実質賃金 過去最長の24カ月連続マイナス スーパー円安で強まる物価上昇と遠のく【播摩卓士の経済コラム】

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2024-05-11 14:00
実質賃金 過去最長の24カ月連続マイナス スーパー円安で強まる物価上昇と遠のく【播摩卓士の経済コラム】

物価高に賃金が追いつかない状況が、ついに過去最長となりました。今後、春闘での交渉結果を受けた賃上げが、徐々に実現することが期待されるものの、「スーパー円安」の影響もあって、実質所得がプラスになる「好循環」は、さらに遠のいています。

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実質賃金は24か月連続マイナス

厚生労働省の発表した3月の毎月勤労統計によれば、3月の現金給与総額、すなわち名目賃金は、前年同月比で0.6%増加しました。

しかし、消費者物価(除く帰属家賃)が3.1%上昇したことから、実質賃金は前年同月比で2.5%の減少となりました。

実質賃金のマイナスは、これで24か月連続のこと、比較可能な1991年以降では、リーマンショック時を超え、過去最長となりました。

「100年に一度の危機」と称された時よりも、懐具合は苦しいのですから、大変なことが起きていると認識すべきです。

名目賃金は春闘の賃上げ率ほど伸びず

実質賃金がマイナスから脱せないのは、物価上昇率が依然高いだけでなく、名目賃金=実際に支給された、あらゆる給与の総額が、期待されたほど伸びていないからです。

まだ3月分の統計が速報段階なので、23年度の数字は出ていないのですが、暦年の2023年通年の名目賃金は前年比で1.2%しか増加していません。

23年には春闘で3.58%(連合集計)と、30年ぶりの高い賃上げ率が実現したにも関わらず、春闘集計の3分の1程度しか、名目賃金(現金給与総額)に反映されていないわけです。

名目賃金が期待ほど伸びないワケ

その理由としてまず考えられるのは、春闘の3.58%賃上げには定期昇給分が含まれているからです。

純粋な賃上げであるベースアップだけでみると、2.12%に留まります。

2つ目にあげられるのが、春闘での賃上げの恩恵がダイレクトに及ぶ勤労者は、全体の一部に過ぎないという当たり前の事実です。

連合加盟どころか、労働組合のない小規模な企業が、数としては圧倒的多数です。

そうした企業の賃上げ率は、連合の数字より低くなりがちですから、全体の数字が押し下げられるのは自然なことです。

3つ目の理由は、労働時間、とりわけ残業時間の縮小です。

働き方改革に加え、いわゆる2024年問題を控えていたので、23年4月以降は、所定外労働時間(残業)が一貫して、ゼロまたはマイナスという状況が続いています。

23年通年の所定外労働時間は、前年比0.9%のマイナスでした。残業は賃金割増の対象なので、時間の減少以上に実入りの減少につながります。

さらに、ボーナスなど「特別に支払われた給与」の伸びの鈍化も理由の1つです。23年の特別給与は前年比1.9%の増加で、22年の4.6%増から、伸び率が大きく鈍化しました。

もちろん事情は個社ごとに様々でしょうが、23年は春闘での月例給の賃上げ率が高かったので、ボーナスの増加は控えめにしたという企業もあったのではないでしょうか。

実際、「春闘でのベアが高かったので、ボーナス回答はいまいちだった」といった声を聞きました。

5%を超える賃上げ率の今年は

24年の春闘は、第一回の連合集計で、5.28%という画期的な賃上げ率となりました。

バブル期の1991年の5.66%以来の高い数字です。春から夏にかけて、この賃上げ率を反映した月例給が支給され始めるので、名目賃金は間違いなく上昇するでしょう。

しかし、連合集計の対象でない企業も含め、残業やボーナスも入れた「全体」がどこまで増えるのか。

仮に23年並みに、春闘の賃上げ率の3分の1しか反映されないとすると、名目賃金は1.8%程度しか増えない計算なります。これでは2%の物価上昇に負けてしまいます。

それどころか、足もとの3月の消費者物価(除く帰属家賃)は3.1%上昇なので、実質賃金プラスの世界は、かなり遠いと言わざるを得ません。

岸田政権は6月の定額減税に期待

岸田総理大臣は「今年中に物価高を上回る所得を実現する」と公約し、6月に実施される1人4万円の定額減税の効果に期待をかけています。

しかし、そもそも減税の恩恵は、世帯の所得や人数によってまちまちです。

しかも、電気・ガス代の補助金打ち切りが決まったことに加え、中東情勢を受けて原油高が進んでいること、さらに想定外の円安が進んだことを考えると、定額減税が実質賃金のマイナスをどこまで補えるか、かなり微妙と言わざるを得ません。

第一生命経済研究所の熊野英生さんの試算によれば、このまま1ドル=155円が続くと、24年度は前年度比7%の円安となって、為替要因だけで消費者物価を0.4ポイントも押し上げることになるといいます。

実質所得がマイナスのままでは、消費拡大や需要増大は望めず、経済の「好循環」には、たどり着きません。

円安や物価高を「注視」しているだけでは、実質所得のプラスは、逃げ水のように遠のいてしまうリスクに直面しているように思います。

播摩 卓士(BS-TBS「Bizスクエア」メインキャスター)

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