洗濯機サイズの超小型「観測衛星」とは?550キロ上空から地盤「1ミリ」の浮き沈み観測も… “世界から注目”創業8年の宇宙ベンチャー躍進のウラ側

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2026-07-11 10:10
洗濯機サイズの超小型「観測衛星」とは?550キロ上空から地盤「1ミリ」の浮き沈み観測も… “世界から注目”創業8年の宇宙ベンチャー躍進のウラ側

世界各国が開発を競う人類のフロンティア「宇宙」。

【写真を見る】Synspectiveの衛星は約180キロ、家庭用の洗濯機ほどの大きさ

実は今、日本が世界トップクラスの技術を誇り、世界中から視察が相次ぐほど注目を集めている分野がある。それが「観測衛星」だ。

“時価総額400兆円超え”も話題となったイーロン・マスク率いる「スペースX」が業界を牽引する中、日本は「宇宙」で勝てるのか?

その勝ち筋を探るべく、創業わずか8年で世界から注目を集める存在となった日本の宇宙ベンチャーをテレビメディアとして初めて取材した。

世界で過熱する衛星打ち上げ競争 大きく後れを取る日本

宇宙をめぐる競争が世界で激しさを増す中、衛星の打ち上げ数では、日本は米中に大きく水をあけられている。

去年の各国の人工衛星打ち上げ数を見てみると、アメリカが3718機と突出。次いで中国が371機と続く中、日本はわずか33機にとどまる。

一口に人工衛星と言っても、さまざまな種類がある。代表的なものとして、通信や衛星放送に使われる「通信・放送衛星」、GPSや日本の「みちびき」などの「測位衛星」、気象予報や災害状況の把握などに使われる「観測衛星」がある。

一方、通信衛星の分野では、スターリンクなどアメリカ企業が先行し、日本は海外勢に頼っているのが現状だ。

こうした遅れを挽回し、宇宙産業を新たな成長分野に育てようと日本も投資の拡大に乗り出している。政府は6月の「成長戦略会議」で、「航空・宇宙」を17の戦略分野の一つに指定。2040年までに官民合わせておよそ14兆円規模の投資を行い、開発を加速するとしている。

その中で、日本が世界と勝負できる分野として期待されているのが「観測衛星」だ。

洗濯機サイズの超小型「観測衛星」とは? 製造工場にテレビ初潜入!

宇宙ベンチャー「Synspective」。創業してわずか8年で、世界から注目を集める観測衛星の製造工場で、メディアとして初めて撮影が許可された。

入ってみて驚いたのはその「静かさ」。一般的な工業製品の工場とは違い、人工衛星の組み立ては手作業で行うため、20〜30人のスタッフが作業する工場はしんと静まり返っている。

工場を進むと目の前に現れたのが「Synspective」が製造する観測衛星の「SAR(合成開口レーダー、Synthetic Aperture Radar)衛星」。SAR衛星は宇宙から地球の表面に向けて電波を発し、そのはね返りを受信する。こうしたデータを分析・画像化することで地表の観測を可能にする。

そして、驚くのがその「小ささ」。これまでの大型SAR衛星には数トンに及ぶものもあるが、Synspectiveの衛星はおよそ180キロ。家庭用の洗濯機ほどの大きさだ。

電波の送受信は一般的にお椀型の「パラボラ」を使うことが多い一方、Synspectiveが採用する板状の「フラットパネル」は観測データのひずみが少なく、広範囲を観測できることが強みだという。

さらに、太陽光の反射を捉える一般的な「光学衛星」は夜間や雲に覆われた場所の観測が難しい。一方、電波を使う「SAR衛星」は夜間や曇りでも観測ができる。

こうした超小型のSAR衛星を製造できる企業は世界にたったの5社。うち2社が日本の宇宙ベンチャーで、日本が世界で高い競争力を誇る分野だという。

これまで打ち上げた衛星の故障は一度もないということだが、長年にわたって家電の製造に携わってきた森岡工場長は、宇宙に飛ばす衛星の製造ならではの難しさについてこう語る。

Synspective 森岡肇 工場長
「衛星は特に打ち上げ時のロケットの中の振動、音響によって壊れてしまうことが多い。ロケット打ち上げ時は旅客機のエンジンの200倍ほどの音がするが、それでも壊れないようにしなくてはいけない」

「衛星は最終的に宇宙に行ってしまうので、地上で品質確認ができない。問題が起きたとき、通常の製品であれば返してもらって解析すれば問題の原因がわかるが、それができないのが最もつらい」

では、このSAR衛星、実際にはどのように使われているのだろうか?

広がる「SAR衛星」活用 550キロ上空から地盤「1ミリ」の浮き沈み観測も

一方の人がレンズをのぞき、もう一方が大きな物差しを立てている光景。誰もが街中で目にしたことがある「測量」だ。

インフラや高層ビルの建設など地下を掘る工事現場では、測量は周辺の地盤への影響を調べるため必ず行う必要がある。この作業は少なくとも週1回、2人での作業は半日ほどかかる上、測定できる場所は“ピンポイント”。人手不足が深刻な建設現場で大きな負担となっている。

この課題解決のため、清水建設が活用を始めたのがSAR衛星だ。SAR衛星は地上およそ550キロの高さから観測する。地上およそ30センチ四方単位で観測でき、地盤のわずかな変動を「ミリ単位」で捉えることができる。

衛星を活用した測量は広い範囲の観測が可能となり、地盤の変化を面的に把握できる。その上、人が立ち入れない危険な場所や、私有地など敷地内に入ることが難しい場所でも変化を把握できるという。

さらに、大地震が発生した際、清水建設では地震発生地域の建物の持ち主に被害状況を電話などで確認したり、現場での被害状況の調査を行うことが大きな負担となっていた。しかし、SAR衛星を活用すれば、人が現地に入る前でも、広い範囲の被害状況を短時間で把握できる可能性がある。

一方、軍事・防衛の領域でも活用が進む。防衛面ではSAR衛星は、昼夜や天候を問わず、敵の部隊や施設、艦艇などの動向を把握する重要な手段となっている。

今年2月、防衛省は、防衛省として初めてとなる大規模な観測衛星網を整備するため、およそ2800億円規模の契約を結ぶなど、安全保障上における重要性は増すばかりだ。

SAR衛星は「地球の予防医療」の切り札に? Synspective 新井CEOが描く未来とは

現在、およそ月に1機のペースでSAR衛星を打ち上げ、6機を運用するSynspective。今後は30〜40機規模の観測網の構築を目指す。

衛星はおよそ90分で地球を一周する。ただ、1機だけでは同じ場所を繰り返し観測できる機会は限られる。衛星は数を増やすほど観測できる頻度が高まり、今後は5~10分間隔で観測し、災害が起きた際にも迅速に現地の状況を把握できる体制を目指している。

さらに、観測データは国内に限らず、世界各国から集まる。Synspectiveは自前で衛星を打ち上げることが難しい国や企業に、観測データを提供するビジネスを展開している。こうした安全保障にも関わる機微な観測データを扱うビジネスにおいて、世界における日本の立ち位置も大きなメリットになるという。

Synspective 新井元行 CEO
「日本は非常に安定した国だと見られている上、良い技術を持っているので安心できる国だと見られている。また、国際協力などで培ってきた他国との信頼関係によって、海外への営業は非常にしやすい状態にある」

「(SAR衛星は)技術的にも非常に世界の中で強みがあるのは間違いありませんので、観測衛星という領域では世界でもナンバーワンになれるところにいると思っている」

SAR衛星の活用は▼地震発生時の土砂崩れなどの二次災害の予測▼海上の違法操業船の観測▼農業で作物の生育状況の把握など、さまざまな領域に広がっている。今後、衛星が集めた膨大なデータをAIで分析することで、「地球の予防医療」が実現すると新井CEOは話す。

Synspective 新井元行 CEO
「たとえば、台風が来ている最中に、何が起きて、どこでどのような被害が起きているのかすぐに分かるようになる。データがどんどん貯まっていくと、予測ができるようになるんです。災害によるダメージを受けてしまう前にリスク対応ができるという世界になっていく。そうすると、世界中の人々が安心・安全に生活できるようになっていくと思います」

取材後記

観測衛星「SAR衛星」で競争力をもつ日本だが、もちろん課題もある。

人工衛星はロケットを使って宇宙に打ち上げるため、ロケットの打ち上げ能力は不可欠。ただ、日本ではそもそもロケットの打ち上げ回数が少なく、Synspectiveは現在、衛星の打ち上げは海外の企業に委ねざるを得ないのが実情だ。

去年のロケットの打ち上げ回数を見ても、アメリカが181回(うち170回が「スペースX」)、中国が92回と続く中、日本は4回と大きく後れを取っている。衛星事業者にとっても、海外での打ち上げは輸送コストや煩雑な輸出手続きなどが必要となり、競争力を高める上で大きな阻害要因だ。

ただ、これまで官民一体となり日本が推し進めてきた宇宙開発は、Synspectiveのようなベンチャー企業の出現によって、徐々に実を結び始めている。これまで研究が主な目的だった宇宙開発は、技術の進歩によって人々の生活をより豊かにし、世界で「稼げる」商用分野にも広がりつつある。

日本は「SAR衛星」をはじめとした“勝ち筋”をさらに育て、宇宙分野で世界に勝つことができるのか、これからもその行く末に注目していきたい。

TBSテレビ報道局経済部 室谷陽太

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