「女性活躍推進」が浮き彫りにする“日本型雇用の限界”と“女性優遇”のジレンマ 見えた人手不足の現場のリアル【東京都条例施行から1か月】

TBS NEWS DIG Powered by JNN
2026-08-23 10:00
「女性活躍推進」が浮き彫りにする“日本型雇用の限界”と“女性優遇”のジレンマ 見えた人手不足の現場のリアル【東京都条例施行から1か月】

男性が大半を占めてきた仕事現場に、いま、変化の波が押し寄せている。きっかけとなったのは、東京都が今年7月に全国で初めて施行した「女性活躍推進条例」だ。企業が建設現場に女性専用トイレを設置したり、工場着の仕様を見直したりするなど、女性が働きやすい環境整備に乗り出している。

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深刻な人手不足の現場が進める環境整備と、行政による後押し。なぜ、いま、これほどまでに女性が働きやすい環境整備が求められているのか。現場の実例と東京都の動き、そして専門家の分析から、「女性活躍推進」をめぐる現場のリアルと、その背景にある課題を追った。 

深刻な人手不足の現場で進む「当たり前」の見直し

巨大な重機が音を立てる建設現場。東京・石神井川では氾濫を防ぐための護岸工事が行われていた。現場責任者として作業員たちにテキパキと指示を出すのは、巴山建設の積香晨音(せき・ことね)さん(25)だ。

高齢化と若手不足が著しい建設業界で、巴山建設は「女性が働きやすい環境づくり」を人材確保の切り札に据えた。現場には男性用とは離れた場所に「女性専用トイレ」や「女性専用休憩室」を整備。積さんはこうした取り組みについて「女性の就業意欲を促進させるための大事な仕組み」だと強調した。 

同社社長の巴山一済さんも「性別問わず、誰もが働きやすい環境をつくることが会社の生き残りにつながる」と語った。

また、大手医療機器メーカーの「テルモ」では、工場着のズボンを30年ぶりに「白」から「紺」へ変更した。下着の透けや月経漏れに対する女性社員から強い不安の声があがったためだ。マタニティ用の工場着も新設した。

改革を推進した、常務経営役員の八木宏さんによると、社内では、これまでの習慣に慣れた一部の社員からは変更に困惑する声もあがったという。しかし「いままでのやり方を変えない理由にはならない」と判断した。

工場着の改革を進めた結果、現場からは「下着の透けや月経の漏れを気にせず、仕事に集中できた」などとポジティブな意見が広がり、社員が安心して働き続けられる環境が整ったという。

全国初・東京都「女性活躍推進条例」とは

こうした現場の背中を押す枠組みとして、東京都が全国で初めて施行したのが「女性活躍推進条例」だ。この条例は、企業に対して、女性が能力を発揮しやすい環境づくりを促すもので、具体的には次のような取り組みが示されている。

【条例で示されている主な取り組み】
●採用・登用の見直し:女性従業員の割合が4割を下回る職種での積極採用や、採用試験における面接官の性別偏りの解消
●環境整備:男女別の更衣室やトイレなどの整備
●働き方の支援:育児や介護と両立しやすい職場環境づくり

この条例自体に罰則規定は設けられていないが、東京都は実効性を高めるために、莫大な関連予算を投入している。

工事現場の女性専用トイレやロッカーなどの設備整備費用として、最大500万円を助成するほか、女性役員の登用などの一定の条件を満たした企業に対して、最大180万円の奨励金を支給するなど、資金面からも現場改革を強力に後押ししている。

支援の手厚い条例も……中小企業が直面するリアルな壁

このように手厚い助成で現場の改革を促す東京都だが、受け止める企業側の反応は様々だ。都内で清掃業を営む企業の担当者は、「女性社員が増えて人手不足が解決できる保証があるなら、素晴らしい条例だと思う」と期待を寄せる一方で、導入に向けたハードルの高さも口にする。「いくら助成金が出るとはいえ、資金や人員に余裕がない中小企業が一気に設備や環境を改善するのは現実的に難しい」と本音を明かした。

さらに気になると語ったのが、「女性専用」という言葉の打ち出し方だ。女性専用トイレの整備などが強調されると「女性ばかり優遇されている」と捉えられてしまわないかと困惑を示していた。 

企業が人手不足解消や定着のために進める切実な環境整備が、なぜ「女性優遇」のように受け止められてしまうのか。そこには、日本社会が長年抱えてきた労働構造の歪みが存在していた。 

東京都「女性活躍推進条例」の背景にある日本型雇用の限界 

東京都の条例施行について少子化問題などに詳しい茨城大学講師の笹野美佐恵さんは、議論の前提に「日本の伝統的な雇用構造」に目を向ける必要性を指摘する。

笹野さんによると、これまでの日本企業は、長時間労働や転勤に柔軟に対応できる「男性正社員」の働き方を標準とみなし、職場制度を形づくってきた。そのため、妊娠・出産や育児、介護などによって時間や勤務地に制約のある人は、標準的な働き手として想定されにくかった。

正社員や将来の管理職候補である「総合職」を占める女性の割合は依然として低い。厚生労働省の「雇用均等基本調査」を見ても、「総合職」を占める女性は約2割強にとどまるなど、キャリア形成の男女差は大きい。さらに、税制や社会保険、企業の家族手当なども「夫に扶養される妻」を前提とした仕組みが残っている。そのため、出産や育児などで一度キャリアを離脱した女性は、再就職時に非正規雇用となるケースが多く、女性がキャリアを築くことを構造的に難しくしてきたと、笹野さんは分析する。

男性中心の古い組織から脱却し「同じスタートライン」へ

この日本の「雇用」の仕組みは、若い労働力が豊富だった高度成長期には、一定の合理性があった。企業は若い男性社員を低い賃金で大量に採用し、「将来給料を上げる」という約束のもとで長時間労働や転勤を受け入れさせ、成長を遂げてきた。その背景には、家庭で妻が家事や育児を担い、夫の働き方を支えるという性別役割分業があった。

しかし、少子高齢化が進み、人口ピラミッドが逆三角形となった現代において、この仕組みは限界を迎えていると笹野さんは指摘する。かつての成功体験に縛られ、意思決定層が男性中心の古い価値観のまま固まっている組織では、深刻な人手不足に対応できないばかりか、多様な視点が意思決定に反映されにくく、組織の変化への対応も難しくなると笹野さんは警鐘を鳴らす。

こうした停滞した構造を打ち破るために、今回の「女性活躍推進条例」のような行政の枠組みが果たす役割は大きい。

笹野さんは、長年続いてきた職場の慣習や固定観念を企業単体で変えるのは容易ではないとしたうえで、「これまで『男性社員の働き方』を標準としてきた職場の条件を見直し、誰もが「同じスタートラインに立てる」ようにする。そのための明確なルールを社会全体で示すことこそが、性別問わず誰もが活躍できる環境づくりの第一歩となる」と条例の意義を強調した。

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