介護の現場は、毎日スタッフが入れ替わってもなぜ回る? スキマバイトで変わる「仕事の分け方」

「1日4時間だけ」「履歴書なし、面接なし」。スマホのアプリで1回ずつ仕事を受けるスキマバイトが、工場や倉庫だけでなく、介護の現場にも広がっています。とはいえ、利用者の暮らしを支える現場で、毎日スタッフが入れ替わって大丈夫なのか、と心配になる人もいるはずです。人手不足の現場で起きているのは、人を入れ替えることではなく、仕事の分け方を変えることでした。スキマバイトで変わる「仕事の分け方」の核心について、リサーチャーのcomugiが解説します。
(TBS Podcast『コムギコ:資本主義をハックしろ!!』2026年10月13日配信『スキマ時間で、稼ぎたい。その仕事の雇い主は、誰なのか?』より)
スキマバイトで払われた賃金は、3年でおよそ4倍に
空いた時間に、1回だけ働く。こうした働き方は「スポットワーク」と呼ばれます。スポットワークの大手、タイミーの研究所が2026年7月に公表した推計では、スポットワークで働いた人に支払われた賃金の合計は、2022年の約373億円から、2025年には約1,503億円になりました。3年でおよそ4倍です。働いた時間を全部足すと、1年でおよそ1億3,000万時間になります。
ただ、日本で働く人の労働時間の全体から見ると、スポットワークはまだ0.13%ほどにすぎません。
登録している人と、実際に働いている人の数にも、大きな差があります。タイミーの決算資料によると、登録した人は2026年7月末までの累計で1,470万人を超えました。一方で、1か月に1回以上実際に働いている人は、30万人ほどです。登録だけして、ときどき使う人が多い働き方だと言えそうです。
介護の事業所の1割近くが利用
介護の現場でも、スポットワークは広がっています。介護労働安定センターが2026年7月に公表した全国調査では、2025年10月までの1年間にスポットワークを使ったことがある介護事業所は8.9%でした。
使った理由でいちばん多かったのは「必要な人数を集めやすい」で47.1%、次が「忙しい時間帯だけ来てもらえる」で37.1%です。足りない時間だけ人を足せることが、選ばれている理由です。スポットワークを使った事業所のうち28%では、来た人がそのまま正社員などになっていました。
一方で、研究機関などからは心配の声も上がっています。ひとつは、認知症の方が、知らない人に介助されて戸惑ってしまうことです。もうひとつは、常勤の職員の負担です。初めて来た人に、施設のルールや、利用者一人ひとりのことを、毎回教えなければならないからです。
毎日ちがう人でも回る理由は「顔なじみ」
では、介護の現場に毎日ちがう人が来ても、なぜ仕事が回るのでしょうか。
介護の仕事に特化したスポットワークのアプリ「カイテク」は、2026年9月の発表で、登録者が141万人、導入している介護や医療の事業所が3万2,000か所を超えたと明らかにしています。働けるのは、介護福祉士や看護師などの資格を持っている人だけです。
カイテクの経営者は説明会で、同じ事業所で2回以上働いている人が9割、10回以上働いている人が7割いると説明しています(集計の分母は不明)。施設は、前に来た人の経験や評価を見て「お気に入り」に登録したり、指名で声をかけたりできます。
つまり、カイテクは、毎日まったく知らない人を送り込んでいるわけではありません。何度も来てくれる、顔なじみのスポットワーカーを増やしているのです。「毎日ちがう人」が来るように見えて、実際には、同じ人が少しずつ、何度も来ている。それが、現場が回る理由のひとつです。
仕事を分けると、教える人が必要になる
それでも、教える仕事はなくなりません。カイテクを導入した横浜の特別養護老人ホーム「プレシャス横浜」は、お風呂の介助だけを担当する人を募集しました。
ところが最初は手順書が足りず、来た人から「何をすればいいかわからない」「忙しい職員には質問しづらい」という声が出たそうです。そこで施設は、ユニットごとに手順と時間割を作りました。機械で体を支えて入浴する「リフト浴」は、初回は常勤の職員がつきそい、次の利用者のときも見守り、操作を確かめてから任せるようにしました。
製造業でも、同じ考え方が試されています。タイミーと関西イノベーションセンターが2026年3月に報告した、大阪の8社の製造現場での実証では、箱の組み立てや袋詰め、ネジを数える作業などを、スポットワーカーに任せました。そのうちの1社では、担当を1つの工程にしぼり、まず目の前でやって見せ、次にそばで見守り、ひとりでできるのを確かめてから離れる。すると、初めて来た人も15分ほどでひとりで作業できるようになったそうです。最後の品質の判断は、正社員が担っています。
仕事を小さく分けると、来た人が覚えることはしぼれます。でも、手順書を作る人や、最初に教える人は、むしろ必要になるのです。
遊びながら、電柱の点検を手伝う
仕事の切り分けは、ゲームの形でも進んでいます。
「ピクトレ」は、街の電柱をスマホで撮影して集めるゲームです。東京電力パワーグリッドなどが2026年2月に発表した千葉県での企画では、電柱にあるカラスの巣を撮って報告し、承認されると、1つ300円分のポイントがもらえました。巣の材料になる針金のハンガーは、電線に触れると停電の原因になることがあります。
ピクトレは、電柱の点検という仕事から、「近くまで行って、写真を撮る」ところだけを切り出して、街の人に渡しています。写真を見て危ないかどうかを判断し、直すのは、その先にいる専門家の仕事です。運営会社によると、2026年6月からはふだんから参加できるゲームになり、対象の電柱を初めて撮ると15円分のポイントがもらえます。アプリのダウンロードは10万を超えました。
地図をつくる仕事でも、同じように作業の一部が切り出されています。地図会社のジオテクノロジーズが運営するアプリ「ジオクエ」では、ポストやバス停を見つけて場所と写真を送ると、ポイントがたまります。会社の2026年6月の発表では、集まった写真は650万枚を超えました。地図を新しくする仕事の一部を、散歩のついでに引き受けてもらっているのです。
渡せる部分と、渡せない部分
ここまでの話を、自分の仕事に置きかえてみると、ひとつ見えてくることがあります。どんな仕事も、細かい作業に分けていくと、切り出して誰かに渡せる部分と、渡せない部分があります。
お風呂の介助は渡せても、手順書を作って教える人は残る。箱の組み立ては渡せても、品質の判断は正社員に残る。電柱の写真は渡せても、直すかどうかを決めるのは専門家に残る。並べてみると、渡せずに残っているのは、全体を見て判断する部分と、人に教える部分です。
仕事を分けるという考え方は、とても古いものです。1776年、イギリスの経済学者アダム・スミスは『国富論』を、ピンをつくる工場の話から始めました。慣れない人ひとりでは1日に1本つくるのもむずかしいピンが、作業をおよそ18の工程に分けると、10人で1日におよそ4万8,000本つくれるようになる、という話です。
じつは、スミスは同じ『国富論』の後半で、ひとつの心配も書き残しています。毎日、同じ単純な作業だけを繰り返していると、人は、ものごとを全体として考える機会を失ってしまうのではないか、という心配です。分業の豊かさを最初に説明した人が、分業が人から奪うものについても考えていたのです。
それから250年。仕事は、スマホの1回ずつの募集にまで切り分けられました。スキマ時間で稼げる仕組みは、人手不足の現場を助けてくれます。ただ、1つの作業だけを受け取る人には、その作業が最後に何になるのかが見えにくくなります。引き受けた仕事が、何の一部なのか。ときどき全体を想像してみることが、細かく切り分けられた仕事とうまく付き合うコツなのかもしれません。
<コムギコ:資本主義をハックしろ!!>
毎日ニュースを100本読むビジネス系VTuberのリサーチャーであるコムギ(comugi)が、日々の経済にまつわるニュースを解説するビデオポッドキャスト。本記事は2026年10月13日配信『スキマ時間で、稼ぎたい。その仕事の雇い主は、誰なのか?』から抜粋してまとめたものです。