「環境問題への若者の関心が根源的になった」東大教授が指摘する意識の変化 開幕した舞台「サステナドール」に多数の若者 森の荒廃を描いたドキュメンタリー映画と人間ドラマの交差点へ

温暖化も影響した極端な気象による被害が全国各地で発生したこの夏。東大の蔵治光一郎(くらじ・こういちろう)教授は、環境問題への若者の意識の高まりを感じている。そんな中、10月16日、森の荒廃を扱ったドキュメンタリー映画と人間ドラマが融合したTBSの舞台「サステナドール」が開幕し、多くの若者らが都内で鑑賞した。
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舞台のモチーフとなった映画に出演した東大・蔵治教授
蔵治教授も出演し、今回の舞台のモチーフとなったのは、ドキュメンタリー映画「サステナ・フォレスト 森の国の守り人たち」。終戦後の「拡大造林」で植林され続けたのちに放置されて不健全になった日本の森の再生について描いた映画だ。
こうした環境問題は舞台の題材の一つではあるが、蔵治教授の映像は舞台でも登場する。蔵治教授は、東京大学大学院教授で山中湖畔にある「富士癒しの森研究所」で所長を務めていて、長年、授業や研究、フィールドワークを通して多くの若者たちと様々な交流を続けてきた。最近、若者たちの意識の変化を感じているという。
「保護」から「生き方の問い」へ——若者たちの変化
ーー先生は大学で学生たちと接していて、最近の若い世代の意識の変化を感じることはありますか?
蔵治教授
すごく感じますよ。環境問題への関心が全体的に高まっていますが、昔の学生とはアプローチの質が違います。
昔は「森林破壊を防ぎたい」「環境悪化を止めたい」という、いわば保護・保全的な思想が中心でした。でも今の若者はもっと根源的です。
ーー根源的というと?
蔵治教授
「そもそも自分たちはどうやって生きていけばいいのか?」「これから水やエネルギーや食べ物が手に入る保証はあるのか?」という、自分自身の存在や生存に対する切実な問いから始まっているんです。使いすぎの現状を見つめ直し、「人間と自然の本来の関係」や文化といった精神的な深みにまで感性を伸ばしている学生が増えていますね。
ーー舞台「サステナドール」の主人公たちが直面している葛藤と似た側面もあります。
蔵治教授
私の研究所でも、メンタルを病んでしまった人が山で作業しながらセルフケアすることを想定した教育プログラムを学生に提供しています。癒やしというのは、単にリラックスすることだけではないんです。同級生と協力して落ち枝を集める。黙々と薪を割る。仲間とたき火を囲む。そうした自然の中での無心な作業、仲間との協力が、傷ついた心を再生させ、結果として森も美しく整っていく。人間と森が相互に癒やされ合う関係がそこにはあります。
若い世代の観客に自然と環境問題について話を聞くと「アウトドア好きですけど、今年は都市部でも水害があり、貴重な自然が突然怖い存在になることを身近に感じます」との率直な声や、「環境意識は他人に押し付けるものではなく、気付いた人が少しずつ輪を広げていければ良いのでは」といった前向きな意見も聞かれました。また金融機関で働く人からは「トランプが大統領になってからESG(環境Environment、社会Social、ガバナンスGovernance)は特にアメリカで完全に下火かなと感じます」と危機感を見せていました。
「生きるために本当に必要なものは何か」
ーー舞台『サステナドール』を観終えた皆さんも、劇場を出たあとに見える景色が少し変わっているかもしれません。私たちが普段飲んでいる一杯の水も、食べる魚も、すべては上流の森と川の循環から運ばれてきたものです。
蔵治教授
壮大な問題を語る前に、まずは身近な行動で良いんです。都会の近くにある森や雑木林に足を踏み入れてみる。どんな木が生えていて、水がどこへ流れているのかを感じてみる。自然に触れ、「生きるために本当に必要なものは何か」を考えるきっかけにしてほしいですね。
今夜(16日)開幕した舞台『サステナドール』(脚本・津村有紀、演出・寺本晃輔)は、20日まで、赤坂RED/THEATERにて上演が続く。
*蔵治光一郎(くらじ・こういちろう)さん
東京大学大学院教授で山梨県山中湖村にある東大演習林「富士癒しの森研究所」所長。専門分野は森林流域管理学。森林と水、土砂とのかかわりについて自然科学的に研究すると同時に、森林と人、水と人とのかかわりについても、歴史、制度、経済、価値、社会的な観点から研究している。最新刊は『長良川のアユと河口堰 川と人の関係を結びなおす』(蔵治光一郎編著、農山漁村文化協会・2024)。