「マグロの目利きも内視鏡の診断も」匠の技を受け継ぐAI 判断が分かれたとき職人はどうする? 喜入キャスターが取材【news23】

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2024-05-11 14:08

マグロの目利きや内視鏡で胃がんを見つけるAIが登場しています。人間が長年の経験で身に付ける技術を受け継ぎ活用が進む一方、現場ではAIと人間で判断が分かれることも。AIの実力と職人の技を喜入キャスターが取材しました。

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“おいしいマグロ”見極める職人とAI 判断分かれる時も

“おいしいマグロ”を見極める職人がいます。静岡県焼津市にあるマグロの加工工場で行われているのは、大西洋で獲れたキハダマグロの目利き。品質ごとにA、B、M、Cの4段階に分類されます。(※この加工工場での分類)

この道40年の見原治さん(60)は、いわば目利きの職人です。一体、どのように目利きをしているのでしょうか。

マルミフーズ株式会社 見原治さん
「尾っぽを切って、鮮度、色目と脂の質を見ながらランク付けをしています」

マグロの尾の断面には「縮れ」と呼ばれる鮮度や、「脂」の乗り具合など、味に関する情報が詰まっているといいます。

喜入友浩キャスター
「こちらのランクは何になりますか?」

マルミフーズ株式会社 見原治さん
「これはAランクになりますね」

喜入キャスター
「根拠は?」

マルミフーズ株式会社 見原治さん
「この年輪の縮み具合と色ですね」

喜入キャスター
「年輪?」

マルミフーズ株式会社 見原治さん
「この細かい、木のようなこういう筋ですね。これがはっきりして白くならない、澄んでいる感じですね。鮮度は抜群にいいですね。弾力性もあるし、濃厚さがありますね」

同じように見えるマグロでも…

喜入キャスター
「一緒じゃないですか?」

マルミフーズ株式会社 見原治さん
「それがちょっと違うんですよね。プロからすると」

断面のわずかな差で、味に大きな違いが出るといいます。20歳のときに目利きを始めた見原さん。

マルミフーズ株式会社 見原治さん
「マグロが好きなんですよね。正直、一言で言えばそれが一番の理由」

こうした職人のおかげで、我々のもとにおいしいマグロが届くのです。しかし…

マルミフーズ株式会社 見原治さん
「10年ほど前ですかね、そのころからだんだん人が集まらなくなってきた。やっぱりつらいですよね。今後、後世に伝えるにしても、なかなか(人が)いないのが現状

この加工工場で目利きができるのは、見原さんひとりだけ。こうした職人は全盛期の半数以下にまで減っていて、次世代の担い手が不足しています。その理由のひとつが…

マルミフーズ株式会社 見原治さん
「これもいいかもしれないですね。この辺ですね、この辺の、この辺のこう…なんて言うか、感覚ですね。見た目なんですけどね。これは教えてと言われてもなかなか教えられない

目利きは、長年の経験と勘によって培われていて、一人前になるには10年以上かかるといいます。

そんな中、日本の企業が開発したのが、マグロの目利きを行うAI「TUNA SCOPE(ツナ・スコープ)」。

AIには、尾の断面と職人の判定結果を大量に学習させていて、写真を撮るだけで品質を判定します。その精度は90%を超えます。しかし、判断が分かれるときも…AIの判定はAですが…

マルミフーズ株式会社 見原治さん
「B」

優先するのは、自分の判断。

マルミフーズ株式会社 見原治さん
「触った感じのねっとり感とか弾力性とかは、手でしか分からない。AIでは見つけられない」

喜入キャスター
「まだまだ自分が勝っている?」

マルミフーズ株式会社 見原治さん
「今のところはね、まだ目の黒いうちは」

最終的な判断は医師 「優秀なアシスタント」胃がん見つけ出すAIと一緒に検査

AIは、こうした分野でも…

都内の大学病院では、若手の医師が、ベテラン医師のサポートを受けながら、内視鏡による胃がんの検査を行っています。胃がんは早期に発見できれば、90%以上が完治する病気で、そのカギを握るのが内視鏡です。

ただ、内視鏡による診断には、ミリ単位の操作など高度な技術が求められ、一人前になるには10年以上かかるとされています。指導にあたる加藤医師は…

慶應義塾大学 内視鏡センター 加藤元彦 教授
「内視鏡の検査の手順とか、意外と教科書に載っていないので、伝授されてやり方を覚えていくみたいなところが結構あります」

中でも習得に時間がかかるのが、早期の胃がんを発見する技術。

「先生、これどう考える?良性?悪性?」
「う~ん、ちょっと難しいです」

画像の赤で囲んだ部分にも早期の胃がんがあります。専門医でも2割程度の見逃しがあるとされ、医師の精神的な負担も大きいといいます。

そうした中、この春に導入されたのが、胃がんの発見をサポートするAI。医師が一生で出会う症例の約3倍のデータを学習していて、瞬時に早期の胃がんの疑いがある箇所を発見します。

開発したのは、現役の医師である多田さん。

内視鏡AIを開発した多田智裕 医師
「1人でがんの見逃しをしないようにと緊張感の中やるよりも、人が一生かかっても覚えられないようなデータ量を覚えた優秀なアシスタントと一緒に検査をした方が安心感がありますし、より確信を持って診断ができるようになる」

しかし、取材中、AIがうまく画像を読み込めないことがありました

慶應義塾大学 内視鏡センター 加藤元彦 教授
「これちょっと画がうまく出せていない。もう一回よく洗って」
「表面を綺麗に洗うとか、胃をどのくらい膨らませるかとか、条件をしっかり(人間の手で)やっていく必要があります」

改めて読み込ませると…

慶應義塾大学 内視鏡センター 加藤元彦 教授
「ここに病変がありますよって出て」

AIは胃がんである可能性が高い箇所を発見しました。そして、最終的な診断を下すのは医師です。

慶應義塾大学 内視鏡センター 加藤元彦 教授
「AIを使って、もし見落としが起きた場合、それを使用したドクターの責任になることがいま日本では明記されている。僕たちの位置づけとしては参考」

現場では、医師とAIで判断が分かれることもあるといいます。

慶應義塾大学 内視鏡センター 加藤元彦 教授
「AIって別に万能ではないんですよね。『本当に大丈夫かな』と慎重に使っていく必要があるんだろうなとは思いますね」

進化するAIとどう向き合う?AIのサポート×人の判断でより安心を

上村彩子キャスター:
AIの進化は凄まじいですね。

「優秀なアシスタント」という言葉がありましたが、見落としにも気づいてくれて、そして診断にかかる時間も短くなるとなると、医療の現場で導入する側としては、とても心強いのではないでしょうか。

喜入キャスター:
特に人手が足りない病院や経験が乏しい医師にとっては、大きなサポートになると思いますし、医療全体の質の向上にもつながりますよね。

上村キャスター:
メリットもある一方で、AIの答えは判断過程が見えないことから、ブラックボックスともいわれています。私としては頼りすぎるのは少し不安になってしまいます。読み込むデータが間違っていたら、(判断を)間違うこともありますよね。やはり経験や実績に基づいた「人」の判断もあると安心できるように思います。

■「みんなの声」は

NEWS DIGアプリでは『AIの活用』などについて「みんなの声」を募集しました。

Q.医師とAIで判断が分かれる場合 どちらを信じる?
「医師」…68.2%
「AI」…15.9%
「その他・わからない」…15.9%

※5月11日午前0時16分時点
※統計学的手法に基づく世論調査ではありません
※動画内で紹介したアンケートは11日午前8時で終了しました。

上村キャスター:
「医師」が68.2%。圧倒的な数字ですね。

喜入キャスター:
まだAIを導入した医療を受けたことがないという方も多いと思いますので、まだ想像の中ということかもしれませんけれども、私が現場で感じたのは、AIを生かすも殺すも人間次第だなというところです。

AIの判断をきちんと見極めるのも人間ですし、AIに正しいデータを教えるのも人間。その点では、いま日本には内視鏡の専門医、そしてマグロの目利き、これは世界トップクラスなんですね。そうしたプロフェッショナルの方たちが、これからAIを厳しく育てて、正しく活用してくれるのではと期待しています。

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