脚本家・生方美久が紡ぐ金曜ドラマ『Tシャツが乾くまで』ジャンルにとらわれない物語への挑戦【ドラマTopics】

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2026-08-20 17:00
脚本家・生方美久が紡ぐ金曜ドラマ『Tシャツが乾くまで』ジャンルにとらわれない物語への挑戦【ドラマTopics】

「ど真ん中ストレートな不倫を題材にした作品は書けないと思った」――そう話すのは、TBSで現在放送中の金曜ドラマ『Tシャツが乾くまで』の脚本家・生方美久さんだ。

【写真で見る】金曜ドラマ『Tシャツが乾くまで』場面写真

生方さんは、2021年に脚本家デビュー。2022年には初の連続ドラマ『silent』(フジテレビ系)を手がけ、第31回橋田賞新人賞など数々の賞を受賞。その後、『いちばんすきな花』(2023年・フジテレビ系)、『海のはじまり』(2024年・フジテレビ系)でも大きな話題を集めてきた。TBSドラマの脚本を執筆するのは今作が初となる。

放送前、あらすじも登場人物の関係性も明かされなかった本作。放送が始まると、「謎が多い」という声と共に、「面白い」という声が続出。無料見逃し配信の再生数が金曜ドラマ枠の歴代記録を塗り替えるなど快進撃を見せている。

現在第6話まで放送されたが、物語が進むにつれて典型的な「不倫ドラマ」ではないことが浮き彫りになってくる。生方さんらしい、登場人物たちの緊密な心理戦によって、視聴者に突きつけられた“人と人のつながりの定義”。

なぜ今作はこのような物語になったのか。生方さんがドラマを通して見せたかったこと、伝えたい思いを聞いた。

ジャンルが分からないボーダーレスなドラマ

生方さんの作品は、日常のささいな出会いやありふれた会話、リアルな人間関係、繊細な心の内などを描き、見る者の心を揺さぶる。これまでの作品でも、過度なドラマチック要素や大きな陰謀といったものは取り入れていなかった。そんな中、今作のテーマの一つとして提示されたのが、“不倫”だったという。

「最初に参考として挙げてくださった作品が、結構ど真ん中ストレートな不倫を扱ったドラマだったんです。それは書けないなと思って。でも同時に、いただいたテーマに応えて脚本家としての能力を培っていかないと、みたいな葛藤がありました」

それならば、どのような切り口なら書けそうか話し合っていく中で、「不倫をしたと思われる当事者が不在なら書けるのではないか」となった。次第に物語の輪郭が見えてくるが、これまで書いたことがない初めてのジャンルに不安もあったそう。

「これなら書けるかなと糸口を探していく作業は、すごく勉強になりました。おそらく、いわゆる“不倫もの”というジャンルではなく、“不倫なのか?”みたいなことを描いた、そんなドラマになったと思います」

一般的に不倫を題材にしたドラマというと、愛憎劇や復讐劇、サスペンスが定番だ。しかし、本作はたしかにこれらには当てはまらない。園田樹生を演じる中島歩さんも「ラブストーリー、サスペンス、ミステリーといったジャンルにははめ込まないで見ていただけたら。全部裏切っていきますから」とコメントしているが、生方さん自身も「ジャンルがよく分からない、それがいいことかは分からないですけど。そういうものにたどり着けたのは、勉強にもなりましたし、いい経験でした」と語る。

どこからが不倫なのか――人によって変わる価値観

物語は、瀬尾咲子(演:蒼井優さん)の夫・充(演:松山ケンイチさん)が、近所に住む園田樹生の妻・あずさ(演:夏帆さん)とバス事故に遭ったことから展開していく。死亡したあずさと行方不明の充との不倫を疑った咲子と樹生は、協力して二人の関係を調べていく。分かったことは、第3金曜日にコインランドリーで会っていたということ。

二人きりで会って話すことが不倫と言えるのか。生方さんとスタッフは、打ち合わせのなかで自然と「どこからが不倫なのか」という議論になった。

「たとえ肉体関係がなくても、毎月決まったところでお互いのパートナーに黙って会っている時点で不倫だと言う人ももちろんいると思うんです。だからこそ、充とあずさが『不倫じゃありませんでした』と主張すれば終わる話ではないと思います」

しかし、誰しも「人によって見え方が違う関係性」を感じることは実生活においてあるのではないだろうか。「多分いろいろ議論を呼んでいると思います。その上で、『あれは不倫でしょ、不倫じゃないでしょ』という話題を楽しんでもらえれば」と生方さんは続ける。

第6話では、充が咲子と樹生に対して、「どうして二人は不倫じゃないって言いきれるんですか」と問いかけるシーンがある。第5話までは、咲子と樹生に感情移入し、この二人を不倫の“サレ側”として見ていた視聴者も多いだろう。

でも、充から見たら……?

生方さんは言う。「それって多分言われないと気づかないことなんです。見方によって関係性が変わるというのは、今作でやりたかったことの一つです」

「自分よりも不幸な人を見たい」という心理

これまでの物語を振り返ると、ハッとさせるセリフが数多くある。例えば、第4話の「不幸になった人がずっと不幸でいてくれないと困ることでもあるんですかね」という咲子のセリフ。樹生と花火を見る前の会話だ。

このセリフは、夫が行方不明の妻、妻を亡くした夫、という目で見られることを気にして、自分の感情を出せずに苦しむ心情が表れた言葉だ。「世間」が求める“正しい”遺族・被害者の姿についての、生方さん自身の思いも込められている。

「妻を亡くした夫が再婚したと知ると、世間にはそれを非難する人もいる。不倫したわけでもなく、その後出会った人と恋愛して結婚しても、何も悪いことではないですよね。他人なのだから『よかったね』となればいいだけの話に、なぜか『亡くなった奥さんがかわいそう』みたいな意見が出てくる」

匿名で発信できることもあり、SNSではさまざまな過激な意見が飛び交うことは実際にある。

「その考え方も分からなくはないですが、それを本人に投げかけるのは、違うんじゃないかと。人って、不幸に対して『かわいそう』と言いたいんですよね」

生方さんが過去に描いてきたドラマでも “かわいそうなキャラクター”は人気があったそうだ。しかし、そのキャラクターに少しでもいいことがあると、今度は人気が落ちる。“かわいそうだと言いたい”心理を、これまでのドラマの反響からも感じていた。

自分よりも不運、不幸な人と比べることで安心感や幸福感を高めることを心理学で「下方比較」と言う。生方さんはこのことについて、「自分のメンタルを保つための処世術だと聞いたことがあります。ただそれを人に向けてはいけないのではないでしょうか」と話す。

「咲子のセリフ一つで、そうした攻撃的なことをする人の意識を変えることはできません。ハッとする人がいたらラッキーくらいの感覚です」

簡単なことではないと分かっている。けれどどうしても伝えたいという思いが、咲子のセリフには詰まっている。

テレビドラマならではの魅力を感じてほしい

ドラマの情報解禁時、生方さんは「テレビドラマの可能性を信じ続けたい」と話していた。小さい頃からテレビドラマが好きで、今でもかなりの数のドラマを見ているというが、配信が当たり前の時代、テレビドラマならではの魅力をどこに感じているのか。

「日本のテレビドラマは、オールドメディアだと揶揄(やゆ)されることもありますが、海外に向けた作り方をしたコンテンツとは別でいいと私は思っています。見逃し配信もありますが、本当に楽しみにしてくれている方は、リアルタイムで見てくださると思うので、週に1回、1話ずつ放送されるところに特別な良さがあります」

さらに「よくよく考えると、お金をかけずに見られるってすごいこと」と付け加える。映画でも大人2,200円ほど、サブスクで見るにしても費用がかかる。「無料でこのクオリティの作品が見られるのは十分すごいことだと思います」とも語る。

放送ラストには必ずといっていいほど予想外な展開と次週への期待をあおる本作。週1回、決まった時間に放送されるテレビドラマの“特別”感を大事にしている生方さんだからこそ書ける脚本の力が、視聴者の心を動かしている。

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