AIの先にある「人間の安心感」が日本の保全を救う――三井情報が描く『AssetWatch』国内3年目のいま
回転機器予兆検知診断ソリューション「AssetWatch(アセットウォッチ)」を提供する三井情報が、2026年7月15日~17日に東京ビッグサイトで開催された『メンテナンス・レジリエンス TOKYO 2026』に出展しました。
以前、東京都水道局との共同実証実験を成功させ、その高い検知精度と信頼性で話題を呼んだ「AssetWatch」。日本上陸3年目を迎えた今、その活躍の場は水道インフラだけにとどまらず、食品加工、鉄鋼、プラント、化学、薬品など、日本のものづくりを支えるあらゆる産業分野へと急速に広がり始めています。
今回の展示会では、事前セミナーの申し込み数が昨年の2倍近くに急増。保全の現場が抱える「深刻な課題」と、それを解決するAssetWatchの真価をレポートします。
現場が求めているのは「検知するAI」ではなく「迷わず動ける安心感」

今回、ブースでの取材を通じて見えてきたAssetWatchが選ばれ続ける理由は、極めてシンプルです。
それは、「AIによる超早期の異常検知」と「専門家(CME)による具体的なアクションへの伴走」が完全にセットになっている点にあります。
世の中に振動センサーやAI検知ツールは数あれど、多くの現場では「アラート(警告)が出たものの、今すぐ設備を止めるべきなのか、次の定期メンテナンスまで引き延ばしていいのか判断がつかない」というジレンマに陥っています。そこでAssetWatchは、AIが検知した異常を、状態監視技術者(CME:Condition Monitoring Engineer)という“専門家”がダブルチェック。現場がどう動くべきかを、チャットを通じて直接具体的なアドバイスとして届けます。
この“人の手による最終判断”が介在するからこそ、現場は突発的なライン停止に怯えることなく、より確かな判断材料を得られるようになります。
「壊れてから」では遅い――住友電工焼結合金が実感した「早期検知」がもたらす余裕

今回、ブースでは実際の国内導入事例として「住友電工焼結合金」におけるトラブル回避の実態が紹介されていました。
自動車部品などを製造する同社において、大型プレス機のトラブルは生産ラインの停止に直結する大きな問題です。もし機械が突発的に破損してラインが止まれば、復旧まで最低でも2日間は稼働が完全停止し、膨大な機械損失リスクを抱えることになります。同社ではかつて、地下ピット(深い穴)から異音が発生した際、駆動モーターか油圧ポンプのどちらを交換すべきかの判断が困難な状態に直面したといいます。

そこにAssetWatchを導入したところ、目に見える異音や異常が発生する前の段階で、センサーとAIが早期に微細な異常をキャッチ。さらにCMEがデータを分析し、「ベアリングに損傷の兆候が出ています」など、チャットを介して分析結果や保全アドバイスを提供する仕組みを構築しました。

三井情報でNEXT1営業本部 DX第一営業部 部長を務める當眞氏は、こう語ります。
「人の感覚で異変がわかるレベルに達したときには、もう故障の直前、手遅れであることがほとんどです」
早期にアラートを受け取れたことで、住友電工焼結合金の現場は工場の突発停止を防げただけでなく、「ある程度ゆとりを持ったメンテナンス計画」を立てることが可能になりました。この「心とスケジュールのゆとり」こそ、現場のDXがもたらす最大の恩恵と言えます。
ベテラン退職による「技術承継問題」への、現実的な“最後の切り札”
ベテラン技術者の引退が進む中、その知見を次世代へ引き継ぐ難しさは、多くの工場で長年後回しにされがちな問題でした。當眞氏が「言葉は悪いですけど、それがようやく顕在化してきた」と語るように、技術承継の遅れがいよいよ現場の具体的なトラブルとして表面化し始めているのが今の製造業の実態です。
しかも、熟練の職人であっても「立ち入ることすら困難な過酷な現場」や「感覚では捉えきれない極限の領域」は存在します。だからこそ、そうした『人間の限界』をAssetWatchで補うアプローチが、現実的な解決策として注目されています。

実際、同社のセンサーはマイナス40℃から85℃という過酷な極低温・高温環境にも耐えられるタフな設計。冷凍食品の倉庫など、人間が常駐できない現場でも安定して稼働を続けます。さらに、これまでは異常を捉えるのが極めて難しかった「1分間にわずか30回転(30rpm)」という超低回転の機械であっても、確実に見逃さない解析精度を備えています。
これまで職人の「長年の勘と経験」に頼るしかなかったブラックボックスな領域や、人間が立ち入れなかった過酷な現場を、最先端のセンシングとグローバルな専門家集団が24時間体制でバックアップする。これこそが、展示会で実施されたセミナーの事前申し込みが昨年の約2倍に急増した、最大の理由といえます。
チャット画面に見る「温かみのあるデジタル」とこれからの展望

CMEから届くレポートには、専門的な解析波形データが並ぶ一方で、「このパターンからは潤滑不足が疑われます」など、まるですぐ隣にベテランのアドバイザーが立っているかのような丁寧なアドバイスが日本語で記されています。
「ChatGPTのようにAIだけで何でも自己完結させるのではなく、最後に信頼できる『専門家(人間)』がきちんと介在していること。だからこそお客さまに本当の安心感を届けることができる」という當眞氏の言葉には、三井情報がこのサービスに込めた強いこだわりが滲んでいました。

日本上陸3年目を迎え、管理画面の完全日本語化などローカライズもさらに洗練されたAssetWatch。今後は、東京都水道局との実績を武器に、人手不足がさらに深刻な地方自治体の水道インフラ保全などへの展開も期待されています。

「日本のものづくりとインフラを、絶対に止めない」
最先端のテクノロジーの裏側にある、人と人との強い伴走の絆が、これからの日本の現場を支えていくことが期待されます。
<取材・撮影・文/櫻井れき>