縫合と糸結び…外科医にとって重要な技術~『ブラックペアン』監修ドクターが解説 vol.22~

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2024-07-20 08:00
縫合と糸結び…外科医にとって重要な技術~『ブラックペアン』監修ドクターが解説 vol.22~

二宮和也主演で6年ぶりに日曜劇場に帰還する『ブラックペアン シーズン2』。シーズン1に引き続き、医学監修を務めるのは山岸俊介氏だ。前作で好評を博したのが、ドラマにまつわる様々な疑問に答える人気コーナー「片っ端から、教えてやるよ。」。シーズン2の放送を記念し、山岸氏の解説を改めてお伝えしていきたい。今回はシーズン1で放送された6話の医学的解説についてお届けする。

※登場人物の表記やストーリーの概略、医療背景についてはシーズン1当時のものです。

救急外来での手術

崩落事故で沢山の患者さんが運ばれるシーン。救急医だけでは手が足りずに心臓外科医が借り出されます。

世良先生と渡海先生が対応したのは、左胸に鉄パイプが突き刺さり、肺動脈と左心耳が傷ついているという患者さんです。一応このような状況は救急医療の文献で報告があり、ありうる状況のようです。こういう時は鉄パイプは抜かずに、完璧に止血できる状況、つまり鉄パイプが肺動脈と左心耳に突き刺さっている部分を露出できてから抜きにかかるのが鉄則です。

左心耳とは左心房の一部分で、その名の通り耳のような形をしている部分です。左の肺動脈の下にありますので、そのあたりに鉄パイプが突き刺さると一緒に傷つく事があります。

肺動脈も左心耳も非常に脆く、修復するのはかなりのテクニックが必要です。少し糸を引っ張りすぎたりすると、裂けていってしまいます。良く見ると左心耳はサテンスキーという曲がった鉗子(かんし:組織を挟むための道具)で挟んであります。

渡海先生は肺動脈の修復が終わった後、世良先生に左心耳の縫合を任せます。関川先生が言ったようにさすがに左心耳の縫合を研修医にさせる事はありませんが、渡海先生の手技を間近で見て、努力を惜しまず、ティッシュペーパーを縫う練習を繰り返している世良先生には出来ると判断したのでしょう。世良先生は手際よく左心耳を縫合していきます。

現場レポートにもありましたが、渡海先生と世良先生と猫田さんで撮影の合間に縫合大会をやって、もう何回も言ってて飽きてしまったかもしれませんが、この人たち器用だなぁとホントに感動しました。医者以外の人が、持針器とセッシで縫合するという状況を見た事がないし、この先もそうそうないとは思いますし、演者さんたちもそうそうない経験だと思うのですが、皆さん外科医になれる人材です。

よく外科医に器用さは関係ないと言われることがありますが、正直それはある程度器用な外科医の発言で、器用に越した事はありません。「不器用ですけど、頑張ります」なんて外科医、嫌ですよね。

以前も言いましたが、世良先生のあの持針器での針の持ち変えの技術はなかなか出来る外科医はいません。空中で針をスムーズに持ち変えるのは、結構難しく、それができる外科医はホントにホントに少数なんです!中には指を使わないと針の持ち替えが出来ない外科医もいて。

それにくらべ、ブラックペアン外科チーム、つまり東城大心臓外科は誰一人針を直接指で持つ人がいない!猫田さんも針を指で持ちません!針を指で持たない事は針刺し事故を防ぐためにも非常に重要ですし、針をいちいち指で持ち替えているとすべてワンテンポ手技が遅れてしまいます。

目線を術野から外すことなく、首も動かさずに視野を固定して手技を行うことを、同一視野内で手技を完遂するとか言ったりするのですが、持針器で針を組織に入れて、セッシまたは持針器で針を抜いて、さらに持針器に針を持ち替えて、また縫ってという作業工程をすべて同一視野内で行うことこそが無駄を省いたスピーディーな美しい縫合手技なのです!

できる外科医は常に視線が手術している箇所(術野)にあります。渡海先生はもちろんのこと、弟子の世良先生も洗練された縫合手技、糸結びで出血部を修復しました。

糸結びですが、世良先生に最初に教えて、次に佐伯教授、そして、最初の手術シーンのときに渡海先生に教えたのですが、皆さん1時間も経たないうちにだいたい習得してしまったって話は色々な記事に書かれていると思います。

実際は右手の片手結びを2種類組み合わせて結んでいます。心臓外科ではこの2種類の結び方でほとんど事足ります。僕も左右の片手結び2種類で手術をしています。2種類必要なのは1種類だけですと、何回結んでもほどけてきてしまう可能性があるからです。

だいたい全部で8回前後は糸を結ぶのですが、消化器外科の先生や他の外科の先生方は糸の種類が違いますので3回から5回程度で大丈夫のようです。

実際の糸結びの種類は20種類程度はあると思います。それぞれの外科医が自分の一番得意な結び方で勝負します。糸が緩んだりしたら、大出血になりますし、また強く結びすぎたり、引っ張りすぎると組織を壊してしまいます。と言ってゆっくり糸を8回も結んでいてはどんどん時間が経ってしまいますので、素早く組織に優しい、かつしっかりした決して緩まない糸結びの習得が外科医への第一歩なのです。

撮影当初からかなり縫合と糸結びが完成されていた世良先生は2話の縫合、糸結びのシーンの時、僕とも相談して研修し始めたばかりだからと、わざと研修医っぽくたどたどしい縫合と糸結びをしていました。2話の世良先生の結んだ糸が少し緩んでいたのを覚えていますか?あれは演出ですよ!

今回は本領を発揮して渡海先生の元でしっかりトレーニングされた外科医を演じていました。あの縫合の姿勢、針の持ち替え、完璧でした!

次回こそ粘液腫の解説をします。

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イムス東京葛飾総合病院 心臓血管外科 
山岸 俊介

冠動脈、大動脈、弁膜症、その他成人心臓血管外科手術が専門。低侵襲小切開心臓外科手術を得意とする。幼少期から外科医を目指しトレーニングを行い、そのテクニックは異次元。平均オペ時間は通常の1/3、縫合スピードは専門医の5倍。自身のYouTubeにオペ映像を無編集で掲載し後進の育成にも力を入れる。今最も手術見学依頼、公開手術依頼が多い心臓外科医と言われている。

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