![「パクされて自撮りを…」少年が初めて明かした「子どもキャンプの性被害」 審議進む日本版DBS “性暴力は許さない”姿勢や対策“見える化”し共有を【news23】](/assets/out/images/jnn/1199669.jpg)
ニュースを新たな視点と独自取材でお伝えする新コーナー「eyes23」。初回に取り上げるのは「子どもへの性被害」です。大手旅行会社が主催する子ども向けの「キャンプ」に参加し性被害にあった、男子児童と両親が私たちの取材に応じました。少年が初めて母親に伝えた被害の実態の音声記録を、性描写もそのままの形でお伝えします。
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「体をさわられた」少年の突然の告白
虫取り網を手に持ち、嬉しそうに立つ少年。彼が母親にその事実を打ち明けたのは、いつものように一緒にベッドに入った夜のことでした。
男子児童(当時8歳)
「うーん、言いにくい…言いたくない。それやった人、捕まる可能性があるけど」
母親
「わかった、じゃあ…えっと…」
男子児童(当時8歳)
「体にさわられたしか言えない。すごい困っている。僕の中で一番困ったこと」
母親
「そりゃ困るね」
これは当時8歳の男子児童が初めて、自分が受けた性被害を、母親に打ち明けた様子を記録した音声です。
母親は咄嗟にスマホで録音したといいます。
母親
「お布団に潜り込んで、お布団抱えながら『あーうー、どうしようかな』『えーっと、これを言うと捕まっちゃうよな』『犯罪になっちゃうよな』『言えないよな』って言っていたので、これはきっと何か被害に、犯罪の被害にあったんだろうと思ったので」
事件が起きたのは3年前。少年は大手旅行会社「日本旅行」が主催する子どもだけの「泊まりがけキャンプ」に参加していました。
性被害を受けたのは、ほかの子どもたちと寝ていた深夜のこと。
加害者は、ボランティアスタッフのリーダーとして、子どもの世話役を担っていた20代の男でした。
いったい何があったのか。ためらいながらも、少年は母親にこう話し始めます。
「一番思い出に残っている。最悪の思い出」
男子児童(当時8歳)
「一番思い出に残っている。最悪の思い出。一番嫌な思い出。今まで誰にも言えなかった」
母親
「でも言ってくれてありがとう」
男子児童(当時8歳)
「だけどそれが言えない…」
母親
「そっか」
男子児童(当時8歳)
「どうやって言っていいかわからない…」
母親
「わかった、じゃあさ、ちょっと待ってね」
男子児童(当時8歳)
「体をさわられた」
母親
「体のどの辺?」
男子児童(当時8歳)
「言えない、言えない…下半身」
母親
「下半身」
男子児童(当時8歳)
「だから、それは言っちゃだめなところ」
母親
「言っちゃだめなところ、そっか。触られた以外に何かされた?」
男子児童(当時8歳)
「僕が寝ているところで、誰だったか覚えている。新しく入ったという、(男のあだ名)って人なんだけど、その人に撮られた。ちんちんパシャ」
母親
「ちんちんパシャ、それから?」
男子児童(当時8歳)
「それから…うー、いやだいやだ…」
母親
「大丈夫、ママに全部吐き出して。べーって」
男子児童(当時8歳)
「こわいー、そこまでしか言えない…」
少年の陰部を触り、さらに撮影していたボランティアスタッフの男。
少年はやっとの思いで、そこまで打ち明けますが、犯行はそれだけではありませんでした。
男子児童(当時8歳)
「僕はさわられた時、寝たふりをしていた」
母親
「寝たふりした。手で触られた以外のことってあった?」
男子児童(当時8歳)
「だからそれが言えないー」
母親
「じゃあそれに関係する体の場所、ママが今から指でさしていくから」
男子児童(当時8歳)
「うーん、だから、それちょっと言えない…うー」
母親
「ここ?(目を指す)」
男子児童(当時8歳)
「(首を振る)」
母親
「ここ?(『口』を指す)」
男子児童(当時8歳)
「それ」
母親
「パクされた。そっか、気持ち悪かった?そりゃ気持ち悪いね」
犯行は、少年に対する口腔性交にまで及んでいたのです。
「こわかった…」少年が一人で抱えていた苦しみ
母親
「時間はどれくらいだった?」
男子児童(当時8歳)
「20分、15分くらい。あんまわかんない…とても言いにくいけど、パクされて、パクされて、自撮りしてからちょっと…」
母親
「自撮り!?自撮りというのは…」
男子児童(当時8歳)
「ううううう…」
母親
「えらいえらい、よく言えている、頑張って言えている。えらい。きみ闘っているね。(男が)パクしているところを自撮りしていたってこと?」
男子児童(当時8歳)
「それは確か」
母親
「そっか、よく言えたね。その時ほかの子は?」
男子児童(当時8歳)
「全員寝てた」
母親
「ほかの子はされてない?」
男子児童(当時8歳)
「されてない。でも(自分は)そのことでいっぱいで寝られなかった…」
被害を受けてから9か月、たった一人で抱えていた苦しみ。
少年は最後にその想いを、母親に伝えました。
男子児童(当時8歳)
「犯罪になる?ならない?」
母親
「(男子児童)はどっちがいいの?」
男子児童(当時8歳)
「許せない」
母親
「許せない。言えなかったのなんで?」
男子児童(当時8歳)
「こわかった…」
母親
「そっか、そうだよね…ママに言ってくれてありがとう。安心して寝てね」
両親は警察に相談。男は逮捕され、2023年に懲役4年の実刑判決が確定しました。
「爆弾を背負わされた」今は見えない子どもへの深刻な影響
男子児童の母親
「赤で書いているのが犯人ですね」
加害者の男は、キャンプのしおりのなかで、少年に“メッセージ”を残していました。
『みんなでのぼった山はどうだった?』
『こんどはいっしょに山にのぼったり川に行ったりしたいね』
つらく苦しい捜査も、家族で向き合ってきたのは、強い思いがあったからだといいます。
男子児童の母親
「息子は何も悪くなくて、息子は被害に遭っていて、でもそれが言えなかったということからも、本人自身の中でも、すごくこれが葛藤であったし、最悪の思い出だと本人も言っていたので、それを私に言ってくれた以上、きちんと、これをうやむやにするのではなくて、警察に伝えて、悪いことをした人は捕まって罰を受ける。大人はきちんと対応するのだということを、本人に分かってもらいたいという思いです」
ただ、両親は将来への大きな不安を抱えています。
男子児童の父親
「おそらく記憶がだんだん薄れてきて、思い出す頻度も少なくなってきたりしてくるんだと、そうなればいいなというのも当然ありますけど。ただ、折に触れて思い出すこともあるでしょうし、そういう時にどんな気持ちになるのかなと」
男子児童の母親
「これが持つ本当の意味を理解するのは、もっと大きくなってからだと思うので。今後、彼にどういう影響を与えるかは、私もわからないですし、子ども自身もたぶんわかっていない。何か、爆弾を背負わされてしまったという感じですね」
専門家は、「多くの調査でほとんどの人が子ども時代には被害を言えていない」と指摘したうえで、「適切な支援につなげることが重要だ」と話します。
子どものケアにあたる 齋藤梓 上智大学准教授
「子どもたちは、社会とか他人とか、人間への信頼を築いている途中なので、築いている途中でそれが壊されていってしまうのは本当に大きな影響がある。『あなたが悪かったのではない』という適切なサポートを受けると、ちゃんとその出来事は心の中に整理してしまわれていくことがあるので、支援を受けるのは大事だなと思います」
日本旅行は事件について「誠に遺憾であり、痛恨の極みで、ご本人やご家族に大変な苦痛、ご心労をお掛けしたことを、心より深くお詫びする」などとした上で、「再発防止策を徹底の上、プログラムの運営管理を行ってまいります」としています。
「他の子がこういう思いをするのは本当になくしてほしい」
小川彩佳キャスター:
被害を受けた男の子は、どんなに怖かっただろう、どんなにショックだっただろうと思いますが、大変な勇気を振り絞って言葉にした。それをお母さんが懸命に受け止めて記録をした。だからこそ私達が聞くことができる、貴重な音声記録だったと思います。
トラウデン直美さん:
大人だって言えないことだと思います。子どもだったらなおさら怖いし、ショックだろうし、びっくりしただろうし、なかなか言えないし、親にも心配かけまいと、大丈夫なふりをするんだろうなと思います。“お母さんにサインが出た”ということは、どこかで絶対に助けを求めているはずなんだと思います。
そういった声を聞いて、お母さんが様子を見ながら、しっかりと耳を傾ける。何があったか聞いて、そしてちゃんと「大丈夫、あなたが悪いんじゃない」「ちゃんと大人が対応するから」と、絶望しない環境を整えてあげるというのは本当に大事なことだなと感じます。
株式会社QuizKnock CEO 伊沢拓司さん:
まさに親密さを盾にした「グルーミング」と呼ばれる手法で、犯罪に巻き込まれてしまったと思います。泣き寝入りや地下化してしまうケースが多い中で、お母さんの聞き取り方がとても丁寧でしたよね。ああいった知見も含めて、もっと広がっていくこと、そして見逃されないことというのは改めて大事だと思うので、ご両親・ご家族の態度は本当に見習うべきところが多いと思いました。
小川キャスター:
取材をした樫田さん、ご家族はどんな思いでこの取材に答えてくださったんでしょう。
news23編集長 樫田小夜 記者:
少年も含めて家族で話し合って、取材に応じるかどうか決めてくれました。被害にあった少年はすごく嫌だったし、怖かったけれども、他の子がこういう思いをするのは本当になくしてほしいと話しています。
子どもに接する仕事をする人の性犯罪歴を確認「日本版DBS」
藤森祥平キャスター:
今、国会では「日本版DBS」の法案について審議されています。成立すると、子どもに接する仕事をする人の性犯罪歴を、雇用主側が確認することができるようになります。
確認が義務付けられるのは、学校・幼稚園・認可保育所などです。一方で、学習塾や認可外保育所などの民間事業者に関しては、▼指導的立場、▼密接な関係、▼他者の目に触れにくいといった一定の要件が満たされれば、確認が義務付けられるということです。
樫田さんが今回取材した、現場の子ども向けキャンプは、民間事業者ですね。
樫田記者:
まさに民間事業者ですが、今回のような指導的立場や、密接な関係など、子どものキャンプは要件に当てはまる可能性があります。
日本旅行側も取材に対して、「(『制度の詳細確認は必要』としたうえで)再発防止・抑止の観点から、前向きに参加を検討したい」という考えを明らかにしました。
トラウデン直美さん:
こういった形で性犯罪対策が強まっていくというのは本当に必要な動きだと思います。
ただ一方で、「子どもだから言えないだろう」というところもきっとあるでしょうし、やはり大人同士がきちんとチェックしていく、お互いに見ていくという体制は絶対に必要だと思います。
この「日本版DBS」というのも一つ必要な案ではありますが、初犯の人もたくさんいると思います。そういう人をどう対策していくかというのは今後大事なことだと思います。
性犯罪 約9割が初犯…子どもを守るには?
藤森キャスター:
実は性犯罪者の前歴の有無を見ていくと、初犯が90.4%と9割を超えています。
樫田記者:
今回、加害者の男も初犯でした。専門家も「採用の段階で見抜くのは本当に難しい」と指摘しています。
日本旅行も、事件前からボランティアスタッフに対して、性犯罪に対する注意喚起や指導は行っていました。事件後の再発防止としては、主にスタッフ同士で不正を見逃さないように通報制度を強化したと話しています。
日本旅行は今回取材に応じた理由について、「広く社会に知ってもらうことが、当該企業として向き合うべき社会的責務」と話しました。
小川キャスター:
私も1人の親として、全く他人事ではないと思いながら向き合っていますが、先ほどの男の子とお母さんのやり取りを聞いていると、日頃からのコミュニケーションがとても大切なんだなということも痛感します。
例えば、幼い頃から「自分の体は自分のものであって、プライベートゾーンがあるんだ」ということを伝えていく。考えたくないですが、何かが起きてしまったときには、「あなたは決して悪くないんだよ」と「話してくれてありがとう」というふうに言える親でありたいと思いますし、そうした言葉のかけ方や日常的なやり取りを続けていくというのも大切な対策だと感じます。
伊沢拓司さん:
初犯が90%ということですが、「果たしてそれが初犯なのか」ということです。見えてこないところがある中で、捕まった回数は1回目かもしれないというようなことがあるわけです。
特に欧米諸国に比べて、日本は「加害者研究がすごく足りてない」と言われています。タブー視してしまうがあまりに、加害者について我々はあまりにも情報を持っていないということが指摘されているので、そういったところはしっかりと我々も目を向けていくべきところだと思います。それこそ、先天性の小児性愛なのか、後天性なのかということなどは、今はまだわかっていない部分もあるので、そこは研究しなければいけません。
あとは「包括的性教育」の必要性というのもいま訴えられていて、「社会的な性」についてもっと学校で学ぶべきではないかと。それこそプライベートゾーンについて学ぶ場面というのが日本は少ないと言われているので、社会側が変わっていくということが、企業に対しての対策のみではなく、求められるところかなというのは思います。
小川キャスター:
一度被害が起きてしまったら、記憶はどんどん遠ざかっていくかもしれませんが、心の傷というのは簡単に癒えるものではないということを考えると、あらゆる角度から包括的に対策を行っていくことが必要ですよね。
樫田記者:
企業が「性暴力は許さない」という姿勢や対策を、積極的に見せるようにしていき、問題を社会的に広く共有していくことはすごく重要だと思います。
藤森キャスター:
我々全体で常にアンテナを張るということですよね。
小川キャスター:
性犯罪や性暴力の被害について悩みを抱えていらっしゃるという方は、「ワンストップ支援センター」というものがあります。
医療・心理的支援、法律相談などの専門機関とも連携し、被害者本人だけでなく、その保護者の方などの相談も受け付けています。「#8891」で最寄りのワンストップ支援センターに繋がります。
性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター(全国共通)
#8891(はやくワンストップ)(通話料無料)
※NTTひかり電話の場合:0120-8891-77
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<プロフィール>
トラウデン直美さん
慶応大学法学部卒
環境問題やSDGsについて積極的に発信
伊沢拓司 さん
株式会社QuizKnock CEO
東京大学経済学部卒
クイズプレーヤーとして活躍中
樫田小夜 記者
news23記者・編集長 ジャニーズ性加害問題などを取材