“減反政策”でコメ不足に? 「これ以上作れない」農家が語る深刻な影響 なぜ生産量が増えない?コメ不足を招いた“日本農業の構造問題”に迫る【news23】
コメ不足の一因だと指摘されている事実上の“減反政策”。農家を取材すると、「これ以上作れと言われても作れない」と、深刻な影響が出ていることがわかりました。備蓄米の2回目の入札が始まりましたが、価格は今後どうなっていくのでしょうか。
【写真で見る】廃止も「昔と同じだな」 農協から届く“生産目安”を記した書類
「米屋ですが米ありません」創業90年の米店が閉店
「米屋ですが米ありません」という大きな貼り紙がしてあったのは、京都にある創業90年の米店です。
毎年300トンを扱っていましたが、今年はコメを仕入れることができず、3月24日、閉店しました。
まつもと米穀 松本泰 社長
「令和7年度産米の集荷競争が非常に過熱している。どこまで価格が上がっていくんだろう」
そんな中、三重県最南端の紀宝町では26日、早くも田植えが始まりました。
この地方では、お盆前に出荷する「早場米」の栽培が盛んで、毎年この時期に田植え作業が行われています。
「減反政策は間違っていた」…今年の作付け全体の6割の地域も
岩手県花巻市でも、秋に収穫する新米作りの準備が始まっています。
「ひとめぼれ」を生産している菅原徹さん。
コメ農家 菅原徹さん(76)
「(Q.田んぼはどの辺)ここから4枚と向こうにまだ20枚ぐらいあります」
山あいにある田んぼは、東京ドームの約1.5倍の7.5ヘクタール。
コメ不足の中、多くの需要が見込まれますが、今年作付けするのは、全体の6割の4.5ヘクタールだけだといいます。
ーーなぜそういう形(6割に作付け)になっている?
菅原さん
「結局、昔からの減反ですよね。田んぼ(コメ)はこれくらい作りなさいって国が指定してきたわけなんですよね」
ーー減反政策は間違っていた?
菅原さん
「私はそう思います」
菅原さんが“間違えていた”と訴える「減反政策」。
政府は1971年からコメを作りすぎて価格が下がらないよう、毎年、生産量を決めて産地ごとに割り振ってきました。
減反政策は2018年に廃止されましたが、国は今も生産の“目安”を示していて、コメからの転作を促す補助金を出すなど、“減反は事実上続いている”と指摘されています。
これに対し国は、真向から反論しています。
江藤拓 農水大臣
「米の生産は今でも自由です。国内の需要の見通しについては、農家の方々にデータをお送りしている。それに基づいて、農家の方々が自主的な判断で生産をしている」
減反廃止も「昔と同じだな」 農協から届く“生産目安”を記した書類
実際はどうなのでしょうか。
今年、農協から菅原さんに届いた書類では、「主食用米における生産目安」と題して、それぞれの農家の「主食用米」と「転作」の生産の目安を記し、検討を呼びかけています。
減反時代の2014年の書類と比べると、生産の「目安」と「数量目標」という表現の違いはあるものの、同様の数字が並んでいます。
菅原徹さん(76)
「今も同じ通知がくるんですが、(減反廃止後は)ただ作るのは自由ですよ、売るのは自由ですって言うんです。実際は転作確認っていう形がありますし、結局、目安だけれども、誰も昔と同じだなと思っています」
菅原さんと農家仲間の鎌田さんも、生産目安を忠実に守っているといいます。
農家 鎌田栄一さん(79)
「国の政策になんぼか準じていなければ、ペナルティーが来るんじゃないかと思ったり。今になればこそ、そういうのはないような気はするんだけど、守らなければ守らないで世間体が悪いので、みんなのまねして」
他の農家たちも…
農家 合澤誠一さん(67)
「いくら作ってもいいですよと、数量や面積が割り当てになっても、さらに頑張って作ろうという意欲がもうなくなっている」
“増産する体力は残っていない”と嘆く農家 深刻な実態
“生産抑制”への慣れを生んだ減反政策。肝心のコメの価格はどうだったのか。
菅原さんは、農協がコメを集荷する際に前払いする「概算金」を見せてくれました。
「令和の米騒動」と呼ばれた令和6年(2024年)は30キロ9000円ですが、令和5年は5800円、令和4年は5150円、令和3年は4550円、と5000円前後で推移していました。
菅原徹さん(76)
「稲を刈り取る機械です。850万円くらい」
一式2500万円もするという農機具や燃料代などを差し引くと、赤字に。このため、牛の畜産を兼業することで、生計を立ててきたといいます。
菅原さん
「食べる人も、国も、作る人も、一番いいような形の値段を出していくという政策を作っていかなきゃダメだと思う」
菅原さんの地区ではいま、コメ農家の後継者不足が深刻になっています。
菅原さん
「毎年4、5人くらい(農家を)やめる。『コメで食っていけねえ』ということなんですよね。何も損してまで、体痛めてやることでもないかって。年金をつぎ込んでいる人がそんなことまでやることもない」
そんな中、減り続けていた岩手県の生産目安が、コメ不足を背景に、2025年に初めて前の年を上回りました。
しかし、菅原さんは、農家に増産する体力は残っていないと嘆きます。
菅原さん
「これ以上、コメを作ってくれといっても作りようがない。農業本体を食いつぶしてきたっていうのが今までの農業政策ではないかなと思います。国の言う通りにやってきたが、あんたが間違っていたじゃないかと」