「日本の性教育を変えたい」助産師の挑戦 “はどめ規定”が招く現場の困惑…子どもたち自身を性暴力から守る「正しい知識」とは【news23】
皆さんは学校で「性」について、どんなふうに教わったでしょうか?世代によっても異なるんですが、現在の義務教育では、「妊娠」などの経過は扱わないことになっています。「日本の性教育を変えたい!」。そんな思いで各地の学校を駆け回る、助産師の挑戦を追いました。
「子どもが身を守ることにつながる」 “性教育を変える”助産師
神奈川県逗子市にある逗子小学校。3年生たちが学んでいるのは、性に関わる体の大切な部分「プライベートパーツ」についてです。
助産師 高野さん
「プライベートパーツは自分だけが触っていいところ。一人でお風呂に入って、ちゃんと自分で洗っているという人。女の子、お股のところにいくつ道があるんだっけ?」
児童
「3?」
助産師 高野さん
「きちんとそこをジャブジャブジャブって毎日洗うこと」
講師を務める高野しのぶさん。助産師として働く傍ら、子どもたちに正しい性の知識を伝える出張授業を行っています。
助産師 高野さん
「体にタッチしていいよ、嫌だよ。それは誰が決めますか」
児童
「自分」
助産師 高野さん
「友達とか仲良くしている大人とか全然知らない人が、プライベートパーツ見せて、触らせてって聞いてきたら?」
児童
「無理ー!」
助産師 高野さん
「じゃあみんなで嫌だって言いましょう。走って逃げてください」
この学校で高野さんが性教育を始めたのは2022年。2026年現在では、小学1年から6年までの全校児童が毎年授業を受け、周りの学校にもその取り組みが広がっています。
高野さんの性教育を導入 逗子市 教員
「学校では教えきれないものを丁寧に教えてくださるので、子どもたちは自分の体のことを知りたいと思っている気持ちが強いから、すごく興味津々で。毎年やっていくことが、子どもたちが自分の身を守ることにもなる」
命の尊さ伝える助産師の性教育「全ての赤ちゃんにおめでとう」
首都圏を中心に、年間約250件の授業を行う高野さん。学校や自治体からの依頼が絶えず、キャンピングカーでの寝泊まりが続くこともあると言います。
性教育を始めたのは、2019年。きっかけは、助産師として“望まないお産”を目の当たりにしたことでした。
助産師 高野さん
「横浜の公立病院で17年ぐらい助産師として働いていたんですけど、子どもたちが性の問題に巻き込まれて運ばれてくることがとても多くて。中学1年生の女の子が性被害に遭って妊娠をして、私の夜勤のときに出産をした。9時間かけて、赤ちゃんなんか産みたくないって。今でも涙が出てくるくらい辛い経験で」
生まれてくる全ての赤ちゃんに「おめでとう」と言って、この世に迎えてあげたいという思いから、どの学校でも必ず“命の尊さ”について伝えることにしています。
この日は千葉県にある西初石中学校の3年生に向けた授業を行っていました。
助産師 高野さん
「皆さんは卵子と精子がくっついて誕生しました。卵子の周りにはめちゃくちゃたくさん精子があって、その中の1個しか入ることができません。皆さんは3億の中の1人になったんですよね。3億分の1のスペシャルになった自分に盛大な拍手をしてください」
年齢に応じた性の知識を身につけてもらうべく、妊娠のメカニズムやコンドームを使った具体的な避妊方法についても話します。
助産師 高野さん
「(コンドームの)乳首みたいになっているところに、精子が溜まる。その部分を必ずつまんだ状態で、勃起した性器の上に乗せます」
しかし、その内容をめぐってはしばしば批判を受けることも…
現場を悩ませる“はどめ規定” あいまい性教育の背景
助産師 高野さん
「性教育って聞くだけで嫌だなって思う人もいるし、はどめ規定を超えた範囲を教えるのがどうなのかというところを問うてくる先生もたくさんいらっしゃって」
背景にあるのが、1998年に国の学習指導要領に盛り込まれた“はどめ規定”。小学5年の理科では「人の受精に至る過程は取り扱わない」、中学1年の保健体育では「妊娠の経過は取り扱わない」としています。
「性交を教えてはいけない」などと一律に禁止するものではありませんが、性交や避妊は「教えるべきではない」と受け取る教員もいて、学校ごとに性教育に差が生じているのが現状です。
しかし、近年はスマートフォンなどの普及で子どもが巻き込まれる性犯罪が増加。
警察庁によると、2025年の1年間でSNSを通じて性犯罪などの事件に巻き込まれた子どもは1566人で、このうち小学生は167人で過去最多となりました。
「正しい性知識が自分を守る」 デジタル時代の性教育
千葉県流山市では教育委員会が主導し、すべての公立の中学校で高野さんの授業を導入しています。
流山市 吉田瑞穂 教育長
「デジタル社会なので子どもたちは好奇心旺盛で、ネットやSNSで情報をどんどん持ってきてしまう。誤ったネットの情報を正しいものだと勘違いしてしまう。学習指導要領の範囲を超えて、学校が教えるのも難しいというところを、専門家から教わるというのは非常に意義があることかと思っています」
自治体をあげて継続的に性教育を行うことで、子どもたちの意識にも変化が生まれてきていると言います。
中学3年生
「元々、性のことはまだ早いなと思っていたんですけど、今のうちに正しい知識を得ることによって、成り立つ幸せもあるんじゃないかと思いました」
「性の被害が起こるのは、知識がないから起こってしまうということを学んで、性のことについて学ぶというのは大切だなと思いました」
性に関する様々な情報があふれる中、正しい知識こそが自分を守る術になると高野さんは訴えます。
助産師 高野さん
「知識を持ってないから自分を守ることができないし、知識を持ってないから誰かを傷つけちゃいますよね。正しい性の知識を得ることは自分を守るお守りになります。だから必ず正しい知識を持って、自分のことを守っていってください」
「避妊」授業で批判も 日本の性教育が向かう先は
上村彩子キャスター:
私が学生の時は、生理や体のことを学ぶときは男女別々の教室に行って習った記憶があります。その時から自分の中で何となく話題にしづらいことのように感じてしまっていたのですが、性について学ぶことは本当に大切だと思います。
日本の性教育は曖昧で、世界からも遅れているという指摘も聞きますが、なぜ遅れているのでしょうか。
TBS 文科省担当 加古紗都子 記者:
背景の1つにあるのが“はどめ規定”の存在です。この範囲を超えた授業を行う、すなわち性行為や避妊の方法について詳しく教えることで、むしろ子どもの好奇心を刺激して性行為を助長してしまうという、いわゆる「寝た子を起こすな」という考え方が一部で根強くあったようです。
これによって2000年以降は、各地で学校の取り組みが批判される「性教育バッシング」が相次ぎました。東京都内の中学校などでは、先生が避妊や中絶について取り上げたことを一部の都議が問題視をして、議会で取り上げる事態にも発展しました。
上村キャスター:
ただ、“はどめ規定”ができたのは1998年。現在はネット社会で、幼い子どもでも容易にSNSに触れることができる状態だと思います。そうなると、親としても子どもに対して、しっかりとした性教育を学校が行ってくれることは安心につながるのではないでしょうか。
喜入友浩キャスター:
子どもの性被害が増えている今こそ、やはり“はどめ規定”を見直すタイミングにあると思うのですが、そのような動きはあるのでしょうか。
TBS 文科省担当 加古記者:
“はどめ規定”が盛り込まれている学習指導要領は、約10年に一度のペースで見直されています。まさに2026年は改定の時期で、文部科学省では審議が大詰めを迎えています。
ただ、現時点で維持または廃止されるのかの見通しは立っておらず、一部の教育関係者や地方議員からは撤廃を求める声も上がっています。
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<プロフィール>
加古紗都子
TBS 文科省担当
女性や子どもの人権問題を長く取材
家庭内の性虐待を描いた映画「魂の殺人」監督