相次ぐ倒木、熊の出没被害…背景に130年前の“国家計画の限界” 東大教授が提言する縦割り行政の闇と「自分さえ良ければ」からの脱却

TBS NEWS DIG Powered by JNN
2026-09-06 06:00
相次ぐ倒木、熊の出没被害…背景に130年前の“国家計画の限界” 東大教授が提言する縦割り行政の闇と「自分さえ良ければ」からの脱却

街中の公園で相次ぐ倒木や、山中での野生クマの出没被害。一見、別々の話だが、実は「日本人が森と川の手入れを人任せにしてきたこと」という共通の根底が存在する。
東京大学大学院教授で「富士癒しの森研究所」所長を務める蔵治光一郎(くらじ・こういちろう)教授は、「私たちが当たり前だと思ってきた『自然放置』や『森と川をバラバラに扱ってきた縦割り行政』が裏目に出始めた」と警鐘を鳴らす。
蔵治教授に、私たちが直面している「本当の環境危機」について話を聞いた。

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「放っておけば木は倒れる」人間が山から“撤退”したツケ

――最近、街中や公園で大きな木が倒れたり折れたりするニュースが増えています。

蔵治教授

「木は本来、どんどん大きくなっていく生き物です。しかし、いずれは寿命が来ますし、病気や虫に侵されたり、風で倒れたりします。木が小さいうちは倒れても被害が出ないためニュースになりませんでしたが、大きくなった木が、何かの原因で倒れて騒ぎになっているのが現状です」

「公園などの管理者が大きくなった木をそのままにしたいのであれば、立ち入り禁止区域を設けるか、倒木のリスクをこまめにチェックするしかありません。『大きな木には潜在的なリスクがある』という認識を、人間側が持たなければならない時代に来ています」

――各地で相次ぐクマなど野生動物による被害も、同じ根っこにあるのでしょうか?

蔵治教授

 「野生動物は非常に賢いです。何千年も前から人間と折り合いをつけながら生きてきました。数十年前までは山際で人間が活発に活動していたため、『人間に近づくとロクなことがない』と動物の側が引き下がっていたんです」

「しかし今、人間が都市に集中し、山の手入れや農業をやめてしまい、山際から“撤退”しました。すると動物たちは『昔人間がいたエリアまで進出しても構わないらしい』と学習した。根本的に対抗するには、人間側がある程度、その領域を押し戻さなければ防げません。山に入って手入れをしたり、人の気配をアピールし続けたりしなければ、なめられ続ける一方です」

森の“放置”が川を殺す? 「山に木を植えればいい」の限界

――日本の森はかつて大量に植林され、長年放置されてきました。この問題が、川にも悪影響を与えていますか?

蔵治教授

「実は、水循環の観点からは、森と川は完全にセットです。明治政府以来、日本は行政の縦割りで森と川をバラバラに扱ってきましたが、水の源は森に降る雨です」

「例えば、よく『環境のために植林しよう』と言われますが、実は過去に植林した木が大きくなってくると、逆に川の水を減らしてしまう懸念があります。木の葉の量が多くなればなるほど、根からたくさん水を吸い込み蒸散します。また木が大きくなればなるほど、葉や幹などに雨水が付着する量も増え、大量の水を蒸発させるからです。川の水の量が減れば水温が上がりやすくなり、冷たい水を好む魚などの生き物にも悪影響が及びます」

――“植林”よりむしろ「木を切る」ことが川を救うと?

蔵治教授

「山を壊さないように気をつけながら適度に木を切って、賢く利用していくことが、川に十分な水を流し、水温を下げることに繋がる可能性があります。今、全国各地の川で魚など生き物の減少が問題になっていますが、山で林業が行われなくなり、水量が減って水温が上がったことも悪影響を与えているかもしれません。植林というと素晴らしいイメージを私たちは抱きますが、そもそも何のために植えるのか。植えた木が大きくなるまでの50年間、責任をとれるのか。山に木を植えるのは、パフォーマンスになりがちです。今の日本に必要なのは、むしろ適切に木を切り、積極的に使っていくことではないでしょうか」

“ひたすら早く流す”治水の限界と、縦割り行政から抜け出せない闇

――日本の川の形そのものも、昔とはガラリと変わってしまいました。

蔵治教授

「今の日本の川は、排水路のように人工的になりすぎてしまいました。『大雨が降った時に早く水を海に流そう』という河川管理の法律に基づき、まっすぐで平らな川を作ってきたからです。その結果、川から多様な生息環境が失われ、その面でも生き物が棲みにくくなりました」

「私が今熊本で関わっているプロジェクトでは、専門家たちが『早く流すポリシーから、あえて上流でゆっくり流すポリシーへ変えよう』と提言しています。あらかじめ溢れてもいい場所を用意し、上流で水を吸収させれば、大雨のときに下流への水の流れを遅らせることができます。しかし、国の河川整備の根本的なルールはなかなか変わりません」

――なぜルールの変更が難しいのでしょうか?

蔵治教授

「国も従来型の対策には限界があるとして、2021年に“流域治水”、2024年にはさらに発展させた“流域総合水管理”という新しい考え方を打ち出しました。しかし130年前に作られた治水三法=森林法・河川法・砂防法という3つの法律の基本的な構造を変えることはできていません。法律の名前に象徴されるように森と川はバラバラ。まさに縦割りです。まず自然界の水循環があり、それを踏まえた全体計画を立ててから、実現する手段として個別計画を立てるのが本来あるべき姿です。しかし130年前、水循環の全体を見ずに最初からバラバラに個別対応すると決めてしまい、あまりにも長く続けてきたので、構造を大きく変えるのがとても難しくなっています。法律の構造を変え、それに合わせて組織や予算を変えられないと、せっかく新しい考え方を打ち出しても、机上の空論に終わってしまいます」

「自分さえ良ければいい」を脱し、森や川にもっと関心を

――こうした日本の自然と社会に対して、私たちはどう向き合っていくべきでしょうか?

蔵治教授

「戦後の日本社会は、経済的合理性と利便性、プライバシーを追求し、都会に人口を集中させてきました。しかし、ライフラインが絶たれた時、一番弱いのはそうした高密度な都市です。『自分さえ良ければいい』という都市型の暮らしを、今後何百年も持続できるわけがありません」
「山に入るとき、すべて管理者の責任にするのではなく、自己責任で自然と向き合う文化を取り戻すこと。そして、都市に閉じこもるのではなく、もっと森や川に関心を持ち、適度に手入れをして使っていくこと。それが、次の世代にこの森や川の恵みを渡す唯一の方法です」

不都合な真実から目を背けず、人間と自然の「本当のサステナブル(持続可能)な関係」とは何かを問いかける蔵治教授。その蔵治教授も取材協力したドキュメンタリー映画をモチーフにしたTBS DOCSの舞台「サステナドール」の上演が決まった。まもなく幕を開ける。

執筆:川上敬二郎
TBSテレビ 創域報道本部報道局編集部報道コンテンツ戦略室

社会部記者、「報道特集」ディレクター、「news23」編集長などを経て現職。2003年4~6月、アメリカ各地の放課後改革を取材、友人と2005年「放課後NPOアフタースクール」を設立(2009年NPO法人化)。「TBSドキュメンタリー映画祭2024」で監督を務めた「サステナ・フォレスト〜森の国の守り人たち〜」を上映。この作品をモチーフに生まれた、舞台『サステナドール』が上演される。

映像と演劇が交錯する新感覚のステージで、現代人が見落としてきた「森と人の再生」を描く。主演は猪野広樹。

作品:『サステナドール』(脚本・津村有紀、演出・寺本晃輔)
日程:2026年10月16日(金)~20日(火)
会場:赤坂RED/THEATER
作品詳細・チケット情報は「TBS DOCS」公式サイトまで

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