川崎市の住宅地近く、竹やぶから現金2億円以上(合計)が発見されました。現地はもう大騒ぎ。持ち主は見つかりましたが、2億円の正体は、なんとも「不適切」なものだったのです。(アーカイブマネジメント部 疋田 智)
【写真を見る】「竹やぶから不適切な2億円騒動」(1989年)【TBSアーカイブ秘録】
竹やぶから2度に分けて
ときはバブル真っ盛りの1989年4月のこと。神奈川県川崎市の竹やぶから1億3000万円分の札束が入ったバッグが見つかりました(後に1億4521万円と判明)。タケノコを掘りに来た付近の住民が見つけたものですが、誰が放置していたのか分からず「なぜここに?」「暴力団の資金か?」などと、様々な憶測を生みました。
この騒ぎが全国的な大騒動に発展したのは、その5日後のこと。
同じ竹やぶから第2の札束「9000万円入りの紙袋」が発見されたのです。
3匹目のドジョウ?
同じ竹やぶからまたも大金が。しかも9000万円も!21歳の男性が、家族と山菜摘みに来て発見したもので、茶色い無地の手提げ袋(紙袋)の中に1000万円のたば7つと、100万円のたば約20個の、合計約9000万円が入っていたといいます。
このニュースが大々的に報じられると「まだあるのでは?」と、地元ばかりか全国から多数の人びとが押し寄せました。現場には警察による制止線が張られ、大騒動に発展したのです。
大金の正体は?
捜査にあたった神奈川県警は、札束に残された帯封の日付や、金融機関名から持ち主の割り出しを進めました。
その結果、事件から1か月後に「東京都大田区で通信販売の会社を経営する社長(当時46歳)が、竹やぶに現金を置いたことを認めた」と発表しました。
「紛失した」のではなく「わざと置いた」?
報道陣が色めきたつ中、当の社長も会見し、次のことを認めました。
「切手の売買で得たカネを2度に分けて竹やぶに置いた。脱税したカネだった。善人に拾われ、社会に役立てるよう寄付してほしかった」
意外な入手先
切手の売買?脱税?
そもそもそんなに儲かるなんてどんな会社なんでしょう。答えは意外なものでした。
当時、少年マンガ誌の裏表紙などで様々なものを広告し、売っていた通販会社を憶えていらっしゃるでしょうか。何社かある中の1社が、この社長が経営する会社だったのです。
この会社の一番のセールスポイントは「現金でなく切手で買える」ということでした。客にとっては現金書留にする手間がなく、手数料もなく、郵送料も安くすみ、大歓迎でした。
当時、切手はほぼ現金のように扱われました。
大量に売買すると、額面の90%以上で取引されたといいます。もちろん残りの数%分は商品価格に上乗せされていました。
社長はその儲けをなぜか隠していたのです。
騒動の決着?
竹やぶから出てきたカネは、結局、合計2億3,521万円。
騒動が収まった後、拾得者2人にはそれぞれ10%が報労金として支払われ、社長には追徴課税が課されました。
なぜ最初から適切に申告しなかったのか、大金は後で竹やぶにとりに来るつもりだったのか、今となってはどこか腑に落ちない部分も多い事件でした。
あれから35年。現在ではこんな大金を現金で授受する人はほぼいません。ましてや商品を切手で売買するなんてこともほぼなくなりました。
あらゆる決済が電子決済当たり前となり、税金すらもネット上の申告が推奨される今、竹やぶ事件はすでに前世紀の「不適切なミステリー」になってしまったのです。