…
戦略国際問題研究所 マーク・カンシアン上級顧問
「ミサイルの保有数が元に戻るまでの間、西太平洋地域に隙ができてしまうのです。それがたくさんのリスクを生み出します」
カンシアン氏は、対中国戦略においてもリスクが生じていると指摘した。
戦略国際問題研究所 マーク・カンシアン上級顧問
「保有数が減ると、中国を攻撃する能力とともに、その地域にある米軍基地の防衛力が低下します。迎撃するためのミサイルがなくなることは、多くの中国のミサイルが撃ち込まれ、米軍基地やインフラへの被害が大きくなることを意味しています」
「アメリカの敗北と言わざるを得ない」失われた国際社会での信頼
アメリカの政治・外交に詳しい三牧聖子教授は、「アメリカの敗北と言わざるを得ない」と話す。
同志社大学大学院 三牧聖子 教授
「ホルムズ海峡を開けるには、イランが主張する『制裁の緩和』とかを受け入れざるを得なかったとすれば、どこから見てもこれはアメリカの敗北と言わざるを得ない。
結果的に、革命防衛隊、軍、かつてよりもむしろ強硬な現体制が出来上がってしまった。ホルムズ海峡閉鎖というカードを与えてしまった。むしろ『イランを強くしてしまったのではないか』とすら言われている」
イランの核問題をめぐっては、2018年5月、第一次トランプ政権がイランの核開発を制限する国際的な枠組み「核合意」から一方的に離脱した。
トランプ氏は今後の協議で、この「核合意」以上の成果を目指すというが、実現できるかは不透明だ。
アメリカが失ったものは何か。イランへの攻撃は「国際法違反」と批判され、国際社会での信頼も大きく傷ついたと三牧教授は指摘する。
同志社大学大学院 三牧聖子 教授
「アメリカが今まで国際秩序の盟主を自負していろんな戦争をやってきたが、戦争において最低限見せてきた同盟国との連携関係・コミュニケーション、そういう姿勢すら今や失ったアメリカ。本当に予測ができない。
今までアメリカが培ってきた信頼が失われて、例えばトランプ大統領が状況に気づいて、同盟国は大事だとか、世界平和にアメリカはコミットしていくと言ったところで、回復できるものではないし、正直今後回復され得るのかなと」