「生成AI」の進化で賞やコンテストはどうなる?(2)小説編【調査情報デジタル】

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2026-07-04 09:00
「生成AI」の進化で賞やコンテストはどうなる?(2)小説編【調査情報デジタル】

AIが注目を集めだした当初、AIは人間を単純作業から解放するが、クリエイティブな分野は代替できないという言説があった。ところが日々進化する生成AIは、いまや、文学や音楽、イラスト、マンガ、そして映画と、あらゆるクリエイティブの制作現場で利用され始め、そしてかなりの水準の作品を生み出しつつある。それに伴って大きな影響を受け始めているのが、各種の公募による賞やコンテストだ。これまでは人間の創造力を競い合ってきたが、生成AIが介在して生まれた作品があふれ出したとき、賞やコンテストはどうなるのか?2回目は、小説をめぐる現状についてお伝えする。

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高額賞金の公募賞が「生成AI」対応を新たに記載

小説の公募賞で国内トップクラスの賞金を誇っているのが、宝島社の『このミステリーがすごい!』大賞だ。大賞賞金は1200万円、文庫グランプリ賞金は200万円で、どちらも受賞作品は書籍が刊行される。

今年6月から、ホームページに第26回の募集要項が掲載されている。冒頭には「第26回の募集要項より、AIの使用等についての規定を追加しました」とある。前回までの募集にはなかった、AIに関する対応が盛り込まれたのだ。

原稿の規定を確認すると、「生成AIを補助的に利用した場合、どのように用いたかを書類末尾に簡潔に記載してください」とあり、補助的な利用は認めていることがわかる。

その上で、注意事項欄には「AI生成による文章を用いた原稿の応募は不可とします。使用に伴い、第三者の権利を侵害するおそれがあると事務局が判断した場合、選考対象外・失格とする可能性があります」と記載されている。

「AIによる文章生成は不可」とした理由を宝島社に質問したところ、『このミステリーがすごい!』編集部は「著作権侵害・盗用のおそれがあるため」と回答した。

日本文学振興会が主催する『松本清張賞』も、正賞が時計、副賞が500万円と賞金が高額だ。受賞作は文藝春秋から単行本が刊行される。『松本清張賞』も今年4月に発表した第34回の応募規定で、初めてAIについて言及している。

「創作の際、AIを利用した場合は、どのようにAIを用いたか(文章表現の手助け、校正、翻訳など)を応募原稿の表紙に分かるように記載してください。また利用に伴って、明らかに倫理や法令に反する、あるいは第三者の権利を侵害する恐れがあると判断された場合は、選考対象外や受賞取り消しとなる場合があります」

この記載について日本文学振興会の事務局は、「AIを使うことが悪いのではなくて、使うことによって盗作や剽窃による他者の作品の著作権侵害となってしまうといった部分が、一番問題だと思っています」と話している。

SF小説の公募賞では“文章全てAI”で「可」も

連載の初回で触れた川柳や俳句のコンテストと同様に、生成AIの急速な進化によって、小説の公募賞でも生成AIへの対応を考えざるを得なくなっている。ただ、その対応は現時点では各社、各賞によって様々だ。

生成AIを利用した作品を認めている賞のひとつが、日本経済新聞社が主催する日経『星新一賞』。理系的な発想力を問う短編小説を公募するもので、2022年に受賞作が発表された第9回においてAIを使用した小説が初めて入選した。さらに、2026年3月に発表された第13回では、一般部門を受賞した4作品のうち、3作品が創作過程でAIを使用していたことが話題になった。

ただし、募集要項では「生成AIを利用しての応募について」という一項を設け、生成AI利用の場合の注意点を詳細に記載している。

このようにSFの分野では、どちらかといえば生成AIの使用を積極的に受け入れる傾向があるようだ。早川書房の『ハヤカワSFコンテスト』も生成AIの利用を認めていて、その応募要項には、内容を要約した梗概(こうがい)の末尾に「具体的な使用方法を明記すること」と記載されている。

さらに、「文章のすべて、もしくはほとんどをAIに生成させた作品」を認めている賞もある。

それは東京創元社の『創元SF短編賞』だ。すべて、もしくはほとんどをAIに生成させた場合は、同一応募者からの応募数を最大1作品としている。プロット作成や文章表現の支援など、AIを補助的に利用した作品については応募数に制限はない。東京創元社では『創元ミステリ短編賞』も同様の対応にしている。

応募規定に記載がなくても最終候補決定の際に確認

公募賞全般で見ると、生成AIの利用について明記していない賞も多い。ただ、明記していなくても対応している賞もある。

新潮社が実施している公募賞の応募規定では、現時点で生成AIの利用については触れられていない。4つの賞についてどのような対応をしているのかを新潮社に質問すると、それぞれの担当者が生成AIへの対応を明かした。

このうち『新潮新人賞』は、最終候補を決めるタイミングで生成AIの使用を応募者に確認していると回答した。

「新潮新人賞については、最終候補を決めるタイミングで、応募者に『執筆にあたって生成AIを使用したか』『使用した場合は、具体的にはどのように使ったのか』をお尋ねする予定です。これまでも最終候補の選出時には応募者に主要参考文献などを確認していますが、著作権侵害のリスクについて慎重に見極める必要があると思います。

一方で、生成AIを使用していたら即座に失格というわけではなく、批評性があり、その作品にとって必然性のある使い方ならば、新たな表現を追求する純文学にとっては意味があることと考えており、最終的な是非はケース・バイ・ケースと言うほかありません」

『日本ファンタジーノベル大賞』と『新潮ミステリー大賞』は、「読んでいて気になったところがあり、それを最終候補に残す方向であれば、そのときにAI使用について応募者に確認する。募集要項に何らかの記載をするかについては検討中」と回答した。

また、『女による女のためのR−18文学賞』は、補助的な使用は問題ないものの、生成された文章による応募は想定していないという。

「調べものやアイディア出しなど、補助的な使用については問題ありません。生成された文章をそのまま、または一部改変して応募されることは想定していません。

本賞は創設時から、旧弊にとらわれない新しい表現、新しい発想にあふれた作品を求めてきました。生成AIによって出力される文章は、すでに世にある知識や文章の集積です。『書き手の感性を生かした小説』という本賞の応募要項にはなじまないと考えています」

生成AIの使用は編集部が「責任をしっかり負う」

講談社の公募賞では、生成AIについての対応を明記している賞が複数ある。その上で、賞によって表記内容が異なっている。

『小説現代長編新人賞』は、募集要項に「創作に際しAIを補助的に利用した作品(プロット作成や文書表現の支援など)については、応募原稿の冒頭にどのようにAIを用いたかについて記載してください」と明記している。その理由について『小説現代』編集部は「不安を解消するため」と説明した。

「『時代』の流れを鑑み、AIを使っている方、使っていらっしゃらない方、どちらの方も応募の際に感じるであろう『不安』を解消するために挿入いたしました」

また、「補助的に利用」の範囲について聞くと、「資料収集や取材などなど、小説(本文)を書くという行為を支える部分についての使用を想定しておりますが、AIによってかかれた文章が1行たりともあってはいけない、とも考えてはおりません」と広く捉えていた。

創作に生成AIを取り入れることについては、「一概には言えないので、なんとも申し上げることはできません。常識の範囲内でお使いいただけたら、と思っています」と回答した。

一方、同じ講談社の『群像新人文学賞』は、生成AI対応について「著作権侵害(例えば第三者の著作物をコピー、改変するような利用)に該当する生成AIの使用を禁じます。最終候補作品については、AIの使用の有無、使用した場合にはその使用方法について改めて確認させていただきます」と表記している。

生成AIを取り入れることについての考え方を聞くと、『群像』の戸井武史編集長は、期待とともに編集部の責任について言及した。

「生成AIの使用については、私(弊誌)としては、その使い方には留保点があるとは思うものの、まったく排除するべきものではないと考えています。排除することで『書かなければ』と思った才能を失うことのほうが問題です。

作家とはその一作だけを作るつもりで(作品単体で)はなく、将来にわたってお付き合いいただくというのが前提で、仕事をしています。

作品が世に出るまでには、編集担当者、校閲、責任者などとのさまざまなやりとりがあるわけです。そのやりとり/対話において、生成AIの使用が必要あるいは妥当と感じられるのであれば、使用することには特に問題はないと思います。

AIを使用しようがしまいが、いいものはいい、ですし、(掲載が)難しいものは難しい、その『判断』にわれわれとしては責任をしっかり負う、ということだと思います」

小説投稿サイトではAI使用状況のタグ付けを推奨

生成AIを使用した作品の課題は、著作権の侵害のほかに大量投稿もある。

KADOKAWAとはてなが運営する小説投稿サイトの『カクヨム』では、同じ投稿者がAIで制作した大量の作品や、作品の1話分にあたるエピソードを過度な頻度で投稿するケースがあった。新着作品は読者の流入量が増えるケースがあり、結果的にこの投稿者による作品がランキングで1位を獲得した。このため2025年11月からは、生成AIを使用した作品には、使用状況に応じたタグ付けを推奨している。

タグは本文の目安50%以上をAIによって生成された場合は「AI本文利用」、目安50%未満は「AI本文一部利用」、AIのアイデアや資料をもとに、作者自身が本文を書いたもの、または文章の校正など創作の補助的に利用した場合は「AI補助利用」としている。また、サイト内で開催されるコンテストに応募する場合はこれらのタグ付けを「必須」とした。

タグ付けを推奨する取り組みを、KADOKAWAでは「より良い環境を維持するため」と表現した。

「『カクヨム』におけるタグ付けの推奨は、ご指摘のように一定期間においてAI生成作品の大量投稿やランキングへの影響が問題となった件を受け、読者と創作者双方にとってより良い環境を維持するための取り組みです。AIの利用状況を可視化することで、読者が安心して作品を選べる環境を整えると主に、創作スタイルの違いが適切に理解されるようにし、読者体験の維持・向上につなげることを意図しています」

『芥川賞』『直木賞』は生成AIの使用で候補作を判断していない

生成AIへの対応が気になる賞は、もちろん公募賞だけではない。雑誌に発表された新進作家による純文学の中・短編の中から選考する『芥川龍之介賞(芥川賞)』では、2023年下半期に選考した第170回の受賞作について、「全体の5%くらいかな、生成AIの文章をそのまま使っているところがあるので」と著者が発言をしたことが話題になった。

『芥川賞』を主催している日本文学振興会では、新進・中堅作家によるエンターテインメント作品の単行本から選考する『直木三十五賞(直木賞)』も主催している。これらの賞の候補作品や受賞作品の生成AIへの対応についての考えを聞くと、事務局は生成AIの使用を元に候補作を判断はしていないと答えた。

「芥川賞と直木賞は、版元が判断して出版している作品について、予備選考を経て候補作を決める形を取っています。この作品はAIを使っているとか、使っていないといった話が必ずしも出ないとは限りませんけれども、少なくとも今のところは、それをもとに候補作にするしないとかを判断している状態ではありません」

また、創作に生成AIを取り入れることについて、現状での考え方を率直に語った。

「今は生成AIの使用を駄目だとすること自体が難しいと思います。第三者を侵害したり、傷つけたりするものでない補助的な利用であれば、許容範囲なのかなと思っています。それに、AIを取り巻く状況もどんどん変わってきています。様子を見ながらというのが現状では正直なところです」

小説での生成AI利用への期待と懸念

ベストセラーを出している作家の中には、作品に生成AIを使用して、自身の活用方法を披露している人もいる。もちろん、生成AIの使用に否定的な作家もいる。

KADOKAWAは公募賞の『小説 野性時代 新人賞』と『横溝正史ミステリ&ホラー大賞』で、生成AIの補助的利用を認めている。一方で、既存の作家が生成AIを活用することについては、期待と懸念を挙げた。

「創作を補助する手段として適切に活用される限りにおいては、一つの選択肢であると捉えています。構想整理やリサーチ補助、アイデアの壁打ちなど、これまでも、辞書や文献、編集者との対話が果たしてきた役割と本質的には近いものがあります。

生成AIの活用によって制作プロセスが効率化され、作者がより創作に集中できる環境が生まれることで、作品の質向上につながる可能性があることを期待しています。

懸念としては、どこまでが人間の創作といえるかなど、まだ社会的な議論の途中にある部分も多く、引き続き動向を注視していきたいと考えています」

ここまで見てきたように、現状では生成AIの利用について、「補助的利用は容認」とする公募賞は多い。一方で、文章の生成については「禁止」か「一部利用は容認」に分かれ、まれに全て利用を認めている賞もある。いずれにしても、各編集部は生成AIとどう向き合っていくのかを試行錯誤している最中だ。

ただ、小説にとって生成AIの進化が無視できない状況になっているのは間違いない。数年後、小説と生成AIの関係はどのような形になっているのだろうか。

「調査情報デジタル」編集部(田中圭太郎)

【調査情報デジタル】
1958年創刊のTBSの情報誌「調査情報」を引き継いだデジタル版のWebマガジン(TBSメディア総研発行)。テレビ、メディア等に関する多彩な論考と情報を掲載。原則、毎週土曜日午前中に2本程度の記事を公開・配信している。

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