食料品の消費税減税は“値上げの機会”か…「下げられない」商店の悲鳴と高市総理“見切り発車”に揺れる財務省 2年後には“未曾有の大増税”か

政府は来年4月から、食料品の消費税を1%に引き下げ、残り1%分を低中所得者に給付することで、食料品の消費税を『実質ゼロ』とする方針を閣議決定した。今後は秋の臨時国会に税制改正関連法案を提出し、成立すれば、1989年の消費税導入以降、初めて税率が引き下げられることになる。
高市総理はかねてから、食料品の消費税減税について「国家の品格」「私自身の悲願」と述べるなど、実現に極めて強い意欲を示しており、今年2月の総選挙では自民党の公約に「検討を加速する」と明記して、大勝を収めた。
しかし、選挙後に行われた与野党の超党派の国民会議では、課題が次々と指摘された。
例えば、「税率差に伴う外食の客離れ」「お金持ちほど減税効果が大きい」「減税分ほど税込価格が下がらない」「レジシステムの改修にコストがかかる」「財政悪化の懸念から円安が進んで結果として物価が上がってしまう」など挙げればキリがない。高市総理はこうした膨大な懸念を抱えたまま、消費税導入以来初めての減税を「見切り発車」した格好だ。
「値下げできません」商店の悲鳴と不透明な減税効果
「税・社会保険料負担や物価高に苦しんでおられる中低所得の方々の負担軽減というのが現下の最重要課題だ」
閣議決定後の会見で高市総理は減税の意義を強調した。
しかし、街の商店を取材すると反応は冷ややかだ。円安や中東情勢で食材や包装資材が高騰しているなか、店主は減税された場合でも「罪悪感を感じるが、値下げはできない」と切実な胸の内を明かす。店側にとっては、人件費などのコストも上がるなかで、減税のタイミングは、本体価格の値上げに踏み切る機会と映る。
過去にドイツで減税が行われた際にも、本体価格の値上げが同時に行われ、「減税効果」は7割程度だったとの調査結果もある。数々の副作用を押し切って導入される減税が、肝心の物価高対策として機能しない懸念がくすぶる。
一律の減税は高所得者ほど恩恵
「キャビアや松茸を買うような富裕層にまで減税が必要なのか」、ある財務官僚は憤りを隠さない。税金の重要な役割の一つに「所得の再分配」、つまり富める者から貧しい者にお金を移し、その差を埋める機能があるが、一律の減税というのはこうした税金の機能を弱め、貧富の差を拡大させることになりかねない。
実際に、食料品の消費税が現在の8%から1%に減税された場合、理論上どれくらい家計の負担が減るのか、総務省の家計調査のデータを元に試算すると、年収200万円以下の世帯では年間約4万円の負担軽減にとどまる一方、年収1500万円を超える世帯では約7万7000円の負担軽減となることが分かった。購買力のある富裕層ほど、減税の恩恵を多く享受する矛盾が浮き彫りになる。
自民党内からは「一体誰のための政策なのか」と冷ややかな声があがるが、総理の強い意向の前に議論は封じられている。
財務省の説得も虚しく「聖域」に穴
食料品の消費税減税を掲げて、2月の総選挙で自民党が圧勝した直後、財務官僚は「消費税減税ではなく、低中所得者に絞った『給付付き税額控除』に着地させたい。それが高市政権の長期安定にもつながる」と強い矜持を示し、なんとか総理を説得したいと話していた。
しかし、減税は「国民との約束だ」と位置付ける高市総理の決意は揺るがなかった。減税の方針が決まった瞬間に、先の官僚は「本当に決まってしまった。何のために今までやってきたのか」と力なく肩を落とした。
それは財務省にとって、消費税がいわば「聖域」だったからでもある。社会保障の財源として、1989年に導入されて以来、時には政権の命運をかけながら増税を行ってきた。今や消費税は所得税や法人税の基幹3税のなかで最も税収が大きく、安定的な税収を支える屋台骨を崩された衝撃は計り知れない。
そもそも消費税は、簡単には上げ下げできるものではない。レジシステムの改修も必要になるし、実施前後の「駆け込み需要」や「反動減」など経済的なデメリットも大きい。短期間での上げ下げとなれば、経済への影響はなおさら甚大で、減税で一時は生活が楽になったとしても、中長期的には国民ひとりひとりが悪影響を被ることになりかねない。
物価高に伴う国民の不満を読み取れず「減税ブーム」に火
もっとも、財務省側に反省点がないわけではない。
2022年以降、日本でも2%を超える物価高に見舞われた。物価が上がれば支払う消費税の額は自動的に増える。さらに、収入が増えるほど税率が高くなる「所得税」の仕組みのもとでは、せっかく給料が上がっても多くの所得税を支払わなければならず、一向に「手取り」が増えない。国民の間でじわりと痛税感が高まっていった。
こうしたなかで、国民民主党の「手取りを増やす」政策が働く現役世代を中心に支持を集めていった。国民民主党はいわゆる「年収の壁」の引き上げや「ガソリン暫定税率」の廃止を掲げて躍進、「減税ブーム」の火付け役となった。
「物価高に対する税制上の手当てが遅れたことが、すべての引き金だった」と財務官僚は反省気味に顧みる。
2024年の総選挙で衆議院が少数与党になると、財務省はいわゆる「年収の壁」への対応による所得税減税や「ガソリン暫定税率」の廃止を次々と受け入れていった。それは「虎の子の財源である消費税を守るためでもあった」と財務官僚は振り返る。社会保障の財源である消費税は聖域であり、減税の火がつくことは何が何でも避けなければならない。そのためにできることはすべてしてきたということだ。
しかし、一度火がついた減税を求める世論の渦を止めきることはできなかった。
年間5兆円の財源は?「赤字国債に頼らない」の実現性は?
食料品の消費税減税で穴があく財源は年間5兆円。
高市総理は「市場の信認が得られるように、赤字国債に頼らず確保する」と強調し、租税特別措置と呼ばれる特定の業界への優遇税制や補助金、基金の廃止も含めて、歳入と歳出両面の見直しを進めるほか、税外収入も活用するとしているが、計22回も行われた国民会議の実務者会議でも、具体的な財源の裏付けは提示されていない。
財務官僚からは「年末まで具体的な代替財源は決まらない」という声が聞こえる。
それは、来年度の予算が「責任ある積極財政 元年」と位置付けられていることに起因する。片山さつき財務相は「戦後最大の予算編成改革」と強調、これまでの補正予算に依存した予算作りから脱却し、大胆に投資を加速させる方針を示している。
2040年までに官民で370兆円規模の投資を目指すなかで「成長投資」や「危機管理投資」にどれくらいの予算をつけるのか、また、安全保障環境が厳しさを増すなかで、防衛費をどの程度増額するのかなど、歳出面での膨張圧力が大きく、本当に消費税減税の代替財源を確保できるかは見通せない。
仮に、消費税減税の代替財源を見つけても、代わりに成長投資の財源を全て赤字国債に依存するような状況になれば、それでは本当の意味で「赤字国債に頼らない」とする約束を果たしたことにはならないだろう。マーケットは財政悪化の要因とみなし、円安が加速、せっかくの減税がさらなる物価高を誘発することにつながりかねない。
さらに言えば、年間30兆円程度の赤字国債が発行されるなかで、財政的な余裕はないのが実情だ。
「2年後に7%引き上げ」という途方もないハードル
「2年後には私が責任をもって確実に税率を元に戻す」高市総理は『2年限定』の時限措置であることを強調する。
この発言を受け、財務省幹部は「これで私たちは何が何でも2029年4月まで高市総理を支えないといけなくなった」と皮肉をこめて語る。
予算編成権や税制などを一手に握り、最強官庁と言われてきた財務省だが、トップダウンで決まる高市政権の前では「口を挟む余地のない弱小官庁として振る舞うしかない」のが現実だという。
そして2年後については「高市総理は言ったことは絶対曲げない。本気で2年後には税率を元に戻す気だ」と財務省幹部は分析する。
ただ、1%から元の8%に戻すというのは7%の増税を行うことに他ならない。消費税増税としては未曾有の大増税だ。これまでは3%→5%→8%→10%と2~3%ずつ引き上げてきたが、その度に深刻な消費の冷え込みを招いてきた歴史を鑑みれば、7%引き上げのショックは日本経済にとって未知の領域だ。
だからと言って、1%をダラダラと続ければ、日本の財政規律への信認は失墜し、マーケットからの猛烈な円安圧力が襲いかかる。
未来がどうなっているかは誰にも分からない。2年後の政治・経済情勢はどうなっているのか、そしてその時の総理はどのような判断を下すのか。
日本経済は「消費税減税と増税」という火種を抱えて走り出すことになる。
TBS報道局経済部 蓮井啓介