災害時のSNSデマにどう立ち向かうか~「よかれ拡散」を止めるために私たちが持つべき「2つの問い」~【調査情報デジタル】

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2026-07-11 08:30
災害時のSNSデマにどう立ち向かうか~「よかれ拡散」を止めるために私たちが持つべき「2つの問い」~【調査情報デジタル】

災害時、人々を救うためにSNSのはたす役割は大きい。しかし一方でSNSはデマを拡散させ、人々の命をあやうくし、復興を妨げるツールにもなり、その実例も多い。私たちがデマを拡散させる「当事者」にならないために知っておくべきことは何か。そして報道機関がなすべき役割は何か。兵庫県立大学環境人間学部・大学院環境人間学研究科の木村玲欧教授による論考。

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はじめに

SNSは命を救う道具になる一方で、救えたはずの命を遠ざける情報も運ぶ。災害時の偽・誤情報を「一部の悪質な投稿者の問題」と捉えるのは誤りだ。問われているのは、災害時の情報環境を社会全体でどう設計するかである。

「SNSを見れば安心できる」という誤解

災害直後、多くの人はスマートフォンを手に取る。震源はどこか、津波は来るのか、家族は無事か、避難所は開いているのか――。

SNSには、テレビ・ラジオや行政発表より早く、現場の断片的な情報が流れる。被害状況の早期把握、孤立地域からの発信、避難の呼びかけなど、SNSが救助・救援に役立つ場面は確かにある。

一方で、災害時のSNSには、根拠不明の情報、誤情報、悪意ある偽情報も流れ込む。近年は、生成AI、動画生成技術、投稿の収益化、アルゴリズムによる表示が重なり、災害時のデマは質的にも量的にも新しい段階に入っている。

2024年の能登半島地震では、X(旧ツイッター)などで、虚偽の救助要請、人工地震説、外国系窃盗団が集結しているという根拠のない投稿、避難生活に関する誤情報が拡散した。

特に虚偽の救助要請は深刻である。警察・消防・自治体が本来不要な確認に追われれば、本当に助けを必要とする人への対応が遅れる。デマは、人命救助、支援活動、治安、生活再建を直接妨げる。

生成AIによる「もっともらしい誤情報」

今後は、生成AIによる「もっともらしい誤情報」も無視できない。2025年12月8日に青森県東方沖で発生した地震で、新聞記者がGoogleで「最新の津波情報について教えて」と検索したところ、「AIによる概要」は、津波警報が発表中にもかかわらず「解除されている」と誤って表示した。同様の検索でも、誤った回答が繰り返し示された。

AI検索やAI要約は便利だが、災害情報のように時々刻々と変化し、生命に直結する領域では、古い情報や推測に基づく誤要約が重大なリスクになる。

生成AIは自然で説得力のある文章を作れるが、それは正確さを保証しない。災害時には、AIの回答を最終判断にせず、政府、自治体、テレビ・ラジオ、新聞社など、責任ある発信主体の一次情報・確認情報に戻る必要がある。

デマには3つの発生源がある

「デマ」には、いくつかの種類がある。悪意をもって意図的につくられる「狭い意味でのデマ」「偽情報」と、悪意や意図がなく根拠が不確かなまま広がる「流言」「誤情報」である。日本では、日常的には両者をまとめて「デマ」と呼ぶことが多い。本稿でも、流言などもまとめて広い意味での「デマ」を考える。

災害時のデマの発生源は、大きく3つある(図1)。

第1に、愉快犯や他者攻撃を目的にねつ造されるもの。2016年熊本地震で「動物園からライオンが逃げた」という偽画像付き投稿が広がった事例は、その典型である。

第2に、表示数・再生数による収益を目的とする「インプ稼ぎ」「インプレゾンビ」である。

第3に、悪意はなく、あいまいな状況を理解したい、不安を減らしたい、周囲に知らせたいという欲求から生じるもの。実は、ここが最も厄介である。

アメリカの心理学者のオールポートとポストマンは、デマの拡散の早さを「重要さ」と「あいまいさ」の積で説明した。災害時の情報は、人命や生活に関わるものが多いため重要さが高く、全体像の把握に時間がかかるためあいまいさも高い。

これらを考えると、災害時にデマが広がるのは「例外的な出来事」ではない。むしろ「必ず発生する出来事」と考えて備えるべきである。

災害デマの内容は時間とともに変わる

災害時のデマは、時間経過とともに内容が変わる(図2)。

発生直後には、「人工地震」「次にもっと大きな地震が来る」といった「災害の発生原因」や「災害の再来」に関するものが出やすい。また「(具体的な住所)の建物が倒壊して生き埋め者が発生している」「ダムが決壊した」などの「人的・物的被害」についてのデマも発生する。

救助・救援期になると、引き続き、人的・物的被害にまつわる救助要請のデマなどが発生するほかに、「窃盗団がやってきている」「有害物質が降り注いでいる」「伝染病が発生した」などの「二次災害」のデマや、「著名人や政治家が○○という差別的発言をした」などの「著名人の対応」に関するデマも増える。

そして復旧・復興期には、「物資が○○で配給される」「避難所を出たら仮設住宅への入居資格が無くなる」といった「被災生活」をめぐるデマが増える。

この変化を知っておくと、情報を見る目が少し変わる。「いまはこういうデマが出やすい時期だ」と構えておくことができるからである。学校や地域・組織の防災教育でも、真偽不確かな情報の出回り方を教える必要がある。

「よかれ拡散」で善意の第三者が狙われている

いま最も注意すべきは、被災地外にいる善意の第三者による「よかれ拡散」である。「家族が下敷きになっている」「子どもが閉じ込められている」という投稿を見ると、多くの人は「拡散すれば助かるかもしれない」と考える。

だが虚偽であれば、自治体、消防、警察、自衛隊に不要な確認作業を発生させ、本当に助けを必要とする人への対応を遅らせる。実在する住所や個人情報が使われれば、無関係の人も巻き込まれる。

巧妙なデマには、2つの特徴がある。第1に、あいまいさを解決してくれるように見える。住所、氏名、人数、時刻などが具体的に書かれ、断定調で語られる。

第2に、重要さを際立たせる。人命、子ども、高齢者、切迫した時間、怒りや恐怖を誘う表現が使われる。これは詐欺メールと同じである。受け手の善意や正義感を利用して、拡散させるように作られている。

だからこそ、災害時には「自分は助ける側だ」と思った瞬間が危ない。「助けたい」という気持ちは尊い。しかし、未確認情報の拡散は支援ではなく妨害になることがある。善意を行動に変える前に、情報の裏を取る-ファクトチェック-のブレーキが必要である。

一般の人が持つべき2つの問い

一般の人に求めたいのは、専門家のような精密な検証ではない。まずは2つの問いを持つことである。「これは本当か?」「これは自分が広めるべき情報か?」。

そのうえで、2種類のファクトチェックを行う。1つは、内容そのものをチェックする「内在的チェック」である。表現が不自然・極端ではないか。日時や場所に矛盾はないか。感情を過度にあおっていないか。画像や動画が古いものではないか。

もう1つは、外部情報で確かめる「外在的チェック」である。発信者は誰か。普段どのような投稿をしているか。政府・自治体、警察・消防、テレビ・ラジオ・新聞などの「公式情報」でも確認できるか。

その結果、「根拠がわからないものの拡散には自分は加担しない」と判断する。これが最も重要な行動である。心配な場合も、SNSで広げる前に、身近で信頼できる人に相談する。知らない人の知らない場所の救助要請を、善意だけで「よかれ拡散」しない。このルールを平時から決めておく必要がある。そしてこれが「防災リテラシー」(災害を事前に知り、備え、事後に適切に行動できるような総合的な力)につながる。

報道機関に求められる役割

報道機関には2つの役割がある。第1に、正確な情報を速く届け、災害時のあいまいさを下げること。第2に、広がっているデマを具体的に打ち消すことである。「デマに注意」だけでは弱い。あるデマについて、何が誤りで、根拠は何か、正しい情報はどこで確認できるのかを示す必要がある。

各社がばらばらに対応するだけでは限界がある。報道機関、行政、ファクトチェック団体、プラットフォーム事業者が連携し、デマの受け皿となる一元的な確認・発信体制をつくるべきである。AIによる検出も有効だが、技術的にすべてのデマがAIによって検出できるわけではなく、最後に必要なのは責任ある主体による確認と説明である。

報道機関も、デマを「報じる」ことでかえってデマを広げる危険を自覚しなければならない。熊本地震の「ライオンが逃げた」では、デマの存在をニュースで知った人も少なくなかった。否定情報は、刺激的にではなく、検証可能な形で必要十分に伝える必要がある。

コロナ禍のトイレットペーパーをめぐるデマでは、「スーパーの空っぽになった棚」の映像が買い占めを促した一方、「トイレットペーパー工場にある大量の在庫」の映像と「トイレットペーパーの国内シェアはほぼ100%で、国内の物流が戻れば購入可能である」という実態の報道は沈静化につながったと考えられる。

流言は智者に止まる

中国戦国時代の思想家・荀子の書物に「流言は智者に止(とど)まる」という言葉がある。流れてきた噂は、考察できる人のところで止まる、という意味である。災害時のSNSデマ対策は、最新技術だけの問題ではない。最後は、一人ひとりが「ここで止める」と判断できるかにかかっている。

もちろん、個人の努力だけに押しつけてはならない。プラットフォーム設計、行政の情報発信、メディアの検証報道、防災教育を組み合わせる必要がある。ただし土台は単純である。「災害時にはデマが必ず発生する。根拠が分からないものの拡散には加担しない」。

災害時に必要なのは、情報を速く回すことだけではない。間違った情報を、そこで止める力も必要である。それもまた、命を守る防災リテラシーなのである。

参考文献・資料
・朝日新聞(2025)津波警報の発表中にグーグル検索、AIが「すべて解除」と誤情報(2025年12月10日)(2025年12月12日確認)
・Allport, G. W. & Postman, L.(著)・南博(訳)(1952)『デマの心理学』、岩波現代叢書
・荻上チキ(2011)『検証 東日本大震災の流言・デマ』, 光文社新書
・木村玲欧(2015)『災害・防災の心理学』, 北樹出版
・Kimura, R. and Iwao, A (2020) “Study on Features of Rumors Generated at the Time of Disaster: Characterization of Actual Rumors”, 17th World Conference on Earthquake Engineering Conference Proceedings, No.7f-0001, 12pp.
・木村玲欧(2024)「災害時のデマを減らすためには」, 消防防災の科学, No.156, pp.2-5.
・木村玲欧・田村圭子(編著)(2026)『災害を乗り越える防災基礎力入門』, 放送大学教育振興会
・中森広道(2020)「災害流言の展開とその特性」, 消防防災の科学, No.139, pp.34-39.
・廣井脩(2001)『流言とデマの社会学』, 文春新書

<執筆者略歴>
木村 玲欧(きむら・れお)
兵庫県立大学環境人間学部・大学院環境人間学研究科教授
1975年東京都生まれ。1998年早稲田大学人間科学部人間基礎科学科卒業。2004年京都大学大学院情報学研究科社会情報学専攻 博士後期課程修了。博士(情報学)(京都大学)。
専門は防災心理学、防災教育学、社会調査法。主な研究として、災害時の人間心理・行動、復旧・復興過程、歴史災害教訓、効果的な被災者支援、防災教育・地域防災力向上手法など。
具体的には、災害時の人間の心理・行動や社会の変化について実態解明をしたり、過去の災害教訓をもとにした防災リテラシー(防災力・防災基礎力・生きる力)向上のための防災教育・防災訓練のあり方について研究している。
著書に『災害・防災の心理学-教訓を未来につなぐ防災教育の最前線』(北樹出版)、『超巨大地震がやってきた スマトラ沖地震津波に学べ』(時事通信社)、『戦争に隠された「震度7」-1944東南海地震・1945三河地震』(吉川弘文館)など多数。

【調査情報デジタル】
1958年創刊のTBSの情報誌「調査情報」を引き継いだデジタル版のWebマガジン(TBSメディア総研発行)。テレビ、メディア等に関する多彩な論考と情報を掲載。原則、毎週土曜日午前中に2本程度の記事を公開・配信している。

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