日本語には曖昧な表現が多くあります。
日常会話にも出てくることが多い「否めない」という言葉もそのひとつです。
しかし、この「否めない」という言葉は使いどころによって伝わるニュアンスが変わってくるという特徴もあります。
そこで、ここでは「否めない」の成り立ちや意味、使い方や伝え方について解説します。
「否めない」の成り立ち
「否めない」の原型は「否定する・断る」を意味する「否む」に、可能をあらわす「る・れる」が付いてできた可能動詞「否める」という言葉です。
「否めない」という言葉は、その「否める」の未然形、いわゆる打ち消し表現の「ない」が付いた言葉となっています。
「否めない」の2つの意味
否めるが変化して生まれた言葉である「否めない」という言葉には、2つの意味があります。
1つが「否定することができない」で、もう1つが「断ることができない」という意味です。
ここからはその意味について見ていきましょう。
否定することができない
否定に近い印象がありますが、完全に否定するわけではないという表現で用いる事ができます。
この作品が自己満足であることは否めない
この例文は、「否めない」を用いることによって「自己満足である」とストレートに伝えるのではなく、「自己満足であるかのように見える」とやんわり伝える表現となります。
また、否めないには「かもしれない」というニュアンスもあります。
これは、否定しきれない状況でも使えます。
明日雨が降る可能性は否めない
という文のように、可能性が0%ではない断定しきれない曖昧を含む状況に対しても使える言葉となっています。
断ることができない
断ることのできないという状況を指す言葉としても「否めない」は使われます。
長年の親友からの言葉だったので、その誘いは否めないものだった、という風に使えます。
また、半強制的な状況にある場合など、本当は断りたいという感情が込もっている状況でも使えます。
便利に使える「否めない」
日本人は相手の状況を察して言葉を濁すことが多いですよね。
それは空気を読んでいる場合もあれば、わざとどっちつかずの曖昧な表現にしているという状況もあります。
そんな時に便利に使えるのが「否めない」です。
言葉を濁すのに適した表現という一面もあるんです。
婉曲に否定する場合
「否めない」という言葉は遠回しに否定したい時、相手の感情を逆なですることなく自分の意見を伝えられる言葉です。
真っ向から否定すると言い争いになってしまうため、「○○も良いんだけど△△なのは否めないんじゃないかな。だから□□もいいと思うんだよね」というように使えます。
否定しきれない場合
「否めない」は可能性が残っている時、確定するには早い状況において使うことのできる表現でもあります。
可能性が0%でないなら完全に否定することは難しいです。
そして、少しでも可能性があれば、「その可能性は否めないよね」といった表現で用いることができます。
逆に会議などで「●●の可能性があるんじゃないの?」と指摘された際も、「その可能性は否めませんが」と付けることで可能性は0ではないけれども、確率は非常に低いので気にする必要はないと思います、というニュアンスを伝えることもできます。
なおかつ指摘した側の意見も可能性はある、と暗に認めているので相手の顔をつぶすこともありません。
「否めない」の類義語
「否めない」という言葉は曖昧さを表現できる言葉なのですが、日本語には同じく合間さを含む類義語も多々あります。
ないとも言えない
「ないとも言えない」は、婉曲に否定したい状況で使える類語です。
勝てる可能性は高いけれど負ける可能性がないとも言えないのように、結果が曖昧な状況で使用されることがあります。
この言葉を多用しているとどっちつかずの印象となってしまうため、あまりポジティブな表現ではありません。
そのため、自分の意見を求められた時には使わない方が良いかもしれませんね。
あるかもしれない
「あるかもしれない」は否定しきれない状況で用いられる言葉で、どちらの可能性も残っている場合に使えます。
この小説なら佳作に選ばれることもあるかもしれないのように、否定で言い切ることができない場合に便利な言葉です。
この言葉は、微量な可能性にも目を向けているという点でどちらの可能性もある均衡した状態で使うのに向いています。
「否めない」はどちらかというと否定のニュアンスが強いですが、それでも受け入れるというニュアンスがあります。
しかし、「あるかもしれない」はどちらに転ぶかわからない状況で使える言葉となっています。
肯定・認める
「否めない」は回りくどく肯定したり認めることを表すこともあります。
直接的か間接的かという違いはありますが、肯定を意味する言葉には変わりありません。
例に出したこの作品が自己満足であることは否めないという文を、「この作品は自己満足だ」と直接的に肯定している表現に変えると分かりやすいです。
まとめ
日本語には、わざと返答や結論を曖昧できる表現が多いです。
「否めない」という言葉もその一つで、物事を否定できないときや、断れない状況で用いるといった通常の使い方の他に、婉曲的な否定表現や可能性がわずかながらにもある際に否定しきれないといった状態をあらわすこともできます。