開発のきっかけは社長が感じた「罪悪感」 高さわずか5メートル以下の重機でしか活躍できない「日本のインフラの“急所”」【DIG Business】

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2024-04-06 07:01
開発のきっかけは社長が感じた「罪悪感」 高さわずか5メートル以下の重機でしか活躍できない「日本のインフラの“急所”」【DIG Business】

橋や道路といったインフラ。耐震化などの基礎工事には、ある大きな課題があった。

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企業の思いや開発秘話を深掘りする企画『DIG Business』。今回は課題を乗り越える新工法を編み出した、山梨県甲府市の会社を取材した。

開発のきっかけは社長が感じた「罪悪感」だった。

後から基礎工事のやり直しはできなかった

固い地盤まで杭を打つ基礎工事は、通常、高い支柱を持つ重機を使用する。このため一度、構造物が完成してしまうと、建物が邪魔をして杭を打ち直すことはできなかった。

そこで甲府市の建設会社「山本基礎工業」が開発したのが、低く、狭い場所でも基礎の杭が打てる重機。

コンパクトで橋の下にも潜ることができる。交通量が多い道路の橋でも、通行止めにしないで橋脚を作り直すことができるのだ。

2009年に1台目を完成させ、その後も改良を重ねて去年最新型を発表。
その道のりは簡単ではなかった。

2009年当時、山本武一社長は、土を掘りだすショベル部分=「ハンマーグラブ(以下、ハンマー)」を見つめて言った。

「一番の問題はこのハンマー。本当に泣かされた。うまく掘れず何度も作り直した」

一度は断った依頼

山本基礎工業は基礎工事の専門会社だ。地面を円筒形に掘って、そこに鉄筋コンクリートの杭を作る。

中部横断自動車道の南部インターチェンジなど、大規模プロジェクトの橋や建物の基礎工事を手がけてきた。

かつては掘削機と言えば高さ13メートルほどの大きな支柱を持つ機械で、作業を補助する大型のクレーンと2台1組で工事をしていた。ハンマーだけでも約3メートルもあった。

ところが2009年に開発した掘削機は高さがわずか4.85メートル。ハンマーは1.5メートル。
しかも、1台で施工が可能になった。

開発のきっかけは建設コンサルタントからのある工事の打診を断ったことだった。道路の高架下で、高さが5メートルしかない場所での工事だった。

山本社長
「私どもも色々考えた末、(高さ5メートルの場所で基礎工事ができる)機械は全国でもありません、と断ってしまった。私どもの会社はプロ集団ですので断った後、罪悪感を覚えまして寝られなかったです」

ハンマーの力をどう保つか

掘削機は、ハンマーと呼ばれる巨大なシャベルを高いところから落とす勢いを利用して土を掘り出していた。そのため、高さは必要不可欠だった。

当時、工場長は「(ハンマーを)短くすると軽くなりますので、衝撃が少なくなり土をつかんでくれない」と話していた。

さらに大きな課題があった。

工場長
「水切りですね。水の浮力はすごいんですよ」

地面を掘っていて、水とはどういうことか。基礎工事の現場を訪ねた。

地面を掘り出した掘削機のショベルからこぼれているのは…

水だ。泥水がこぼれている。

この水は地下水。地面を深く掘ると大抵、水が染み出てくる。

ハンマーが重ければ、高い位置から落とされた衝撃力で、この水の影響をさほど受けず土を掘ることができる。

しかし、掘削機の車体をコンパクトにするためハンマーを短く・軽くした場合は、ハンマーが水の抵抗を受けて横にぶれ、衝撃力が弱まって、土を十分に掘れないという。

掘削地点にはどのくらい水があるのか。

工事現場の担当者
「今は12メートル掘削して、大体6メートル水が湧いています

なんと掘削した半分、6メートルが泥水で満たされていた。

掘削機のハンマーはこの水深6メートルの泥水を突破しなければ、地面にたどりつけないのだ。

水の逃げ口を作る

工場長たちが考えたのは、効果的な水の逃げ口を作ることだった。そのために、ハンマーに大きな穴を空けた。

それによって軽くなりすぎないよう、ハンマーを厚くして1.5トンの重量を確保した。

さらに高い支柱がなくても掘削できる工法を編み出した。ハンマーをつるすレールを、縦ではなく、水平方向に伸ばしたのだ。「低空頭スライド工法」として特許を取った。

高さわずか4.85メートル。
この新型機は、従来の掘削機が入り込めなかった狭い現場、例えば高速道路の橋の下で行う拡幅や補強工事で威力を発揮する。しかも道路は通行止めにせずに工事が可能という大きなメリットがあるため、2009年の発表当時、関係者の注目を集めた。

耐震化・洪水対策で活躍

そして実際、交通量が多い国道の工事で、2013年に改良型が投入された。

工事が行われたのは、山梨県の甲府市と笛吹市を結ぶ国道20号線にある橋。耐震化などを目的としていたが、既に橋がかかっているため、作業ができる空間は橋の下のわずか4.7メートルしかなかった。

それでも重機は橋の下に滑り込み、ハンマーを使って土を掘り起こすことができたのだ。

通行止めをせずに工事ができるというメリットも評価された。

国土交通省関東地方整備局 甲府出張所の担当者
「この道路は国道20号で、県内でも交通量が非常に多い。災害時にも緊急道路になるので、通行止めにすることはできない」

さらにコンパクトに 技術力で生き残る

国道を停めることなく工事を行った重機はその後も改良が進められ、さらに進化した重機が2024年5月の「建設・測量生産性向上展」(千葉県・幕張メッセ)でお披露目される予定だ。

その高さ、2.99メートル。
高さを下げるだけでなく、横幅も約1メートル狭くなり、より狭い空間に入り込んで工事ができるようになった。

従来はディーゼルエンジンだった動力も、電動式になった。地下の作業で問題となる排気ガスがなくなり、作業環境が格段に改善される。

いま、全国的な課題となっている橋や道路といったインフラの整備。

山本基礎工業では、新たに作るよりは、既存の建物の補修に重点が移っていくと見ている。

山本社長
「技術革新をしなければ会社は生き残っていけない。それにさらに磨きをかけていくことが会社のプライドです」

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