「私が生き証人なんです」復員兵の心の傷が子や孫に連鎖する“戦争トラウマ”の実態【報道特集】

TBS NEWS DIG Powered by JNN
2026-08-15 21:53
「私が生き証人なんです」復員兵の心の傷が子や孫に連鎖する“戦争トラウマ”の実態【報道特集】

戦後81年、先の大戦では多くの犠牲者を出しました。
旧日本兵の中には、生き残ったものの心に深い傷を負い、「戦争トラウマ」を抱えた人たちも多くいます。
その「戦争トラウマ」は子や孫の世代にも連鎖しています。当事者の話を聞きました。

【写真を見る】“戦争のトラウマ”から、藤岡さんが取り寄せた軍歴書

“戦争トラウマ”次世代にまで連鎖する苦しみ

戦後、家族にも看取られることなく、静かにこの世を去っていった精神疾患の兵士たち。

彼らが苦しみ続けた“戦争トラウマ”は、次世代にまで連鎖していた。

大阪で小さなカフェを営む藤岡美千代さん(67)は、50年以上経つ今も亡くなった父親の写真を直視することができない。

藤岡美千代さん(67)
「普通に海軍帽をかぶった穏やかな父の写真なんですよ。でもその写真は、私にとったらもう大魔神の父に見えるんですよ」

――今も見ることはできない?
「できないですね、ハンカチに包んでるから何とかここに居てもらえるけど」

藤岡さんの父、古本石松さんは20歳の時、海軍に入隊し、機関兵として航空基地などに配属された。

戦後、3年間のシベリア抑留を経て、故郷に戻った。

「戦争に行く前は穏やかでいい人だった」と親戚中が口を揃えていたが、復員後は酒に溺れ、暴力を振るうようになったという。

藤岡美千代さん(67)
「突然『起立』って言う。『今からみんなで死のう、お父ちゃんと死ぬんだ』父がプロパンガス、栓を開けるんです。そしたらシーって音がする。母がもう半狂乱で…」

一方でこんな時も…

藤岡美千代さん(67)
「窓ガラスが(雨で)ガタガタっていうと『軍隊の足音が聞こえる』とか、『あいつが殺しに来る』って大の大人が部屋の片隅でガタガタ震えて号泣している」

藤岡さんが9歳の時、両親が離婚。その年の暮れ、父親は亡くなった。自殺だった。

20歳になり、保育士として働きはじめた藤岡さん。だが父親の暴力の記憶は消えず、突然フラッシュバックに襲われることもあった。

藤岡美千代さん(67)
「ミストが駅を出た時にシーって聞こえた。一瞬にして5歳6歳の自分に戻って。お父ちゃんがガスをひねったと思って」

そんな藤岡さんの気持ちを変えたのは3年前の2023年。同じように父親の戦争トラウマに苦しむ人たち、「PTSDの日本兵家族会・寄り添う市民の会」との出会いだった。

父親のことを知りたくなった藤岡さんは、役所から軍歴書を取り寄せた。すると、千島列島の航空基地で過酷な任務に就いていたことがわかった。

藤岡美千代さん(67)
「アメリカの艦砲射撃にあったり、トラックで味方に物資を運んでいる時にも、部下たちがやられながら何とかかいくぐって、生き残った罪悪感でわーってやってしまう」

世代を超え苦しめる生きづらさ 孫まで連鎖する“戦争トラウマ”

“戦争トラウマ”の苦しみは世代を超え、子どもからさらに孫にも連鎖している。

旧日本軍兵士の孫、石井みきこさん(41)は2023年、医師から「複雑性PTSD」と診断され、今も自宅に引きこもる生活を続けている。

石井さんは幼い頃、母親に暴力を振るう父親の姿をよく目撃したという。

石井みきこさん(41)
「いわゆる面前DV(母親への暴力)。いつ暴力が起こるかわからない緊張状態は無意識ながらもあった」

父親の暴力は、幼い石井さんにとって恐怖でしかなかった。その気持ちは大人になっても拭いきれず、生きづらさに苦しみ続けた。

そんな中、親戚との会話で、父親が祖父から軍隊で行うような暴力を度々受けていたことを知った。

石井みきこさん(41)
「連帯責任をとらせて1列に並べて顔をビンタする。祖父は戦後、自分の子供たちに懲罰として行っていたようで」

父親の暴力は、祖父の代から続く“戦争トラウマ”によるものかもしれない。

そう考えるようになった石井さんは、祖父の軍歴書を取り寄せた。
すると終戦の前の年、鹿児島の守備隊で敵の上陸を阻止する決死作戦の訓練を受けていたことがわかった。

石井みきこさん(41)
「祖父が実際にやったことを突き合わせると、すごく腑に落ちた。訓練を受ける軍隊の中で、祖父は心を壊されていたんじゃないかと」

“戦争トラウマ”を研究する専門家は…

上智大学 中村江里 准教授
「重度のアルコール依存症や、精神科での治療が必要な方でも治療を受けていないケースが非常に多い。戦争の影響がいかに長く続くのか」

生きづらさの原因が戦争に由来していると思えたことで、少しずつ気持ちが楽になれた石井さん。

2026年、同じ経験を持つ人たちと悩みを共有するため、戦争トラウマ三世の会「『もやもや』を語る・聞きあう会」を立ち上げた。

こうして語り合うことが、心の支えになっている。

石井みきこさん(41)
「自分の今の生きづらさが、2世代前の戦争から始まった家族の苦しみだとどこにも情報がなくて、正体不明ということほど人を苦しめることはない」

「私たちが生き証人」見過ごされてきた兵士の心の傷

国は戦争が終わっても、兵士たちの精神疾患は大多数が先天性で個人の素質によるものだとして、その存在を認めてこなかった。

だが2023年、家族会の強い要請などにより、戦争トラウマ兵士の問題が国会で取り上げられた。

戦争トラウマ2世の藤岡美千代さん(67)は2025年2月、家族会の仲間たちとともに、戦争で心を壊した兵士たちの実態調査を求めるため、国の担当者と面談した。

藤岡美千代さん(67) 
「私たちが生き証人なんです。本気で父がどんな生き様をしてきたか、あなた方にきちんと分かってほしい」

国はようやく調査を始め2025年7月、国立の戦傷病者史料館「しょうけい館」で初めて概要を公開した。

大戦末期の4年間、戦病者785万人のうち、約8%にあたる67万人が「精神病・その他の神経症」と推計。

だが、この数字は病院などで治療を受けた兵士に限ったもので、一部にすぎない。専門家は…

上智大学 中村江里准教授
「日中戦争から対米戦までの時期を含めたら、もっと増える可能性がある。戦争末期になってくると軍隊自体が崩壊していくので、実態調査というには違うかな」

長年、無かったことにされてきた兵士たちの心の傷。
その解明を望む一方で、父親から受けた暴力は今も許さないと藤岡さんは話す。

藤岡美千代さん(67)
「父がそうならざるを得なかったというきっかけとして戦争はあったけど、だからといって父の暴力は絶対許しちゃいけない。私はそれを許さないと言い切るのはあの戦争も許さないってこと」

「戦争は駄目」106歳の戦争経験者を苛む記憶

先の大戦で悪名高い「インパール作戦」を戦った佐藤哲雄さん(106)。9月には107歳の誕生日を迎えます。

インタビューは3時間近くに及びました。佐藤さんが戦争体験を語り出したのは、実は最近のことです。

――戦争から帰ってきて戦争の話をしなかったのはなぜ?

佐藤哲雄さん(106)
「言ったって無駄だから言わねえ。わからない。言って聞かせても。自分たち苦労してないからわからない」

何度も死線を彷徨った佐藤さん。ただ、そのつらさを口にすることはありませんでした。

心に秘められた過酷な体験。同居する家族はこう話します。

哲雄さんの義娘 佐藤くに子さん
「取材受けたあとに、亡くなった人が夢の中に出てきたりとか。うなされる時もやっぱりあった。声だして『助けてくれ』と言う声も聞いたことあります。本人は生きてきたことがね、自分の弱みを見せないと言うかね」

多くの犠牲者を出し、生き残った者や後世にも深い心の傷を残した先の大戦。

佐藤さんは、こう繰り返した「駄目だ。戦争は駄目だ」と。

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