今月24日に熊本県に開所した、台湾の半導体製造大手「TSMC」の日本初となる工場。日本政府は、今後建設が予定されている第2工場にも補助金を投入する方針で、総額は1.2兆円規模になる見通しです。かつての半導体大国・日本は復活を遂げられるのでしょうか?解説です。
【写真を見る】「半導体を制する者が世界を制する」政府の“巨額支援”で日本の復活に専門家も期待 激化する半導体競争の行方【Nスタ解説】
スマホの普及などで半導体の需要は急拡大中
南波雅俊キャスター:
政府が大きく舵を切った、半導体産業へのテコ入れ。そもそも日本は半導体の世界シェアが、1988年には5割を超えていました。ただ、2019年には約10%にまで下がっています。
その背景にあるのが、1980年代後半の日米貿易摩擦です。アメリカが日本の半導体の輸出や価格を、10年間規制したわけです。
こうしたことで「スマートフォンなどに使う超小型の半導体分野で世界に後れをとった」と、第一生命経済研究所の永濱利廣首席エコノミストは話します。
では、半導体というのはそもそもどういうものなのか。電子機器などのチップに使われる物質で、電子機器の小型化や性能の向上に大きく貢献したもので、種類も大きく分けると3つあります。
▼10ナノメートル未満の半導体→スマートフォンなどに使われているもの
▼10~32ナノメートル→パソコンや電気自動車などに使われているもの
▼40~90ナノメートル→家電や自動車などに使われているもの
(ナノメートル=10億分の1メートル)
スマートフォンには小さな半導体の回路が数百億使われているので、半導体の需要は急拡大しているということです。永濱さんは「国を挙げて半導体分野に投資しないと、世界の競争に対抗できない」と話します。
日本政府の“巨額支援” 激化する競争の行方は?
南波キャスター:
こうした中、日本政府は台湾の半導体製造大手の「TSMC」(熊本県菊陽町)に総額1.2兆円の巨額支援を発表しました。
さらに次世代半導体と呼ばれる、スマートフォンなどに使われる小さな半導体の国産化を目指している「ラピダス」(北海道千歳市)に対しても、政府は3300億円を支援する方針です。
2021年度からの3年間で日本は、約4兆円の予算を確保しています。
世界と比べると予算の規模はどの程度なのか。
▼アメリカ→5年間で約6.8兆円(年割合で比べるとそれほど日本と変わらない予算)
一方、
▼中国→10兆円を超える規模
▼韓国→35.7兆円以上(2026年までに実施予定)
では、世界と戦いながら日本の復活はありうるのでしょうか。
永濱さんは「復活は十分あり得る。日本は半導体の製造装置や素材の分野では世界的にシェアを持つ。いかに生産拠点を持つ企業を日本に引き込めるかがカギ」と話しています。
ホラン千秋キャスター:
新型コロナウイルスの影響で半導体の製造ラインがストップした数年前には、給湯器が手に入らない、車の生産ラインがストップするというニュースを耳にした人も多いと思います。
とにかく半導体がないと何も作ることができないという状況なわけで、「TSMC」が日本にきました。
東京大学 准教授 斎藤幸平さん:
「三笘の1ミリ」もボールに半導体が入っていたからああいう判定があって日本も勝ったとも言われています。そういうレベルにまで半導体が浸透している中、韓国や台湾は国を挙げてここに注力している。日本が今からここで追いついていくというのは、そう簡単にはできないのではないかと思っています。
ただ、最先端をいく台湾、韓国、アメリカなどは日本と友好的な国なので、逆に日本は半導体の製造装置や半導体素材の分野で、いい相互依存関係を築いていくということが、一つの生存戦略になっていくと思います。