![アメリカ大統領選挙 「トランプ氏は過去の亡霊にとらわれている」ヘイリー氏が「撤退しない」宣言 背景に“大口献金者”と“裁判”](/assets/out/images/jnn/1016454.jpg)
アメリカの大統領選・共和党の候補者レースはまさにトランプ前大統領の一強ムードだ。対抗馬のニッキー・ヘイリー氏は「撤退秒読み」と思われていたが、2月20日、突如「撤退はしない」と宣言した。会見の発言などから、その真意を読み解く。(TBSワシントン支局特派員 樫元照幸、涌井文晶)
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トランプ氏“圧勝ムード”の中・・・突如開かれた記者会見
これまでの戦いを振り返ると、代議員の獲得数はトランプ氏がヘイリー氏を圧倒している。指名獲得のためには、2429人の代議員のうち1215人を獲得しなくてはならない。スーパーチューズデーでは865人の代議員が割り当てられる。
劣勢が伝えられるヘイリー氏だが、現地2月20日に「選挙戦の状況について」というタイトルで急きょ会見を開いた。
「ついに撤退か」とも受け取れた会見の案内だったが、実際は真逆。ヘイリー氏は「撤退はしない」と宣言した。
会見でヘイリー氏は「予備選挙は始まったばかり。有権者が門を閉ざすまで私は戦い続ける」と強調し、多くの州で予備選挙が行われる来月のスーパーチューズデーに向けて選挙戦を続けていく考えを示した。
「彼の指輪にキスする必要はない」 対トランプ姿勢を鮮明に
トランプ氏への批判も、トーンが一段上がった。
ヘイリー氏は「選挙献金を5千万ドル(約75億円)も自分の裁判費用に充てるのはおかしい」「ロシアにNATOの国を攻撃するようけしかけるのはおかしい」と畳みかけた。そして「トランプ氏は自分のことばかり。過去の自身の亡霊にとらわれている」と批判を展開した。
そして批判の矛先は、共和党にも向けられた。ヘイリー氏は、共和党がかつての「アメリカの保守」から変わって「トランプ党」になっている状況について、「多くの共和党員が表ではトランプ氏のことをほめたたえているが、陰では嫌っている」「共和党の政治家たちはつまはじきにされるのを恐れて圧力に屈している」などと批判。
さらに「私はトランプの復讐を恐れていない」「彼の指輪にキスする必要はない=トランプに服従する必要はない」と強調した。つまり、トランプ氏との対決姿勢を鮮明にした形だ。
トランプ氏がここまで強いと「ヘイリー撤退」はいずれは現実的だと思うが、なぜ戦いを続けるのか。
会見の中に、1つヒントがあった。
ヘイリー氏は「トランプはアイオワ州では49%の票を取れなかった」「ニューハンプシャー州でも46%の票を取れなかった」と会見で指摘した。つまり、「トランプ氏が圧勝した」反面、「トランプ氏を支持しない人は半分くらいいるのだ」という捉え方だ。
この「共和党員の半分の人たち」にしっかりアピールできれば、まだ支持が伸びるのではないかという期待と、そしてそのためには「自分が最後までトランプの対抗軸となる候補なのだ」と宣言する必要があった。
撤退せず ヘイリー氏の宣言 背景には「献金」と「裁判」
「撤退しない」と宣言した背景には他にも2つの理由が考えられる。「大口献金者の存在」と「トランプ氏の裁判」だ。
去年の後半6か月だけを見ると、実はトランプ氏よりもヘイリー氏の方が多くの政治献金を集めている。大口献金者の資産家の中には民主党支持者もいる。トランプ氏はこれを批判して「ヘイリーは民主党支持者に踊らされている」とも言っているが、選挙戦継続宣言をしたということは、トランプ氏を好まない大口献金者たちがファイティングポーズをくずしていないということだ。トランプ氏はこうした支援者を「永遠に締め出す」と圧力をかけているが、この発言をしてから、むしろヘイリー氏への献金への関心が高まったとの報道もある。
そして、トランプ氏は裁判という「最大の不安要素」を抱えている。不倫相手の口止め料の不処理事件の裁判は3月25日に始まることが決まった。4つの刑事事件で起訴されているトランプ氏だが、ブルームバーグ通信が1月に激戦州7州で行った世論調査では「トランプ氏が有罪になったら投票しない」という人が53%、実刑判決だと55%が「支持しない」と答えた。裁判の展開次第ではヘイリー氏が流れをつかむことができるかもしれない。
「ヘイリーは撤退の仕方も分からない」トランプ氏がいら立ち
ヘイリー氏の「撤退しない」宣言をトランプ氏はどう受け止めたのか。以前までは「まだヘイリーが選挙をやっているとは知らなかった」と嫌味を言ってみせたりしていたが、「戦い続ける宣言」を受けて「ヘイリーは撤退の仕方も分からないのではないか」と、いら立ちをにじませた。
裁判への対応も忙しいトランプ氏としては、早く共和党候補者レースに決着をつけ、バイデン氏との対決構図を確定したい。「裁判」に関して批判されても、バイデン大統領に対してなら「司法を武器化している」「私は被害者なんだ」と反撃することができるが、ヘイリー氏から追及されると反論しづらい。
ヘイリー氏を撤退に追い込みたいトランプ陣営は今後、「内輪で争っている場合ではない。民主党を倒すために共和党の結束が必要だ」という論理で撤退圧力を強めていくものとみられる。
バイデンvsトランプ「どちらも嫌・・・」
ロイター通信が今年1月に行った調査では、67%の人が「バイデンVSトランプの戦いはもう見たくない」と答えている。2016年のトランプ氏vsヒラリー・クリントン氏の大統領選は「嫌われ者対決」とも言われたが、2024年の大統領選挙がバイデンvsトランプの再戦になれば、「どちらが嫌か」という要素に「どちらも嫌だ」という要素も加わってくるだろう。
バイデン大統領との直接対決を想定した世論調査では、バイデン大統領(47%) vs トランプ氏(46%)という結果に対し、バイデン大統領(42%) vs ヘイリー氏(47%)という結果が出ている(米キニピアック大調査)。この調査を見る限り ヘイリー氏の方が「バイデン大統領に勝てる候補」だということだ。
ヘイリー氏としては「自分こそがバイデンに勝てる」とアピールし、共和党内だけでなく、無党派層の支持も伸ばしたい考えだ。スーパーチューズデーでは「反トランプ票」をどこまで獲得できるのか。まさに正念場となる。
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【LIVE】米大統領選 スーパーチューズデー開票速報 3月6日午後1時~ トランプ氏vsヘイリー氏の一騎打ちの行方は?