「長いだけじゃなかった…」巨大蛇行剣の全容が明らかに、刀剣の歴史に迫る新発見が続々と【報道特集】

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2024-04-06 06:30
「長いだけじゃなかった…」巨大蛇行剣の全容が明らかに、刀剣の歴史に迫る新発見が続々と【報道特集】

“国宝級の発見”とも言われる巨大蛇行剣。私たちは1年間にわたって密着取材を続けて来ましたが、2024年3月、クリーニングが終了。その全容が明らかになりました。

【写真を見る】巨大蛇行剣の全容、研究者たちも驚いた“鞘尻”

巨大蛇行剣の保存処理に約1年密着 “謎の4世紀”に迫る数々の発見

「もう1枚ある、もう1枚。3枚目あった、3枚目」

2月、私たちの目の前で見つかったのは3枚の銅鏡。1600年前のものとみられ、こちらを向いているのが鏡の面だ。

調査補助員の大学院生
「映ってますよね…すごい」

ここは奈良市の富雄丸山古墳。2023年の年末から発掘調査が行われていたが、現場に建屋が設置されるなど、厳重な警備が敷かれていた。

2022年12月、ここで“国宝級の発見”とも言われる2つの極めて貴重な出土品が見つかっていたからだ。

1つは盾の形をした、これまでに前例のない特徴的な鏡「鼉龍文盾形(だりゅうもんたてがた)銅鏡」

そして、もう1つが巨大な蛇行剣だ。曲がりくねった剣の全長は2メートル37センチ。あまりの長さに、当初は複数の剣がつながっているのではという見方もあったが、X線検査の結果、1本の剣だと確認された。

その巨大蛇行剣、3月、およそ1年間にわたるクリーニングが終了し、全容がついに明らかになった。

剣を握る柄(つか)の部分に備えられた雄大な装具。そして剣の先端、その先に驚きの発見があった。いずれも研究室での繊細なクリーニングによって明らかになったものだ。

この巨大蛇行剣は古代東アジアでも最大の鉄剣で、つくられたのは日本で国家の形成が進んだ、今から1600年前の「謎の4世紀」とみられている。前方後円墳が各地に築造されるなどしていたが、中国の書物などに記録が無く、分かっていないことが多い時代だ。

私たちは1年間にわたって巨大蛇行剣の保存処理に独占密着。「謎の4世紀」や、日本の刀剣の歴史に迫る、数々の発見を目撃した。

クリーニング最大のヤマ場 巨大蛇行剣の“天地返し”

2023年春に始まった巨大蛇行剣の保存処理は、6月に表面のクリーニングが終了した。

柄の漆や、鞘の木の痕跡など1600年前の剣の姿につながる多くの情報が得られた。しかし、保存処理を担当する奈良県立橿原考古学研究所の奥山誠義総括研究員は…

奈良県立橿原考古学研究所 奥山誠義 総括研究員
「5合目までも来てない感じがしますね、まだ。(裏面への)反転作業が無事に終わって、土を取っていくところで5合目を越えたかなと」

反転するといっても蛇行剣だけを取り上げて裏返すわけではない。周囲の土にも痕跡が残る可能性があるため、剣の土台ごと反転させる必要があるのだ。裏面の方がより多くのことが分かる可能性があるという。だが、一体どうやって裏返すというのか。

2023年8月、蛇行剣は頑丈な木枠に囲われていた。表面はペーパータオルなどで養生が進む。

奥山 総括研究員
「反転作業があるのでその作業に耐えられるように、板を組み合わせて棺のようなものを作っている。(Q.これを作ったのも奥山さん?)はい、私の手作りで」

木枠に流し込まれたのはウレタン。膨張が始まると10分程度で固まる。反転の際に蛇行剣が動かないようにしているのだ。

その後、金具やネジでフタと木枠を固定。蛇行剣を反転させる準備が整った。

奥山 総括研究員
「みなさん力を合わせてお願いします」

翌日、最大のヤマ場である“天地返し”、巨大蛇行剣の反転作業が始まった。

8人がかりで蛇行剣が入った木枠を持ち、慎重に床におろす。いよいよ反転だ…

奥山 総括研究員
「そうっと、そうっといきましょう」

ゆっくりと傾けていく。

2か月間、奥山を中心に保存科学担当のチームが準備をしてきた反転作業。奥山は「夢の中にまで蛇行剣が出て来た」と話すほどだったが…

奥山 総括研究員
「あともう一息、頑張ってください。…あと1センチ…はい、着きました。…返ったね!」

蛇行剣の“天地返し”が成功した。

奥山 総括研究員
「 無事終わりました、よかった。(Q.大ヤマ越えましたね)越えました。あとは(木枠を)開けていくだけ」

“赤っぽい木質”、“黒い漆”…巨大蛇行剣の構造解明に期待

翌週、裏面の作業を行うのは、現場でも発掘を担当した奈良市埋蔵文化財調査センターの村瀬陸主務。土を少しずつ掘りながら裏面の状態を確認していく。

作業を始めてまもなく表面との違いが明らかになってきた。

奈良市埋蔵文化財調査センター 村瀨陸 主務
「ちょっと赤い、これは木質。裏面の方が残りがいいのかなと」

蛇行剣が入れられていた鞘のものとみられる木が見つかった。こうした鞘の痕跡が表面よりも多く広がっていることが早速わかってきた。さらに、その近くの土を奥山が顕微鏡で拡大してみると…

奥山 総括研究員
「これは織物の痕跡とみていいかな」

土に転写された痕跡から織物自体は失われているもののその存在が確認できた。

そして、注目されるのが、表面でも多くの痕跡があった剣を握る柄の部分だが…

村瀨 主務
漆膜が見えてるな。(Q.広がってますね漆) 結構出て来ましたね」

黒々とした漆が確認された。

柄を構成していた木は大部分が腐って無くなっているが、そこに塗られていた黒い漆は残っていた。漆の痕跡を探ることで今後、柄の構造が明らかになる期待が高まった。

そもそも蛇行剣は、最大で80センチほどのものが国内でおよそ80本見つかっているが、柄などの構造がほとんど分かっていない謎の剣だ。

この巨大蛇行剣はその中でも最古のもので、呪術的な目的でつくられたと見られているが、どこまで構造を明らかにできるのか。

2023年10月、奥山によるクリーニングが始まった。手にしていたのは…

奥山 総括研究員
「千枚通しです」

裏面の土は乾燥などの理由でかなり固くなっている。奥山は力任せにせず様々な道具を使って掘っていく。

奥山 総括研究員
「(Q.それは?)メスです、医療用のメス。薄く削ぎ落とす感じ」

取り除いた土は採取場所などを細かく記録して、全て保管しておくという。

奥山 総括研究員
「子どもの世代か、孫の世代か分からないが、技術が確立したときに可能性を広げられたら」

そして、構造が明らかになるか期待される柄の部分。漆がうっすら広がっている。周囲の土を慎重に取っていくと

奥山 総括研究員
赤いですね、今までで一番赤い」

この部分を掘っていくと、くぼみのようになっていたが…

奥山 総括研究員
「(Q.すごく赤いですね)赤いですね」

その後の分析で、この赤い顔料は表面でも見つかった辰砂(しんしゃ)と判明した。このくぼみのような場所はもう1つあり、ひもなどを巻き付けるところだった可能性があるという。クリーニングによって柄の構造が徐々にみえてきた。

刀剣の歴史に迫る発見 巨大蛇行剣に「剣」と「刀」両方の特徴

2023年11月、作業は順調に進み、柄周辺の漆の痕跡がさらにはっきりと浮かび上がっていた。

岡林孝作学芸アドバイザーも状態の良さに目を見張る。

奈良県立橿原考古学研究所 岡林孝作 学芸アドバイザー
「ここちゃんと残ってるね。こんなに残ってるの滅多にないね。こんなに開く鞘口、蛇行剣だからでしょうね」

大きく広がった鞘の入口の漆。蛇行した剣をおさめるために広がった独特の形状が見て取れる。

そして、問題の柄の部分。日本の刀剣の歴史に迫る発見があった。

まず、柄の縁についた突起。これは蛇行剣のような「剣」にみられる特徴であるという。

一方で、この柄頭と呼ばれる部分。今は上から見た形しか分からない。だが、側面は楔形の形状である可能性が高いという。実はこの「楔形柄頭」は「剣」ではなく「刀」に備わっている特徴だという。

「剣」は相手を突き刺し、「刀」は相手を切る武器で、時代が進むと柄などの装具が異なっていく。巨大蛇行剣は「剣」と「刀」の特徴を併せ持つものだということが初めて分かった。

「蛇行剣に秘められた精神きっとある」復元で日本刀の源流を探る

この日、蛇行剣の見学に訪れたのは河内國平(82)。現代最高峰の刀匠(とうしょう)の1人だ。

刀匠 河内國平氏
「最後の仕事としてやってみようと思ってるけどね」

数々の名刀をつくり続けてきた河内だが、いま、巨大蛇行剣を自らの手で作ることを考えているという。この日、車に乗せて来ていたのが…

刀匠 河内國平氏
「(Q.何メートルくらい?)2メートル、重さ16キロ」

すでに2メートルの鉄の棒の重さを確認したり、一部の試作も行なったりしたという。

河内は4世紀に朝鮮半島の百済から送られたとされる国宝・七支刀(しちしとう)を2度復元するなど、古代の刀剣の研究を続けて来た。

巨大蛇行剣の復元には日本刀の源流を探る意味もあるという。

刀匠 河内國平氏
「絶対にやってみたい。本当に体力もいるだろうし、作ったらいいではないだろう。日本刀だって、すぐにぽっと生まれたものでもない、基本は古代刀剣。そこ(蛇行剣)に隠されている、秘められている精神的なものがきっとある、あの時代の。それまで分かればおもしろい」

「なんじゃこりゃ」「一体どうなっているんだ」研究者たちも驚いた“鞘尻”

山の草木も染まる2023年12月。蛇行剣のクリーニングはクライマックスを迎えていた。剣の先端部分、そして、その先の鞘尻と呼ばれる部分の作業が始まろうとしていた。

奥山 総括研究員
「いよいよですね、いよいよ鞘尻ですね」

まずは剣の先端…周囲の土を取っていくと、その輪郭がくっきりと浮かび上がった。そして、いよいよ鞘尻へ…

奥山 総括研究員
「(漆が)出て来ましたね」

しばらくすると剣の先端からおよそ10センチ先のところで漆が出て来た。立ち上がるように傾斜がついている。ここが鞘尻とみられる。

しかし翌日、予想外にも鞘尻のさらに先から漆が出現した。

奥山 総括研究員
「(立ち上がっているところ(鞘尻)の隣?)真横ですね」
「続きますね、続きましたね、なんなんだこれ。みなさん想像を絶するだろうね」

鞘尻から突起のように漆が伸びる。予期せぬ形状のものが出てきたことに研究所の幹部は…

奈良県立橿原考古学研究所 岡林孝作 学芸アドバイザー
なんじゃこりゃ。本来ここ(鞘尻)で終わらないといけない。また一段ついて伸びる、なんだこれ」

奈良県立橿原考古学研究所 水野敏典資料課長
「伸びますね、これは一体どうなっているんだ。最後まで予断を許さない、なんだこれは一体

その後この突起は、この時代の鞘についているものとしては初めての発見であることが分かった。

儀式などで剣を立てて置く際に鞘尻が地面につかないようにする石突(いしづき)というものではないかとみられている。

「当初の想定よりも18センチ伸びた」柄や鞘も異例づくしだった巨大蛇行剣

年の瀬、奥山が作業していたのは柄頭の側面だ。

奥山 総括研究員
「ここが最後のヤマ場に近いかな」

一面にびっしりと漆が残る。細い器具で漆の上の土を落とし、形を明らかにしていく。しばらくすると柄頭側面の形状が出現。予想通り楔形が浮かび上がった。

奥山 総括研究員
「今日初めて出たので、誰も見ていない正直、まだうちのメンバーも」

改めて剣全体の長さを測定すると…

奥山 総括研究員
285(2メートル85センチ)当初の想定よりも18センチ伸びたかな」

鞘尻の先の石突の新発見などにより、装具を含む剣全体の長さが実に2メートル85センチにものぼることが確認された。

奈良県立橿原考古学研究所 水野敏典資料課長
「出土品としては他に類を見ないほど、ほぼ完全な形で出て来たことになる。1か所、1か所は思い当たるものがあるが、全部通して見ると全く見たことがないものになった」

想定外の発見が続いた蛇行剣のクリーニング。その柄や鞘も異例づくしであったことがわかった。

奈良県立橿原考古学研究所 河﨑衣美主任研究員
「長いだけじゃなかった…」

その後も施された細やかなクリーニングによって明らかになった、巨大蛇行剣の全容。1600年前の在りし日の姿を現代の私たちに想像させるものとなった。

およそ1年間にわたった蛇行剣のクリーニング。

奥山にとって、蛇行剣に向き合い続けた1年となった。だが「決して特別な1年だったわけではない」と話す。

奥山 総括研究員
「保存科学の人間にとって、1点1点が貴重なものであることに変わりはなくて、蛇行剣も同じ貴重なものの1つ。これだけが特別なわけではない。大きい、小さい、珍しいもの、いろいろあると思うが、文化財としての価値というものは唯一無二ということは変わらないので、(今後も)その点は変わらず取り組むと思う」

今後、蛇行剣は薬品を浸透させる処理などが数年続く予定だ。1600年前、私たちの祖先はなぜ、そしてどうやって、この巨大な剣をつくったのか。その謎の解明はつづく。

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