釧路・メガソーラー工事で波紋広がる 自然豊かな湿原周辺で何が 工事計画めぐる様々な声【news23】

TBS NEWS DIG Powered by JNN
2025-08-21 14:07

北海道・釧路湿原の周辺に広がる原野の一角でダンプカーが入り、メガソーラーの工事が行われています。自然豊かなこの付近では天然記念物であるタンチョウの姿も確認されています。工事が生態系に及ぼす影響はあるのか、開発と共存できるのか、関係者の様々な声を取材しました。

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タンチョウ近くで工事?釧路湿原で何が

日本最大の湿原「釧路湿原」。雄大な自然の中で、多くの希少な生物が生息しています。そんな釧路湿原をめぐり大きな反響を呼んだ「X」のある投稿がありました。

猛禽類医学研究所 齊藤慶輔氏のXより
「環境省釧路湿原野生生物保護センターのすぐ横で進められているメガソーラー建設の様子」

木を押し倒すショベルカーに、土砂を下すダンプカーの様子も。投稿したのは、猛禽類医学研究所の獣医師で、希少動物の保全活動に取り組む齊藤慶輔代表。

猛禽類医学研究所 齊藤慶輔 代表 
「これはきのうです。これだけのことをやられていて、音もすごい」

ーー湿地の中にいた生き物は?

齊藤慶輔 代表
「生き埋めですよ。キタサンショウウオいたら生き埋め」

工事が野生生物に与える影響を多くの人に知ってもらいたいと、ドローンで撮影した映像の投稿を行っているといいます。齊藤代表が訴えているのは、「調査が不十分のまま工事が進められている」という点です。

齊藤慶輔 代表
「この工事は5月のGW明けくらいから徐々に始まったが、一番問題なのはここに対する野生生物、特に希少種の十分な調査がなされないまま(工事が)強行されたというところが一番の問題だと思う。

保全のために何が必要かっていうのを、行政とか専門家と交えてやるべきだが、自分たちのペースで工事が大音響を立てながら、騒音立てながら進められているっていう現状」

メガソーラーの工事が行われているのは、研究所からわずか300mの場所。サッカー場6面ほどの広さに、6600枚のソーラーパネルが設置される計画だといいます。

齊藤代表が懸念しているのが…

ヒナを連れた国の天然記念物・タンチョウ。工事現場から500m離れた馬の放牧地でタンチョウの親子が確認されたのです。

別の日に撮影された映像では、工事現場のすぐそばでエサを探すタンチョウの親子の姿もありました。

齊藤慶輔 代表
「タンチョウの夫婦が駐車場に下り立ったり、頻繁に朝、鳴き交わしが聞こえたり、タンチョウのペアが生息してるのは、近辺のことを知ってる人なら誰もが知っている。これだけ音がしたり、人の立ち入りが見えたり、本来なかった場所に大きな人工工作物ができるという話になると、今後繁殖しなくなる可能性も十分考えられる」

事前調査で「営巣なし」事業者主張

メガソーラーの工事を行っているのは、大阪に本社を置く「日本エコロジー」。その責任者に話を聞くと…

日本エコロジー 大井明雄 営業部長
「資料を出して『工事をしますよ』と市役所に受理印をもらったのが去年。そこから、念のために今年まで工事を延ばした。すぐに『ええからやってしまえ!』そんなことは絶対にしません」

2023年に釧路市が施行した「太陽光発電施設の設置に関するガイドライン」では、事業者は工事60日前までに市長宛に届出書を提出し、工事前には、生物調査の結果を釧路市立博物館に提出する必要があります。

日本エコロジーは、専門業者に希少生物の事前調査を依頼。

タンチョウの調査依頼を受けた専門家は、日本エコロジーから聞いた現場の状況と過去の調査結果をもとに、「タンチョウは営巣していない」との見解を示したといいます。

――離れた場所に建設すれば、ここまで批判の声はなかったのでは?

大井明雄 営業部長
「ですよね。結果的にちょっと近くなってしまったのは申し訳ないと思うが、市の指定の調査会社に全ての猛禽関係などの調査をしてもらった」

工事現場は国立公園外の民有地であり、自然公園法の規制はかかりません。また建築物でもないため、ソーラーパネルの設置が可能です。

大井明雄 営業部長
「従来のやり方で、希少生物だけを守ろうという方たちの意識の格差がこれだけある。私らは共存、あくまで希少生物とこの開発、太陽光の再生可能エネルギー、この共存です」

メガソーラーの建設は、2025年内に完了する予定だということです。

記者
「釧路市内、ソーラーパネルがあちこちに設置されています」

いま釧路湿原の周辺は、太陽光発電施設の建設が相次いでいます。

釧路市では、2012年は25か所でしたが、現在は555か所に急増していて、この状況に著名人らからは「環境破壊」を指摘する声が上がっています。

釧路市は2025年6月、全国で2例目となる「ノーモア メガソーラー」を宣言。事業者に対し、設置場所の選定や自然環境の影響を考え、慎重に検討するよう求めました。

釧路市 太陽光発電施設対策主幹 西村利春さん
「貴重な財産であり、誇りでもある自然環境を守る必要があるということから、自然環境と調和がなされない太陽光発電施設の設置を望まないという意思を宣言」

Xに動画を投稿をした齊藤代表はこう話します。

齊藤慶輔 代表
「地球温暖化を防ぐものとして、温室効果ガスを出さない発電というのは重要だと私も認識している。人間ファーストでも動物ファーストでもなく、きちんとした共生への道を選ぶべきだと思う。しっかりとルール作りをして、それにみんな従って、自然環境、地球を守る、その方向で動いてもらいたいと思う」

釧路湿原周辺で相次ぐメガソーラー建設

小川彩佳キャスター:
釧路市では自然環境と調和されない設置を望まないなどとして、来月規制条例案を市議会に提出する予定で、10月からの施行を目指すとしています。

急増するメガソーラーなどに、一定の歯止めをかけるような動きも出ているわけですけれども、トラウデン直美さんはこの問題をどうご覧になりましたか。

トラウデン直美さん:
自然エネルギー、再生可能エネルギーが広がっていること自体は必要なことだと思いますが、ただ、なぜ再生可能エネルギーが必要かというと、やはり環境を守っていこうということが大前提にあるわけで、環境破壊に繋がってしまっているのだとしたら本末転倒だと思います。

やり方をしっかり考えていかないといけない。メガソーラーである必要があるのか、よりローカルにそれぞれの家でとか、やり方はいろいろあると思います。

ただ、一番大事なのは、やはりエネルギーを必要として使っているのは人間なので、いかにエネルギーを削減していけるかということも、改めて考えないといけないなと反省も含めて感じました。

藤森祥平キャスター:
釧路湿原は、日照時間が長く、しかも平地で、近くに送電線もあります。そのため、太陽光発電の開発には適している場所だということですが、資源エネルギー庁によりますと、メガソーラーを設置している自治体自体は67%ほどですので、全国の市区町村の3分の2で既に設置されており、釧路市だけの問題ではないということですよね。

地域エコノミスト 藻谷浩介さん:
釧路湿原は平坦地ですが、おそらく全国のこの番組見てらっしゃる方は「うちの近くは斜面に作っている。大丈夫か?」と心配してる方が非常に多いです。山を削って作っている、あるいはさらに内地で、家の前のすぐそこに作られて困ってる人はたくさんいます。

やはり、国で規制したらどうだという意見があると思いますが、地域によって状況が違うので、ゴルフ場と同じで一元の規制が非常に難しい。逆に言うと、自治体は国が何か言ってくれるのを待っていなくて、自治体自身が「ここに作るのはやめなさい」とやらないと廃棄物処理場と同じ問題で、熱海の土石流のように、いろんな問題が起きてくる可能性がある。

また、必ず寿命が来るので、何十年か経ったとき壊すお金はちゃんとあるのか。自治体が始末しなければいけないのならば本末転倒。特にメガの場合、作るのであれば、壊すところまでのお金を積み立てさせるということを制度上やっていないとまずいのではないかと思います。

トラブル発生の自治体は4割超

藤森祥平キャスター:
総務省によりますと、太陽光発電を巡ってトラブルが起きたという自治体が既に4割を超えています。具体的な内容は、雑草などが繁茂するなど十分な管理がなされていない、土砂災害発生の懸念があるなど。ですから、設置した後のことをしっかり考えなければいけないということですよね。

小川彩佳キャスター:
トラブルの中身を見ると、メガソーラーを含めた太陽光発電の問題というのは、規制のあり方であったり、調査のあり方、さらに災害が起きたときどうしたらいいのかといった議論やガイドラインが生煮えのまま進んでいってしまっている構造的な問題というのがありますよね。

地域エコノミスト 藻谷浩介さん:
他方で、全体の数字からいうと、再生エネルギー、ソーラーや、省エネなど、ドイツはすごく進んでいると思いますが、この影響は大きいです。

東日本大震災前、2012年、メガソーラーは25か所だったのが、555か所に増えましたとありましたが、2012年を100とすると、日本の化石燃料輸入量(石油石炭ガスの輸入)は、2割以上減っています。増えていると思っている人が多いのですが、原発があまり稼働していないにも関わらず、何と2割も減っている。実は再生可能エネルギーと省エネルギーのおかげ。特に夏稼働するソーラーがクーラーの需要を打ち消してくれる。実は悪いことばかりだと言うわけにもいかないのです。

トラウデンさんもおっしゃっていましたが、ドイツではメガソーラーの問題というより、もっと建物にいっぱい付いているんじゃないかと思います。

トラウデン直美さん:
そうですね。10年ほど前にドイツに研修旅行に行ったとき、モデルハウスだったのですが、すごくスタイリッシュなおうちにソーラーパネルだとわからないように設置されていたりして、住宅に溶け込んでいる状態で建てられていたのはすごく印象的でした。

地域エコノミスト 藻谷浩介さん:
これは電力会社に大きく売るというビジネスなのですが、電力会社はもらった電力が余ったりして困ったりします。そういうビジネスもありますが、個別のビルや家が、自分の家で使うものを電力会社に売るのではなくて、自家消費として貼るということですよね。

ちょっとお金はかかりますが、みんながやることで環境負荷も化石燃料も減らすという方向があると思います。私もできるだけ新しい家ではやろうと思っているのですが、もうちょっと技術革新が進んで太陽電池が安くなったらやろうと思っています。

小川彩佳キャスター:
釧路の問題に限らず、それぞれの自治体、そして個々のレベルで考えていかなければならない問題だと感じます。

==========
<プロフィール>
藻谷浩介さん
地域エコノミスト 共著「東京脱出論」
(株)日本総研主席研究員

トラウデン直美さん
Forbes JAPAN「世界を変える30歳未満」受賞
趣味は乗馬・園芸・旅行

※動画内で紹介したアンケートは21日午前8時で終了しました。

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