早めの「報・連・相」があれば……。大和銀行NY支店行員が1100億円の泥沼にはまった理由(1983年-96年)【TBSアーカイブ秘録】

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2024-04-10 07:00
早めの「報・連・相」があれば……。大和銀行NY支店行員が1100億円の泥沼にはまった理由(1983年-96年)【TBSアーカイブ秘録】

日本経済がイケイケドンドンだった80年代から90年代にかけて、当時の大和銀行(現りそな銀行)がニューヨークで約1100億円もの巨額損失を出した事件がありました。この事件、いろいろな業界の若手社員が学ぶべき教訓を含んでいるかも知れません。(アーカイブマネジメント部 疋田 智)

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地獄の入口は1100万円

1983年、事件の「小さな発端」は大和銀行ニューヨーク支店で起きました。
この支店で現地採用された井口俊英元行員(故人・以下敬称略)が債権取引で5万ドルの損失を出したのです。井口は大人しい性格にみえ、独学で金融商品の取引を学び、日々の業務をつつがなく行っていたといいます。

5万ドルの損失は、当時のレート(1ドル=220円)で計算すると約1100万円というところです。大きいには大きいですが、そこで上司や仲間に相談すればまだ何とかなっていたかもしれません。ところが「これが発覚してクビになってはマズい」と、井口は隠れて損失を取り返そうとします。これが地獄への入口でした。

損を取り返そうとしてますます泥沼にハマる

井口は損失を「簿外債務」としました。つまり隠蔽です。損失は顧客から預かった債券を売って穴埋めしたといいます。
一方、書類を偽造して、見せかけだけは利益が出たようにしました。
当時はコンピュータもネットもありません。損失を知るには、社内でも限られた人間しか知らないシステムコードが必要だったために、誰も井口の不正に気づきませんでした。

それどころか、トゥシ(井口の異名)はだんだん「天才トレーダー」として周囲から信用を増していきます。そのあまりの「天才」ぶりに、彼はいつしか大和銀行ニューヨーク支店のナンバー2(支店長の次)と目されるようになっていました。シティバンクから引き抜きの話もあったといいます。
しかし、その裏で彼は「負けを取り返そうとすればするほど損をする」という泥沼にハマっていたのです。

そのままバブルへ、そしてバブルの崩壊へ

80年代半ばから、日本は次第にバブル景気に沸き立つようになってきます。
そのバブル期、大和銀行にとって、NY支店長は出世コースに乗った行員が「海外でハクをつけにやってくる」ポストだったといいます。井口は支店ナンバー2として実質的に支店業務を統括するようになります。ところが、その裏で、井口は「損失を取り返すためにまた損失を出す」トレードを繰り返していたのです。

やればやるほど泥沼に

85年、井口は妻に離婚を切り出されてしまいます。離婚の弁護士費用や子供の養育費などに一部を着服しながら、彼はますます大きなトレードにのめり込むようになります。
87年には累積の損失が2億ドルに達し「もう無理だ」と本店専務にこれまでの不正を告白しようと準備します。ところが、告白しようとした相手の銀行幹部が、告白直前に急死。
機会を失い、さらなる泥沼に足を踏み入れていくのです。

最初の損失から12年。日本のバブル崩壊後の1995年に大和銀行の損失は、いつのまにか当初の2万倍以上にまで膨れあがっていました。最終的に11億ドル(当時のレートで約1100億円)。この巨額損失を、井口はいわばひとりで抱え込んでいたのです。

もはやこれまで、そして「告白」

95年の夏、にっちもさっちもいかなくなった井口はついに「もはやこれまで」と、巨額損失について当時の頭取に手紙で告白します。突然の告白に銀行上層部は驚き、逡巡した末、大蔵省に報告します。

ところが、アメリカ連邦捜査局は大蔵省より前に事態を把握していました。
さらにアメリカ金融当局(FRB)への報告は、大蔵省の事態把握から6週間後になるなど、アメリカは「日本全体で不祥事を隠蔽している」との不信感を持つようになったのです。

「アメリカ追放」そして

1996年2月、大和銀行は司法取引に応じ、当時としては史上最高額の、罰金3億4千万ドル(当時のレートで350億円)を支払いました。そして、大和銀行はそのままアメリカ追放となったのです。

井口は禁錮4年、罰金200万ドルの実刑判決を受け、収監されました。
98年に仮出所。獄中で書いた手記『告白』がベストセラーになりました。

彼はスタートレーダーのような派手な生活は一切しなかったといいます。夜の街で豪遊することもなく、近所づきあいも最小限。ひたすらに「損失を隠そう隠そう」としたトレーダー人生でした。
2019年、肺がんで死去したと伝えられています。

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