夫婦別姓は女性のわがまま? 自分の名字で生きる「事実婚」12年目の夫婦、名字を変えた“苦い経験”【Nスタ解説】

TBS NEWS DIG Powered by JNN
2024-05-02 21:17

自らの経験を描き、選択的夫婦別姓の必要性を問いかける漫画があります。自分の名字で生きようと「事実婚」を選んだ漫画家の女性とその夫に取材しました。

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名前を変えた"苦い経験"別姓を選んだ「事実婚」12年目の夫婦

ホラン千秋キャスター
「こんにちは、よろしくお願い致します。きょうお話を伺うにあたってこちらの表札。2つの名前が」

水谷・野田夫妻
「野田と水谷で。私が水谷で、野田さん」

水谷さるころさん(48)と野田真外さん(56)。(本名・水谷信子さん、野田真人さん)

別姓ですが、夫婦となって12年目となります。

2人は共働き。野田さんは映像作品のディレクター、水谷さんは漫画家でイラストレーターの仕事をしています。

ホラン千秋キャスター
「『結婚さえできればいいと思っていたけど』」

水谷さん
「タイトルは編集さんがつけてくれました。打ち合わせで私が言ったらしいんですけど」

水谷さんの実体験が描かれている漫画を見ると…

「30歳で結婚できた。これでもう人生、軌道に乗った!」
「そしてたった3年半後」
「離婚した」

水谷さんは以前、別の男性と結婚し、自身の名字も変えましたが、33歳で離婚。その3年後、名字を変えたことによる苦い経験から今度は法的な結婚ではなく、野田さんとの「事実婚」で別姓の夫婦となりました。

ホラン千秋キャスター
「なぜ、この事実婚で別姓を選択するっていうのがご自身にとって最適だと思われたのかというところを伺ってもいいですか」

水谷さるころさん
「私は自分の名前で仕事をしていて、出版社とか契約書もたくさんあるし、それが一度名前を変えてしまうと全部変えなきゃいけないんですよね。それがとにかく大変すぎる。やってみるまで気がつかなかったんですよね」

ホラン千秋キャスター
「事務的な部分の煩雑さっていうのが一番嫌だったということなのか、それとも自分の名前を残しておきたいっていうところ」

水谷さん
「残しておきたいというよりは、名前を変えちゃったことによって社会的に見られ方が変わっちゃうっていうのも、すごく大きかったですね」

苦い経験はさらに…

※水谷さんの漫画「結婚さえできればいいと思っていたけど」より

「このお仕事ってギャラはいかほどでしょう?」
「あ~すみません、今回ちょっと予算がなくて…。ワンカット2000円でどうでしょう?」
「え?前回の半額以下じゃないですか…」
「ま~いいじゃないですか。最近ご結婚されたことですし」

結婚して夫の名字になったことで、“夫の下に入った”という印象をもたれてしまったと話す水谷さん。

アイデンティティはどこに・・・結婚後に名字を選べる社会を

名字を変える苦悩を知った夫の野田さんは“仕事や実務の問題だけじゃない”と話します。

野田真外さん
わがままだと思われているわけですよね」

水谷さるころさん
「女性のわがまま」

野田真外さん
「感情じゃなくて、人権の問題だという話が全然ピックアップされなくて。本当に名前が変わるということが、どれだけ精神的に負担になるかとか、アイデンティティはどこに行っちゃうんだって話じゃないですか」

ただ、「事実婚」状態での夫婦別姓には問題も…

38歳の高齢出産だった水谷さん。婚姻届を出さないまま出産すると、子どもの親権は水谷さんだけにしかなく、万が一、出産で亡くなった場合、親権を持つ人がいなくなることから、一時的にだけ法的に結婚したといいます。

それぞれの人生に合った選択ができるために望んでいることは…

水谷さるころさん
「やっぱり選択的夫婦別姓の制度があれば、選択肢として利用しやすいし、早く法制化してほしい」

「選べない」のは日本だけ、選択的夫婦別姓

熊崎風斗キャスター:
国内で選択的夫婦別姓を求める声が高まり続けていますが、現行では民法750条「結婚した際『夫婦どちらかの姓を名乗る』」により、夫婦同姓となることを規定しています。

世界を見てみますと、▼選択的夫婦別姓はアメリカ(ニューヨーク州の例)、イギリス、ドイツなど ▼原則夫婦別姓はフランス、カナダ(ケベック州の例)、韓国など ▼夫婦同姓は日本だけ(法務省ホームページより)となっています。

井上貴博キャスター:
夫婦別姓にすると家族の形が壊れるという根強い意見もあります。しかし、求めているものはシンプルであるような気がします。姓を変えたい、変えたくない、どちらでもいいですよということだけですよね。

結婚して姓を変える人は、女性が約95%と圧倒的に多いため、女性の問題と捉えがちですが、もっと男性が当事者意識を持って声を上げるべきではないでしょうか。

スポーツ心理学者(博士)田中ウルヴェ京さん:
婿入りで、男性の方が姓を変える場合もあります。要は変えたい人が変えられるという、しなやかなやり方があるのではないでしょうか。

ホラン千秋キャスター:
なんとなく、結婚したら男性の姓に変えるのが当たり前という空気があるのですが、熊崎さんは結婚する際にどちらの姓にするか話し合いましたか?

熊崎キャスター:
話し合いという堅苦しいものはありませんでしたが、会話のなかで妻はどちらかというと、熊崎姓に変えたいという思いがあり、同姓(熊崎姓)を選びました。ただ100人いたら、100通りの意見がありますので、選択は大事なことだと思います。

ホランキャスター:
男性が女性の姓に変えるのは、心理的にハードルは高いのでしょうか。

井上キャスター:
今は圧倒的に女性の方が姓を変えていますが、男性が姓を変えるということが普通になれば、選択肢が増えるという意味で全く問題はないと思います。

ホランキャスター:
男性が姓を変えることについて、心理的ハードルの高さを感じることが問題なのではなく、女性にもその高さを感じている人がいるのに、無下にされているような気がします。それを思うと、結婚のシステムに疑問を抱くのは自然の流れではないでしょうか。

政府 なぜ議論進まない? 経団連会長「 選択的夫婦別姓制度をやるべき 一丁目一番地として」

熊崎キャスター:
結婚をして「姓を変える」と様々なことが起きるといいます。まず銀行口座等の改姓手続きが煩雑なこと、プライベートな部分として結婚・離婚を周囲に知られてしまうこと、職場での「姓の使い分け」で継続的なキャリアへの影響があるのではないかなど、キリがありません。

経済界からも動きがありました。3月に経済6団体が選択的夫婦別姓の導入を求める要望書を提出。経団連の十倉雅和会長は「選択的夫婦別姓制度をやるべきだと思います。政府として女性の働き方や多様な改革をサポートする一丁目一番地としてぜひやっていただいたらいい」と話していました。

井上キャスター:
これまで女性が圧倒的に負荷がかかっていたので、変えたほうがいいということですね。子どもはどうでしょうか。フランスはいかがですか?

スポーツ心理学者(博士)田中ウルヴェ京さん:
フランスは籍を入れず事実婚を選ぶ人もいますので、子どもの姓は話し合いになります。以前、女性の研究者が結婚して男性側の姓に変えたときに別の研究者だと思われたことが問題となりました。今は改善されているようですが、このようなことも男女ともに一緒に議論できることが大事ですね。

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<プロフィール>
田中ウルヴェ京さん
スポーツ心理学者(博士)
五輪メダリスト
慶應義塾大学特任准教授
アスリートの学び場「iMiA(イミア)」主宰