「円安」に歯止めがかかりません。16日も一時は154円半ばをつけるなど円安が加速しています。材料費も高騰する中、あるアイデアで価格を抑えようとする“街のパン屋さん”を取材しました。
【写真を見る】「毎週のように材料費の値上げが」止まらない円安“街のパン屋さん”も苦境、仮に1ドル155円台が続くと生活は? 日本が“召使階級”に?【news23解説】
止まらぬ円安 街の“パン屋さん”も苦境
都内にあるパン屋さん。こちらの店では菓子パンや調理パンなど約80種類のパンを販売しています。中でも、人気なのが…
女性客
「きょうはイチジクとクルミのパン。クルミは香ばしいしイチジクはドライフルーツなので食感もいいですし」
ほぼ毎日売り切れるという、イチジクとクルミを使った食パンですが…
セイルノッツ 渡辺祐也 店長
「円安の影響で原材料があがってしまったので、商品すべて1割ほど値をあげさせていただきました。ドライフルーツとか、ナッツとかそういう海外から輸入するものが直接影響を受けてますね」
「イチジクとクルミの食パン」は今年1月にやむなく40円値上げしました。元々、ウクライナ情勢などによりパンの原材料となる小麦の価格が上昇していましたが、円安が追い打ちをかけているといいます。
物価高は全国のパン屋さんを苦しめていて昨年度のパン屋さんの倒産件数は前年度の2倍となり過去最多を記録しました。
苦しい状況の中、こちらの店ではある方法でコスト削減に成功しました。
セイルノッツ 渡辺祐也 店長
「デニッシュ生地にブルーベリーとブルーベリージャムを一緒に合わせたものを乗せて、クリームチーズを」
輸入のドライフルーツだけを使うのではなく香り豊かな国産のジャムを混ぜて価格を抑えました。3月から販売を始め、売れ行きも好調だといいます。
セイルノッツ 渡辺祐也 店長
「材料の値上げの連絡が、問屋さんから、本当に毎週のように連絡もらうので、(円安が)止まればいいですけれどもね。もしかしたら少し値上げさせていただくかもしれないんですけれど、可能な限り努力していきたいと思ってます」
GW海外旅行人気は「アジア圏」 円安で平均費用は過去最高に
円安はゴールデンウィークにも影響を与えそうです。こちらの旅行代理店で人気の旅行先は“アジア圏”。
JTB海外旅行グループ 鈴木あさみさん
「韓国や台湾の問い合わせが多くなっています。物価が安かったり、行きやすい」
今年のゴールデンウイークは、1泊以上の海外旅行に出かける人の数が去年の1.7倍に増加する見通しです。一方で、円安などの影響で1人あたりの平均費用も過去最高額になる見込みです。
20代女性
「海が綺麗な国とかに行きたいんですけど、円安が影響めっちゃするんだろうなって。飛行機とかホテルとかも影響すると思うので、簡単にはいけない」
20代女性
「国内で良いかなと私は思っちゃいます。どこに行っても結局高いので、沖縄とか北海道とかにも素敵な場所がたくさんあるので、そこで十分」
仮に1ドル155円台が続くと…「為替介入」すでに3回、円安に打つ手なし?
藤森祥平キャスター:
今も1ドル154円台で推移をしています。今後、もし仮に1ドル155円台に突入し1年間続くと、2023年度に比べ2人以上の世帯の負担額が11万558円も上がってしまう、というデータがあります。今後さらに1ドル160円台になる可能性もあるんでしょうか?
23ジャーナリスト 片山薫 記者:
160円ではさすがに「ない」と言いたいですが、「ありうる」という専門家が少しずつ増えてきています。
というのも、元々1ドル155円台ぐらいで、“為替介入”が行われて少し円高に戻るのでは、という期待がありました。しかし最近、政府・日銀の関係者があまり強い発言をしないので、もしかしたら、すぐの為替介入はないかもしれない、という見方も出ています。
藤森キャスター:
“為替介入”は「日銀が円を買い、ドルを売る」という行為で、2022年以降3回行われています。▼2022年9月22日の為替介入で一時145円台が140円台まで円高が進みました。しかしその後、元に戻ってしまいました。▼10月21日・24日に2回為替介入を行い、150円台から145円台まで円高が進みましたが、ふたたび戻ってしまった。これは為替介入の意味はあるのでしょうか。
片山記者:
どうしても焼け石に水というか、為替介入は限度があるので、なかなか難しいと思いますが、一応、「時間稼ぎ」という効果があるのではないでしょうか。
例えば、急激に円安が進んでいるとき、「このまま円安に行ってはいけない」というのはあるので、一度円安を止めた。そしてその水準をキープする、という意味で、一定の時間稼ぎという効果はあるのではないかと言われています。
ただ、元々「ドルが強い」「アメリカの経済が強い」ことで起きてる円安なので、それを転換する力はありません。そういう意味ではどうしても、何とかアメリカの景気が落ち着くのを待つ他力本願的な「時間稼ぎ」にはなるかな、という程度ですね。
円安進む日本経済 インバウンド頼みで日本が“召使階級”に?
小川彩佳キャスター:
この円安の根本的な解決を望む、というのは難しいという状況ですが、円安がここまで進むとは想像されてましたか。
東京大学准教授 斎藤幸平さん:
してなかったので、私も明後日からアメリカ出張なので困ってます。今は金利も上げられないし、解決策がなかなか思いつきませんが、そういう意味でも「アベノミクスのツケ」が出てきてるな、と思います。
こうやって円安が進むと、一部の大企業は儲かるかもしれませんが、中小企業や普通に働いてる方たちの生活が苦しくなり、格差は拡大していく。円安の「安い日本」で、国内で儲けようとすると結局、インバウンド頼みになってしまっていますよね。
だけど庶民の人たちは、インバウンドの人たちが受けている高いレストランやホテルなどのサービスを自分たちでは消費できないので、いわば“召使階級”として外国人に仕えていく、みたいな社会に。ますます衰退していくことになるのではないか危惧しています。
青木さやかさん:
ついこの前まで「日本は世界のトップを走ってた」みたいな感覚がありますが、全然変わってきたんだな、と思います。生活の中でも好きなパンの値段が倍ぐらいになってるな、という印象があり、どんどん贅沢品になっていく。海外旅行は「お金があるんだな、いいな」という感覚で見るようになってしまいましたね。
小川キャスター:
本当に「そろそろしんどいな」という感覚はありますが、この円安は耐えるしかないのでしょうか。
片山記者:
残念ながら「耐えるしかない」ところはあります。しかし、いくつかできることがあって、「生活が苦しい、というのはちゃんと訴える」というのは一つ大事なことだと思います。
もう一つ、この円安の影で必ず儲かってる企業があります。大体日本企業は1ドル140円ぐらいを想定して、いろんな計画を立てます。1ドル155円になるということは、おそらく1割ほど想定以上に、何かのときに儲かってるはずなので、そこに「きちんと賃上げをしてほしい」とか、「取引価格を適正化して欲しい」ときちんと言った方がいいし、我々もチェックした方がいいのではないかと思います。
小川キャスター:
そして大企業にとどまらない賃上げに繋げていかなければなりません。